吉澤嘉代子 夢を現実にしていく魔法使い、デビュー10周年を締めくくる野音ライブ『夢で会えたってしょうがないでショー』、ハマ・オカモト、ウイカ、えびちゅう、阿部真央を迎えた特別な一夜を振り返る
-
ポスト -
シェア - 送る
吉澤嘉代子
夢で会えたってしょうがないでショー
2025.04.20 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)
4月20日、東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)に3000人の観衆と豪華ゲストを集めて、吉澤嘉代子『夢で会えたってしょうがないでショー』が開催された。彼女にとって野音が特別な場所であることは、ファンならばみなご存知の通り。デビュー10周年を締めくくる、4年ぶり二度目の夢舞台、あたたかい晩春の日差し。素敵なライブになる好条件はすべて整った。
吉澤嘉代子のライブといえば、凝った設定や寸劇仕立ての演出が基本形で、本日のテーマは「夢で会えたってしょうがないで商店街」を舞台に様々な楽曲が披露されるというもの。まずは吉澤の愛犬・ウィンディ(人形操演・山田はるか)が開演を告げ、吉澤嘉代子のお面をかぶった10人の中から本物の嘉代子を当てる「誰が嘉代子でショー」を始める謎展開へ。すったもんだの挙句にニセ嘉代子をかき分けて本人登場、というイリュージョンな幕開けに拍手喝采の3000人。いなせな寿司職人ルックにハチマキ、しゃもじを手にした姿は、どうやら商店街の中にある「鮨 よし澤」の大将という設定らしい。面白くなりそうだ。
大将が歌う1曲目はもちろん「ガリ」。ゴンドウトモヒコ(Hr, Seq)、伊澤一葉(Key)、弓木英梨乃(Gt)、伊賀航(Ba)、伊藤大地(Dr)という頼れるメンバーをバックに、しゃもじを振り上げて走り、歌いまくる大将。「鬼」では可愛いツノツノポーズを、「月曜日戦争」はくるくる回って華麗なステップを決める大将。絶好調だ。
ここで最初のゲスト、「ヤオハマ」ことハマ・オカモトが登場。大将が「アドリブは困る(笑)」と思わず本音をもらす、セリフを無視したツッコミ連発で観客を笑わせ、続く「アボカド」ではベースで観客を沸かせる。さらに本日二組目のゲスト、私立恵比寿中学から真山りかと小林歌穂が元気いっぱいに登場、アボカドからニキビへと強引にストーリーを繋げ、えびちゅうに提供した「面皰」を3人で歌い踊る。さらにもう1曲、3人で「曇天」を歌い、ふたたび一人に戻って「恥ずかしい」へ。ちょっとあやしい江戸弁が可愛い寸劇と、アップテンポで明るく盛り上げる楽曲を交互に配して、ライブは快調に進んでゆく。
ステージ上の寿司屋がスナックに変わり、いなせな寿司屋の大将があでやかなドレスを着こなすスナックのママに変身。前半とガラリと趣を変えた中盤セクションは、ピアノと歌だけで届ける「たそかれ」からスタート。昨年のツアーでも歌い慣れたシンプルなアレンジ、しっとりと落ち着く照明が日の暮れた野音によく似合う。と思ったら場面は急転、客席の真ん中で竹刀片手に仁王立ちするのは、“商店街を守る巡査部長”ことファーストサマーウイカ様だ。どぎつい関西弁で観客を煽りまくり、「勤務中だけど1曲歌っていい?」と言いながら「化粧落とし」をデュエット。嘉代子とウイカは生年月日がまったく同じ、キャラは正反対だが歌もトークもなぜか息の合う不思議な二人。
ギンギラギンの照明とパワフルな演奏に乗せて「シーラカンス通り」をぶっとばし、“地獄タクシーの運転手”こと伊澤一葉との会話から、ロカビリースタイルで突っ走る「地獄タクシー」へ。昔ながらの赤電話の受話器を使ったセリフから、ロマンチックに語り掛ける「綺麗」へ。多彩な曲調と、曲のタイトルと歌詞にまつわる短いストーリーを重ねてショーは進む。三組目のゲストは、水晶玉を手にした“占い師”こと阿部真央だ。楽し気に役柄を演じていた吉澤嘉代子が、素に戻ったとたんに感情が溢れ出したのだろう。「10周年おめでとう。よく頑張ったね」という真央姉さんの言葉に思わず涙ぐむ妹嘉代子。同じ事務所でデビューした先輩と後輩の絆は永遠、二人の美しいハグを3000人の拍手が包み込む。「泣き虫ジュゴン」のデュエットは、この日一番のハイライトと言ってもいいエモーショナルな瞬間だ。
影絵を使った演出が映える「ぶらんこ乗り」から、ノスタルジックな情感溢れる「残ってる」へ。切なくも美しいスローナンバーが、そろそろフィナーレが近いことを観客に告げる。ラストシーンの対話はとても示唆的だ。「この商店街の物語はすべて嘉代子ちゃんの作り出したものなんだ」とウィンディが言う。昔々に作ったもののボツになったという「春樹」のデモテープが流れる。「これは夢じゃない、私たちはこの場所で生きている」と嘉代子が毅然と言う。
「だって、夢で会えたってしょうがないでしょう!」
曲はもちろん、12年前のインディーズアルバム『魔女図鑑』の冒頭を飾った「未成年の主張」だ。歌詞の一節からタイトルを取った『夢で会えたってしょうがないでショー』がこの曲で終わるのは、長年のファンならば予想できたかもしれない。あの頃夢の中にいた少女が今、現実の中で歌っている。3000人のファンがそれをあたたかく見守っている。
「おうちから外に出られなかった子供が、こんなに素敵な場所で素敵なミュージシャンのみなさんと、歌をお届けできることに感謝します。ありがとうございます」
私をみつけてくれてありがとう――。演技のセリフから解き放たれたアンコール1曲目は、17歳の彼女にここ野音で大きなインスピレーションを与えたバンド、サンボマスターから提供された「ものがたりは今日はじまるの」を、きらきら光る無数のシャボン玉の演出と共に。続いて歌った「メモリー」は5月14日リリースの新曲で、彼女の故郷・埼玉の秩父ミューズパークを中心に開催される『第75回全国植樹祭』のテーマソング。ふるさとをテーマにした自伝的歌詞と、優しく語り掛けるような歌声が身に沁みる。
バンドメンバーを送り出し、最後は一人で電話の受話器を握って歌う「らりるれりん」。一人だけど一人じゃない、会場全体を包む親密な空気は、デビュー10周年の彼女の作り出した現実だ。「おやすみなさい」とお辞儀をしてステージを去る彼女に贈られる盛大な拍手。これは夢じゃない。デビュー11年目を迎え、10月からはバンド編成の全国ライブハウスツアーの開催も決まった。夢を現実にしていく魔法使い、吉澤嘉代子の魔女修業はさらに続く。物語の続きを追い続けよう。
取材・文=宮本英夫 撮影=山川哲矢
セトリプレイリスト
https://jvcmusic.lnk.to/playlist_yaonlive250420
リリース情報
*「第75回全国植樹祭」大会テーマソング
詞曲:吉澤嘉代子
編曲:小西遼(象眠舎, CRCK/LCKS)
ライブ映像作品『吉澤嘉代子10周年記念公演 まだまだ魔女修行中。』
通常仕様 / Blu-ray ¥7,480(税込)
*VICTOR ONLINE STORE限定販売
ライブ情報
*後日詳細発表