171、DNA GAINZ、東京初期衝動らが個性をぶつかり合った『DECEMBER’S CHILDREN』オフィシャルレポート到着
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『DECEMBER’S CHILDREN』 撮影=キラ
12月13日(金)に味園ユニバースにて『DECEMBER’S CHILDREN』が開催された。オフィシャルレポートが到着したので紹介する。
ジャンルを超えて個性的すぎる才能が集った一夜
音楽事務所moving onが主催する年末恒例のライブイベント『DECEMBER’S CHILDREN』が味園ユニバースを舞台に大阪で初開催された。かつては宇宙空間をイメージした大箱のキャバレーだっただけにムード満点の味園ユニバース。毎年、ニューカマーを交えてながら個性の際立ったアーティストがぶつかり合う『DECEMBER’S CHILDREN』の舞台にはうってつけだ。今年も6組のバンドが刺激的なステージを見せた。
フレッシュで大化けの気配を漂わせるkohamo
kohamo
オープニングアクトで登場したkohamoは自らを「コンテンポラリーなバンドと謳い、現代的なJ-POPを追求する」と語る大阪発の5人組。フレッシュな雰囲気のなかに不敵で、大化けしそうな気配を漂わせ、1曲目の「strobo」から新人離れしたスケールで迫る。ポップで切なめの曲、疾走する曲、爆発力のある曲、AOR風味のダンスチューンなど多彩なレパートリーを披露していったが、いずれも最先端の日本のロック/ポップスに洋楽の要素が混ざっていて、彼らが言うとおりとても現代的で豊富なアイディアが詰まったサウンドだ。
kohamo
そして特筆したいのは楽器を持たずに歌一本でステージアクトを見せる三浦海輝の存在感。最近では珍しくなってきたハンドマイクで見栄を張れる立ち振る舞いはこれぞボーカリストと言いたくなる。ジーンズにジャケットというこの夜の出で立ちも様になっていた。キャリアは浅いが、堂々としたライブパフォーマンスを見せたkohamのさらなる進化を見ていきたい。
青春のキラメキマジックをかけるLala
Lala
総再生回数が1000万回を超えるシンガーソングライターayahoを中心としたベースレスのスリーピースバンドLalaが続いてステージに上がる。「これぞ青春!」というZ世代の恋する女子の心に刺さりまくる胸キュンなロックを響かせるLalaだが、2024年はファーストアルバム『ハートビート』のリリース記念ワンマンライブも、続く夏の全国ツアー全5公演もソールドアウト。余勢を駆った追加公演は20箇所を数え、12月26日にはファイナル公演を心斎橋BIGCATで開催とまさに登り調子だ。
Lala
Lala
そんないいテンションのまま、Lalaはこの夜もみずみずしいギターポップサウンドを聴かせていく。心のドキドキや繊細な感情の機微が音になったようなバンドアンサンブルに、ayahoの「女子代表」と言いたくなる歌詞とチャーミングな歌声が絡み合うとまさに青春のキラメキマジックがかかっていくようだ。その眩しさに会場が明るく華やいでいく。
Lala
そして「オイ! オイ!」というかけ声が盛り上げる「Jelousy」や「夜明けまで」での弾けぐあいを観ていると、こちらの頰も緩んでくる。披露した5曲のなかに青春の息吹をギュッと凝縮した元気いっぱいのパフォーマンスを存分に披露してLalaは爽やかに去っていった。
ひと回り大きくなった姿を見せたSundae May Club
Sundae May Club
3番手には昨年の『DECEMBER’S CHILDREN』でオープニングアクトを務めたSundae May Clubが登場。2023年のミニアルバム『漫画少年』とシングル「晴れるな」「Teenager」でアンテナの感度の高い音楽好きの評判を集め、「ウルトラスーパーポップ」と称される長崎発の3人組(演奏は4人編成)はこの夜、ひと回り大きくなった姿を見せてくれた。
Sundae May Club
Sundae May Club
まず、ボーカル・浦小雪の伸びやかな歌声と彼女が持つ水色のギターにはライブホールに青空が広がっていくような印象を抱く。そこに加わるみずみずしくて疾走感のあるバンドアンサンブルでその青空をカラフルに反射させながら、次々と青春感にあふれたパワーポップで繰り出していった。浦小雪の歌に登場する人物には目の前に現れてくるようなリアルさがある。そしてメロディは巧み。登場人物の心の鼓動を表すようなリズム、US/UKインディーロックの匂いも漂わせるノイジーで甘酸っぱいギターは情感的だ。
Sundae May Club
Sundae May Club
この夜、特に耳に残ったのは「サイダー」と2024年秋にリリースした新曲の「チャーミー」。往年のバブルガムポップのテイストを忍ばせた「サイダー」には懐の深さを感じたし、この1年間で書きためた50曲から選りすぐったという「チャーミー」には、たとえるなら昭和の世から時を超えて歌われ続けるスタンダードナンバーがもつ王道の輝きが見えた。Sundae May Clubはここからファンがグッと増えていきそうな予感がする。
キレキレ感が只者ではない東京初期衝動
東京初期衝動
続いてはキレキレでむやみに近づくと危険……そんなオーラをまとうガールズバンド・東京初期衝動が爆音とともに登場。2024年のシングル「pink」に続いて同じく岡崎京子のマンガのカットをジャケットに用いた「pink II」のリリースを2025年1月に控えているが、そこから先行配信される曲のタイトルは「岡崎京子のあの娘になりたかった」。このネーミングですでに只者ではないセンスを感じる。それはファンクラブを「新興宗教東京初期衝動」と名付けることからもうかがえる。
東京初期衝動
東京初期衝動
東京初期衝動はオリジナル世代のパンクロックやガレージロックがもつささくれだったヒリヒリ感が出ているところもカッコいい。2曲目の「高円寺ブス集合」でボーカルのしーなちゃんがハンドマイクで歌い出した時はヤバいというか、胸ぐらをつかむようなドスが効いたド迫力で迫ってきて圧巻だった。「恋セヨ乙女」「ロックン・ロール」などでの決起盛んな勇ましさも血が沸き立たせる。ただ、そこに可憐な女心もチラチラとのぞくところが、すごく正直なガールズパンクだと感じた。彼女には、おとなしくうなずけない若き女性たちにとって「私たちの歌」と思わせる説得力がある。この夜、東京初期衝動は大きなインパクトを残して全7曲を駆け抜けた。
東京初期衝動
東京初期衝動
来年、年明けスタートの全国ツアーに期待が高まる。
生命の輪廻のなかで己を深く見つめるDNA GAINZ
DNA GAINZ
「DNAから響く歌の鼓動 体の底から踊り出す」をコンセプトに太古から続くかのようなプリミティブな生命力を過剰なエネルギーで発露する島根発のDNA GAINZ。2024年は台湾のロックフェスでも圧巻のパフォーマンスを披露。2枚の配信シングルに続いて5曲入りEP『DNA STATION』を11月に発表。2年連続出演となった今宵はそのリリース全国ツアーの最中での登場となった。
DNA GAINZ
DNA GAINZ
昨年は生命の営みの物語を描かんとするコンセプチュアルで挑戦的なパフォーマンスが光っていた。あれから1年、『DNA STATION』を聴いて思ったことでもあるが、彼らは今、大きな世界観のなかでもがく自分の物語とも向き合っているようだ。その切実さ故に、それぞれの個の力は確実に増している。それがステージ全編から伝わってきた。生命の物語における自分の息づかいにリアルさがより増してきたと言うべきか。
DNA GAINZ
DNA GAINZ
ステージでは生き急ぐように「Punky Blue Kids」をブチかまし、「ラフラブ」の溢れ出す陽のエネルギーで包み込む。骨太なベースラインを軸にしたグルーブが高揚感へとつながっていく「Loop!!!」には力任せではない成長が見えた。強靭なビートとポップネスが融合した「PARADISE HELL」ではこの世界の光と闇を表現。生死を見つめる「巣ニナル」では張り詰めた緊張感が切実さをもって迫ってくる。ラストは愛の多幸感に満ちた「GOLD HUMAN」で希望を響かせた。生命の輪廻を意識し、現世の陽と陰を深く覗き込んで人々の幸せを掬いあげんとする彼らがこれからどのように体の底から踊り、踊らせるのか。そこに響いているのはきっと聴いたこともない鼓動だろう。その日を楽しみに待ちたい。
「すごいバンドがいる」の噂に違わぬ力を見せた171
171
『DECEMBER’S CHILDREN』のトリを務めたのは男女ツインボーカルのスリーピースバンド171。「イナイチ」と読む。彼らが活動拠点とする京都、大阪、神戸を結ぶ国道171号線がバンド名の由来だ。「すごいバンドがいる」との噂に違わぬパフォーマンスをしっかりと見せてくれた。
171
1曲目の「GO GO リトルカブ」を皮切りにオルタナティブロック、パンクロック、ガレージパンクが渾然一体となったとんがりまくるサウンドをテンポ感とともに変幻自在に操り、その爆発力はとにかく抜群。田村晴信とカナのボーカルのスイッチ具合も「うまい!」と膝を叩きたくなるほど効果的だ。また「インターセクション」での痙攣するようにかき鳴らす田村のジャキジャキのギターとカナのゴリゴリのベースが重なり合う様は刺激的なロックが好きな人にはたまらないはず。といって、ただ力任せなわけではなく「終演です」ではサイケデリックロックやプログレの香りが漂わせ、「ドライブの終わり」ではシンプルな歌ものでメロディの才を見せつける。彼らも只者ではない。
171
聴けばすぐに171はロックの素養も引き出しの多さに気づく。これは過去からの音楽も最新の音楽もフラットに聴ける今ならではのバンドの音なのだろう。ただ、それをどう引用・解釈して自らの地肉にできるのは才能あってのものだ。曲名をとっても「俺の見たピストルズはスマホの中」は斉藤和義の「僕が見たビートルズはテレビの中」からの引用であり、そのセンスにニヤッとしてしまう。この夜のステージはフロアの盛り上がりに乗って急遽アンコールを1曲追加。そのフットワークのよさも小気味いい。ブレイク前夜の気配がプンプンする171をまだ未見、未聴のロック好きは早く彼らに遭遇したほうがいい。
取材・文=山本貴政 撮影=キラ