「米革命」でお米、日本の食文化の良さを伝えたいーー滋賀ふるさと観光大使・西川貴教による新イベント『SHIGA KOMECON 2024』とは
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西川貴教 撮影=高田梓
11月2日(土)、3日(日)に滋賀県・南彦根 平和堂本部にて、西川貴教が企画するイベント『SHIGA KOMECON 2024』が初開催される。「米を食べる体験」だけでなくエンターテインメントも楽しめるという、これまでにない「米革命」を起こすイベントとして注目を集めている『KOMECON』。開催地である滋賀県で『イナズマロック フェス』を主催し、滋賀県ふるさと観光大使としても活躍するアーティスト・西川貴教が考える「米の素晴らしさを伝えるイベント」とは一体どういったものなのか。開催が近づくなか、多忙を極める西川本人に話を聞いてみた。
●『SHIGA KOMECON 2024』開催のキッカケ
西川貴教
――『SHIGA KOMECON 2024』(以下、『KOMECON』)は「米」にフューチャーしたイベントです。お米に注目するキッカケは何だったのでしょうか。
お米って当たり前にある食材ですけど、実は日本全国、各自治体でどんどん品種改良がされているんですよ。いろんな自治体から新品種が生まれているけど、あまり注目はされていない。みなさん、お米をお買い求めになる時、スーパーとか近くにあるお店に陳列されているものから選ぶのがほとんどですよね。でもお米は地域性や風土を表わすものなんです。今年の夏、お米がなくなって買えないという現象が起きましたよね? そういう現象が起きないと、お米はなかなか注目されない。電気やガス、水道と同じくらいにエッセンシャルなものになってると思うんです。
――毎日の食卓にあって当たり前、そういう食材という認識がありますね。
そうなんです。でも、お米は当たり前にあるものなのに、召し上がる方がどんどん少なくなってきていたり、なんなら間違った情報が広まってしまっていたりする。
――お米の間違った情報ですか?
誤解や誤った知識でお米のことを捉えている方がいるんですよ。例えば、カロリーや糖質を制限するダイエットがありますよね? 低カロリーなものに着目して、ヘルシーなものがいいんだ! と思われがちですけど、体作りにおいてはきちんと食べることはすごく大事なことなんですよ。
――身体を鍛えられている西川さんだからこそ、説得力がある言葉ですね。
バランスの良い食事が大事なんです。穀物でいえば、小麦がメインの欧米型の食事よりも日本人の体内環境、腸の長さを考えると、お米はすごく体に合っているんです。だからこそ今の時代までお米が栽培されているし、品種改良もされている。お米の栄養価についてきちんと情報を伝えたり、食料自給率の向上などいろんなものを考えて、お米をフューチャーすることは早くから考えていたんです。
――そこから『KOMECON』の開催に繋がるんですね。
お米にまつわるイベントに注力すると、農協などが主導となって「お米を食べよう!」みたいな啓蒙イベントは全国でも開催されているんですよ。そういうイベントは無料で行われているので、エンターテインメントの要素がない。ちょっと試食して……という程度の体験イベントばかりなんです。お米の魅力をどういう風に届ければ、みなさんに面白く、喜んでもらえるかな? と考えた結果、今回の『KOMECON』開催に辿り着いたんです。
――健康志向やダイエットのひとつの方法として炭水化物を控えようとしている人は多いかと思います。そういった人たちにもお米の魅力が伝えられそうですね。
「お米を食べません!」ということが、さも良いことだと言う人たちもいるんですよ。それは間違った知識なんです。小麦などの穀物にはアレルギーの問題もありますし、日本の自給率が低いため海外からタンカーで何トンも大量に輸入されていますけど、輸送途中にカビが生えてしまう問題もあったりもします。そういうことを考えると、輸入品に頼らない、国産のもの、と考えるとお米の価値は今まで以上に大切にしないといけない。今回は純粋にお米を食べてもらうイベントですが、もっと段階を経て、イベントの規模を大きくしていくことも考えています。まずは今回、滋賀県で開催される『KOMECON』をショーケースにして、全国に広めていきたいなと思っています。
『SHIGA KOMECON 2024』(イメージ)
――『KOMECON』の構想はまだまだたくさんありそうですね。
そうですね。最終的にはもっとお米を活用できるところまでたどり着けたらいいなと思っています。僕の頭の中だけのことでいえば、今回のイベントは5年くらい前から足がけで始めていたことなんです。なんならお米に注目し始めたのは10年くらい前からで。
――そんなにも前からイベントや、お米の活用方法について考えていたんですね。
僕が2009年からやっている『イナズマロック フェス』というイベントで、毎年「イナズマロック カレー」というカレーを出しているんです。毎年カレーの味が変わるんですけど、湯葉や琵琶湖の湖魚といった地域の魅力が伝わるものを材料に使うことで、その地域の魅力を手軽にお伝えするという企画。当然、カレーはルーだけじゃ物足りない。一緒に食べるお米も地元から供給していこうと、地元の農業科の高校生の皆さんに協力してもらって、一緒に田植えや刈り取りをすることもずっと続けていて。それもいろんな計画の足がかりのひとつなんです。
●課題をひとつずつクリアしながら、いろんなものが繋がっていった
西川貴教
――『イナズマロック フェス』は地元に恩返しがしたいということでスタートしたイベント。カレーも地域を盛り上げようという企画のひとつだとは思っていましたが、それも『KOMECON』に繋がっているんですね。
みなさん、また急に僕が新しいイベントを始めたなと思われているかもしれないですけど、いやいや、随分前からフラグ立ててたんですよって(笑)。
――今ようやくフラグを回収できるところまでたどり着いたんですね。
やっと形が見えるようになりましたね。うちのスタッフなんかは、僕が突然「農業機械を買いなさい」と言いだすから困ってましたね。
――衣装やステージの機材を買うのはなく、農業機械ですか!?
そう。10年くらい前に「滋賀でお米を作ろう!」と言いまして。僕がやっている『イナズマロック フェス』もそうなんですけど、突然言い出すんです(笑)。それで細かく説明しないままフラグだけを立てていくので、みんな困ってて(笑)。今回『KOMECON』の概略や姿かたちがぼんやり見え始めたときに「(西川は)これがやりたかったのか」と納得して手を打つという(笑)。
――私たち取材スタッフも「なるほど!」と手を打ちましたが、西川さんの周囲のスタッフさんは10年も前から、西川さんが何やら動きだしたぞ!? となっていたんでしょうね(笑)。それでも、いきなり農業機械を購入すると言われたときはびっくりしたでしょうね。
ほかにも、減反政策で使っていない田んぼを持っている人を探してきてとか。
――いきなり何を言い出すんだ!? となりますね(笑)。
でも、そんな感じでしたね(笑)。イベントを通じて、地域の皆さんに貢献できることをやっていこうという思いはあるんですけど、やっていくうちに行き詰まりとか難しさを感じたことももちろんあるんです。課題をひとつずつクリアしながら、いろんなものが繋がっていった結果なんですよ。
――『イナズマロック フェス』のほか、グルメバトル『イナズマフードGP』なども開催してきたからこそ、見えてきた課題ですね。
コロナ禍を経て、ようやくイベントへの規制がなくなり、安心して皆さんが足を運んでいただけるようになりましたよね。自治体の人たちも「フェスを開催すると人が集まるらしいぞ!」と気付いて自分たちでイベントを開催するのはいいけど、経験も知識もなければ、出遅れ感も否めない。なんならフェスそのものの数が多すぎて、今では淘汰されてきている。アーティストもフェスに出演するタイプ、出演しないタイプもいる。出演するタイプのアーティストのスケジュールを取り合う形にもなるから、その狭間を縫いながら企画をすると、気付けば時期を逃してた……というのも多いんです。やるぞ! と気持ちがあっても、ブッキングの難しさや経費もかかる。
――イベントを主催している西川さんだからこそ分かる内情ですよね。
闇雲になってもダメ。安易に手を出すと大変なんですよ。でも、地域の課題や取り組みがなくなるわけもない。それなら僕らが、その課題にイノベーションを起こせるものを提供できればいいなと思って。
――今回開催される『KOMECON』が滋賀だけでなく、全国で展開できるイベントを目指しているのはそういった理由があったからなんですね。
『イナズマロック フェス』にはそういったイベントを立ち上げたいんだと、見学に来てくれる人も多いんですよ。そこで色々と相談を受けるけど、何をしてあげられるかなと思ったとき、お米であればどの都道府県でも作っているし、新品種を作り出している人もいる。『KOMECON』でイベントのプラットフォームみたいなものを開発していけば、初期経費を抑えたうえでクオリティの高いイベントとして提供できるんじゃないかなと考えているんです。要はイベントのサブスクですね。
――『イナズマロック フェス』をはじめ、そもそも西川さんが「地元」や「地域」に注目するようになったのは、何かキッカケがあったんでしょうか。いちアーティストがファンだけでなく、地域の人たちにまで目を向けることはよくあることではないですよね。
両親をはじめ、親族に地域に関する仕事をしている人が多かったんですよね。だからこそ僕にとっては特別な感じもなくて。「地域」の問題は滋賀だけじゃなく、どの地域でも抱えている問題なんです。こういったイベントを立ち上げることで、今まで縁もゆかりもなかったような方も助けられるんじゃないかなと。コロナ禍で、僕らエンターテインメントの世界にいる人間は自分たちの存在意義は何なのかと考えさせられたと思うんです。
――エンターテインメントは不要のもの、という風潮がありましたね。
昨日まであんなにもてはやされていたのに、夜が明けたら急に社会から切り離される。なんなら邪魔者扱いされる。あんなに必要だと求められていたのに、いの一番に切り離されて。でもやっぱりみんな諦めずに人のため、誰かのためになりたいっていう気持ちはなくならなかったし、またいつそういう状況になるかもわからない。そうなった時、きちんと人と人との繋がりがあれば解決できるものもある。地域の人との結びつきは僕等にも作れるんじゃないかなと思っています。
●『KOMECON』はご飯に合う、和食の再発見にもなる
西川貴教
――『KOMECON』はこれまでにないイベントとして注目を集めています。すでに発表されている「KOMECONトレー」を手に、とにかくご飯がいっぱい食べられるそうですね。
お米を推奨するイベントって、おにぎりをみんなで作ったり、配ったりすることがほとんどで。もちろんそれもお米が主役ではありますけど、その土地の魅力を映し出すものが必要だと思うんです。それが「おとも」。お弁当とか家庭の食卓には風土の魅力が出るじゃないですか。例えば、うちには地味なんですけど「エビ豆」という「おとも」があるんです。
――滋賀の郷土料理のひとつですよね。
琵琶湖で獲れたエビと豆を甘辛く炊いただけのものなんですけど、地元でも家庭によって味が違ったりするんですよ。そういうものって地域の「らしさ」が出る。お米の素晴らしさは無垢の画用紙みたいなもので、どんな色にもできる。お米が持つ良さ、素晴らしさはいろんなものと寄り添えることにある。地域のいろんな食材と結び付けたり、可能性が無限にある。美味しさや楽しさはもちろん、「おとも」を通じて地域や人との結びつきも知ることができるんです。
――今回出店される「おとも」には開催地の滋賀だけでなく、お隣の京都や愛知などいろんな地域からも出店される予定です。
滋賀だけでなく、いろんな地域の魅力も知ってほしいですね。次にその地域で『KOMECON』が開催されれば、また新たな地域の交流も生まれてくるだろうし。
――「おとも」で繋がるご縁がありそうですね。フードフェスではあまり注目されることがない、漬物や佃煮などがフューチャーされるのもお米に特化した『KOMECON』だからこそですね。
『KOMECON』はご飯に合う、和食の再発見にもなると思っています。「おとも」になるものはパンやパスタにもあると思いますが、ご飯の「おとも」となると日本で培ってきたものばかり。和食の良さを知ることができるんですよ。まだ始まったばかりですが、将来の展望としては『KOMECON』を通じてお米に合う和食が集約されていけば、『KOMECON』を国外で開催することもできると思うんです。
――『KOMECON』が海外にまで発展するイメージもされているんですね。
梅干しやお漬物といった「おとも」一個一個だと、海外に活路を見出すのは難しいかもしれないけど、『KOMECON』としてまとめてパッケージすれば、海外の人たちにもお米や「おとも」、和食の良さを知ってもらえるはずです。ほかにも、ふるさと納税や「『KOMECON』お墨付き」といった形で、その地域の魅力を広めていけたらいいなと思っています。
●トライアンドエラーの繰り返しで今がある
『SHIGA KOMECON 2024』(イメージ)
――『KOMECON』の無限の可能性を感じますね。しかも『KOMECON』はアーティスト・西川貴教が開催するイベントとして、エンターテインメントも楽しめるんですよね。
そこはやっぱり外せないです。僕がやりたいのはただのフードフェスじゃない。イベントは絶賛準備中でこれから決まっていく内容も多いですが、いろんなものが混ざり合っていく予定です。丼じゃないけど、なんでも乗っけられるイベントにしていけたらいいですね。
――続報が楽しみですね。
さっきもお話した、お米を推奨するイベントのほとんどが無料なんですよ。それももちろん素晴らしいんですけど、『KOMECON』は有料のイベント。エンターテインメントとして、ただお米を食べるだけじゃなく、1日会場にいて楽しんで帰ってもらう。そのための付加価値をきちんとつけていきたいと思っています。
――プレミアム
いの一番に売り切れましたからね。海のものとも山のものもともつかぬイベントですよ? でも我々がやろうとしていることに、これだけの人が信じてくれている、応援してくださっている。これに甘んじることなく、
――さきほどスタッフの方から聞いた情報によると、『KOMECON』はお米が食べ放題なのはもちろんですが、そのお米の量が5トンもあるとか。しかも、滋賀の新種「きらみずき」や「みずかがみ」を含む6種類のお米が食べられる。ご飯の食べ比べができるイベントも珍しいですよね。
さらに生産者のみなさんからも「うちのお米を食べてほしい」というお声をいただいたので、量は少ないですがサプライズの炊き出しみたいにしてお出ししようかなと。
――サプライズでさらにご飯が出てくるんですか!?
もうゲリラ炊き出しです(笑)。
――ゲリラ炊き出しって聞いたことがないです(笑)。
もうすぐここの釜のご飯が炊きあがりますよ~、何名限定です~って。それすらもイベントになっているんです。小さなイベントが次から次にひっきりなしにやってくる。会場にいればいるほどいろんなことが楽しめる。飽きさせない設計を考えています。
――「お腹がいっぱいになったから帰ろう」とはならない。
今は腹ごなしになるように体操をするコーナーも考えてるんです。もっと食べて! ってね(笑)。
――無限にお米が食べられてしまう(笑)。
僕がやる以上、このイベントが成功してフォーマット化できたら、いろんな地域で開催できますからね。まずはお米を食べていただく。でもお米があるということは当然日本酒もあるし。ご飯を食べるお箸も地元で林業をされている方と組んだりして、環境にも配慮しつつ、なるべく地域を感じてもらえたらいいなと。
――お米を軸に、いろんなものが繋がっていくんですね。
スイーツも展開していきたいと考えています。和菓子は白玉やお餅にもお米を使ってますからね。色彩も鮮やかで、季節や地域を象徴する和菓子もたくさんありますし。今後は「おとも」や日本酒、スイーツなどエリアをわけてお米の魅力を伝えていけたら。
――食べて飲んで、デザートを食べて。たまに運動してまた食べて。回を重ねるごとに食の魅力を知れるイベントになりそうですね。
僕自身が身体作りをやり続けてきたからこそ感じた、お米の素晴らしさ、そして和食の素晴らしさを伝えていきたいんです。世界的にみても、和食って本当に素晴らしいんですよ。和食に慣れ親しんでいる日本人は海外のような超肥満体形はパーセンテージが圧倒的に少ない。海外ではエビデンスをつけて研究されている方もいらっしゃるくらい。日本人はお漬物や味噌や納豆などの発酵食品も当たり前のように摂取していますよね? そういった食材は胃や小腸で終わるのではなく、きちんと大腸の奥の奥まで届くことで腸内環境が活性化されて、より良い体を作っていける。お肉は積極的に食べるようになってまだ2~300年も経っていない。でもお米は1~2000年以上も昔から当たり前に食べられている。日本人はそれに合わせた腸の長さになっているんです。日々の生活のなかには手軽に手に取りやすい食べ物ももちろんあるけれど、イベントを通じて、当たり前に口にしているものや、地域や町が当たり前に受け継いできたものが実はすごく大事なものなんだよと気づいてもらいたい。薄れつつある日本の良さを改めて知ってほしいんです。『KOMECON』を通じて地元のことを知って、もっと好きになってもらいたい。そしてその先にある日本のことをもっと好きになってもらいたい。そういうキッカケになればいいな、と思っているんです。
『SHIGA KOMECON 2024』(イメージ)
――初めて開催される『KOMECON』がどんなものかお伺いしようと思いましたが、まさかそんな先のことまで考えていらっしゃるとは思いもしませんでした。「美味しい」のその先に、私たちが住む日本を良くするものを感じることができる。『KOMECON』は食育や地域支援、郷土愛にも繋がっていくイベントになりそうです。
今回はまずその第一弾。これから徐々に情報が見えてくるかと思います。まだまだ僕ら自身も実験的な要素が非常に高いと思っています。でも、イベントを通じてみんなで一緒に何かを作っていけると思うんです。『イナズマロック フェス』もそうだったんですけど、トライアンドエラーの繰り返しで今がある。みんなでこうした方が良い、あっちの方が良かったんじゃないかって意見を出し合って、バグが出るたびにアップデートして完成に近づけたらいいなと思っています。そのためにも、まずはみんなに来てもらって。
――ご飯はもちろん、エンタメ要素もたっぷりあるし。お米は5トンもありますからね。とりあえずお腹をしっかりと空かせてからきてもらうのが大前提ですね。
そう! お腹を空かせられる取り組みも用意していますんでね。
――どれだけ美味しいご飯が食べられるか、楽しみです!
西川貴教
取材・文=黒田奈保子 撮影=高田梓