ノベルゲーム限定イベント『DREAMSCAPE #3』座談会 ノベルゲームとインディーゲームを取り巻く世界
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2025年5月24日に東京NEWoMan Shinjuku 5Fにて『DREAMSCAPE #3』が開催される。インディーゲームの展示イベントだが、今回のテーマは「ノベルゲーム」。今回がどんなイベントになるのか、ノベルゲーム、そしてインディーゲームを取り巻く現状などを語ってもらうために座談会を実施。
左から田平孝太郎氏、npckc氏、びぶ氏、中田隼斗氏 撮影:大塚正明
参加者は『DREAMSCAPE』プロデューサーの中田隼斗氏、ゲームクリエイターのびぶ氏、npckc氏、Furoshiki Lab.代表の田平孝太郎氏の四人。制作者たちによるリアルな「インディーゲームの今」を聞いてもらいたい。
■インディーゲームイベント『DREAMSCAPE』となぜ今回ノベルゲームなのか?
――5月に開催される『DREAMSCAPE #3』ですが、イベントとしては今回3回目になります。まずは『DREAMSCAPE』がどういうイベントなのかを改めてお聞きできればと思います。
中田:『DREAMSCAPE』は2024年から始まったイベントで、第2回からテーマ特化型のイベントに切り替えて開催しています。前回のテーマが“ホラー”だったのですが、今回はテーマが“ノベル”にし、ノベルゲームが大体60作品ぐらい集まるイベントになります。
――なぜ『DREAMSCAPE』というイベントを開催しようと思われたのでしょうか?
中田:理由は2つあって、1つがビジネス的な部分です。会社として各種ゲーム事業を推進していく上でクリエイターとの接点を持てる場所が必要だと考えたという部分。あとはいちインディーゲームファンとして、少し切り口の異なるイベントをオーガナイズして、シーンの拡大に少しでも貢献できたらいいな、という想いで始めました。
――前回のテーマが“ホラー”、今回が“ノベル”ですが、テーマも今後も毎回変えていくイメージなのでしょうか?
中田:はい、毎回変える予定です。
――そして今回、なぜノベルゲームなのでしょう?
中田:僕が割とワンマンに近い形でこのイベントを運営しているので、僕がやりたいテーマというのがまずあるのですが(笑)。 理由としては、僕はインディーゲームのイベントにお客さんとしても行くんです。その時に遊ぶのって、結局回転の早いゲームなんですよ。3~5分くらいで遊べるような物を選んでしまう。ノベルゲームは気になるんですけど、試遊の列が凄く長いんです。
――確かにイベントで試遊できるなら色々と試したいのは解ります。
中田:さらに作者の方と話したくても、結局15~30分待つこともある。結局後で見に行こう……と思っているうちにイベントが終わってしまう。あとはノベルゲームはテキストをたくさん読まないといけないので、プレイすると結構疲れるんですね。だからノベルゲームに適した展示の形ってないのかな、『DREAMSCAPE』として解決の方法はないのかな、と考えて企画しているのが今回になります。
――ノベルゲームを試遊するのに適した環境を作る。
中田:何か読み物のコンテンツがあったり、休憩スペースが多いとか、会場自体を居心地よくしてみようとか、そういう課題を意識したところからノベルゲームを取り扱ってみようと思っています。
中田隼斗氏
――確かにノベルゲームは時間がかかる印象はありますね。
中田:それは出展者側もそれを理解していて、とにかく世界観だけ知ってもらおう、とする方とか。あとは本当に泣く泣く試遊を短くして後で遊んでもらおうとか、いろいろなアプローチを取られていると思うんですけど、本来クリエイターの見せたい形でイベントに臨めるっていうのが一番いいと思うので。
びぶ:そういう部分はありますよね。前作の探索型ホラーゲームを初めてイベント出展した際は、1プレイに20分以上かかってしまいました。なので2回目以降は誘導を分かりやすくして、10分で終わらせるようにしました。でも本当はここを見てほしいんだけどな……みたいな思いはありますね。
npckc:うちは最初からモニターの上に「この体験は15分かかります」とか書いてあるので、それを事前に知ってプレイしていただいています。15分かかるのを理解してやっていただくので、自己責任で15分はやってもらうよっていう(笑)。
――やるからには15分はあなたの時間を取るぞ、と(笑)。
npckc:そうですね、本当は30分くらいやってほしいんですが、これでも短くしているので!という。
田平:私は自分の世界観をわかってほしいと思っています。プレイはしたいけど、試遊が並んでいるから諦める人もいると思っていて、でも帰ったらどんなゲームだったか、そもそも覚えていないかもしれない。なので以前『東京ゲームショウ』で実施したのが、冒頭の全て漫画にしていただいて、列の人に配布したんです。それがかなり好評で。
――それはもうプロモーション施策ですね。
田平:そうですね。やはりゲームっていうのは時間がかかるし、試遊の時間も限られている。そんな中で待っている時間までどうやってノベルゲームの世界で楽しんでいただけるかを、自分も楽しみながら考えています。
びぶ:勉強になります(笑)。
■ノベルゲームを選んだ理由
――せっかくなので、ご参加頂いている皆さんの出展作品のご紹介をいただければと思うのですが。
びぶ:私は『※このゲームはフィクションです。』という作品を出展します。今回は初めてのノベルゲームの作成で、「RPGツクール」を使ってノベルを作ることに挑戦にしています。今回18禁作品にしたい、グロいものをとにかく作りたいという思いがあり、最悪なゲーム体験をしてほしいと思っています。
――最悪なゲーム体験ですか。
びぶ:虫とか蓮コラとか、目や歯がいっぱいあるとか。とにかくグロとエロ意識したものを出したいなって思っていて。自分の気持ち悪い表現の限界に挑戦したいんです。遊ぶ人のことを考えてない作品を作ろうと思っています。
――今回は自分のやりたいものを優先して作ったと。
びぶ:そうですね。そうした方がウケるというか、今まで隠されていた性癖をさらけ出して作ってみたら「こんなのやっていいんだ!」みたいな反応が結構あったので、挑戦ですね。
npckc:今回は『Day Day Neon Tea』というロボットとアンドロイドにタピオカティーを作るゲームにしようと思っています。自分はゲームを作る理由として、他の人とつながりたいという思いがあって。自分の考えを他の人にも共感してもらいたい、と思って作っています。なので「ロボットでも感情があれば人間」というのをテーマにしてみようと思っています。AIでものを作ろうとする人もいるけど、AIが作ったものと人間が作ったものは、どう違うのか? とか、そういうのが気になるので、そういうゲーム作りたいと思っています。
田平:自分はチームで作品を作っているんですけど、今回の『梅と侍』は和風の中で好き勝手やるっていうのがテーマです。ジャンルを言うと「ノベルローグライトゲーム」ですね。繰り返しプレイすることが前提のノベルゲームです。すごく簡単に言うと「相手の話を聞かないことが目的」という。
――ローグライクということは、プレイするたびに強くなる要素があると?
田平:そうです。主人公が死んだ後にあとに入手したアイテムで、自分を強化して、口を塞ぐっていう優しいやり方から、暴力で殴る、まで使って黙らせていくわけです。
――みなさんどれも面白そうで個性があるゲームですね。この流れで何故ノベルゲームを作ろうと思ったのか? というのもお聞きしたいです。
びぶ:ノベルゲームって、自分でゲーム作る前はやったことがなくて。ゲームを作りだしてからプレイし始めたんです。小説が元々好きなので、文章をメインにしても自分の世界観とか表現したいものってできるんじゃないかな、って思って。あと「RPGツクール」の限界に挑戦したいという技術的な熱意もあります。まだ開発歴1年なんで、とにかくやってみたいっていう気持ちだけで動いていますね。
npckc:いろいろなジャンルでゲームを作っているんですけど、なんだかんだノベルゲームに戻ってきてしまうんです。自分がゲームでやりたいことは、ただただ自分の言いたいことを勝手に一方的に人に伝えたいだけなので(笑)。そうなると自分の書いた文章を他の人に読んでもらいたいというのが一番大きくて、他のゲームでもノベル的要素が入ってしまうんですよ。
田平:自分は人生の逆算をしていて、生きているうちにあと何本ゲームを作れるかな?って思ったんです。たくさん作りたいものがあるのでチームでの制作に切り替えました。
自分にとって何かを作ることは生きる事そのもの。息を吸って吐くように作るという事が当たり前で、呪いのような側面もあります。そして自分のゲームには必ず毎回違うテーマ性を入れるようにしています。
田平孝太郎氏
――それはどのようなものなのでしょう?
田平:一つは歴史を記憶するということ。これは自分の考えの中で、ゲーム媒体はデータを永遠に記録する媒体になり得るのか? というのがあります。それに人間の感情が持続するエネルギーであると仮定すると「どこまで感情を持続できるのか?」というのが自分のテーマになっているので、ゲームを作っているというのはあります。
■表現方法としてのインディーゲームと未来
――それぞれのお話を聞いて、中田さん感想はいかがですか?
中田:皆さんゲーム作る動機って様々で、インディーズシーンならではの自分の表現したい世界や、主義主張、あとはゲームの捉え方もそれぞれで、その多様性みたいなものは改めてすごく面白いなと思いました。
――でも表現方法っていろいろあると思うのですが、なぜ表現方法としてゲームを選んだのでしょう?
びぶ:私はもともとイラストを描いていたんですけど、表現したいことがあるけど、漫画は描けないし、映像もアニメもできないし……と思った時にゲームを作ってみたんです。ゲームって漫画や絵と比べると音があるのが一番大きいと思っていて、あとゲームはウェイトが命なんです。ノベルゲームとかってちょっと間があって、そこから展開した方がやっている側の感情も動く。自分が表現したいものを作るには、映像でもなく、アニメでもなく、やっぱゲームしかないと気づいて作っているって感じです。
びぶ氏製作の「さいはて駅」
npckc:自分は子供の頃から小説も読むし、映画も好きなんですが、どうしても映画とか小説だと見ている人が受け手側になってしまうじゃないですか。でも初めてゲームをやったときに、自分がコントローラーを手に持って、ボタンを動かすと画面上にちゃんとそれが反映されるというインパクトが強すぎて、自分がちゃんとこのゲームの世界にいるんだということを感じられたんです。本を読んで主人公のキャラが死んでも悲しいけど、ゲームで主人公が死んだら自分が死んでしまったような気持ちになる。自分の作品を通して、そういう感情をプレイヤーに感じてほしいから、ゲームを作っているんじゃないかと思うんです。
npckc氏製作の「A YEAR OF SPRINGS」
田平:感情を揺さぶる点において、ゲームが一番適している表現方法かなと思います。自分にとって「生きていること全てがゲームであり、遊びである」と捉えていて、例えばこういう風に話していても、誰と目線を合わせて、何秒目を合わせるかによって好感度が上がるっていうゲーム的要素があるじゃないですか。
――確かにそういう要素はリアルでもありますね。
田平:全てのことはゲームであり、遊びになるっていう考え方なんです。人の感情を揺さぶるということは、人の心に何かを植え付けることだと思うんです。その体験を一番能動的に作れるのがゲームだと感じているから、自分はゲームを今作っています。
Furoshiki Lab.製作の「1f y0u're a gh0st ca11 me here!」
――今皆さんはインディーとしてゲームを制作されていますが、ゲーム制作の環境というのも変わってきた気がしています。この変化に関してどう思われているかもお聞きしたいです。
中田:ノベルゲームの話でいうと、別の領域でクリエイティブをやってきた人が、新たなアウトプットの手段としてゲームを選ぶというのがすごく増えてきている印象です。それはツールやAIの発展もあると思うんですけど、すごく敷居が下がってきているのかなと。
――なるほど。
中田:一昔前だと、イラストがpixivとかですごく盛り上がっていたけど、もうひとつ出口が必要だっていうので、ゲームが選ばれるものになってきているのかなと思いますね。
――確かにブームというものはあるのかもしれませんよね。
npckc:ブームで入った方々ってそれが過ぎれば消えてしまう人もいるのですが、売れそうだから、新しいから作ろうって入ってきた人たちが、結局どれぐらい残るかって部分が面白いと思うんです。
田平:多分今は淘汰の時代で、最終的に適応したものだけが生き残ると思います。だから今はすごくいい時期でもありますよね。たくさんいろんなものがプレイできる。
中田:うちはパブリッシャー(販売元)もやっているんですけど、そういった面からインディーゲームシーンを見ると、大手もインディーゲームのシーンに入ってきている。だからインディーゲームの定義みたいなものは、ものすごく今求められているというか気はしています。
npckc:結構インディーとAAA(予算の大きいビックタイトル)ゲームの線が曖昧になってきていると思う部分はありますね。自分なんか本当に個人でやっているので……キッチンのテーブルでノートパソコンで作っている(笑)。そういうインディーと、支援やお金も入っていて、マーケティングもされている作品が同じインディーと括られると、結構不思議な感じですよね。
npckc氏
田平:インディーというのは海外では「独立」という意味であり、大手会社から独立した人がちスタジオを作り、そのマネタイズまでやるというのがインディーゲームの定義だとフランスから来た記者の人から聞きました。日本のゲームはインディーいう言葉だけが先走りしているな、と思っています。自分は日本のゲーム文化の立場は「同人」という日本の独立した文化だと考えています。
――確かに同人かもしれませんね、そっちのほうがしっくりくるというか。
田平:ZUNさん(同人サークル「上海アリス絃樂団」主催、『東方Project』の生みの親)みたいな人は海外ではあまり例がありません。一人で作ったゲームが、多くのファンによる後押しで一大コンテンツとなりました。『UNDERTALE』を作ったトビー・フォックスさんの制作もZUNさんに大きく影響を受けたとおっしゃっていて、もしかしてあれも同人ゲームの文脈ではないかと思っているんです。
自分は海外のインディーっていう言葉をただ輸入するだけではなく、日本はもう同人ゲームとして新しいジャンルでいく方法もあると思います。
npckc:海外の方でもこういう話は数年前くらいから出ていて、俺はインディーだけど、なんか大きい会社もインディーだと言うなら、もう俺はインディーって名乗らない、俺はソロだ。っていう人達が出てきた。
田平:多分日本の同人文化が輸出されて、あっちでもインディーの定義が曖昧になったってことなんでしょうね。
――世界的にインディーの定義が混沌としだしているんですね。
npckc:インディーだけどビジネスも大事だから、それでビジネスインディーと名乗ったりする会社も海外にはあるので、自分のゲームをどうカテゴライズすればいいのかわからなくなっているところもあると思いますね。
――制作者もプレイヤーもフットワークが軽くなったって印象はありましたけど、ある意味一つ目の過渡期なのかもしれませんね。
田平:フットワークが軽くなったってすごくいいことなんですよ。でもいい部分もあれば、悪い部分ももちろんある。自分たちはそこでどう生き残っていきたいのか? っていうところで試行錯誤しているのかもしれません。
――ではそんな「インディーとは、同人とは?」という状況の中で、今回の『DREAMSCAPE #3』に期待するものは何でしょうか?
田平:ノベルゲームっていうものは、昔は誰でも作れるでしょ? と思われていたところがあったと思っていて。そのノベルゲームが一つの文化として、こうやって大々的にフィーチャーされるのはすごくいいことですね。今後ノベルゲームオンリーのイベントが増えたらいいなと思っていますし、例えば互いの世界観を共有して、同じテーマで作品を作って一緒に出そうね! みたいな横の交流が、このイベントで増えたら面白いですよね。
npckc:前回のホラーゲームの方に出展された友達からすごく良かったって聞いていたんです。ホラー作品の展示で18禁のブースもあったんですが、それってすごい珍しいんですよ。そういうスペースを作ってくれるのがすごく素敵だと思っていて。そこがノベルゲームオンリーをやってくれる、あらかじめノベルゲームが好きでやりたい人、ノベルゲームがどういうものなのか、そもそも知っている人が集まるようなイベントってすごく楽しいと思います。そういうのがもっと増えたらいいし、インディーゲームでノベルゲームの展示の仕方をみんなどうしてるのかは見てみたいです。それを期待している部分もあります。
びぶ:前回は代理で出展していて、今回は初のリアル出展なんですけど、中田さんがデザイナーということで、私も会社員時代デザイナーをやっていたんです。デザインの機能というか、ブランドとしての作り方とか、世界観の作り方の重要さっていうのはすごく理解しているつもりですし、18禁作品が展示できるゲームイベントって本当にないので、これが本当にありがたいです。今まで隠れていたものを世に出していくというか、影にいたものをどんどん出していってほしいなっていう気持ちがありますね。
びぶ氏
――確かにサイトデザインの段階からかっこいいですよね。
びぶ:やっぱり、その同人感っていう部分でも、デザイン面ですごくかっこよい、現代アートという地位を作っていってほしいなっていう気持ちはありますね。
中田:すごく褒めていただいて嬉しいです(笑)。僕はもともとデザイナーで、このイベントもデザイン業界時代にやっていたことの地続きで、自然にやっているつもりなので、別に尖ったことをやってやろうとか思っていないんです。定番となるテーマもありつつ、新しい試みをどんどん入れていこうと思っていますし、僕自身もインディーだと思っているので、自分の実現したいイベントを、自分なりの形で体現していければと思っています。
――せっかくだから一人でも多く来てもらいたいですよね。
中田:そうですね、アピールポイントをお伝えするのであれば、イベントって足が疲れるじゃないですか。今回は椅子も沢山用意しますし、休憩スペースもいくつか用意しているので、休み休み試遊してもらえたら。会場もちょっとアロマを炊いてみたり、いろいろ居心地のいい空間になるように工夫します。当日は前回に引き続き、リッチな仕様のパンフレットも無料で配布する予定です。数量に限りがありますが、是非お手に取ってもらえたら。お待ちしております。
インタビュー・文=加東岳史 撮影=大塚正明
イベント情報
DREAMSCAPE #3