清水和音×三浦文彰、ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ」を語る~全曲演奏会がついに完結
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ピアニストの清水和音とヴァイオリニストの三浦文彰とが進めているベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会の第3弾が2025年2月、3月に、サントリーホールとザ・シンフォニーホールでひらかれる。完結編というべき今回の演奏会では、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第8番、同第9番「クロイツェル」、同第10番が取り上げられる。二人は、昨年、一昨年に、既にベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集の録音をセッションで行っている。息の合ったアンサンブルを繰り広げる二人に話をきいた。
――まず、お二人の出会いから話していただけますか?
清水:初めて話をしたのは、何年か前の桐朋学園の機関誌での対談でした。
三浦:最初に一緒に弾いたのは、2021年の東芝グランドコンサートのガラコンサートで、クライスラーの小品、シューベルトのソナチネ第2番、ラヴェルの「ツィガーヌ」でしたね。
――お互い、会うまでのイメージはいかがでしたか?
清水:ドラマ「真田丸」の音楽を聴いて、そのヴァイオリンが上手くてびっくり仰天しました。それしか知らなかったのですが、一緒に弾いたら、やはりえらく上手い。
三浦:和音さんは音が素晴らしく、好きで、いつか一緒に演奏したいと思っていました。僕は話をして、どういう人と共演するかを決めるタイプなので、(桐朋学園の)対談のタイミングで改めて一緒に弾きたいと。
清水:そのとき、何となくベートーヴェンをやろうという話もしました。彼がベートーヴェンに相応しいと思ったので。
清水和音
――実際に一緒に弾いてみていかがでしたか。
清水:1回通しただけでこんなに簡単に合うのかと驚きました。僕たちには決め事がいらないのです。普通に弾いていると大丈夫。彼と弾いていていると快適なんですよ。良い指揮者で弾くときの快適さと同じです。
――ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタは、すでに全曲レコーディングをされていますね。それから全曲演奏会をスタートされました。
三浦:ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタはよく演奏してきましたが、一気に全曲演奏するのは初めてでした。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタは身近に感じていましたが、ピアニストが非常に大事な曲なので、今回、和音さんと一緒にできてとても良かったです。
清水:僕は子供の頃からベートーヴェンのシンフォニーを聴くのが好きでした。それでピアノ・ソナタも全集として録音しました。ベートーヴェンの場合は、32曲全部やるのに意味があります。僕は、もともとオーケストラが好きで、ヴァイオリン・ソナタもチェロ・ソナタ、ピアノ・トリオもほとんど弾いたことがありますが、これから、チェロ・ソナタもピアノ・トリオも含めて、ベートーヴェンだけはコンプリートしたいという気持ちはあります。だから、自分のベートーヴェンの体験のなかでも、文彰くんと一緒にできたのはたいへんハッピーでした。かなり良い出来で録音できたと思います。
三浦:ベートーヴェンは身近で、演奏する機会が多く、大好きな作曲家です。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は自分にとって間違いなく特別な曲です。僕は、モーツァルトとベートーヴェンが好きなのです。
清水:彼はソナタの方が好きで、ヴァイオリン小品を嫌がります。珍しいヴァイオリニストです。ハイフェッツの真逆(笑)。
三浦文彰
――レコーディングはいかがでしたか?
三浦:すごく簡単でした(笑)。
清水:遊んでいたら、出来上がっていた(笑)。
三浦:さんざんくだらない話をして、やっと僕が楽器ケースを開けたら、和音さんがピアノに行くという感じでした。すごく楽しい雰囲気でやっていましたよ。
清水:誰かとデュオを演奏するときは、最初から合う人としかやるべきではないと思っています。考えが違う人とは成立しない。
三浦:オフステージでも気の合う人が、結局、ステージ上でも合うと思います。
清水:みんな個性が違い、考え方も感じ方も違うんだけど、ただ一点、作曲家に対する敬意があるかどうか。これがあると一緒にできる。これがないと一緒にはできないですね。
三浦:作曲家に対する敬意を言う人は多いですが、それを実行していない人の方が多い。作曲家の書いた楽譜通りに演奏していない人の方が多いのです。
清水:ほとんどの人がやってないね。僕は演奏家だから、譜面の細かいところまで気にしています。その演奏家が全開になっていて、作品が聴こえてこないことが多いのです。
三浦:奏法や指遣いなどのアイデアの交換は良いと思うんです。でも、自分のアイデアで音や強弱を変えることは、僕らはやらない。
清水:特にベートーヴェンはやるべきじゃない。ベートーヴェンは(楽譜通り再現するという)任務を遂行するだけ。それが一番大切なこと。演奏家の個性は音に乗っかってしまうものだから、自分の音にしかならないから、そっちは気にする必要はないと思います。
――出来上がったCDはいかがでした?
三浦:レコーディングは満足のいく出来だったと思います。しっかり、方向性の合ったものが作れました。
清水:録音を聴いて、うれしくなりました。ちゃんとベートーヴェンが聞こえているなと思いました。
――今回は演奏会ですが、やはり違うものですか?
三浦:ライヴでは気持ちの持ちようが違いますね。
清水:お客さんがいると違います。
三浦:会場がサントリーホールとザ・シンフォニーホールというのも特別で、良いですね。
清水:音を出している方からすると、空間が広いのは快適です。ホールではゆったり感がでます。狭いところでは音楽が速くなるように思います。
三浦:響きが良いですから、本番が楽しいです。
清水:サントリーホールとザ・シンフォニーホールは舞台の上にいると幸せなんですよ。
――今回は、第8番、第9番「クロイツェル」、第10番と、ベートーヴェンの最後の3つのヴァイオリン・ソナタです。
三浦:3つとも良い曲ですよ。今回の3つは、対極的な3曲です。第8番は軽快、レッジェーロな感じ。明るいベートーヴェン。
清水:「クロイツェル」は完璧な作品です。
三浦:ヴィルトゥオーゾ的でもあります。第2楽章は、ピアノが素晴らしい。かったるくなりやすいのですが、それはピアニストがどう弾いてくれるかにかかっています。特に最初のバリエーションが素晴らしい。第2楽章に注目です。
清水:ピアノにヴァイオリンが乗っかっている感じ。ヴァイオリンが自由に遊べるように、ピアノが弾けるといいんですが。でも「クロイツェル」はピアノが難しいんですよ。
三浦:第1楽章の激しさがベートーヴェンらしい。第3楽章はお祭りっぽい曲ですよね。
清水:そうそう、阿波踊りみたいな(笑)。第10番は、迷っているベートーヴェン。
三浦:最初からよたよたしているようなベートーヴェン。でも、すごく美しい曲です。
清水:美しいよね。作曲がちょっとたどたどしい感じがあって、それが魅力になっています。天才ならではですね。
三浦:リズムがそういう風に聴こえるようにしています。カチカチしていない。
清水:あたりが柔らかい、不安定なおもしろさがあります。
三浦:第2楽章と第4楽章のコーダの前に精神的な部分がでてきて、良いですよ。
清水: 「クロイツェル」が絶品の出来ですが、第10番はベートーヴェンのあの時期だけにある、何かがはまっていない感じがある。移行期の作品なんでしょう。でも良い曲です。
――最後にメッセージをお願いいたします。
三浦:シリーズの最後なのでとても楽しみにしています。レコードも作ったので、それを聴いて、聴き比べてもらってもいい。ベートーヴェンの違った3曲で、ベートーヴェンの違った顔を楽しんでもらえればうれしいです。
清水:ベートーヴェンは人を楽しませるために曲を書いています。分かりづらいわけではありません、初めての方も十分に楽しめます。是非たくさんの方に来ていただきたいですね。
取材・文=山田治生 撮影=池上夢貢
公演情報
[ピアノ]清水和音
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第8番 ト長調 op.30-3
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第10番 ト長調 op.96
日時:2025年2月23日(日)14:00開演
会場:サントリーホール 大ホール
料金(全席指定)S席6,500円/A席5,500円/B席4,500円/P席3,000円
日時:2025年3月16日(日)14:00開演
会場:ザ・シンフォニーホール
料金(全席指定)5,000円