KAAT×新ロイヤル大衆舎vol.2『花と龍』座談会 福田転球×山内圭哉×長塚圭史×大堀こういち~劇場に屋台が登場!? 新ロイヤル大衆舎が仕掛ける祝祭演劇に注目せよ!
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「新ロイヤル大衆舎」は福田転球、山内圭哉、長塚圭史、大堀こういち、の面々で、2017年に「日本の演劇を明るく照らす」というキャッチフレーズのもと結成された演劇ユニット。同年の旗揚げ作品『王将』-三部作-(作:北條秀司)は21年、長塚が芸術監督となったKAAT神奈川芸術劇場の1階広場(アトリウム)特設劇場でスペシャルな公演も行った。
そのKAAT×新ロイヤル大衆舎第二弾が25年2月に決定。今回挑むのは、戦中の兵隊小説など民衆の生活を活写した北九州出身の作家・火野葦平による『花と龍』だ。火野の実父で、後に洞海湾の港湾労働者を束ねた玉井金五郎・マン夫妻を軸にした明治~昭和を股に掛ける大河ドラマは映像化も多数され、金五郎役は高倉健や石原裕次郎も演じている。また、小空間を芝居熱で満たす大衆舎がホールに初挑戦。挑戦尽くしの新作に取り組む想いと「秘策」を訊いた。
――4年ぶりの新ロイヤル大衆舎公演。KAATとは回を重ねてタッグを組む前提だったのですか?
長塚圭史 いえ、21年の『王将』KAATアトリウム特設劇場公演は、付随して周辺に出店を出すなど祭り的に劇場を開こうと考えていたのですが、感染症禍のために実現できなくて。公演に手応えは感じつつも、残った「やり切れなかった想い」を回収したかったんです。ロイヤルの作品は〝シンプルかつ雄弁〟。舞台芸術の経験値や年齢に関係なく楽しめるのが特徴だと思うのですが、その楽しさをKAATのお客様に100%で提示できなかったのが悔しいし、「このままでは終われない!」と思ったことが再タッグの始まりです。
山内圭哉 いきなり圭史から「火野葦平の『花と龍』を読んで!」と連絡が来て、読んだらメチャクチャ面白かったんです。ロイヤルの創作で僕は、明治から昭和初期にかけてなど日本の古い文学や戯曲、自分の役者人生では接点がなく、どちらかと言えば古臭いと忌避してきたような作品群に触れ、未体験の面白さに目覚めさせてもらった。『花と龍』にも同じ面白さがふんだんに織り込まれていると思います。ただ、主人公の金五郎が福田転球の役かどうかには疑問を感じましたが(全員笑)。王将の坂田三吉は「おぉ、ピッタリや!」と思ったけれど、大丈夫か……と(福田苦笑)。
大堀こういち 転球さんで『無法松の一生』(作:岩下俊作。昭和初期の北九州を舞台に男気あふれる人力車夫・松五郎と陸軍大尉未亡人・良子、幼い息子・敏雄の交流を描く)をやろうという話がロイヤルで出たけれど、それも感染症禍でできなくなったんですよ。「仕切り直すなら、〝ロイヤルのスター・転球〟で何をやる?」という話もしてたよね?
福田転球 (苦笑)でも、自分では一読して「金五郎はオレじゃない……」と思ってたよ。
長塚 そこは自分も迷ったところだけど、「男前さで言えば山内君のほうが……」とか。
福田 迷ったんかい!(全員笑)。まぁ確かに金五郎は年齢もすごく若いし、彫り師に「きれいな肌に惚れた。是非彫らせてくれ」と言われるとかさ……。
山内 (笑)転球さん、シワシワやもんね!
福田 自分と繋がるところ探しても一個もなくて。唯一みつけたのは、「肉体労働者っぽさ」くらいで(全員笑)。
長塚 でも雰囲気や容姿は、残っている写真を見ると結構金五郎さんに似ている感じがするよね? それにロイヤルと『花と龍』の相性は絶対良い! という確信があったし、だったら主役はロイヤルのスター・福田転球じゃないと、と。若い肉体労働者という、演技としても大変な部分は多いけれど、そこは歌舞伎俳優さんたちが高齢でも娘役、若者役を演じるのと同じで、僕らも支えるから演じてもらおうという結論に達したんです。
大堀 もしかしたら、これが転球さん最後の主演作という貴重な舞台になるかも。
山内 フツーに死んでまうかも知れんしね(全員笑)。
――またホールの大舞台なので、殺陣などもスケールが大きくなりそうです。
福田 普段は一間(約1.82メートル)俳優ですから、自分……。
山内 ホールの広さ大きさや、どう動くのかなどはまだ自分にも想像しきれてないですけど、毎回同じ感覚でやるのもつまらないじゃないですか? 一回ホールでやれば、「じゃあ次はどうする?」という比較対象が増えるし。それに、ホールでこの作品を普通にやるだけではロイヤル的には物足りない、「普通やんソレ」ってなって。「じゃ、屋台出そうか」という話になってますから。
長塚 そう、舞台上に屋台を出すんですよ。入場したお客様は、まず屋台でいろいろ買い物をしていただき、それは客席に持ち込めるんです。前列は桟敷席で花道も作り、イメージとしては串田和美さんと故 中村勘三郎さんが始めた「コクーン歌舞伎」。少なくともKAATでは、そんな劇場全体をお祭りにしてしまうような仕掛けにする予定で。
山内 ロイヤルらしさは、ホールでも十分に出せるんじゃないですか。
長塚 もともと舞台上舞台など、色々なことのできるホールなのでまた新しい魅力をお客様に知っていただけたら、と考えています。あと富山、兵庫に加え、作品の舞台で火野葦平のルーツがある北九州でもツアー公演ができるのはとても大きいですよね。先に、山内君と現地取材にも行ったんですが、ある程度年齢を重ねた人は、会う人会う人みな『花と龍』はもちろん「玉井金五郎」の名前を知っているんです。
山内 「ヘンな風にアレンジすなよ」的な圧も感じたくらい(笑)。
長塚 そうそう。火野葦平の旧居や資料館などに行ったんですが、資料館を管理していらした親戚筋の女性と話す中で「あなたたち、(『花と龍』を舞台にするのに)何だか軽い感じネ」と言われて。きっと皆さん「今度やらせていただきます!」と姿勢を正す感じでいらっしゃるんでしょうね。もちろん、僕らも真剣に臨ませていただきますが。
福田 僕は別の機会に2人の後で資料館に行ったんですが、長塚君と山内君、二人と資料館の方が写ったきれいな写真が飾ってあって「えぇー!」ってなりました(全員爆笑)。この二人が「軽い」感じなら、自分なんか……。
山内 ド突き回されるんとちゃう?(笑)。
長塚 過去に作品化されたものについても色々話して下さって、「あの映画は、荷揚げがどういうものかわかってなかった」とか「こりゃ大変なことに手を出してしまった……」と。
福田 でも、「僕が金五郎役です」と話した時は、「悪くないわね」みたいな顔してらっしゃいましたよ。
三人 (間髪入れずに)本当に?
――そんな北九州圏の皆さんが愛する原作小説を戯曲化されるに当たり、KAATでは『蜘蛛巣城』を手掛けた劇作家・齋藤雅文さんを招聘されたのも興味深いところです。
長塚 齋藤さんは普段、新橋演舞場など大劇場作品で筆を振るわれている方。今回は「往年の映画スターなど、齋藤さんがイメージする俳優さんへのあてがきのつもりで書いて下さい。そのまま新橋演舞場でも上演できるような台本を」とお願いしたんです。出来上がった上演台本には、回り盆やせりなどの機構を使った演出的なことも書いてあり、僕らが大先輩に言うのは僭越ですが、自由でのびのび書いて下さったんだと嬉しくなりました。もちろん使えない機構もありますが、そこは座組全員の熱量でカバーしていこうか、と。
――水中の幻想的なシーンなど、舞台上の絵的にも面白い台本ですね。
長塚 そう! 素晴らしいですよね。火野さんは河童を題材にした小説も多いし、旧居にも「河伯洞」(河童の住処の意味)という名前をつけていたくらいで、この舞台でも河童、活躍してもらいます(笑)。
――また、大堀さんの味わい深い語りも楽しみです。台詞量は膨大になりそうですが。
大堀 ねぇ……。
山内 『王将』の最初の時は、稽古場にあったカウンターに斜めに傾いた姿勢で覚えてはって(笑)。不自然な姿勢になるくらい、集中してはったんですか?
大堀 いやもう、どんな姿勢でも覚えられないから段々よじれていっちゃったのかも。
長塚 量が量だから当然なんですが、稽古場でも途中で詰まってしまうことが多く、ご苦労かけました。でもある日、突然バーッと最後まで淀みなく語れた時があって。その時は稽古場の全員が大堀さんにスタンディングオベーションを送りました、「キター!」って感じで(笑)。
――金五郎の松山弁、マンの広島弁に北九州弁などが加わる方言の多彩さも魅力です。
長塚 仰る通り、方言の多彩な音や響き、独特の五感が入り混じる会話は耳を楽しませてくれると思います。松山から北九州へと言葉が変わることに、金五郎の置かれた環境の変化も重ねられますし、登場人物たちの生命力の強さみたいなことも方言が表してくれるように感じているので。
山内 日本の明治期ってスゴイ時代やったんでしょうね。国自体が強くなろうとしている、当時独特の原初的な力や熱があったと思うし、そんな、僕らが人として忘れていることを『花と龍』は思い出させてくれる。同時に、ちょっとしたことで心が揺れる繊細な人の一面も描かれていますし、想像力や思いが日ごとに削れていっているような今、僕らはこの作品から学ぶことがたくさんあると思う。アフガニスタンやパキスタンで医師としてだけでなく、水路を造るなど支援活動に邁進して多くの人に敬愛されながら、武装集団の銃撃で命を落とした中村哲さんは、火野葦平が母方の伯父さんなんですよね。今回それを知って、金五郎が誰かのためを思って動き・言葉にするあらゆることが、金五郎の血脈として中村さんにも伝わっていたんだと感銘を受けました。
大堀 写真で見ると金五郎と中村さん、顔の系統がそっくりなんですよ。濃い血なんでしょうね。
福田 うわ、さらにプレッシャーになることを……。でもここは腹を括って、高倉健越えを目指します!
山内 ま、僕らも全力で支えますから、転球さんは役に専心して下さい。
大堀 それに、ロイヤルは「どれだけムチャするか」が醍醐味の集団。今回も屋台や花道などどうなるか想像すらできていませんが、参加する全員が限界越えの覚悟でやるしかないですよね。
山内 あと僕は音楽担当でもあるんですが、齋藤さんの書いたト書きのあちこちに、「力強いリズムの音楽と共に」というような記述があり、音のイメージを膨らませる刺激をたくさんもらっているんです。それに、過酷な肉体労働を日々続けるゴンゾ(港湾労働者)の人たちならではの掛け声や、労働歌もあったはずで、そういう要素も取り入れた楽曲を創りたいと今は考えています。
長塚 客演にも個性の強いクセ者が集まってくれましたから、稽古から存分に楽しんで、そこで生まれたエネルギーを客席までしっかり届けたいと思います!
取材・構成・文/尾上そら
公演情報
『花と龍』
【原作】火野葦平 【脚本】齋藤雅文
【演出】長塚圭史 【音楽】山内圭哉
福田転球 安藤玉恵
松田凌 村岡希美 稲荷卓央 北村優衣
山内圭哉 長塚圭史 大堀こういち ほか
■会場:KAAT 神奈川芸術劇場 ホール
■一般発売:2024年12月1日(日)
■問い合わせ: