【コラム】『RADAR:Early Noise』『EIGHT-JAM』『バズリズム02』──2025年注目の新人は誰なのか?

12:00
コラム
音楽

AKASAKI

『バズリズム02』の「これがバズるぞ!BEST10!」、Spotifyによる『RADAR:Early Noise 2025』、『EIGHT-JAM』の「プロが選ぶ年間マイベスト10曲」が発表され、注目の新人が出揃った感のある2025年。本稿では昨年に続き、この3つのリストで紹介されたのべ50組から、個人的に注目しているアーティストを厳選しつつ、今年の音楽シーンの展望を書いてみたい。

昨年の離婚伝説に続き、3つのリストすべてにピックアップされ、2025年の最注目アーティストの一組と言えるのがAKASAKI。2024年4月に「弾きこもり」でデビューをした現在18歳の高校生シンガーソングライターであり、「高校卒業後も音楽の道に進むことを両親に認めてもらうために、オリジナル曲のストリーミングヒットを目指している」というプロフィールも注目を集めたが、同年10月にリリースした「Bunny Girl」が見事に大ヒットを記録した。2020年代前半はDTMベースの才能ある若きシンガーソングライターがTikTokから次々と発掘されたわけだが、AKASAKIはまさにその最新形であり、3月31日に開催される初ワンマン「REDONANCE -高校卒業式-」をもって、音楽の道に進むことを両親から正式に認めてもらえるだろう。

現在の若きシンガーソングライター隆盛の背景にはアレンジャーの存在が大きいことはもっとしっかりと語られるべきだと思う。10代のうちからDAWに触れ、ネットの膨大なアーカイブから知識を吸収し、センスを磨いているシンガーソングライターたちはソングライティング、歌唱、作詞において非常に高いレベルにあるが、アレンジやサウンドデザインの面においては経験値が十分ではない場合も少なくない。例えば、「Bunny Girl」はTikTokでのバズ、ダンス動画の広がり、リミックスの制作など、imaseの「NIGHT DANCER」のヒットを連想させる部分があったが、「NIGHT DANCER」にはESME MORIがアレンジで参加し、彼は「EIGHT-JAM」で川谷絵音が取り上げたがらりの楽曲にも関わる。imaseやWutSの楽曲を手掛け、2024年の大ヒット曲であるMrs. GREEN APPLEの「ライラック」にも関わる久保田真悟も、間違いなく現代の音楽シーンのキーパーソンだ。

そして、「Bunny Girl」をはじめとするAKASAKIの多くの楽曲を手掛けているのがDAIKII(AWSM.)。彼はビートメーカーとしての顔も持ち、kZm、PETZ、JUBEE、Watsonといったラッパーたちの楽曲も手掛けていることが特徴だ。ソングライティングの面においては「レトロ」や「ノスタルジー」なども形容詞に使われるAKASAKIの楽曲だが、ビートの強さが現代性を担保していて、これはジャージークラブを用いたビートが注目されたCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」との同時代性を見出すこともできなくはない。近年のラップシーンの盛り上がりに対し、今年のリストはラッパーの存在感がやや薄いように感じたが、DAIKIIのようなビートメーカーがポップスの領域に進出することで、また新たな潮流が生まれてくるかもしれない。

『RADAR:Early Noise 2025』にリストインし、「プロが選ぶ年間マイベスト10曲」で蔦谷好位置が7位に選んだブランデー戦記は2024年の『バズリズム02』でも2位に選ばれていた2022年結成の3ピース。90年代USインディ/オルタナな音楽性が特徴で、今年春発表予定のファーストアルバムでメジャーデビューが決定している。2010年代のシティポップブームがパンデミックを経て一段落した後、2020年代前半のライブハウスシーンではオルタナ系のバンドが溢れかえるようになり、その象徴的な存在になったのが羊文学。昨年には横浜アリーナでのワンマンを成功させ、新曲「声」は月9ドラマの主題歌と、J-POPを代表するバンドへと成長した。ブランデー戦記はそんな潮流の新たな主役候補であり、昨年リリースした「悪夢のような」のアレンジに近年ではNumber_iやBE:FIRSTの楽曲にも関わるMONJOEを起用したのは意外だったが、彼がもともとロックバンド・DATSのメンバーであることを思えば納得できるし、最新曲「27:00」ではパーカッションを用いたアレンジにトライしたりと、よりオリジナルな存在へと成長をしつつある。

ライブハウスシーンにもう一度目を向けると、一言で「オルタナ」と言ってもそのトレンドは90年代から、00年代的なエモ/ポストロックのリバイバルに移ってきた印象がある。そんな中で年明けのthe cabs再結成は象徴的な出来事となり、2013年に解散した彼らのライブをリアルタイムでは見ていない世代からもSNSを中心に大きな反響があったことは記憶に新しい。その意味で今回のリストに入ってはいないものの、個人的に注目しているのがkurayamisaka。彼らの楽曲はもちろん、特にライブから感じる「2010年前後の残響レコード感」は個人的にとても新鮮で、すでに昨年12月にthe cabsの高橋國光のソロプロジェクトで、サポートにcinema staffやハイスイノナサのメンバーも参加するösterreichと2マンをしていたりもする。ただ彼らはイラストを軸にしたアートワークに代表されるアニメや漫画、ネットカルチャーとの接点が現代的で、「『ぼっち・ざ・ろっく!』以降」のような感覚も持っているし、羊文学、ブランデー戦記、downtあたりも含めて、シーンの中軸にいるのが女性ボーカルのバンドであることは当時との大きな違いだ。

その意味では『バズリズム02』で2位、「プロが選ぶ年間マイベスト10曲」の蔦谷のランキングで3位のAoooにも触れておきたい。後期・赤い公園でボーカルを務めた石野理子が参加する新しいバンドであり、蔦谷も番組内で赤い公園とのリンクを指摘していたが、洗練された美メロと構築されたアレンジのポップソングでありながら、津野米咲が歪んだギターをかき鳴らす赤い公園のオルタナ・ポップスを思い出させる部分は確かにある。ボカロPとしての顔も持ち、このバンドではギタリストのすりぃは好きなアーティストとしてクリープハイプを挙げていたりと、やはり2010年前後に頭角を現したバンドが現在の若手の大きなルーツになっているように感じる。『EIGHT-JAM』に出演の川谷もthe cabsや赤い公園と同世代で、やはりオルタナティヴなロックバンドをルーツに持ちつつ、それを現代的なポップスとして鳴らしてきた音楽家であり、1月にこちらも『バズリズム02』と蔦谷のランキングに入っているChevonが礼賛と、3月にブランデー戦記がゲスの極み乙女と、4月にAoooがジェニーハイと2マンをすることは、偶然の一言で終わらせることはできないだろう。indigo la Endは今年結成15周年で、リリースされたばかりのアルバム『MOLTING AND DANCING』は、デビュー時の彼らを連想させるポストロック風のアルペジオを用いた「ナハト」で始まっている。

最後に、昨年10月に再始動を発表し、今年6月に横浜アリーナでライブを開催することが発表されているSuchmosとその周辺について触れておこう。昨年のこの記事では2023年がSuchmosの結成10周年イヤーだったことを踏まえ、「すでにSuchmosがスタンダードになって以降の世代が頭角を現しつつある現在のシーン」を体現する存在としてFirst Love is Never Returnedを挙げたが、昨年発表のファーストアルバム『WiND』でアシッドジャズ由来のダンサブルな楽曲から、スケール感のあるプログレまでを提示し、『RADAR:Early Noise 2025』に選ばれたメンバー全員2000年生まれの6人組・Billyrromはまさにその筆頭。昨年メジャーデビューをして、アシッドジャズやネオソウルを基調とした楽曲を得意とし、2月に初のミニアルバム『Already』のリリースを控える現役大学生バンド・luvも今年のさらなる飛躍が期待される。彼らのような若手と、再始動をしたSuchmosが邂逅を果たしていくことも、2025年のシーンの大きな楽しみだ。

文=金子厚武

※昨年の記事はこちら

ライブ情報

『Spotify Early Noise Night #17』
日時: 3月19日(水)    開場17:30 / 開演 18:30
会場: Spotify O-EAST(東京都渋谷区道玄坂2丁目14-8)
出演:(50音順)AKASAKI / Billyrrom / ブランデー戦記 / レトロリロン  / and more! 
料金: 前売券     ¥3,000-(税込 / スタンディング / 整理番号付)
※入場料の他に別途1ドリンク代が必要
 

ツアー情報

BRANDY SENKI 1ST ALBUM RELEASE TOUR
2025.06.07(SAT) 札幌cube garden
2025.06.22(SUN) 仙台MACANA
2025.06.29(SUN) 福岡BEAT STATION
2025.07.12(SAT) 大阪ゴリラホール
2025.07.13(SUN) 名古屋ELL
2025.07.20(SUN) 東京Zepp Shinjuku(TOKYO)

ツアー情報

kurayamisaka tte, doko? #5 「つま先から頭の隅に流れるツアー」
2025年5月24日(土) 梅田Shangri-La
OPEN / 17:15 START / 18:00
2025年5月25日(日) 名古屋CLUB UPSET
OPEN / 17:30 START / 18:00
2025年6月4日(水)恵比寿LIQUIDROOM
OPEN / 18:00 START / 19:00
※各所ゲスト後日解禁

イベント情報

OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL 2025 SPIN-OFF
「THE BONDS 2025」 GIGANTIC TOWN MEETING
日程:2025年4月13日(日)
時間:10:30 リストバンド交換開始、11:00 開場/11:30 開演
会場:大阪・ 梅田BANGBOO、Banana Hall、梅田Zeela
出演:Aooo/AKASAKI/インナージャーニー/Ochunism/ガラクタ/Kanna/声にならないよ/Conton Candy/sanetii/chef's/SHO-SENSEI!!/Chim Chap/TOOBOE/TRACK15/トンボコープ/猫背のネイビーセゾン/NELKE/FIVE NEW OLD/ミーマイナー/Mega Shinnosuke/らそんぶる/Laughing Hick
and more…!
主催:OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL
後援:FM802
企画/制作:KYODO KANSAI

ツアー情報

Billyrrom Oneman Tour 2025 WiND
2025年2月09日(日)愛知県 新栄シャングリラ
2025年2月15日(土)宮城県 MACANA
2025年2月22日(土)福岡県 BEAT STATION
2025年2月24日(月祝)大阪府 Music Club JANUS
2025年3月01日(土)北海道 SPiCE
2025年3月09日(日)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)
  • イープラス
  • Suchmos
  • 【コラム】『RADAR:Early Noise』『EIGHT-JAM』『バズリズム02』──2025年注目の新人は誰なのか?