ボーイズIIメン、7年ぶりとなるジャパン・ツアー東京公演のオフィシャルレポートが到着
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ボーイズIIメン
2025年5月にSMVをスペシャルゲストに迎えてジャパンツアーを開催したボーイズIIメン(Boyz II Men)。彼らの約7年ぶりとなるジャパンツアーは、大阪、名古屋に次いで最終日・5月16日に東京ガーデンシアター公演を開催。本記事では、ライター/翻訳家・池城美菜子氏によるオフィシャルレポートをお届けする。
「みんなのおかげで生き永らえている / You keep us alive」
5月16日、東京ガーデンシアター。7年ぶりのボーイズIIメンの来日ツアー最終日の中盤過ぎ、ウォンヤ・モリスがくり返した言葉だ。90年代に入ったタイミングで、ボーイバンドらしい溌剌さと、はっきり声域が異なる4人のヴォーカリストの美麗なハーモニーを押し出し、世に出てきた。
以来、30年以上も男性ボーカルグループの代表格として君臨してきた理由は、ファンが飽きずに彼らの曲を慈しんできたからである。そして、名曲の数々はリアルタイムで出会った世代はもちろん、「知っておくべきアメリカの名曲」として後追いで聴き知った人たちの人生に寄り添いつづけている。それが、よくわかる夜だった。
オープニングは、同じくヴォーカルトリオとして美しいハーモニーで長年愛されているSWV。今回、この2組の組み合わせに痺れたR&Bファンは多いはず。SWVはダンサー4人を従え、代表曲を連投するエネルギッシュなステージを披露。
セットチェンジのあと、暗転。4ピースのバンドを携え、ライトの光を乱反射する白いスーツの3人がステージに飛び出した。お揃いのステップを踏みながら、「Can’t Let Her Go」。もともと名門レーベル、モータウンのコーラスグループの伝統を踏襲、復活させたグループだ。ヒップホップが台頭して「ワルさ」が主流だった時期でも、メンバー全員で堂々と折り目正しいふりつけで踊る潔さがあった。世紀をまたいだ現在、それが懐かしくも新鮮に映るのだから、おもしろい。
マイケル・ジャクソン 「Don't Stop 'Til You Get Enough」のコーラスを軽く挟み、ベイビーフェイスらしい普遍的な歌詞が美しい「Water Runs Dry」へ。ファンが求めているのは、衰えるどころか深みが増したコーラスワークだ。彼らも心得ていると見えて、ア・カペラのパートが美しい112の「Cupid」のカヴァー、アルバム『Evolution』からの「Can You Stand The Rain」へとつなぐ怒涛の歌い込みで、一旦、満足させた。
「On Bended Knee」のコーラスパートの絶唱は、ライヴで聴くと迫力がちがう。LLクールJ と大ヒットさせた「Hey Lover」の次は、デビューアルバム『Cooleyhighharmony』から「Please Don’t Go」と「Uhh Ahh」を披露して、古参ファンの心をくすぐる。
ボーイズIIメンが、高校時代にバリトン担当のネイサン・モリスが歌えるメンバーを募って生まれたグループであるのは有名だろう。だが、そのフィラデルフィア・ハイスクール・フォー・ザ・クリエイティヴ&パフォーミング・アーツ(CAPA)の同級生に、ヒップホップ・バンド、ザ・ルーツのクエスト・ラヴとブラック・ソートもいて、最初のヒット曲「Motownphilly」のミュージック・ヴィデオに無名時代の彼らが出演しているのを知っている人は少ないかもしれない。どちらも10代の半ばからプロ意識をもってキャリアを築き、アメリカを代表するグループになったのだから恐れ入る。
スキャンダルと縁がないボーイズIIメンだが、2003年に低音パート担当のマイケル・マッケリーが脱退し、ほかのメンバーとの不仲説が流れたのは残念だった。だが、2016年にマイケルが脱退当時、グループの活動に熱心でない印象を与えたのは、じつは多発性硬化症を患っていたのが原因だったと告白。昨年になって、ほかの3人と仲直りを果たしたのは嬉しいニュースであった。
マイケル脱退以来、ネイサンが低音パートすべてを担当、ウォンヤの力強いテノールと時おり聴かせるファルセットがすてきなショーン・ストックマンの高音パートという、歌声のかけ合いと重なりを磨いてきた。次の「4 Seasons of Loneliness」の繊細なハーモニーで彼らのコンサートにファンたちが足を運ぶのは、なつかしさ以上の理由があるのだと納得。
だが、ミッドポイントに差しかかってボーイズIIメンの魅力がコーラスだけではない、とはっきり示したのは楽しいサプライズだった。バンドがギターの音色を押し出したロック調の演奏を披露すると、ウォンヤが中央にたたずみ、サム・クックの「A Change is Gonna Come」をパワー全開で熱唱。60年代、公民権運動を引っ張った名曲だ。
ショーンとネイサンのふたりはギターを抱えて支え、ウォンヤはレニー・クラヴィッツ「Are You Gonna Go My Way」、クラヴィッツもカヴァーしたカナダのバンド、ゲス・フーの「American Woman」のカヴァーを歌い上げたのだ。続くブルーノ・マーズ「Locked Out of Heaven」では場内から歓声と歌声が上がり、そのままザ・ビートルズ「Come Together」へ。
プリンスの「Purple Rain」では「みんな歌詞を知っているよね? 一緒に歌って!」と促し、やはり大合唱になった。あまりにも有名なギターのソロパートはショーンが担当、味がある演奏が良かった。これら超有名曲のカヴァーでも、ウォンヤが完全に自分の“モノ”にして歌っていたため、演出以上の見応えがあった。また、彼らがアメリカのポピュラー音楽史を背負い、新しい世代につなぐ役目を担う覚悟がわかる場面であった。
ここでムードを切り替え、代表曲セクションへと戻した。「It’s Hard to Say Goodbye to Yesterday」と、マライア・キャリーとの「One Sweet Day」はどちらの曲も人生へのさまざまな別れがテーマだ。「One Sweet Day」はビルボード・チャート連続1位の件で語られがちだが、亡くなった友人への想いを歌った、追悼の曲だ。
「僕たちも大切な人たちを失ってきたんだ」とのMCは、年齢を重ねながら第一線に立ち続ける彼らの底力が伝わる一言だった。「マライアのパートはみんなが歌って!」とのリクエストに応え、ソールドアウトの観客席とステージの3人の声がひとつに。
やはり連続チャートの記録をもつ「I’ll Make Love to You」では、30年が経ってもまったく色褪せないベイビーフェイスの歌詞と彼らの相性のよさを改めて確認。続く2003年の「The Color of Love」では、東京の風景も出てくるアニメーションのMVをバックに人類愛を歌い上げた。
ボーイバンドのプロトタイプでもある彼らは品行方正なイメージで知られ、ボーイズIIメンのファンを公言するのは“クール”ではなかった時期もあったかもしれない。だが、それが圧倒的な安心感を与えるベテランの風格へとつながり、改めて彼らの歌声を求めるファンが世界中にいるのだから、“いい人たち”は最強だと思い至った。コンサートのあいだ、SWVにも何度も言及して拍手を促していたし、SWVのほうも「私たちのお兄さんたち!」と紹介したような温かいステージだったのだ。
そして、「End of the Road」。問答無用の代表曲であり、ひょっとするとコーラスが印象的なR&Bの曲として、日本人にもっとも知られている曲かもしれない。東京ガーデンシアターに足を運んだ8,000人が一斉にうっとりした数分間。
アンコールは、ニュージャック・スウィングの名曲「Motownphilly」。「ボーイズ・トゥ・メン!」のかけ声で会場中の声が揃い、3人は最後まで元気にステップを踏み続けた。たしかに、永遠の少年性をもつ人たちだ。このツアーの評判の良さであまり遠くない将来、また日本に来てくれそうな予感を胸に、会場をあとにした。
文=池城美菜子
撮影=Kazuki Watanabe