注目の新鋭バンド9組が大阪・味園ユニバースで競演『ヤングタイガー2024』レポート
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写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
『ヤングタイガー2024』2024.3.20(WED)大阪・味園ユニバース
関西の名物コンサートプロモーターである清水音泉が、新鋭のバンド9組が出演する若手登竜門的イベント『ヤングタイガー2024』を3月20日(水)に大阪の味園ユニバースで開催。1stリングと名付けられた普段のステージだけではなく、会場の下手側後方奥には横付で2ndリングと名付けられた特設ステージがあり、交互にライブがぶちかまされる。
過去には大阪城野外音楽堂や服部緑地野外音楽堂など野外でも開催されているが、地下のホールである味園は、アニメ「タイガーマスク」に登場するレスラー養成機関名称「虎の穴」を彷彿とさせる独特の雰囲気があり味わい深い。
FM802 DJ 樋口大喜 写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
2ndリング後方には、“YounG TiGER”とデザインされた大きなバッグドロップが掲げられ、昭和のプロレスにまつわる懐かしいテーマソングが会場BGMとして流れている。観客たちは、開場・転換中に出演バンドの物販エリアを物色したり、出店された「はらいそsparkle」のカレーを食べたりと自由に満喫していた。12時30分、MCのFM802 DJ 樋口大喜の挨拶により開幕。清水音泉は、温泉お風呂にちなんだネーミングが多いが、そこにプロレス要素が混ざっているコンセプトのぬるさを指摘しながらも、繰り広げられるライブは熱いということから温冷交代浴とまとめた、樋口のワードセンスは素敵だった。
ポップしなないで
ポップしなないで 写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
そんな樋口から「UFO呼ぶバンド!」と紹介されたのは、壱番風呂として登場のポップしなないで。かめがいあやこ(Key.Vo)の流暢なMCからポップなリズムで、その名も「UFOを呼ぶダンス」でスタート。かめがいとかわむら(Dr)のシンプルな2人構成にも興味惹かれる。
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
続く「魔王様」も言葉の矢継ぎ早さが気持ち良く、またポップなだけでなく、垣間見られるドスが効いた歌いまわしにもドキッとさせられる。3曲目「銀色ナイフ」では<正しいとか 間違いだとか>と語りかけるように歌う。少しゆっくり目のリズムなこともあり、より言葉が入ってくる。「そらをとばない」では、また前曲での少しゆっくり目のリズムとは違うタイプのゆっくり目リズムをドラムが刻んでいき、声が地下のホールに溶けていく。
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
早いもので終盤の「白昼きみとドロン」では、また一気にポップなリズミカルなビートで、ラップ的な歌も心地良い。かめがいの「みんなを救いにきたぜ!」という呼びかけから「救われ升」、そしてラストナンバー「暴露」へ。音楽だけではなく、手裏剣を飛ばす手つきなど一挙手一投足がポップでキュートなオープニングとなった。
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
カラコルムの山々
カラコルムの山々 写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
弐番風呂は、2ndリングのカラコルムの山々。カラコルムと聴くとヒマラヤ山脈を思い出してしまうが、1曲目「猫像」から民族音楽の香りがする演奏が鳴らされていく。メンバー全員がサングラスをかけており、石田想太朗(Gt.Vo)が呪文をつぶやくように歌ったり、メロディアスにも歌ったりと自由自在。鍵盤によるオルゴールのようなメロディーも爪弾かれたりと摩訶不思議さに初っ端から魅了される。続く「東京自転車」では艶っぽいギターカッティングや甲高いシャウトなど、これまた見所が多すぎて、目も耳もくぎ付けになってしまう。
写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
とにかく「東京自転車」という言葉が頭から離れない。「盗電団」、「大仏ビーム」など独特のワードセンスによるタイトルであり、独特の世界観が続いていく。プログレッシブロックの実験性や革新性を感じる。ベースから鳴り始める「惑星数珠つなぎ」には、しっかりと音を決めていくサウンド構成など、その様式美から、よりプログレッシブさを感じた。緩やかなグルーブながらも踊れる感覚は爽快でもある。自らのことをシネマチック・ロックバンドと呼ぶが、壮大な映像を聴く者の脳内に再生させてしまう様なスケール感すら憶えた。
写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
クレナズム
クレナズム 写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
1stリングに戻り、参番風呂はクレナズム。リハーサルから強く深く歪みがかったノイジーな轟音に圧倒されてしまう。初見ということもあり、リハの段階から生で聴くリハの凄みに衝撃を受ける。いわゆるジャンルで言うとシューゲイザーであり、「マイブラを想い出すな」と呑気に思っていたら、本番の登場SEはマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン「Only Shallow」で「やっぱりか!」と納得しながらも、若くしてのそのセンスに度肝を抜かれた。マイブラそのまま地続きの如く、1曲目「白い記憶」が鳴らされるが、音圧が凄すぎるし、萌映(Gt.Vo)の歌声というか咆哮が聴く者には突き刺さってくる。
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
続く「杪夏」は一転して、よりメロディックであり、その緩急の付け方が印象に残った。ストレートすぎるエモーショナルさをガンガンに感じていたが、その理由がMCでわかる。前日に出身地でもある福岡でライブをして、夜中3時に大阪に着いたという。だから、福岡のライブそのまま熱量で、本人たちいわく眼バキバキなエネルギーが届きまくった。ラストナンバー「青を見る」では、中盤から終盤にかけて怒涛の演奏で、ライブが終わっても頭の中には残響が残りまくった……。
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
ハシリコミーズ
ハシリコミーズ 写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
フランキー・ヴァリ「Can't Take My Eyes Off You」のポップでムーディーなナンバーが流れる中、四番風呂ハシリコミーズが2ndリングに現れる。あおい(Ba)&さわ(Dr)がリズムを取りながら、ニコニコ笑っている。楽しいロックンロールショーが始まる予感がビシビシする。元々はキャバレーという味園ユニバースの雰囲気もバッチリに合う。アタル(Vo.Gt)の飛び込むような性急なカウントで、1曲目「本当の綺麗がわからない」になだれ込む。そして<無理しよう~!>とシャウトされる「インターバル」へ。ただただシンプルなロックンロールで格好良い。3人というコンパクトな編成なのに、そのインパクトはデカすぎる……。
写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
天真爛漫で天衣無縫なナチュラルパワーは、誰にでも爆発させられるものではない。ロックンロールに選ばれたバンド……、そんな気すらする。ニューアルバム収録でMVが公開されたばかりの「一日数秒の良いシーン」ではステージ後ろから照明が3人を照らす、その光には神々しさも感じて、何故か涙まで出てきた。何故に涙が出たかというと、古き良きロックンロールを今の時代に更新させて爆走する若者たちに出逢えたからであろう。次は1stリングでミラーボールがガンガンに回る中で踊りながら堪能したい。
写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
ブランデー戦記
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
「最高! 良過ぎて頭割れました、ハシリコミーズ!」と破顔しながら再びステージに現れた今宵のMC・FM 802の樋口大喜。広い会場の最後方まで盛り上げ、「この雰囲気にぴったり似合うと思います。『ヤングタイガー』に足りないのは<人生経験>とこのバンド!」と呼び込んだのは、大阪出身のブランデー戦記だ。
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
まずは、ドラム前に集合し拳を突き合わせる3人。その姿に客席にもカチッとスイッチが入ったようで、初っぱな「Kids」からたくさんのクラップが湧出! 鮮烈なメロディの洪水に場の空気が一気に高揚する一方、蓮月(Gt.Vo)はクールな表情を崩さず、淡々と言葉を紡いでいく。哀感漂う音色とボリ(Dr)が放つ重厚なリズムが切なさを増幅させる「黒い帽子」、軽快なベースに体を揺さぶられる「サプリ」と続け、ヒリヒリするようなサウンドとポピュラリティの絶妙なバランスにうならされる。アンニュイな歌声が疾走感によく映える「Coming-of-age story」を経て、この日への意気込みを語る蓮月。「大阪は地元で、私もこの味園ユニバースに来ることをとても楽しみにしていました。ネットでどんな内装なのか調べたり……ここで演奏できてうれしいです」と話す等身大の表情は、堂々たるパフォーマンスとのギャップを感じさせ、何ともチャーミングだ。
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
ここからはさらにギアを上げ、「Musica」へ。バンドの未来を切り開いたアンセムで、一層声に力を込める蓮月。ギターを弾き倒す姿も圧巻で、冒頭に感じたクールさは最早皆無、熱量高いステージングであおる姿が何とも印象的だ。みのり(Ba.Cho)とのハーモニーが爽快な「ストックホルムの箱」、爆発直前のスリリングなギターリフで最高潮を演出した「僕のスウィーティー」でフィニッシュ! ブレイク前夜の予感をひしひしと感じさせたブランデー戦記のステージとなった。
ブランデー戦記 写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
明るい赤ちゃん
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
六番風呂は、2ndリングで明るい赤ちゃん。バンド名からして良い意味で違和感しか感じないが、そういう違和感があるということは型にはまってない新しい刺激があるということ。北海道は札幌在住で「お母さんの子宮から生まれました!」「バブー!」の自己紹介なんて、関西の誉め言葉であるアホとしか言いようがない。で、また鳴らされる音には一点の曇りもない。だって、1曲目「マジでミラクルパワー!」ですよ、一切の濁りが無いロックナンバー。「俺たちのラブソング!」と紹介された「ガクショク・ラスト・カリー」も全くもう何ちゅうタイトルだと思うんだけど、何の迷いも無いし、どの学校の日常風景を切り取ってるんだと思うも、その日常に嘘は無く、だから沁みてしまう。
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
ベイビー斉藤真音(Vo.Gt)は、終盤のMCで、1軍の女子たちに自分の机を占領されて、端っこでラジオを聴いていたと明かしていた。そんな悶々鬱屈した想い出が明るい未来を感じるロックに昇華されているのは、もはや天晴れとしか言えない。ラストナンバー「しゅわっと」は、オープニングナンバー以上の勢いで疾走していたのと、後は、「BABY!」という言葉がとても似合う歌い手だなと思った。
明るい赤ちゃん 写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
鉄風東京
鉄風東京 写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
続いて1stリングに登場したのは鉄風東京の4人。2月の初旬に2人のメンバーが脱退し、その月末にはサポートメンバーだったSougo(Gt)と颯(Dr)が正式加入するという、怒涛の日々を過ごしてきた。そんな状況下の1曲目「街灯とアパート」から、一気に強靭なアンサンブルで仕掛け、バンドのたくましさをまざまざと見せつけていく。肌寒かったこの日に、「ユニバースへ春の風を吹かせにきました」という大黒崚吾(Vo.Gt)の言葉を引き金に、2月に発表した新曲「スプリング」をプレイ。みずみずしく甘酸っぱいメロディに朗々とした歌声をのせ、これぞ鉄風東京の新章だと、高らかに告げていく。
写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
「振り付けを考えたんで、手伝ってもらっていいですか? まず利き手を上げて握ってください。……以上です!」(大黒、以下同)と、「遥か鳥は大空を征く」では辺り一体に拳が乱舞し、場の一体感はより強固なものに。「どのバンドの振りよりも簡単だったでしょ(笑)。今日を楽しみにし過ぎて寝違えました。右向けない(笑)。俺が右を向いたら、コイツは命を賭けてライブしてるんだって思ってください」と、颯が猛ラッシュを仕掛ける「TEARS」や、4月10日(水)にリリースを控えた新曲「Sing Alone」を開放感たっぷりに歌唱。
写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
そこからのアンセム「21km」では、その場の全員で声を合わせる汗まみれの美しい景色が湧出! ただそれも頂点ではなく、「ラスト1曲、俺らの故郷を歌って帰ります」と「FLYING SON」をブチかます! 空間全てを4人の存在で埋め尽くすような大きな音塊を放出した鉄風東京。耳に残る余韻以上に、巨大なインパクトを観る者に与えて去っていった。
写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
DNA GAINZ
DNA GAINZ 写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
2ndリングのトリを飾るのは、島根県で結成し、“DNAから響く歌の鼓動 体の底から踊り出す”とのコンセプトを体現する4ピース・DNA GAINZだ。初っぱな「ラフラブ」から、アンサンブルを直接身体へ流し込むようなすさまじいエナジーを放出。ロックなアプローチながら、その壮大さは賛美歌のように神々しさすら感じる。続く「歪な世界」では、ながたなをや(Vo.Gt)が衝動そのままを歌声にアウトプットし、その場で録音したサンプリングボイスとしてレイヤード。緻密さを感じるパフォーマンスの間も隙間なく攻め立て、スリリングさは増す一方だ。
「2ndリングのトリを任せてもらえてうれしいです。僕らは結成して1年半ぐらいなのでトッパーが多くて。(会場のスペーシーな装飾を見ながら)コレ、何だかDNAっぽくないですか? まるで体の中みたい。ここでワンマンしたい、よっしゃ! 今日は『ヤングドラゴン』にして帰りたいです」(ながた、以下同)と、続けて「神龍」へ。空気振動が聞こえそうなほど一音一声がクリアに響き、全てが合わさった轟音を浴びる快感たるや!
写真=清水音泉 提供(撮影:松本いづみ)
続く「GOLD HUMAN」では、曲が進むごとに背中を丸め没入するように鋭いリフを刻むイタガキタツヤ(Gt)の姿が何とも印象的だ。「死ぬ時が本番で、生きている時が準備期間、サウンドチェックしている状態。そういう日々の中でみんなが音楽を必要として、今日もらった気持ちを明日から何かに還元して生きる力になったら。またここで会えたらうれしいですね。次は大きなステージで」と、ラストに据えたのは「Sound Check Baby」だ。何層にも重ねたながたの絶唱が轟き、最早ステージとフロアの間に境界はない。全員で音に身を任せる多幸感をもたらしたDNA GAINZを経て、いよいよオーラスへ!
ルサンチマン
ルサンチマン 写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
「いよいよラストアクト。彼らは音だけで人の感情を昂らせるバンドです。日々の負の感情の汗を流し切って!」と樋口がコールしたのは、ルサンチマンだ。
現在のライブシーンにおける注目バンドの一つ、クジラ夜の街(昨年の『ヤングタイガー』にも出演!)が高校の先輩とあって、彼らもまたライブバンドの新星として熱い期待を寄せられている。ゆるやかなBPMから疾走する1曲目「忘れそう」で、一気にオーディエンスの脳内を占拠! マシンガンのように語り掛ける「ここにいた才能」では中野(Gt)のギターがうなりを上げ、どっしりしたリズムの「tsuki ochi」では、極太のグルーヴに体中が支配される感覚に。焦燥感をたたえたメロで彩る「俗生活の行方」を奏でた頃には、彼らの放つ強烈な音粒はライブでしか得られない快楽となり、ルサンチマンのすごみを知らしめる。
写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
「頑張ります。最後までよろしくお願いします」と、北(Vo.Gt)が言葉少なにフロアへ声を掛けると大歓声が沸き、この場の空気が彼らのものだと強く伝わってくる。「だっせ」ではたくさんのクラップが生まれ、中でも出色だったのはイノセントな音のシャワーを浴びせかけた「なさけないうた」だ。<馬鹿にされても 情けなくても>と歌い、<変わらないでほしい>とリフレインするリリックに、魅入られた表情のオーディエンスは決して少なくはなかった。
写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
続く「荻窪」でも4人とは思えない実像以上の音像を見せつけ、ソリッドなインスト「ikki」では、プレイヤーとしての地力を改めて提示。圧倒的なドライヴ感で、限界突破し続けた今宵の最後には大名曲「十九」を。いつまでも色あせない初期衝動をサウンドに、言葉に託したルサンチマン。その場に集った全員の心にいつまでも刺さり続けるような、強烈なステージングでエンディングを飾ってくれた。
写真=清水音泉 提供(撮影:キラ)
全アーティストの演奏後、「めちゃくちゃ気持ち良かったですね、『ヤングタイガー』。この夜の続きはぜひライブハウスで!」と投げ掛けたFM 802の樋口大喜。これからのライブシーンの目玉となる、総勢9組の若獅子たちの未来を思い描かずにはいられない1日となった。
取材・文=鈴木淳史(ポップしなないで、カラコルムの山々、クレナズム、ハシリコミーズ、明るい赤ちゃん)、後藤 愛(鉄風東京、ブランデー戦記、DNA GAINZ、ルサンチマン)
ライブ情報
#ヤングタイガー2024
イベント情報
「必死のパッチで20年目!大感謝祭」