ピアノ・リサイタルの常識を超える盛り上がり! 感動のBudo岡山公演レポート

2024.7.9
レポート
クラシック

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2024年2月の紀尾井ホールとフェニックス・ホールの東京・大阪ツアー、そして8月のサントリー・ホールを開催3か月前に完売、初の全国ツアーが来月に迫る、注目のピアニストBudo。ショパンの名曲やリスト「ラ・カンパネラ」、ベートーヴェンの「月光」など、人生のどこかで一度は聴いたことがある、クラシック音楽の超絶技巧曲をストリートピアノで演奏する動画は高い人気を博し、ついにフォロワー数は10万人を突破した。長髪のカジュアルなルックスで、「ごきげんよう」から始まる独自の世界観はもはや「けいちゃん」や「菊池亮太」まで物真似するほど浸透しつつある。

そんなBudoが、サントリー・ホールを前にし緊急発表し、売り切れ公演となった岡山県立美術館ホールでのコンサート『Budo Classic 2024 SUPER STARS&ALL TIME BEST』を体験してきた。角野隼斗や石井琢磨に続く、YouTuberピアニストのニュー・ヒーローがいよいよ全国ツアーで感動の渦を呼び起こしてくれそうだ。

いつものように長髪をなびかせながら颯爽と登場すると、冒頭一音目から驚かされる。本来はピアニッシモで密やかにスタートする、ベートーヴェンの月光ソナタ第1楽章の低音2音が、紀尾井や大阪同様に真逆のフォルテッシモでホールに響き渡る。やはり岡山でも、聴衆は一気にBudoの音楽世界へと引き込まれる。2楽章を飛ばして、3楽章まで一気に弾き終えると「ごきげんよう!」の挨拶だ。初めての地方公演でホールが満員となっていることへの素直な感謝の気持ちを伝えた。

『のだめカンタービレ』で知られる、ベートーヴェンの「悲愴」第2楽章を弾くと、シューベルト=リストの「魔王」。体格もよく手も大きい、Budoの力強いプレイが活きる楽曲で、右手の八分音符の連打が、急ぐ馬車の姿を目の前に浮かび上がらせる。自らの発案で魔王の登場を照明演出したのも効果的である。リスト「愛の夢」の演奏の前のMCで、Budoは一旦諦めたクラシック・ピアニストのキャリアに再挑戦するきっかけとなった、カナダでのエピソードについて触れ、その時に恩人マリーからプレゼントされたリストの楽譜をここでも手元において演奏し、あたたかい空気の中で前半が終了した。

後半は、いよいよコンサートでは初挑戦となる曲ばかりが揃えられて、聴く側のテンションも自ずと高まる。登場した瞬間に驚かされた。クラシックの男性ピアニストでまず見かけることがない、ユニセックスなノースリーブ姿に衣装チェンジしていたのだ。観客から歓声とも溜息ともつかぬ声が漏れたのがわかった。

サン=サーンスが作曲した組曲「動物の謝肉祭」の中の「白鳥」を、アメリカで活躍した作曲家のゴドフスキーが編曲した、超絶技巧を要するヴァージョンからスタート。しかも続けて、リストのラ・カンパネラへ。この曲を弾き続け天寿を全うしたフジコ・ヘミングへの追悼の気持ちもさらりと触れる。どちらも超絶技巧の神経を使う楽曲であるのに、そんなことを感じさせることなく、音楽の魅力が素直に伝わるプレイだ。

ますます会場のボルテージが高まる中、ベートーヴェンが作曲してリストが編曲した交響曲第5番『運命』第1楽章を弾くことを、自分でも興奮気味にMCで伝える。「凄いですね、だってベートーヴェンとリストの合体ですよ!」<合体>と言う言葉に、2人の肖像画が混ざったイメージが頭に浮かんで、くすりと笑ってしまいそうになったが、Budoが「運命」を演奏することへの並々ならぬ熱量も伝わる。そして、実際に展開されたその演奏の迫力は、これまでの彼のコンサートでも経験したことのないレベルのものがあったように感じた。この演奏を引っ提げて全国ツアーを回ることを思うと、札幌にも飛んでいかねばと心に誓いたくなるほどに心が熱くなる演奏であった。運命を切り開いてきたBudoにしかできない熱量の「運命」だ。

ガーシュウィン(Budo版)/ラプソディー・イン・ブルー。全国ツアーようにブラッシュアップし続けて第8版までたどり着いていると話していた、その第7版をこの日は披露。それだけに練り上げられ、Budo色に染め上げられたラプソディであった。最後の盛り上がりでは、大阪につづき、クラシック・コンサートとしては普通ありえない光景がまた展開された。曲に合わせて、自然発生的に手拍子が起こったのだ。サントリー・ホールや全国ツアーでもこの景色が見られるのだろうか。今日も気がつくと、万雷の拍手の中、Budoがステージ袖へ去っていく後姿をぼうっと眺めていた。本当に文字通りあっという間の2時間、ピアノ界のニュー・ヒーローが、ピアノ・リサイタルの常識を変えてしまう日は来月に迫っている。是非、コンサートに足を運んで、その瞬間を見届けて欲しい。

初めて見た彼のコンサートのレポートでも、これほどまでにクラシックのピアノ音楽を楽しく聴かせてくれる演奏家が今までいただろうか、と書いた。その印象は今回も変わらないし、その表現力もますます増したように感じた。

YouTubeピアニスト界の超新星がますます輝きを増して、サントリー・ホールへ駆け抜けて行こうとする姿を目撃させてもらえた。熱すぎる「クラシック愛」に溢れたBudoの演奏は、その場に居合わせたすべての聴衆の心を鷲掴みにしたはずだ。サントリー・ホール公演でも、きっとさらに「もっと熱いクラシック」が体験できるはずだ。

文=神山薫

公演情報

『Budo Classic 2024 ALL TIME BEST Japan Tour』
 
出演:Budo
プログラム:
ラプソディー・イン・ブルー(Budo版)/ガーシュウィン
運命『交響曲第5番』第1楽章(リスト版)/ベートーヴェン
トルコ⾏進曲(ヴォロドス版)/モーツァルト
バラード 第1番/ショパン
⽩⿃『動物の謝⾁祭』(ゴドフスキー版)/サン=サーンス
ソナタ『悲愴』全楽章/ベートーヴェン
ほか
 
料金(全席指定・税込)5,000円
※未就学児のご入場はご遠慮願います。
 
スケジュール:
8/3(土)サントリーホール 大ホール【東京】
8/11(日・祝)電気文化会館 ザ・コンサートホール【愛知】
8/12(月・祝)札幌コンサートホール Kitara 小ホール【北海道】
8/16(金)京都コンサートホール 小ホール【京都】
8/17(土)仙台市宮城野区文化センター パトナホール【宮城】
 
主催:ライブエグザム
お問合せ:ライブエグザム
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