【インタビュー】ヴィットリオ・グリゴーロ~オペラ界トップのテノール歌手が語る、新境地への挑戦!

2025.3.11
動画
インタビュー
クラシック

ヴィットリオ・グリゴーロ

画像を全て表示(7件)
 
「旬の名歌手シリーズ─ XII ヴィットリオ・グリゴーロ テノール・コンサート」が、いよいよ2025年3月15日(土)に東京・上野の東京文化会館で開催される。この公演を目前に控えて、貴重なインタビューの記録が編集部に寄せられたので、皆さまにお届けする。


■オペラ界の頂点で輝くヴィットリオ・グリゴーロが語る
「オペラ歌手にとって決して欠かせない“生命力の光”」とは!?

ヴィットリオ・グリゴーロは現在のオペラ界をリードする歌手の一人といって間違いないだろう。ついさきごろ、来日中のイタリア共和国マッタレッラ大統領と秋篠宮皇嗣同妃両殿下がご臨席される特別なコンサート[駐日イタリア大使館主催]で歌声を披露している。この特別な場にただ一人の出演歌手として選ばれたのだから、オペラの国イタリアにおける彼の存在感がいかほどが、窺い知ることができる。

この2月にもウィーン国立歌劇場『イル・トロヴァトーレ』で至難なマンリーコ役を歌い、耳の肥えたウィーンの聴衆からも高評価を得ている。<マンリーコ役のヴィットリオ・グリゴーロは、例えばレオノーラの死の場面などでは非常に劇的に、熱情的に、時には苦しみながら、この夜を生き抜いた。嘆きのひとつひとつが的確で、高音は力強く輝き、声楽の解釈の色彩は情緒的な吟遊詩人と闘争的な兵士の間をエレガントに移り変わった。>(bachtraclの公演評より抜粋)

ウィーン国立歌劇場『イル・トロヴァトーレ』より

グリゴーロはオペラ歌手として約30年におよぶキャリアを重ねているが、舞台に取り組む姿勢は非常に慎重だ。長く師事している教師のもと、自らのレパートリーを厳選しているのだという。同じ役を歌い続ける心境を聞いてみた。

「劇場の魔法こそ、すべての秘密だと思います。ルーティーンというものはありません。延々と同じことを繰り返したら非難されるでしょう。時が私たちの身体を変えるように、たとえ短い時間の後に同じ曲を歌っても、声は変わります。すべての音符は唯一無二で、同じことを再現することはできないのです。役柄も時間とともに成熟します。それは演者一人ひとりがその役柄に自分の人生を投影することができるから。それはとても幸せなことです。自分だけの芸術を表現することができるのです!」

1回1回の舞台にいかに真摯に向き合っているかが伝わってくる力強い言葉がかえってきた。その言葉で思い出されるのは、出演する舞台数にたいして圧倒的なキャンセルの少なさ。彼の舞台にかける想いはとまらない。

「私たちアーティストはみな個性が異なりますが、共通しているものもあります。オペラ歌手にとって決して欠いてはいけない“生命力の光”です。歌手が人生のさまざまな時期に役を演じることは、常にお金に換えられない挑戦であり、感情を伝え、観客の心を揺さぶり、もう一人の「私たち」を知ることに繋がっているのです」

(Photo:Marty Sohl)


 

■新境地への挑戦

そんなグリゴーロは2023年のローマ歌劇場『トスカ』、そして同年のリサイタルと続けざまに来日をはたしているが、長年彼の歌唱に触れてきた者であれば、中音域の厚みがこれまで以上に増したことに気が付いたのではないだろうか。その翌年(2024年)、グリゴーロは大きな挑戦にふみきる。それはヴェリズモ・オペラ(真実主義)への挑戦である。

「数年前は歌うことをためらっていましたが、今は徐々にヴェリズモのレパートリーを取り入れています」というグリゴーロ。「私にはロマンティックなレパートリーと、ヴェリズモの2つの側面があります。それらは私の音楽的な魂の2つの側面です。この2つは決して分かれることなく、常に私の声の色、や色彩、情熱を特徴づけるものだと思っています」

(photo:Kiyonori Hasegawa)

 

これまでのレパートリーを維持しつつ、新たな境地へ挑むための手ごたえを感じているようだ。そんなグリゴーロにとって、コンサートでアリアを歌うことは「唯一無二の瞬間」だという。

「コンサートでアリアを歌うのは唯一無二の瞬間、“私”と“聴衆”の間の親密な瞬間をつくる、特別で深遠なものです。自分の全存在を通して登場人物の性格だけでなく、私自身の役柄の解釈や、私の見解を聴衆に伝えようとしています。コンサートでは自分のすべてを聴衆と共有できるのです。コンサートにいらしたお客さまはその瞬間を、舞台で生きている歌手の記憶として残すことになると思っています」

(c) Ieva Ukanytė

聴衆の記憶に残る舞台……まさに観客がライブパフォーマンスに求めるものではないだろうか。これだけ多くの国で公演を成功させてきたのは本人の強い矜持と飽くなき探求心によるものだと改めて納得させられた。

「キャリアには頂点や到達点というものはなく、常に新しいステップへと導いてくれる進化があると信じています。その道筋は未知かもしれませんが、目標の達成はもっと知りたい、さらに前進したいと促されることなのです。私は好奇心のかたまりで、あらゆることに興味を持ち、一つのことに完全に固執することはありません。常に自分を取り巻く全てのものから刺激を受けてきました。さまざまな芸術や活動に対する興味がもたらした経験は、歌声、情熱、愛、忍耐など、努力と献身の産物である人生を生きるように導いてくれたものばかりなのです」

狭い世界に閉じこもらず常に外へと目を向けているグリゴーロの姿からは、大劇場を満たすオーラはかくして生まれるものかと感じさせられるものがあった。彼にとってはせまるコンサートも次の段階への第一歩となるのだろう。次の舞台ではどうやって我々観客を魅了してくれるのか、期待は高まるばかりだ。

【動画】ヴィットリオ・グリゴーロ 特別コンサートハイライト&ビデオメッセージ

公演情報

旬の名歌手シリーズ─ XII
ヴィットリオ・グリゴーロ テノール・コンサート

■日時:2025年3月15日(土)15:00
■会場:東京文化会館(上野)

 
■指揮:レオナルド・シーニ
■演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

 
■プログラム:
 
【第一部】 <プッチーニに捧ぐ>
 
ジャコモ・プッチーニ作曲
―歌劇「マノン・レスコー」
 “なんと素晴らしい美人!”
 間奏曲*
―歌劇「外套」
 “お前の言うとおりだ”
―歌劇「修道女アンジェリカ」
 間奏曲*
―歌劇「西部の娘」
 “やがて来る自由の日”
―歌劇「トゥーランドット」
 “泣くな、リュー”
 “誰も寝てはならぬ”

 
アミリカーレ・ポンキエッリ作曲
―歌劇「ラ・ジョコンダ」
 時の踊り*

 
【第二部】 <ヴェリズモ(真実主義)>

フランチェスコ・チレア作曲
―歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」
 “私の心は疲れ”

 
ウンベルト・ジョルダーノ作曲
―歌劇「アンドレア・シェニエ」
 “ある日、青空を眺めて”
 “五月の晴れた日のように”
―歌劇「フェドーラ」
 間奏曲*

 
ピエトロ・マスカーニ作曲
―歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」
 間奏曲*
 “母さん、あの酒は強いね”
―歌劇「友人フリッツ」
 間奏曲*

 
ジャコモ・プッチーニ作曲
―歌劇「妖精ヴィッリ」
 第2の間奏曲「夜の宴 (妖精たちの踊り)」*

 
ルッジェーロ・レオンカヴァッロ作曲
―歌劇「道化師」
 “衣装をつけろ”

 
※演奏順不同  *はオーケストラ演奏
※表記のプログラム、出演者はやむを得ない事情により変更になる場合がありますので、あらかじめご了承ください。曲目・指揮者変更によるの払い戻し、日にち変更はお受けできません。

 
■主催: 公益財団法人日本舞台芸術振興会 / 日本経済新聞社
■後援:TOKYO FM
■公式サイト:https://www.nbs.or.jp/stages/2025/singer-02/