NEWFOLK主催・味園ユニバース『utanoyukue』に台風クラブ、家主、本日休演、天国旅行、前野健太、and Young…、入岡佑樹(Super VHS)が集結

2025.4.28
レポート
音楽

『NEWFOLK presents “utanoyukue vol.3” -特別編-』 撮影=今井駿介

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『NEWFOLK presents “utanoyukue vol.3” -特別編-』2025.3.22(SAT)大阪・味園ユニバース

『NEWFOLK presents “utanoyukue vol.3” -特別編-』が大阪の千日前にある味園ユニバースで3月22日(土)に開催された。主宰の須藤朋寿は、タワーレコードのバイヤーなどを経て、自分自身が惚れこんだ感動できる作品を良い形でリリースして世に残すため、NEWFOLKの屋号を掲げて、2019年より活動を開始している。本人いわく、厳密に言えばレーベルではないとのことだが、明らかにレーベル買いというか、いや屋号買いというのか、NEWFOLKからリリースしているバンドならば間違いはないという共通認識が音楽好きの間には絶対的にある。

年内には老朽化による閉店及び取り壊しが決まっている味園ユニバースに2ステージを用意して、台風クラブ、家主、本日休演、天国旅行ら所属のバンドに加えて、前野健太、and Young…の計6組が出演。出演前と出演後には、同じく所属バンドであるSuper VHSの入岡佑樹がDJを務め、Kool Bluesの70年代ソウルな「Can We Try Love Again」から「ディスコお富さん」「ディスコ芸者」など和洋折衷ながらも、約70年の歴史を持つキャバレーである味園ユニバースにふさわしいグッドミュージックが1時間弱ほど流れ続けた。ライブ前には、須藤から女性優先エリアや優先観覧エリアなど丁寧な前説も行なわれる。手作り感溢れる温もりを感じる。

天国旅行

1番手はOPENING ACTとしてサブステージで天国旅行。北海道は札幌拠点の4人組だが、1曲目「エリーの嵐」のドラム一発目の入りから只者じゃない感がしっかりと伝わってくる。荒々しいドカドカ感、そして、ボーカル・田澤寿詩のサングラスをかけた佇まいも良い。曲を追うごとに、より歌が耳に飛び込んでくるも、叫びながらの歌は型にとらわれないという意味合いでのオルタナティブを感じた。

5曲ほど終わり、ようやく田澤が「ありがとう」とひとこと喋り、札幌からきた天国旅行ともひとこと。全く無駄のない、余計なことを一切喋らないのが堪らなくクールだ。ラストナンバー「デストロイヤー」は、ゆったりとしたリズムで始まりながら、途中からガっと加速していくのに痺れる。ひとバンド聴いただけで、このイベントがどんなイベントかがわかる素晴らしい幕開け。

本日休演

続いて、京都の本日休演。1曲目「サニーガール」から深い深いダブサウンドを聴かせてくれたと思いきや、一転して速いビートで駆け抜けて終わる曲、摩訶不思議なギターの音からインプロビゼーション的なセッションなど、ありとあらゆる音世界へ連れて行かれる感じがとてつもなく気持ち良い。で、いざ喋り出すかと思いきや、ベースの有泉 慧が突然何度も何度も叫び出して、観客にも促す。観客の野太い声も聴こえてきたところで、ギターボーカルの岩出拓十郎もドラムの樋口拓美も叫び出す。何をやってんのとは想いつつも、そんな突拍子の無さセオリーのなさに、勝手にロックな魂を感じてニヤっとしてしまう。

で、そんな流れなのに次がバラードという良い意味での裏切りも最狂。サイケデリックなサウンド、爆裂セッションをしたかと思いきや何事もなかったかのように演奏したりと、相も変わらず、ありとあらゆる音世界へ。ラストナンバー「秘密の扉」はリズミカルに鳴り出したが、今更かも知れないが、スリーピースな風柄が何とも言えず絵になる。最後の最後まで不思議な衝動を浴びせてくれた。

and Young…

サブステージでは、and Young…。本来は三輪二郎バンドが演奏するはずが、出演キャンセルとなったため急遽自分たちが演奏することになったと、ボーカルの加納良英が説明する。キャリア25年以上あり、加納自身が梅田のライブハウス・HARDRAIN店長を務めることからも、関西ライブハウス界の主な感じがあるにも関わらず、当の本人は飄々と微笑んでいるのが得も言われぬ存在感を感じさせる。1曲目から気怠く歌い出し、それが心地好くもあり、深みがあって、そしてイケている。イケているなどと言葉にすると陳腐だが、キャリアがある大人のバンドだからこそ出せる雰囲気というか。

「じゃあ一番格好悪いギターソロをよろしく」などと加納はギターの村上順也に振るが、当たり前の如く一番格好悪いなんてわけはなくて、むちゃくちゃに格好良い。いぶし銀というか、立ち振る舞い全てが良い。ライブハウスの痴漢問題といった嫌な話題すら、加納が口にすると粋で野暮に聞こえない。「(時間的に)アカンかったら途中で止めて下さい」なんて言いつつ、2011年3月11日の東日本大震災の直後に作ったという「スポットライト」へ。多くは語らず、全ては歌に込める……、これぞバンドのあるべき姿。ちなみに事前に配られるセットリストがなく、ライブ後、本人に尋ねるも「ないねん」とのこと。尋ねたこちらが無粋でした。その後に、こんな書き方はそれこそ無粋かも知れないが、関西バンドここにありと感動させてくれたライブ。余談ですが、最後の曲、加納が足でアンプをイジって演奏するのは小粋過ぎたし、魅力的過ぎた…。

家主

今度はメインステージで家主。リハーサルから観客エリアが人で溢れ返っている。期待の表れが伝わってくる。よくよく考えたら、そりゃそうだ、NEWFOLKオールスターズを関西の地で観れるわけだから期待しかない。

「一生懸命、難波千日前の地下で演奏します」

そうボーカルギターの田中ヤコブが言って演奏を始めるのも好きだった。観客前で一生懸命は普通っちゃ普通だが、その普通を一生懸命する姿勢が好きだ。「お湯の中にナイフ」から爽快に始まり、「陽気者」でのヤコブが弾くギターがどんどんヘビーにハードになっていくのに、楽曲はポップでキャッチ―なままというのに大興奮してしまう。

「茗荷谷」でも改めて感じたが、家主は本当にグッドメロディーなのだ。ベースの田中悠平が作詞作曲して歌う「カメラ」、ギターの谷江俊岳が作詞作曲して歌う「Dreamy」など、3人のメロディーメイカーを擁した上に、3人が歌えるのは兎にも角にも強すぎる。個人的には岡本成央のドラムが大好きなのもあるが、ライブで聴くと尚一層どの曲も衝動的で力強く勢いがあるのも感情が昂る理由のひとつだ。

「それだけ」で特に感じたが、ヤコブの声が凄みを増しており、照明も相まって聴き入って魅入ってしまった。「p.u.n.k」での盛り上がりは舞台上も舞台下の我々も凄いのひとことで、気が付くとヤコブは新しく買ったばかりの眼鏡が縦横無尽に舞台に飛び転げまくっている。曲終わり、この後に出番を控えた前野健太を、「むちゃくちゃ好きで……」と語り、大好きだという「人生って」を一節歌う。新宿のジャズ喫茶のママに「人生って何だと思う」と聞かれ、「遊びですか」と答えたら、「あがき」と答えられたという歌詞だが、「我々も後3曲あがきます」と言い、「あがく~!」と言い放ち「NFP」へ。この瞬間は、とんでもなくエモーショナルで、前述の一生懸命ではないか、家主はあがいているから好きなんだと再確認再認識ができた。全15曲エネルギッシュでパンキッシュで、目を見張るくらいにあがきまくってくれた抜群の時間だった。

前野健太

そして、サブステージで前野健太。リハーサルを途中で切り上げ、「息抜きで休憩でゆっくり聴いて下さい」なんて言いつつ、「寝ながらメガネ」から弾き語っていく。「バンドの中にぽつんとアコースティックギター」なんて本人は言うが、1曲目から観客が惹き込まれているのが手に取る様にわかる。イベントタイトル「utanoyukue」を凄く良いと褒めながら、歌とはどこから来て、どこへ行くんだろうという歌を次のナンバーを説明して、「夏が洗い流したらまた」へ。そして、味園ユニバースが昔キャバレーだった事からストリップ劇場の歌も歌っていく。今日BPMが一番遅い曲であり、ラブソングでもある「興味があるの」も歌う。1曲ずつ曲の背景を語ってくれるので、より曲へと惹き込まれていってしまう。

みうらじゅん原作で安齋肇初監督のポルノ映画『変態だ』で主演を飾り、韓国の映画祭に招待されたエピソードから「マッシソヨ・サムゲタン」へ。2000人の観客の前で「参鶏湯が好きです!」と伝えたら大盛り上がりしたことから作られた曲。みんなで歌いましょうというのが前野は苦手だと言いつつも、実際に苦手な私ですら自然に歌ってしまうという内側から湧き上がる得体が知れないパワーがある曲。床を踏み鳴らして歌う前野は、まさしくブルースだった。一番セクシーな照明と一番セクシーなリバーブを求めてからの「ファックミー」は、我々に訴えかけるかのように歌われる。

ヤコブが先程「人生って」を歌ったことに触れつつ、ヤコブが自分を新宿のスタジオで見かけたことがあるという話も交えて、予定にはなかった新宿のジャズ喫茶での出来事を歌った「人生って」を急遽歌う。さらに「SHINJUKU AVENUE」も歌い新宿が続き、ラストナンバーは「18の夏」。ギターからコードを抜いて、マイクからも離れて、完全なる生音生声。「最後は70年分の照明を!」と味園ユニバースの床をやはり踏み鳴らして歌い上げる。NEWFOLK所属では無いが、しっかりと大トリのNEWFOLK所属の台風クラブへと繋げた。

台風クラブ

いよいよ最後の最後はメインステージで京都の台風クラブ。台風クラブと大きくデザインされたバックドロップが舞台後方に吊るされて大きく際立つ。1曲目「ずる休み」。ライブならではの迫力の荒さがあり、ガレージロックだとひとり感心していたら、若い女子たちが観客フロアで跳ねて喜んで踊っている。絶対的に男子が好きなロックだが、女子たちも跳ねて喜んで踊っている光景には何だか勝手にロックドリームを感じて嬉しかった。シンプルに削ぎ落したサウンドで、伊奈昌宏の華麗なドラミングが冴える「春は昔」。

去年の春はトラックで走り回っていたという話や都タクシーや26号線というフレーズなどを散りばめながら、曲は「京都市南区」「とんがりブーツ」「42号線」と進んでいく。ギターボーカルの石塚淳が曲と曲の間に喋る話は短いのに風景が見事に浮かぶ。ドライブ感やざらついている感じやブルージーな感じなど色んな音像を感じながら、ドラマ『傷だらけの天使』的な昭和フレーバーが匂いまくる。なのに、先述した通り令和の若者たちが男女関係なく心から楽しんでいるのは痛快すぎる。

「処暑」の良き緩さのテンポにノリながら、ドラムが厳かに鳴って始まり、ギターのザクザク感もグッとくる「なななのか」を聴いていると、若者たちが手を上げて歌っている。何て良い光景であり風景なんだろうか。石塚はTHE BLUE HEARTSや↑THE HIGH-LOWS↓、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、OASISやガレージパンクといった自分たちのルーツを何気に話していたが、そのルーツを持った台風クラブが令和の若者たちを熱狂させているのは、やはり夢がありすぎる。90年代に青春時代を過ごした私のような世代からするとニヤニヤしてしまうタイトル「下宿屋ゆうれい」も歌われたが、台風クラブの凄みは世代関係なく巻き込んでしまう事であろう。

元々は映画監督志望だったベースの山本啓太が撮り続けている映像をいつか作品として出したいという話から、何故か今日で解散などという訳わからぬ冗談から新曲「抱きしめたい」へ。せっかくの新曲を投げやりな話題から鳴らすなんて勿体ないと思わず老婆心ながら想っちゃうが、そんな投げやりで自然体だから台風クラブは好かれるのだろう。ずっと石塚がデッカい紙パックにストローさして何かを飲んでいるのも、何も飾ってなくって、ありのままの自然な姿だった。

アンコールでも紙パックを持って登場して、石塚いわくベラベラな照明という舞台後方のカラフルライトをつけてもらって歌う。今日の帰り道に、南海高野線に捧げるという夜道の歌「まつりのあと」で最後は〆られる。客電も付いて入岡のDJも流れ出して、観客もフロアから少し離れ始めたあたりで、再び現れる3人。「今夜全ての夜に乾杯!」なんてロマンチックな言葉と共に、余興でチークタイムなんて言われて、これまた新曲「不明の不演不唱」へ。セットリストにはこう記されているが、石塚は「明けずのブルース」と紹介していた。ロマンチックな当て字だなと思いつつ、耳を傾ける。

ラストも入岡のDJはツボを突きまくっていて、野口五郎「グッド・ラック」や「宗右衛門町ブルース」などが流れている。味園ユニバースで昭和歌謡やムード歌謡を聴けるのは通な気分になってしまう。レコードが哀愁漂う祭の後な味園ユニバースで静かに響きわたる。気が付くと時刻は早くも7時間を過ぎようとしていたが、全く時間の長さを感じない幸せな宴であった。

取材・文=鈴木淳史 写真=NEWFOLK 提供(撮影:今井駿介)

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