ショパン・イヤーの集大成としてより深く、高みを目指して~髙木竜馬、『ピアノの森』ピアノコンサートは「クラシック音楽を知るきっかけに」
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TVアニメ版『ピアノの森』で雨宮修平の演奏を担当した髙木竜馬が今夏も「『ピアノの森』ピアノコンサート」に出演する。5度目の登場となる髙木に今回の「『ピアノの森』ピアノコンサート」についてきいた。
――今年のプログラムの特色について教えてください。
今までと違う点は二つあって、一つはショパンの「練習曲」を多く並べたことです。「ショパン・エチュード」は、練習曲というスタイルの中で、極限まで音楽性を高めて後世にも大きな影響を与えた傑作群であることに加えて、「自分への挑戦」も裏テーマとして、今回の演奏会で重点的に取り上げることにしました。僕は現在、京都市立芸術大学で教鞭をとっていることもあり、自分の練習以外に費やす時間も増えました。そんななかでふつふつと「もっと上手くなりたい」という思いが強くなっているのです。技術の更なる向上にはショパンの練習曲が有効。何回も弾いたことのあるレパートリーではありますが、練習曲を多く弾くことは自分のなかでの挑戦でもあるので、僕が必死に闘う姿を見ていただきたいと思います。
もう一つは、今年はショパン・コンクールがあり、そのファイナルの課題曲となっている「幻想ポロネーズ」を取り上げることです。ショパンのなかで僕の最も好きな作品ですが、『ピアノの森』のツアーでは弾くのが初めて。「幻想ポロネーズ」は、探求するには人生が短かすぎると思うほどの深い曲で、間違いなく最高傑作ですが、あらためて10年振りに弾いてどう感じるのか自分自身楽しみにしています。ショパン・イヤーである2025年の集大成として、「ショパンの高みと深みを目指して」をテーマにプログラムを組みました。
――『ピアノの森』についてはいかがですか。
僕は『ピアノの森』のファンから入って、雨宮修平の演奏の話をいただき、僕にとっていろいろなきっかけとなった大切な作品です。このコンサートのベースには『ピアノの森』の世界観があり、それに出てきたキャラクターが紡いだ物語をプログラムに落とし込んでいます。それぞれの作曲家の作品の魅力もあります。ベートーヴェンの「エリーゼのために」、ショパンの「小犬のワルツ」、「英雄ポロネーズ」、「スケルツォ第2番」は、毎年弾いています。
そしてできる限り毎年新しい曲、『ピアノの森』で出てきた作品で、ツアーで弾いたことのないものを入れるようにしたいと思っています。今年の新しい曲は、ショパンの「前奏曲」第7番と第20番です。また、今年は、みなさまの知っている曲を入れたいということで、『ピアノの森』には入っていないショパンの「別れの曲」も弾くことにしました。
――コンサートツアーのお客様についてはいかがですか。
いつもとは客層が違うのを感じます。初めてクラシックのコンサートに来る方、初めてピアノのコンサートを聴く方、初めてクラシックに触れるという方、夏休みなので家族連れでいらっしゃる方……もちろん、毎年聴きに来るという人もいらっしゃいます。『ピアノの森』が新しくクラシック音楽を知るきっかけとなっているのを毎年ひしひしと感じます。
――プログラミングにはどんな工夫がありますか。
演奏会の最初の曲、あるいは後半の最初の曲は、リラックスして聴いていただけるものにしたいと思っています。前半は、まず「エリーゼのために」で始まり、明るい曲を並べ、そこからとても親しみがあり美しい「幻想即興曲」、そして「スケルツォ」第2番で力強く終わります。後半は、イ長調のゆったりとした「前奏曲」第7番から。続く「練習曲」第7番 作品25-7はショパンの最高傑作の一つです。万感の思いが込められていて、ここまでディープな練習曲はないと思います。そして「オクターヴ」、「木枯らし」、「大洋」と練習曲が続きます。練習曲を弾くと、高みを目指すすさまじいエネルギー、高みに登る崇高さも感じます。最後は「幻想ポロネーズ」で、もう一つの物語の始まり。深い世界に入っていきます。
僕はショパンの後期の作品に惹かれます。他の作曲家でも晩年の作品に惹かれるのは、「この作品を残さずには死ねない」という作曲家の特別な使命を感じるからです。でも、ショパンの後期の作品は次元が違います。そのなかでも最も崇高な作品「幻想ポロネーズ」は、死の淵で走馬灯が見えているような、意識があったのか頭に降ってわいたのかわからいないような作品です。確固たる深淵が見え、最後は歓喜で終わります。ショパンは希望を持っていた。このあとポーランドが独立して栄える希望を持っていたと思います。いろんな世界が見える作品なのでコンサート本編の最後に弾きたいと思いました。希望をもって演奏会を終わりたいと思っています。
――髙木さんにとってのショパンの魅力とは、どのようなところにありますか。
ホロヴィッツは「マズルカの3分がマーラーの交響曲の一時間半に匹敵する」と言っていましたが、僕は違うと思っています(笑)。マーラーやブルックナーには時間をかけないと得られないカタルシスがあります。しかし、ショパンのハ短調の前奏曲(前奏曲 第20番)は僅か1分足らずの作品でありながら、底の見えない深い悲しみを称えた深淵な世界が広がっています。
ショパンには二面性があると思います。一つは「ピアノの詩人としてのショパン」。「別れの曲」や「小犬のワルツ」など、ザ・ショパンというべき、わかりやすく、歌うようなメロディにあふれた音楽。歌をうたうのに長けていて、ピアノのことがよくわかっている人で、限られた世界のなかで極めようとした人。もう一つは「戦士としてのショパン」。勇ましさ、力強さが前面に出ている。彼はできれば兵士になりたかった。でも身体が弱くてできなかったのですが、筆で戦う力強さを持っていました。戦うショパンの音楽は、力強さや戦いを経て、悲しみが凝縮され、本音がにじみ出ています。「戦うショパン」の本音にはマーラーやブルックナーに通じるものを感じ、感情移入してしまいます。「幻想ポロネーズ」には宇宙的な広がりがあります。ショパンには作曲に苦しんだ形跡がほとんどありません。彼はアイデアが尽きる前に亡くなってしまったのです。
――先ほど、京都市立芸術大学で教えていると話されました。
2023年4月から専任講師をしており、今年で3年目です。生徒は大学1年生から大学院生まで10名で、みんな一生懸命で、よく勉強し、それぞれに個性があります。僕も教えながら習っています。教えていると昔の自分の先生の言葉を思い出しますね。
留学していたときから、日本をクラシック大国にしたいという夢を持っていました。心から尊敬する先生から素敵なことを教わり、黄金のバトンを渡していただきました。それを、演奏でだけでなく、直接次の世代に伝えたいとずっと思っていたのです。想像よりも早いタイミングで教えることとなりましたが、でも、受けたからには責任をもって取り組みたいと思っています。
僕が教えるときに大切にしているのは、自分の先生方のスタイルを踏襲したものですが、「作曲家に敬意を払うこと」、「楽譜を遵守すること」つまり作曲家至上主義ですね。僕は「お金儲けのための手段にしてはいけない、音楽に奉仕しなさい」と教えられてきました。音符からは無限の世界が広がっているので、その探求の旅の楽しさを生徒たちに伝えたいと思っています。
――最後にメッセージをお願いいたします。
今回は、福岡、熊本、函館、札幌など、『ピアノの森』の公演で初めて訪れる場所が多く、初めてのお客様とお目にかかれるので非常に楽しみです。今年も熱い夏になりそうです。
毎年、お客様と直接触れ合い、お客様からエネルギーをいただいています。今年はよりディープになりそうです。『ピアノの森』コンサートでは、お客様と一緒に世界を作っているので、会場でお会いできるのを楽しみにしています。
取材・文=山田治生 撮影=池上夢貢
公演情報
プログラム
ベートーヴェン:エリーゼのために イ短調 WoO.59
ショパン:ワルツ 第6番 変ニ長調 Op.64-1「小犬のワルツ」
ショパン:練習曲 第1番 ハ長調 Op.10-1
ショパン:練習曲 第3番 ホ長調 Op.10-3「別れの曲」
ショパン:練習曲 第4番 嬰ハ短調 Op.10-4
ショパン:即興曲 第4番 嬰ハ短調 Op.66「幻想即興曲」
ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31
ショパン:前奏曲 第7番 イ長調 Op.28-7
ショパン:前奏曲 第20番 ハ短調 Op.28-20
ショパン:練習曲 第7番 嬰ハ短調 Op.25-7
ショパン:練習曲 第10番 ロ短調 Op.25-10
ショパン:練習曲 第11番 イ短調 Op.25-11「木枯らし」
ショパン:練習曲 第12番 ハ短調 Op.25-12「大洋」
ショパン:ポロネーズ 第7番 変イ長調 Op.61「幻想ポロネーズ」
ショパン:ポロネーズ 第6番 変イ長調 Op.53「英雄ポロネーズ」
※本公演は映像等の演出はございません。予めご了承ください。
※曲目は変更となる場合があります。
各地公演
7/30(水)杜のホールはしもと【東京】
8/2(土)水戸市民会館ユードムホール 中ホール【茨城】
8/3(日)東大和市民会館ハミングホール 大ホール【東京】
8/8(金)市川市文化会館 小ホール【千葉】
8/11(月・祝)アマノ芸術創造センター名古屋【愛知】
8/16(土)住友生命いずみホール【大阪】
8/22(金)札幌コンサートホール Kitara 小ホール【北海道】
8/23(土)函館市芸術ホール【北海道】
8/27(水)スターツおおたかの森ホール【千葉】
8/30(土)大宮ソニックシティ 小ホール【埼玉】
8/31(日)小山市立文化センター 大ホール【栃木】
9/6(土)益城町文化会館【熊本】
9/7(日)FFGホール【福岡】
全席指定:一般 4,500円 / 小学生 2,500円
※7/30(水) 杜のホールはしもと、8/16(土) 住友生命いずみホール、9/7(日) FFGホール公演は全席指定:一般4500円
7/30(水) 杜のホールはしもと、8/16(土) 住友生命いずみホール、9/7(日) FFGホール公演は18歳以下の子供たちを公演にご招待いたします。
詳細はツアーサイトをご確認ください。
関連情報
出演:髙木竜馬(ピアノ)、ニュウニュウ(ピアノ)、東亮汰(ヴァイオリン)、橘和美優(ヴァイオリン)、 川本嘉子(ヴィオラ)、矢部優典(チェロ)、吉田秀(コントラバス)
ナビゲーター:naco(厳選クラシックちゃんねる)
演奏予定曲目:
ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 Op.21(ピアノ:高木竜馬)
ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op.11 (ピアノ:ニュウニュウ)
茶色い小瓶(ピアノ連弾:髙木竜馬、ニュウニュウ、弦楽五重奏)