注目の新鋭バンド8組が大阪・味園ユニバースでしのぎを削った『ヤングタイガー 2025』レポート

18:00
レポート
音楽

『ヤングタイガー2025』 撮影=桃子

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関西の名物コンサートプロモーターである清水音泉が、新鋭のバンド8組が出演する若手登竜門的イベント『ヤングタイガー2025』を3月20日(木祝)に大阪・味園ユニバースで開催した。1stリングと名付けられたステージに、会場の下手側後方奥には横付で2ndリングと名付けられた特設ステージがあり、交互にライブがぶちかまされる。

撮影=桃子

過去には大阪城音楽堂や服部緑地野外音楽堂など野外でも開催されてて、『ヤングライオン』名義での開催から数えると約15年の歴史がある。地下のホールである味園はアニメ『タイガーマスク』に登場するレスラー養成機関名称「虎の穴」を彷彿とさせる独特の雰囲気があり味わい深い。

撮影=桃子

撮影=桃子

2ndリング後方には“YounG TiGER”とデザインされた大きなバッグドロップが掲げられ、観客たちは開場中や転換中に出演バンドの物販エリアを物色したり、出店された「Cafe&Curry Buttah」と「ニタカリバンチャ」のコラボ店「ニタカリバンチャ」のカレーを食べたりと自由に満喫する。昼12:30、MCのFM802 DJ 樋口大喜の挨拶により開幕。戦いの火ぶたは切って落とされた。

撮影=松本いづみ

らそんぶる

撮影=松本いづみ

壱番風呂として2ndリングに登場は、らそんぶる。カラフルライトに照らされて、20代になったばかりのヤングガール4人が元気にステージに現れる。そら(Gt.Vo)、ゆー(Gt)なんちー(Ba)の前方3人がお揃いの白いTシャツも初々しさを感じるが、いざ始まるとロックンロールの初期衝動感が清々しすぎる。

撮影=松本いづみ

1曲目「オーライ」の曲中でリズムとテンポが変わる感じもフックになり、より聴き入ってしまう。続けざま「風船」、「恋する少女はヒーローだった」が鳴らされていく。前方3人がみやび(Dr)のいる後方を向きながら、音を全力で楽しそうに鳴らす姿もロックンロールバンドの正しき姿を観ているようで微笑ましかった。

撮影=松本いづみ


撮影=松本いづみ

4曲目「ペアリング」は冒頭、そらが丁寧に観客へ歌いかけていく。ピュアに駆け抜けていく感覚は変わらずだが、前半3曲の雰囲気とは違う事にメリハリを感じる。MCで、そらは若虎が集まって戦うという趣旨を理解しながら、年齢を経ても若虎の心を忘れずに楽しみながらも時には戦いたいという志は誠に素敵であった。そこからの「ロックンロールに恋をしたんだ!」は説得力がある。終盤も風呂ならば追い炊きの勢いで駆け抜け、壱番風呂を立派に果たした。

撮影=松本いづみ

撮影=松本いづみ

クジラ夜の街

撮影=桃子

弐番風呂は1stリングでクジラ夜の街。自身の楽曲「きみは電影」を登場SEで流すことによって、ライブが始まる前からクジラ夜の街の世界が観客フロアにも伝わりまくる。「銀河のはずれの話を」とボーカルの宮崎一晴が語り、1曲目「ホットドッグ・プラネッタ」が歌われる。

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キャッチ―なメロディーだが、ポップとロックの境界線やバンドについてなど、歌詞の鋭さには驚かされる。軽やかなのに重厚なことを表現しているなどと、書き手の陳腐な言葉でまとめたくないが、3年前の『ヤングタイガー』初出演時からの尋常じゃない成長を感じざるおえなかった。

撮影=桃子

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共依存の魔法使いふたりを歌う「ラフマジック」の深み濃さの余韻に浸るというか、もっと理解しようと頭と心をフル回転していると、一晴が語り出す。そして、ファンタジーを創るバンドというモットーについて、キラキラした妄想だけのファンタジーでも現実逃避でも無いと言い切り、新曲「夕霊」を大阪で初披露。辛い現実に立ち向かい歌うからこそ、我々にもファンタジーだけではないリアリティーが届くのだと大いに納得する。ラストにおける「祝祭は遠く」から「Saisei」の流れは、ファンタジーとリアリティー全てが詰まっていた。もはや貫禄すら感じたライブ。

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ポンツクピーヤ

撮影=桃子

参番風呂は2ndリングで京都のポンツクピーヤ。登場SEでTHE BLUE HEARTS「ラインを越えて」が流れる。この歌が聴こえてきただけで、ポンツクピーヤというバンドが何を伝えたいかが伝わってくる。夕刊ゴシップ紙を読みながら老いぼれる人生なんて過ごしたくないんだろうなどと思っていたら、性急さが伝わりまくる1曲目「喫茶店に蔓延る」が既に鳴らされまくっていた。とにかく大石(Vo.Gt)の気合いが凄まじい。魂の咆哮なんてものが存在するならば、この景色を云うんだろう。

撮影=桃子

撮影=桃子

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続く「こんばんは暗闇」も大石は目が飛んでいて髪の毛をふり乱してジャンプしながら歌う。共に2分くらいのナンバーだが、とんでもなくロックンロールが飛び込んで突き刺さってくる、僕らの胸に……。大石は去年から『ヤングタイガー』に出たかったこと、味園ユニバースに出たかったことを話す。自分は「踊ってみませんか?」と言われても恥ずかしいから、「みなさんは心の中で踊ってもらえたらと」と粋な言葉を投げかけて、新曲「エモーショナル・ララバイ」へ。新曲を感じさせないライブ表現、そして大石・吉元(Ba)・中江(Dr)という紛れもないスリーピースバンド感に惚れ惚れしてしまう。こんなに疾走感を感じさせながら、ラストをスローなラブソング「愛してるって言って」で〆るのもニクくて素晴らしかった。

撮影=桃子

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ネクライトーキー

撮影=松本いづみ

四番風呂は1stリングでネクライトーキー。考えてみれば6年前にも出場しているわけで、ヤングタイガーの中でもキャリアは積んでいる。だからこそ歓声もひときわ大きい。登場SEからして軽快さは感じていたが、1曲目「ゆるふわ樹海ガール」で、タケイ(Dr)がドラムを叩き込んだ瞬間の爆発力は凄みしか無かった。この凄い速さでぶっ刺さる感じは、明らかにパワーポップだと始まったばかりなのに嬉しくて顔がにやけてしまう。

撮影=松本いづみ

撮影=松本いづみ

続く「めっちゃかわいいうた」でも弾けっぷりは変わらず、もっさ(Vo.Gt)の「かわいいうた~!」という絶叫も堪らない。このバンドの凄みを尚更に感じたのは「北上のススメ」。もっさ・カズマ・中村郁香(Key)・朝日(Gt)・藤田(Ba)の5人が鳴らす音が一寸の狂いも無くグルーヴを生み出し、極めつけは演奏しながら音に合わせて、5人が首の動きを合わせていく場面。凄みあるパワーポップだけでなく、そんな様式美すら魅せられると、こちらはぐうの音も出ない。

撮影=松本いづみ

撮影=松本いづみ

撮影=松本いづみ

そして、「bloom」からの終盤追い込みだが、もっさは「匂いを染みつけて帰りたい」と話していた。それは……一生染みついたままかとも思うほど物凄い匂いだった。観客フロアの関係者エリアに若手出演者たちが一斉に集まる理由がよくわかる。ちなみにあまり知られてないが、ネクライトーキーは関西出身バンドであることを最後に記しておきたい。

撮影=松本いづみ

ここまで取材・文=鈴木淳史

クボタカイ

撮影=桃子

宴が折り返し地点を迎えた中、2ndリングへ現れたのはこの日唯一の弾き語りソロアクト、クボタカイだ。「初めての人がほとんどなんじゃないかな? ゆっくりしていってくださいね」と、「せいかつ」から飾らない歌声を響かせるクボタを前に、まるで彼の部屋へ招かれたような温かく親密なムードに包まれる会場。アコギの優しい音色が降り注ぎ、ハートウォームな空気がじわじわ広がっていくのが見て取れる。いじらしいリリックの「ピアス」では、ポップなメロディにクラップが生まれ、すっかりこの場は彼のホームと化す。

撮影=桃子

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実は直前まで体調を崩していたと語り、この舞台へ立てた喜びを込めてしっとりした「春に微熱」を披露。90年代ギターポップの手触りを醸し出す「あくび」を奏でたかと思えば、「僕は普段ラップもやるんですが、弾き語りでラップすることはなかなかなくて。今日は挑戦してみます」と、メロウな「ベッドタイムキャンディー2号」に始まり、ひときわ文学的な「Wakakusa night.」や軽快な「MIDNIGHT DANCING」と、ラップメドレーを織り交ぜていく。

撮影=桃子

「踊りたい方は踊って、揺れたい方は揺れて、ぼーっとしたい方はぼーっとして」と促した通り、思い思いに音へサーフする客席の姿が何とも印象的だ。最後は「蝶つがい」を哀愁たっぷりにプレイ。「皆さんの顔を見られて、すごくパワーをもらいました。今度は次のバンドに向けて、そのパワーをフルにぶつけてくださいね」と、限られた時間にも関わらず幾通りもの表情を見せつけたクボタカイだった。

撮影=桃子

SAKANAMON

撮影=松本いづみ

1曲目「クダラナインサイド」の明朗なビートに、初っぱなからたくさんの拳が上がる! お次は観客からの熱気を一身に浴びるSAKANAMONのお出ましだ。「どうもいらっしゃいませ、こんにちは!」と呼びかけ、今宵も冴えわたる藤森元生(Vo.Gt)の節回しに場の熱気が一気に上がるのを感じつつ、続いて「ぱらぱらり」を披露。すぐそこにある春の気配を、どこか雅びやかなメロディで描写。木村浩大(Dr)の緩急自在なドラミングを軸にバンドとしての地力を感じさせる「OTOTOTOTONOO」と、3ピースとは思えない音圧を放つ3人。そのシルエットの何と頼もしいことか。MCでは、「ヤングタイガー」の前身イベント『ヤングライオン』(2013年)へも出演経験があることについて話が及ぶ。

撮影=松本いづみ

「もしかして最年長かな?」(藤森)
「ずーっとヤング。『ヤングタイガー』は(ステージ名を1st/2ndリングと冠するなど)闘いがテーマらしいんでね。……全員ブチ倒して帰りたいと思います!」(森野光晴(Ba))

そんな気合十分の宣誓を経て、みずみずしいエモーションが溢れ出す「voices」、スリリングなアンサンブルでの「ただそれだけ」、鮮烈なギターリフで扇動する「DUAL EFFECT」と、怒涛の流れでオーディエンスの脳内までもグラグラ揺らしていく。ダメ押しのアンセム「ミュージックプランクトン」では、藤森が「ヤングタイガー!!」と咆哮! ラスト「光の中へ」まで全7曲。ポップにもロックにも振り切りまくった豪速球だらけのステージで、いつ観ても初めてのインパクトをくれるSAKANAMONに拍手!

YAJICO GIRL

撮影=松本いづみ

2ndリングのクロージングを担うのは、地元・大阪発の5人組、YAJICO GIRLだ。バンドの信条である「Indoor Newtown Collective」のロゴに光が灯ると、「ユーフォリア」から会場を一気にダンスフロアへと塗り替えていく。「自由に踊ってください!」という四方颯人(Vo)の舵取りに合わせ、思い思いに音の渦へとダイヴしていくオーディエンス。シームレスにつないだ「CLASH MIND」のサビでのフレッシュな開放感は、まさにバンドを象徴する音楽体験だ。吉見和起(Gt)は時折大きく両手を広げ、破顔しながらあおるものだから、客席にもあっという間に笑顔が伝播。

撮影=松本いづみ

撮影=松本いづみ

「平凡」では彼らの持ち味である生楽器と電子音が織り成す甘酸っぱいフレーズのシャワーに幸福感でいっぱいに。一転、ミディアムテンポの「city」と「2019」のマッシュアップからリリカルな「2024」と続け、四方の高潔な歌声の存在感に改めて気付かされる一幕も。榎本陸(Gt)はアコギで「APART」を色彩豊かに奏で、数え切れないほどのハンズアップを呼び起こしていく。

撮影=松本いづみ

撮影=松本いづみ

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「まだまだ踊っていきましょう!」(四方)と踊らせつつもスムースな「Ebi Fry」、武志綜真(Ba)と古谷駿(Dr)が放つ軽やかなリズムが躍動する「NIGHTS」で、終始ピークを越え続けたYAJICO GIRL。ノンストップで鳴らされたサウンドがプツリと消えても、なお頭の中を巡る心地よい余韻。誰もが5人のトリコになったひとときで、いよいよオーラスへ!

撮影=松本いづみ

Dannie May

MCを務めるFM802の樋口大喜が再びステージへ登場し、「“ええじゃないか”フィーバーでいきますか!」とDannie Mayの名をコール! 2022年の『ヤングタイガー』では四番風呂を担い、その存在感を鮮烈に刻んだ彼らが3年後の今、とうとう大トリまで登り詰めた。洋邦ジャンルも越えた多彩なサウンドの影響をごった煮に、全員がボーカルを取りながらソングライターでもあるという、クセ者ぞろいの実力派。それだけに、一筋縄ではいかないパフォーマンスで2025年の若虎の頂上決戦を制する!

撮影=桃子

2月にリリースした「レアライフ」で口火を切るや、すでに熱湯状態の観衆の様子からも期待度はマックスだ。かつてキャバレーだったきらびやかな会場も、彼らのためにしつらえたかごとくフィット。田中タリラ(Vo.Key)が跳ねながら演奏するさまに沸きに沸くも、そんな盛況ぶりに満足することなく、「本当にいけんのか? まだまだいけんのか!?」とマサ(Vo.Gt)が引き込むように、ライブの鉄板「ええじゃないか」を投下。Yuno(Vo.Kantoku)はタオルをぶん回し、「こんなもんか大阪!」とあおるあおる! ファンクもロックもポップスもないまぜにした極彩色の音景色は、ライブならではの根源的なハピネスをもたらしていく。

撮影=桃子

「僕たち一昨日に6周年ワンマンを終えたばかりで。みんながお風呂に浸かる前からアチチなんだけど許してね」(マサ)との言葉どおり、続く「ダンシングマニア」ではマシンガン的に迫り来る3声を浴びせかけ、「ぐーぐーぐー」ではクラップの嵐の渦中、マサがフロアへ降り立つサプライズも! 「カオカオ」ではギターのストラップが外れるハプニングもありつつ、それすらも演出のように涼しい顔で歌唱するマサ。

撮影=桃子

撮影=桃子

「最高のイベントでした! 実は今日の舞台、僕らがライブ始めたての頃から見てくれていたイベンター・清水音泉の梶さんから「トリをお願いしたい」って言ってもらって。こんな錚々たるメンツで「マジですか!?」って思ったんですけど。みんなのおかげですごく楽しかったです。いや〜、Dannie Mayっていいバンドなんですよ!」(マサ)

大きく頷く他ないそんな言葉のあと、打って変わってポピュラリティに満ちた泣けるメロの「コレクション」で本編をシメる。突入したアンコールでDannie Mayを知っていたかと問うと、思いの外の少なさに全員が驚愕(笑)。こんなに一体感に満ちたステージを初見の観客たちと作り上げられるなんて、スゴ過ぎです……! 最後は4月16日リリースの「FUNKY MUSIC!!」で正真正銘のフィナーレへ。強烈なパンチ力を伴った一曲一曲で、次なる音楽シーンの主役にふさわしい沸騰ぶりを見せつけたDannie Mayだった。

撮影=桃子

終演後、樋口と共に、清水音泉の梶が、集まってくれたオーディエンスへ感謝を述べる。8組の若虎がしのぎを削り、ネクストブレイク前夜の貴重な瞬間となった『ヤングタイガー 2025』。次なる開催では、どんなアクトが相見えるのか乞うご期待!

取材・文=後藤愛 写真提供=清水音泉(撮影:松本いづみ、桃子)

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