松下洸平&松下優也「これまでに感じたことのない領域までいけたら」 ミュージカル『ケイン&アベル』インタビュー
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イギリスの国民的作家ジェフリー・アーチャーのベストセラー小説を原作とした世界初演のオリジナル・ミュージカル『ケイン&アベル』が2025年1月22日(水)に開幕する。本作は、20世紀初頭、ボストンの名家ケイン家に生まれ、銀行家の父の跡継ぎとして祝福された人生を歩むウィリアム・ケインと、ポーランドの山奥で生まれ、貧困と劣悪な環境で育ちながらも、アメリカに渡ったアベル・ロスノフスキという、同じ日に生まれた2人の宿命の物語を綴る。
東宝ミュージカル初主演の松下洸平がウィリアム・ケインを務め、松下優也がアベル・ロスノフスキを演じる。音楽は、『ジキル&ハイド』や『四月は君の嘘』などを手掛けるフランク・ワイルドホーン、脚本・演出は『ニュー・ブレイン』や『ザ・ミュージック・マン』などのダニエル・ゴールドスタインが担当する。
稽古が始まって約1週間が経ったこの日、初共演となる松下洸平と松下優也に、稽古がスタートした心境やそれぞれの役作りについてなどを聞いた。
――いよいよ本格始動した『ケイン&アベル』ですが、稽古場の雰囲気はいかがですか?
洸平:(稽古のスピードが)めちゃくちゃ早いです(笑)。付いていくのに必死です。立稽古始まって、1週間くらいで一幕が全てつけ終わったんですよ。
優也:もうすでに一幕は通しているしね。
洸平:転換などテクニカルなことも多いので途中に何度か止めることはありますが、それでも最初から一幕終わりまで通して。先日通したときはみんな笑っちゃうくらいの出来でした(笑)。一幕の最後は、アベルがステージに立っていて、「ジャン」の音を合図にかっこよく終わるんですよ。でも、この間はちょっとほっこりする感じの「ジャン」だった(笑)。そんなすごく刺激的な稽古場です(笑)。
優也:本当にスピード感があって。きっと、早いペースで進むんだろうなとは思っていましたが、想像以上に早いスピードで稽古が進んでいます。ケインもアベルも、ミュージカルにしては会話するシーンが多いんです。なので、稽古が終わって家に帰ってから「明日あのシーンをやるから覚えておかないと」と、今は覚えることに追われています。曲数もセリフも多いので、意見を出して作り上げていくというよりは、追いつくことに必死で。この1週間はがむしゃらに過ごしました。
――初共演となるお二人ですが、実際にお稽古が始まり、お芝居をしてみて、お互いに新たな発見はありましたか?
洸平:(優也は)むちゃくちゃかっこいいです。アベルはケインと対になるような役柄です。ケインは裕福な家庭に育って、分かりやすく言うとエリートですが、アベルは真逆で、身寄りがないところからのし上がっていく野性的な人物。優也くんのアベルは、まさにそのイメージ通りで、常にメラメラと燃えたぎっている印象があります。優也くんも言っていた通り、今はとにかく覚える作業なので、ここからさらに本番に向けてどんどん役も深まっていくと思いますが、現段階でこれだけかっこいいアベルがいるので、きっと本番はすごいですよ! めちゃくちゃ楽しみです。
優也:お互いにアーティスト、音楽活動からミュージカルの世界に入ってきた人間だと感じていたので、ミュージカルのときにはどうやって歌うんだろうと興味がありました。本読みで初めてその歌を聴いたのですが、すごく繊細で。ちょっとした歌の譜割りやニュアンスは自分と通ずるものがあるなと感じつつも、ケインとしての心情がしっかりと盛り込まれていて驚きました。二幕のソロが特に素晴らしいんですよ。純粋に、勉強になるなと思いました。それに、洸平くんはそこにいるだけで成立するお芝居が完成されています。それがすごい。今回は大きなミュージカル作品なので、とりあえず大きく動いて芝居をすることがスタートになる場合もあると思いますが、洸平くんは大きく動く必要がないんです。もちろん、最終的には僕たちも(この作品を)伝えるために動いて表現していくと思うのですが、洸平くんは動かなくてもお芝居が成立している。それは、お芝居の本質を捉えていないとできない表現だと自分は思います。やっぱり映像でもこれだけご活躍されているからこそなのかなと感じました。一緒にお芝居できることを楽しんでいます。
――稽古が始まって手応えは感じていますか?
洸平:今この段階で一幕を通せているという安心感はあります。もちろんまだまだ粗削りではありますが、何となく作品の全体像をこのタイミングで見ることができているのはありがたいです。ここからさらにみんなと一緒に作っていけるので、とても豊かな稽古場になっていると思います。今回、振付や演出、ステージングはブロードウェイでご活躍されているスタッフの方々が作ってくださっているので、面白い作品になるのは間違いないです。観に来てくださる方々にミュージカルだからこその壮大な物語をお届けできることは確信しています。これは演劇でも勝負できる作品だと思っているので、そこからさらに、ミュージカルだからということにこだわらずに、細かいところを作っていけたらと思います。二人のシーンがところどころにあるのですが、「これ、本当にミュージカルだっけ?」というくらい、ずっと話しているんですよ。歌えばいいのに。
優也:この会話こそ歌にしないの?って(笑)。
洸平:そうそう(笑)。会話劇で見せるというのがこの作品の面白いところだし、それは我々に課せられている課題でもあると思います。ミュージカルとしての素晴らしさと演劇としての素晴らしさ、それからエンターテインメントショーとしての素晴らしさ、三つが入った作品です。僕たちがそれぞれをどれだけ大きくしていけるかが、この作品が成功するか否かの鍵なんじゃないかなと思っています。
優也:洸平くんが言ってくれたように、「これはストレートプレイ?」と思うくらい、会話劇とショーアップされたシーンが混在していて、珍しいタイプの作品なんじゃないかなと思います。僕はこれまでアーティストとして音楽活動をしてきて、役者としても、ミュージカルやストレートプレイ、あまり数は多くないですが映像作品にも出演させてもらう機会もあり、フィールドを限定した活動はしてきませんでした。きっと洸平くんも、舞台も音楽も、それから映像もたくさん出演されてきて、さまざまな活動されてきたからこそ、よりこの『ケイン&アベル』のミュージカルで幅を見せられるのではないかなと思います。歌は歌で見せ、芝居は芝居で見せる。それこそが今回の面白味かなと思います。
――それぞれが演じる役柄について、お稽古を通してどのように感じていますか? 最初に脚本を読まれたときと比べてより深まったところはありますか?
洸平:実際に立稽古をして動いてみたり、演出を受けたりしていると、ケインは意外とチャーミングなところもあることに気づきました。特に、親友と一緒にいる時間は、お互い子どものようにキャッキャと言っていますし、意外と短気な一面もある。銀行の上司である、益岡(徹)さんが演じるアランに対しては、思ったこともバシバシ言います。それはもちろん、アランが子どもの頃から面倒を見てくれる存在で深い関係性があるからこそではありますが。ケインは、自分の信念が強く頑固なので、その強さは最初に台本を読んだときよりも2割増しくらいになっていると思います。もちろん、それは(演出の)ダニエルがそうしてほしいと話していたからでもあります。確かに、それくらい強い人間でないと大銀行の頭取にはなれないだろうと思うので、誠実な部分はありつつも、頑固さや強さをもう少し足していけたらと思っています。
優也:アベルは、ポーランドからアメリカに移民としてやってきて、ここからのし上がっていくという強い野望と希望を持っているところからスタートします。実際にどんどん登り詰めていくわけですが、非常に喜怒哀楽が激しい人だなと思います。それはアベルの周りではいろいろな出来事が巻き起こるからということもありますが、アップダウンがめちゃくちゃ激しくて。今はそれを一つひとつ繋いで演じられるようになれればと思っています。誰かのセリフにリアクションする度に気持ちが変わるくらい激しい人間だなと感じています。
――先ほど、この作品はミュージカルとしてだけでなく、会話劇としても面白さもあるというお話がありましたが、ミュージカルとしての面白さについてどのように感じていますか?
洸平:とにかくワイルドホーンさんの音楽が素晴らしいです。メロディーラインも美しいですし、力強い音楽は本当にかっこいい。それを優也くんの声で聴けるというのは、最高の贅沢だなと思います。僕は、グランドミュージカルに出演させていただくのは本当に久しぶりなんです。以前に出演させていただいたときも、メインの役どころではなかったので、ここまでどっぷりと浸かったのは初めてです。改めて、アンサンブルの皆さんの歌声や振付、ステージングを稽古で見て、すごいと思いますし、かっこいい。それがここからまた稽古を重ねて作り上げ、しかもそれを東急シアターオーブという素晴らしい劇場で上演できるというのは、本当にすごいことだと思います。一観客としても見入ってしまう素晴らしさがあると感じています。ただ、もう一歩先にいくためにはどうしたらいいのだろうとも考えています。ミュージカルとしての素晴らしさの向こう側って何だろう、と。せっかくこれだけ才能豊かな方々がたくさんいらっしゃる現場なので、アンサンブルの皆さんも含めて、これまでに感じたことのない領域までいけたらいいなと思いますし、どうしたらそうした景色が見られるのか今、探っているところです。
優也:ワイルドホーンさんの楽曲は、もちろん、どの曲も本当に美しいですし、カッコいい曲も多い。なので、そこにたどり着くお芝居を僕たちは作っていかなくてはいけないと思っています。この作品がミュージカルである限り、芝居と音楽という振れ幅を丁寧に繋いでいかないと乖離したものになってしまう可能性もある。しっかり丁寧にお芝居で繋いで曲にしていくことが自分たちの課題だと思っています。今回のワイルドホーンさんの楽曲は、クラシックな要素もありながら、現代的なポップスの要素もあって。そういう意味では、自分も洸平くんもすごく相性が良いのではないかと思っていますし、歌の幅もお見せできるのではないかなと思います。ポップス的に歌えるところとしっかりお芝居的に見せるところ、思いっきり声をバーンと出して伝えるところと抑えて繊細に出すところと、全方位の音楽を僕らは表現できる幅があるのではないかと思っていますし、これからの稽古を通してもっと立体的な表現ができるような気がしています。
取材・文=嶋田真己 撮影=安西美樹
公演情報
【キャスト】
松下洸平 松下優也
上川一哉 植原卓也 竹内將人 今 拓哉 益岡 徹
飯塚萌木 榎本成志 加藤翔多郎 古賀雄大 咲良 佐渡海斗 島田彩
德岡明 富田亜希 中村ひかり 廣瀬喜一 堀部佑介 本田大河 町田睦季
萬谷法英 宮内裕衣 宮田佳奈 森下結音 森山大輔 米澤賢人 (五十音順)
スウィング磯部杏莉 後藤裕磨
原作:ジェフリー・アーチャー
音楽:フランク・ワイルドホーン
歌詞:ネイサン・タイセン
編曲:ジェイソン・ハウランド
振付:ジェニファー・ウェーバー
脚本・演出:ダニエル・ゴールドスタイン
東京 東急シアターオーブ 2025年1月22日(水)~2月16日(日)
大阪 新歌舞伎座 2025年2月23日(日)~3月2日(日)