Awkmiu、最新作でみせた大海へと続く確かな道程 制作過程を紐解きながらバンドの内側にも迫る
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Awkmiu
あの改名から1年――ひたむきに目指したのは、自分たちの“蒼さ”を知った先にある、自分たちだけのポップスの入り口。Awkmiuの最新EP『されど空の青さを知る』が、ついに世に放たれた。Awkmiuは、シキ(Vo.)、 Aki(Key.)、カヤケンコウ(Ba.)、関根米哉(Dr.)からなる4ピースバンド。『されど空の青さを知る』は、ことわざの“井の中の蛙大海を知らず”に続く言葉をタイトルとして、“青”をコンセプトに置いた作品となっている。 なぜ今回、このようなタイトルを名付けたのか。リードトラック「楽園はいらない」をはじめ、7つの収録曲はどのように生まれ、どんなストーリーを持っているのか。それぞれの楽曲を、メンバー“っぽさ”で当てはめるとしたら? “井の中の蛙”と言いながら、これから間違いなく大海へと繰り出すほかない才能の持ち主であるAwkmiuに、本作の制作過程について詳しく訊いた。
「過程こそ大切というか、遠回りも無駄じゃなかったね」(Aki)
――バンド名を“Awkmiu”に改名したのが、2023年2月のこと。この1年間を振り返ると、どんなことを印象的に覚えていますか?
Aki:改名自体はもちろん、『ライザのアトリエ 〜常闇の女王と秘密の隠れ家〜』でのアニメタイアップや、『SUMMER SONIC 2023』の出演機会をいただけたことですかね。11月に開催した東阪ツアー『Awkmiu presents LIVE TOUR “What’s in the box?”』を通して、東京以外の場所での初ライブを経験したことも印象深いです。この1年間、本当に駆け抜けてきたので、今回のEPリリースにはその振り返りという意味も込められたのかなと。
――新たなバンド名は、みなさんで考えたものですか?
シキ:メンバー全員で、10時間くらい悩んで決めました。実は、候補をふたつまで絞ったうち、Awkmiuの方がむしろサブ案みたいな感じだったんですよ。最終的に、スタッフさんの“こっちがいい!”の一声で、Awkmiuになるんですけど(笑)。
――そんな裏話が。もはや偏見ですが、いつの時代もバンド名決めは、ファミレスに集まり、テーブルの紙ナプキンに候補を殴り書きしているイメージがあります。
関根米哉:そのノリ、いまもほぼ一緒です! 僕たちはスタジオの控室でしたが、たしかに全員でアイデアを出し合う紙を囲んでいましたし。
――場所は変われど、バイブスは変わらずですね。
シキ:ことわざみたい(笑)。なんなら、ファミレスで紙ナプキンに書いて決めた、ということにしておきます?
――Awkmiuの歴史が捏造されかけている気がします(笑)。さて、新作『されど空の青さを知る』は、さまざまなベクトルのポップソングを詰め込んだ、7曲入りのEPに。タイトルは“井の中の蛙大海を知らず”ということわざの続きの言葉を引用したもので、アートワークも青一色というコンセプチュアルな作品になりました。
シキ:いくつかの収録曲を制作するうちに、偶然にも“青”という言葉が共通して登場するようになったんです。普段から、自宅のベランダで空を眺めているんですけど、そんな空の青さのイメージが頭のなかに強く残っていたのか、あるいは精神的な未熟さという意味での“蒼さ”が出たのか……。いずれにせよ、このタイトルを考えたのは、2023年12月頃のこと。収録曲すべてを完成させて、制作全体を振り返りながら、これから先、どんな場所に行きたいのかも踏まえて、いちばんぴったりだと思える言葉を選びました。
――曲順は、制作時期が近い順に並んでいるとのことで、今回もその順番に沿ってお話を聞かせてください。まずは、リードトラック「楽園はいらない」から。
シキ:「楽園はいらない」は、イタリアの詩人/哲学者のダンテ・アリギエーリが言うところの“悲劇ではないから喜劇である”を、私なりに歌にしたものです。この世界は、天国ではなくとも、地獄と言い切るのも勿体ない気がしていて。よく、“魂が動く”なんて表現を目にしますが、うれしいことだけでなく、腹が立ったり、悲しんだりするときにも、“私って、生きてるんだ”と実感を抱くと思うんですよ。だからこそ、そんなつらい状況も笑って蹴飛ばせるような人間讃歌を作りたいなと。
――2コーラス目のボーカルで、シキさんが不敵に笑う瞬間がありますが、これもまた喜劇を意識してのもの?
シキ:そうですね。楽曲にラフな雰囲気を与えたかったのと、普段から喋るように歌うことを大切にしているので、あの表現も自然に出ていました。
――聞くところによると、この楽曲ではバンドの“脱お家芸”を目指したのだとか。
シキ:Awkmiuの楽曲には、静かなAメロ、機能的なBメロ、パワーあるサビ、壮大なDメロ、最後にどっかに“さよなら〜”と手を振りながら飛び去ってしまうような構成のものが多くて。当初は「楽園はいらない」も、そんな構成だったんです。ただ、この子にとってベストなアレンジを考えるなかで、いまの完成系に辿り着いて。“楽曲に無理をさせない”を前提にしつつも、ドラムをあまり動かさないなど、私たちなりに挑戦をしてみました。
関根:と言いつつ、動きのないドラムのように聴かせるために、技術的にはドラムをめちゃめちゃ揺さぶっていて。これもまた“脱お家芸”と言えるんじゃないかな。僕自身、Awkmiuには後から加入したので、一人ひとりの得意分野や、バンドとして未開拓な領域も、俯瞰して理解しているつもりなんです。だからこそ、これまでと変わらないよさを大切にしながら、アレンジや音作りの面で新しい文化を取り入れていこうと意識しているんですよね。
カヤケンコウ:「楽園はいらない」は、本当に技術を磨いてくれたよね。自分のできる/できないも掴めたし、そういう意味では今回のコンセプトである“蒼さ”を思い知ったかも。とはいえ、ベースをどう機能的に鳴らすかは、どの楽曲でも考えているけどね。
――先ほどから繰り返されている“機能的”とは、具体的にどんな意味なのでしょう?
カヤ:ベースの話であれば、リズムに対して音を正確に当てること? 基本的に、アレンジは米哉さんを中心にしているんですけど、ドラムの人がアレンジを担当すると、やはりリズムに対してものすごく難しいことを求められる(笑)。
関根:そうだよね(笑)。
カヤ:この1年間でメンバー同士のコミュニケーションも円滑になって、お互いの考えや意図を察せるようになりはしたものの、「楽園はいらない」のドラムには本当に不思議な雰囲気があるのです。キャッチーなポップスで、なんてことない四つ打ちビートなはずなのに、なにも考えずにベースを弾いていると、“なんか違うな?”って感覚に……。
――リズムがずれる、ということですか?
関根:ざっくり言えばその通りです。ただ、あの特有の不思議な感じは、シキが作ってきたデモの段階からあったよね。それがよかったから、アレンジではもう考えうるところすべてを不思議な感じにしてみたんだけど、聞き手にはそう感じさせないというのが肝で。それを実現するために、リズムに対してはすごく厳しくツッコミを入れていたと思う。
Aki:キーボードの方向性然り、デモのイメージのままアレンジも作るのか、あるいは大きく舵を切るのかを決める訓練をする時間になったのが、今回のEP制作だったよね。それでいうと、次の「ブリーチタウン」がアレンジを大幅に変えた、いい意味での外しになったから、「楽園はいらない」はデモのイメージのまま突き進むことができて。過程こそ大切というか、遠回りも無駄じゃなかったね。
「楽園はいらない」
「シキは本当に中世の作家みたいなんだよ!」(関根)
――「ブリーチタウン」は、今回の収録曲のなかでもオントレンドなサウンドで、ヒップホップのテイストも感じるキラーチューンです。個人的に〈そこに建ってたあのビルのこと 誰も覚えてないから 少し安心する〉のフレーズが心に引っかかったのですが。
シキ:突然なんですけど、iPhoneのひとつ前のOSのデザイン……覚えていますか?
――なるほど、そういうことですか。
シキ:今回の歌詞もそれと一緒で。人って、新しいものを目にすると、古いものはすぐに忘れちゃうんですよ。もちろん、忘れることすべてを肯定はしませんが、生きていると忘れたくなるような辛いこともきっとあるから。だとすると、自分の住んでいる街にとって、自分が取るに足らない存在だと思えたら、安心する感じがしませんか?
――そんな気がしてきました。サウンド面の話をすると、この楽曲には街の環境音がギミックとして盛り込まれていますね。
関根:シキにお願いして、渋谷の雑踏を録音しに行ってもらいました。実は、左右の音それぞれで位相を変えたり、違う時間、違う場所の環境音を鳴らしているんです。こういった表現もまた、これまで見せていないながらも、Awkmiuが持つお家芸のひとつなんですよね。
――続いては「CANDY」。「ブリーチタウン」との共通点として、楽曲終盤にAメロの歌詞とメロディに立ち返るのが印象的でした。読後感、もとい聴後感の心地よさが素晴らしかったです。
シキ:最後にAメロまで戻す構成は締めとしてすごく有能で、私たちって常々“戻したいがち”だなって(笑)。それこそ7曲目「灯火」も、2年前に書いた楽曲ながら、Aメロ終わりにBメロのフレーズを使っていて。メロディは同じだけど伴奏が違う、いわゆる“リプライズ”と呼ばれる構成の作り方がお気に入りなんです。
――「CANDY」の歌詞では、〈素面〉を“sober”と読ませるのがオシャレでした。
シキ:気づいてもらえてうれしい! 実際に歌う言葉と歌詞の表記を変えるのも好きなんです。構成と一緒で、歌詞の字面も気にしがち(笑)。
――EPの折り返しとなる「glider」は、『J SPORTS高校ラグビー』タイアップソング。10代の青春感を前面に押し出した一曲ですが、みなさんはライブの際など、ポップな楽曲とロックのそれで、演奏に対する意識の切り替えなどはしているのでしょうか。
シキ:特にしていないかな。私たちのなかで、ポップもロックも同じ括りの内側にある気がする。この楽曲も、制作過程で結果的にロックっぽく聴こえるようになっただけだよね。
Aki:うん。全員のなかに、“J-POPとは?”という概念が中心軸としてあって、ヒップホップ調の「ブリーチタウン」も、ロックに聴こえる「glider」も、そこから離れたものではないよね。例えるならば、バスケのピボットを踏むって表現が伝わりやすいのかな?
――とてもピンときました! ストレートに届く「glider」に対して、「ミュージックゴースト」は仕掛けの多い複雑な仕上がりに。
関根:「ミュージックゴースト」は、シキのルーツである舞台からアレンジの着想を得ました。楽曲を通して、3つの展開に切り替わる舞台装置が見えるように意識しています。導入部分にはサンプルボイスも入れていて、2サビのボーカルを逆再生させてみたり。メカニカルかつ、リプライズ的な演出として届くとうれしいなと。
――歌詞を読んだところ要するに、これは幽霊の“不法侵入ソング”ですよね?
シキ:あはははっ(笑)。その通りです、素敵な命名! おうちに来たのは幽霊ですが、イメージの基になったのはベイマックス。ひとりで自宅にこもって制作ばかりしていると、突如としてベイマックスに抱きしめられたくなるんですよ。まぁ、この歌詞のように、ベイマックスは部屋の家具とかは散らかさないはずだけど……。
――僭越ながら、制作が行き詰まったときは、おばけではなく現実のメンバーと飲み会をするといったリフレッシュ方法もあるのでは?
シキ:メンバーと飲んでも解決にならないんだよなぁ〜(笑)。
全員:(爆笑)
カヤ:たしかに、楽曲が出来上がってからじゃないと飲めないよね。
関根:シキは本当に中世の作家みたいなんだよ! 本当に死ぬ気で、すべてを一人でこなそうとするから。
シキ:誤解がないように言うと、お酒はめちゃめちゃ好きなんです。なんですけど、飲み会から帰宅をして机に向かっても、頭が働かないから制作なんて到底できず。よく、アイデアが“降ってくる”って言うじゃないですか。あれは前提として、楽曲のことを考える時間があって、そこから邪魔な要素がいくつか抜け落ちることで、初めて起こる現象。私にとって、ただお酒を飲むのはもはやお休みと同義。
――はたして、シキさんのベイマックス購入費はバンドの経費で落ちるのか。話を戻して、6曲目「スプートニク」で、この言葉を初めて知る機会をいただきました。
シキ:なかなか出会わないですよね。そこになぞらえたわけではないものの、私がこの言葉を知ったのは、大好きな村上春樹さんの作品『スプートニクの恋人』がきっかけでした。スプートニクの意味は、ロシア語で“旅の仲間”。世界初の人工衛星の名前というエピソードも素敵だし、語感もとってもかわいい。
カヤ:“プ”の響きが特にかわいいよね。
――サウンドも、かなりスペーシーな雰囲気です。
関根:デモの段階から、いわゆる宇宙観を狙って制作していて。上手く雰囲気を掴めたんじゃない?
Aki:Dメロなんて特にそう。宇宙っぽさを大切に仕上げられたと思う。
――みなさんの解説も、いよいよラストナンバー「灯火」に。取材にあたり、アルバムを7曲目から逆順で再生もしたのですが、やはり「灯火」がラストの方がフィナーレに相応しい印象を抱きました。
シキ:「灯火」は、このメンバー全員で初めて制作したもので、たしか2年前くらいのことかな? ライブでの披露機会も多いし、このタイミングで再録するのも面白いかなと。ちゃんと思い入れのある楽曲で作品を締めるの、なんとなく粋な感じがしないですか?
――間違いないです。コーラスにも語りどころがあるのですよね。
シキ:私、「趣味:コーラス入れ」と言ってもいいほど、コーラス作業が好きなんですよ。ただ「灯火」だけは、振り返ると私なりの筋が通っていないコーラスの積み方をしてしまっていて。当時に作ったデータを眺めて、あまりにも変すぎて驚いた。一時は修正を試みたものの、逆にそれもひとつのよさなだと考え直して、今回はそのまま残しています。すみません、あまりに謎すぎて、私自身も上手に説明ができなかった(笑)。
「てか待って。オレ、いま誰よりもニッコニコだと思う!」(関根)
――今回の取材で、最も知りたかった質問をします。7つの収録曲を、メンバーそれぞれに当てはめるとすると?
シキ:“この曲はこのメンバーっぽい”みたいな話か〜。
関根:え、その話、オレめっちゃある! めっちゃある! めっちゃある! ヤバい、語りたすぎて同じこと3回も言っちゃった。アニメでよく、エピソードごとに主役を立てる“お当番回”の概念があるじゃないですか。あれ、僕がする楽曲アレンジの考え方と一緒なんです! たとえば「楽園はいらない」は、もはやシキのイメージでしかない。
シキ:そうだね、それは確実。
関根:「ブリーチタウン」は、Akiとカヤ回。
シキ:ヤバい、めっちゃわかる!
Aki:えっ、そうなの!?
関根:「CANDY」は、僕とシキ回。
シキ:「glider」は、米哉さんのお当番回かな。
関根:どうだろう……あの曲は、アニメ第6話くらいの感じ。全員が主役になる物語の山場みたいな? だけど、オレ自身はカヤとシキが前に出るエピソードな気もしていて。先に進むと「ミュージックゴースト」はシキの過去編! 「スプートニク」は、シキ流のラブソング。これはいわゆる“OVA”。番外編的なエピソード。てか待って。オレ、いま誰よりもニッコニコだと思う!(笑)
シキ:すごく話したがりの人みたいになってるよ(笑)。「灯火」はカヤ曲だね。カヤはもはや、“灯火の男”と言うまである。
関根:うん、むしろ“灯火の男”でしかない。かつ、Akiもサブ主人公として登場するイメージ。
カヤ:「灯火」のことはすごく好きだし本当にうれしいんだけど……ここまでの話、まったく追いつけていない(笑)。
Aki:(無言で頷きながら同意)
シキ:あはははっ(笑)。
関根:おい、マジかよ!?
カヤ:逆に、そういうのってどうやって決まるものなの?
シキ:私は単純にイメージ。だけど、米哉さんはアレンジ過程をいちばん見てくれているから、しっかりとした考えがあると思う。
関根:いや、基本的にはシキの感覚とリンクしているはずだよ。むしろ、リンクさせるようにアレンジでも細かく調整する意識をしているから。それに、楽曲制作だけでなくライブのステージでも、誰の見せ場かをしっかりと決めるようにしていて。いや、この話、マジで大興奮だな……(笑)。
カヤ:ひとつだけ確認なんだけど、「灯火」を演奏するとき、これからはもっと笑顔で前に出て行った方がいい?
シキ:お当番回って、そういうことじゃないから!(笑)
――(笑)。取材のピークタイムを迎えられたところで、最後に今後の目標をお願いします。
シキ:『されど空の青さを知る』というタイトルになぞらえるならば、大海を目指すのは今後も変わらず。もう少し手近だと、昨年から回数を重ねたことで、ようやくライブを楽しめるようになったので、ステージでできることをもっと増やしたいです。楽曲については、今回の制作を通して勉強になる部分をたくさん見つけたので、自分が想像した一歩先まで、音楽を形にできる表現力を身につけていきたいですね。
――直近だと、5月に東名阪ツアー『Awkmiu LIVE TOUR “HEKIREKI”』を控えています。
カヤ:遠征するからには、絶対に赤福を食べたい。
シキ:大好きなんだよね。
カヤ:だって、めちゃくちゃおいしいじゃん! サービスエリアで赤福を探して「うわ、売り切れてる!?」ってやる時間が好き。
Aki:早朝に行くとまだ入荷していないし、かといってお昼にはもう売り切れるから、タイミング選びが難しいところ。
関根:ライブの話、全然しないじゃん!(笑)
シキ:もう最後の質問だったのに、ただサービスエリアに行きたいだけの人たちみたいな締めになっちゃった(笑)。
取材・文=一条皓太
Awkmiu EP「されど空の青さを知る」全曲試聴ティザー