【コラム】世界で最も有名なフェス『コーチェラ 2024』の見どころを解説!

コラム
音楽
2024.3.15

世界で最も有名なミュージック・フェスティバルとも称されるコーチェラ・フェスティバルの開催が、いよいよ来月に迫ってきた。毎年多様なジャンルの多彩な顔ぶれが集結し、数々の伝説やサプライズを生み出してきたコーチェラは、アメリカの主要フェスの先陣を切って開催されることもあって、その年のポップ・ミュージックのトレンドを左右するとすら言われる重要なイベントだ。

しかし今年は、そんなコーチェラにちょっとした異変が起こっていた。1月のラインナップ発表は例年どおり大きな話題を呼んだものの、肝心の・セールスの動きは鈍く、最初の週末(コーチェラは2週間にわたって開催される)の約12万5千枚のがソールドアウトするまでに、1ヶ月近くを要したのだ。3月中旬の現時点では2週目のはまだ売り切れていない。2022年には両週末のはわずか40分で完売し、昨年も最初の週末分は4日で売り切ったことを思えば、今年がいかにスローペースかが窺い知れるだろう。

の売れ行きが例年と比べて鈍かった理由は、簡単に言ってしまえば「ラインナップが弱い」ということに尽きるのだが、これはコーチェラに限った問題ではなく、今、世界中のフェスが置かれている状況でもある。インフレによる制作コストの上昇や、コロナ後の人材・資材不足、大物アーティストの単独ツアー・ラッシュなど、様々な要因が絡んでラインナップをダウングレードせざるを得ないフェスが続出、アメリカやオーストラリアでは開催中止も相次いでいる。こうした状況は今後も続くだろうし、フェスというイベント形態が何度目かの大きな曲がり角に来ているのが2024年なのだ。

とはいえ、今年のコーチェラもとりあえず1週目はソールドアウトしたには違いない。どんなラインナップであれ、開催前にはあれこれケチをつけられるのがコーチェラの常であって、始まってしまえば現地で、配信で、連日熱狂が続くのも常だ。では実際に、2024年のコーチェラの注目ポイントを紹介していくことにしよう。

まずは何と言ってもヘッドライナーだが、ラナ・デル・レイ、タイラー・ザ・クリエイター、ドージャ・キャットという今年の3者を一言で評するなら、「堅実」といったところか。コーチェラ出演経験はありつつも、ヘッドライナーは初というのが3人の共通点だ。金曜日のラナ・デル・レイは、最新アルバム『Did You Know That There's a Tunnel Under Ocean Blvd』が(またしても)傑作でグラミーにもノミネートされたシンガー・ソングライターで、昨今の「サッド・ガール」ムーヴメントを牽引するモダン・ポップのアイコン。「Coachella - Woodstock In My Mind」なる曲を作るほどコーチェラに思い入れのある人なので、きっと渾身のステージを作り上げてくるはずだ。

土曜日はその無尽蔵のクリエイティヴィティでUSヒップホップ・シーンで異彩を放つ鬼才、タイラー・ザ・クリエイター。LA出身のタイラーにとってコーチェラのヘッドライナーは凱旋の意味も持つ。日曜日のドージャ・キャットもLA出身。昨年の「Paint the Town Red」の大ヒットによって、ある種イロモノ的キャラから押しも押されぬトップ・スターへと上り詰めた彼女は、最高のタイミングでのヘッドライナー抜擢だと言っていい。

コーチェラが開催されるカリフォルニアを地元とするタイラーとドージャに加え、ラナもカリフォルニアにアーティストとしてのルーツを持つことを思えば、今年のヘッドライナーの裏テーマは「カリフォルニア愛」なのかも? ちなみにヘッドライナー3組をアメリカ人アーティストが独占するのは久々のことで、BLACKPINKとバッド・バニーがヘッドライナーを務め、グローバルなコーチェラをアピールした昨年とは対照的な構図となっている。

そんなヘッドライナー3組に勝るとも劣らない今年の目玉の一つが、コーチェラで約9年ぶりの復活を果たすノー・ダウトだ。90年代のUSオルタナティブを代表するバンドのひとつであり、後年のポップ・パンク、エモにも大きな影響を与えた彼女たちもまたカリフォルニア出身という地元のレジェンドで、復活の舞台としてコーチェラほど相応しいフェスはなかっただろう。ノー・ダウトがいつ、どのステージに立つのかは現時点で不明だが、花形的ポジションが用意されることは間違いないだろう。

ノー・ダウトをはじめ、90年代の大物バンドが多数出演するのも今年の注目ポイントの一つだ。昨年のサマーソニックでヘッドライナーを務めたブラーはサブ・ヘッドライナーで出演。デーモン・アルバーンはゴリラズとして昨年もサブ・ヘッドだったので、2年連続のコーチェラということになる。これまたカリフォルニアが誇るスカ・パンクの雄サブライムの復活も熱いし、デフトーンズも名を連ねている。90年代後半のメタル/ヘヴィを牽引した彼らは、TikTokでのバイラルをきっかけに目下リバイバル中なこともあり、コーチェラの若いオーディエンスの反応が気になるところだ。

前述のようにヘッドライナーは「地元志向」だが、その他のラインナップは今年もインターナショナルな顔ぶれが揃った。まずはK-POPだが、ガールズ・グループのLE SSERAFIMとボーイズ・グループのATEEZがそれぞれエントリーしたのに加え、インディー・バンドThe Roseの名前もある。ただし、アメリカのファンダムからは「今年のコーチェラにNewJeansを呼ばないでいつ呼ぶんだ?!」との声も上がっており、昨年のBLACKPINKほどのインパクトは持ち得ていない、というのが正直なところかもしれない。K-POPではないが、韓国出身で現在はベルリンを拠点に活動しているDJ、ペギー・グーがラインナップの上位に名を連ねているのも注目だ。

一方、昨年のバッド・バニーの勢いをそのまま受け継いだ感があるのがラテン・ポップだ。コロンビアが誇るレゲトンのトップスター、J・バルヴィン、そして今最も勢いのあるペソ・プルマがそれぞれサブ・ヘッドライナーを務めるという盤石ぶり。ペソ・プルマに加え、カーリン・レオンやサンタ・フェ・クランら、メキシコ勢が多くエントリーしているあたりもコーチェラらしい。その他、プエルトリコのラッパー、ヤング・ミコや、アルゼンチンのビザラップにも注目して欲しい。日本ではまだまだ無名の両者だが、コーチェラでは既にメインどころを占めている。

日本のアーティストにも注目が集まっている。YOASOBI、初音ミク、新しい学校のリーダーズというのは絶妙に三者三様な顔ぶれになったと思うが、YOASOBIと新しい学校のリーダーズは88risingが主催するロサンゼルスの音楽フェス、「Head In The Clouds」への出演経験があるのは強いだろう。特にYOASOBIは同フェスでのパフォーマンスがLAのオーディエンスにもがっつりハマった実績もあり、コーチェラの予行演習は済んでいると言っていい。また、初音ミクについても、「停電さえなければ素晴らしいステージになるはず」とUSメディアに評されていた。

ヒップホップとR&Bはコーチェラにとって定番的なジャンルだが、今年は両者の明暗が分かれたかもしれない。タイラーとドージャをヘッドライナーに戴くのにも象徴的だが、ヒップホップの顔ぶれは豪華、というか手堅く人気者を押さえた様子で、リル・ウージー・ヴァート、リル・ヨッティに加えて今旬のアイス・スパイスもきっちりフォローしている。かたやR&Bは正直に言って影が薄い。数としてはそれなりにいるものの、かつてビヨンセが神がかったヘッドライナー・ステージを見せたフェスであることを思えば、R&Bアーティストがポスターの下の方にしか名前が見当たらないのは寂しいことだ。それでもグラミーで新人賞を獲ったヴィクトリア・モネや、UKソウルの気鋭のスターのレイ、NewJeansの楽曲制作にも携わったエリカ・ド・カシエールらが気を吐いている。

影が薄い、と言えばカントリーもそうだ。フェイ・ウェブスターのようなオルタナ系のカントリーはいるが、ラテン・ポップと並んで昨年の北米チャートを席巻したメインストリームのカントリーがほぼゼロなのだ。今年、他の海外フェスはザック・ブライアンやノア・カーンといったカントリー、フォーク系のシンガー・ソングライターをこぞってエントリーしていることを思えば、コーチェラの独自路線というか意図的な欠落なのかもしれないが。

かつてコーチェラは、インディー/オルタナティヴが強いことで知られていたフェスだった。それが2010年代に急速にポップ化、メインストリーム化して今に至るわけだが、現在でもインディー/オルタナティヴ・アクトはコーチェラのサブ・テクスト的に健在で、今年のセレクトもなかなか素晴らしいものがある。近年ではテイラー・スウィフトのプロデューサーとして名を馳せているジャック・アントノフのバンド、ブリーチャーズはメインの一角を占めているし、クルアンビンのサイケデリックはコーチェラと相性が最高。日本でも人気のブラック・カントリー・ニュー・ロードやワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、目下ブレイク中のザ・ラスト・ディナー・パーティーや、バー・イタリア、ヤング・ファーザーズらのUK勢からLAの新人パンク・バンドのミリタリー・ガンまで逸材が揃っている。

例年通りであれば、今年のコーチェラもライブ配信されることになるだろう。日本から多くのアクトを観るためには早起きが必要だが、昨年の経験から言えば十分にその価値がある。今年はどんな興奮やサプライズが待っているだろうか。

文=粉川しの

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