【インタビュー】奈緒&ウエンツ瑛士~舞台『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』で夫婦役

2025.6.12
インタビュー
舞台

奈緒、ウエンツ瑛士 (撮影:岩間辰徳)

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今年2025年は戦後から80年に当たる。第二次世界大戦後、連合国軍占領下の日本に駐留していた兵士と結婚し、兵士の国へ渡った日本人女性のことを「War Bride(戦争花嫁)」と呼んだ。このことを知る人は令和のいま、少ないだろう。戦争花嫁のひとりだった桂子・ハーンに取材したドキュメンタリー『War Bride 91歳の戦争花嫁』(2022年 TBS系)が、『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』という題名で舞台化される(2025年8月~9月、東京・兵庫・福岡にて上演)。

桂子・ハーンを演じるのは奈緒。桂子の夫である米兵のフランクを演じるのはウエンツ瑛士。演出、脚本は第30回読売演劇大賞・大賞を受賞した、劇団チョコレートケーキ主宰の日澤雄介と古川健の名コンビで送る。戦中、敵対していたアメリカ人と日本人の結婚生活は決して順風満帆ではなかった。それでも桂子とフランクはお互いを愛し抜いた。奈緒とウエンツに、激動の時代、日米の架け橋となった桂子の人生と愛を描くこの作品への意気込みを聞いた。真摯に作品と桂子について語る奈緒と、それを傍らで微笑みながら聞き、何かあると合いの手を入れて空気を和ませるウエンツ。すでにいいコンビネーションが出来上がりつつあった。本番ではきっと息の合った夫婦役を見せてくれるだろう。


――タイトルの『WAR BRIDE』=「戦争花嫁」という言葉をお二人はご存じでしたでしょうか。そして、この言葉からどんな気持ちを抱かれたでしょうか。

奈緒 私は『WAR BRIDE』=「戦争花嫁」という言葉を今回初めて知りました。最初に聞いたとき、「戦争」という言葉が持つイメージと「花嫁」という言葉が持つイメージのギャップが大きく、この言葉が生まれた背景にはどんな思いがあったのだろうと興味を持ちました。ひじょうに緊張感を伴う言葉の組み合わせで、実際、桂子さんとお目にかかってお話しを聞いて当時のことを勉強していくと、必ずしもポジティブな思いとは言えずネガティブな言葉とされていたようで。当時は差別的な意味合いを持ってこの言葉を投げかけられた方もいらっしゃったでしょう。そんな状況で、桂子さんはこの言葉の意味を変えたおひとりだと私は思いました。桂子さんをはじめとした多くの方々が長い時間をかけて、希望あるポジティブな言葉に変えてきたのだと。そのことを私たちが舞台でお届けしたいと思っています。

ウエンツ瑛士(以下ウエンツ) 僕も存じ上げなかったです。今はもう、この言葉を使うことが少ないでしょうけれど、こういうふうに呼ばれていた方々が、日本のみならず世界中にいることを知りました。「戦争」と結びつけると、悲しいことのように感じてしまいますよね。「戦争」と「花嫁」という言葉を結びつける必然性があるのだろうか、「結婚」は「結婚」であって「戦争」と関連づけなくてもいいのではないかと僕は思いました。この言葉を知っている人が少なくなっているのは、そういう思いがあって次第に使わないようになっていったのかなあと。でも、奈緒さんのおっしゃったようにポジティブに変えていくこともできるのかもしれない。いつかはこの言葉を幸せな言葉として使うことができるといいですよね。

――原作となったドキュメンタリーを見ると、フランクは若い時とても痩せています。それがのちにとても太られます。

ウエンツ きっと桂子さんと結婚して幸せだったのでしょうね。舞台ではおそらくそういう体型の変化はなぞらないと思います。舞台上で太っていくとしたら肉襦袢の力を借りるしかないと思うのですが、今回はそういう演出の方向性ではないでしょう。体型は変わらなくても、夫婦関係や当時のアメリカの状況などいろいろなことが時の流れのなかで変わっていくことはお見せできるはずです。時代や環境の変化のなかで決断する局面が訪れますが、決断を重ねてきた人間の顔はやはり違う。そういう瞬間も描かれると思います。

――ドキュメンタリーで、フランクの腰を桂子がマッサージしている映像がありました。ふたりの関係がとても良いと感じたのですが、ご覧になりましたか。

ウエンツ あのシーンで話している言葉も印象的です。ああいうことが言える夫婦感はいいですよね。カメラが回っていても自然に言えるということは、夫婦や家族の間で隠し事がなく、全てを伝え合える状況を表していると感じました。ただ、舞台はドキュメンタリーを忠実に再現するものではないので、ドキュメンタリーを見て感じられる桂子さんとフランクさんの愛を、僕たちが舞台で新しく生まれ変わらせることになるのではないかなと思います。

奈緒 まだ稽古がはじまっていないのではっきりしたことは言えませんが、舞台だからこそできる演出をどのように取り入れていくか日澤さんが考えていらっしゃるようです。舞台ならではの楽しい演出が加わった作品をお届けできると思います。もしかしたら、私たちも違う役を兼任することもあるかもしれません。

ウエンツ 史実に基づいた作品ではありますが、エンターテインメントとしての側面もあります。舞台上にいる僕らにお客さんが引き込まれるような魅力たっぷりなものにしたいですね。アメリカが舞台になるので、日本とは文化や表現の仕方が違うところもありますし、フランクさんと桂子さんはもともと楽しい表現が好きな夫婦だと思うので、そういうところも楽しく観ていただけると思います。

――それぞれの役について、現時点でどのように捉えて、どのように演じようと思っていますか。

奈緒 桂子さんはとても愛が深いかたです。この役を演じるために、アメリカに3日間滞在し、桂子さんにお会いして話を聞いたとき、愛とは育てていくものなのだと感じました。桂子さんと街を歩いていると、お知り合いとたまたま出会ったりして。そうすると、皆さん、桂子さんへの思いを熱く語ってくださるんです。彼女の周りに本当にたくさんの人たちの愛があふれているのを知ると、桂子さんは海を渡って自分の居場所を自分で築かれたのだということに気付かされました。

ウエンツ フランクさんはすでに亡くなっていてお会いできないので、実際どういう方だったのかは分かりません。でも、奈緒さんから桂子さんがいかに素敵なかたかという話を伺うと、フランクさんは桂子さんと一緒にいることで変わっていったのだと思いました。聞いた話だと、フランクさんは内気で、桂子さんのほうが前向きだったらしくて。桂子さんの影響で明るく前向きな面が開花していったのではないかな。アメリカに来た桂子さんは多くの偏見にさらされますが、それを乗り越えていく桂子さんの姿を見て、フランクさん自身、たくさんの勇気をもらって、より強い絆で夫婦として結ばれていったのだろうという気がします。

奈緒 フランクさんは寂しがり屋だったと伺いました。フランクさんのお墓参りに一緒に行ったとき、桂子さんが「お墓参りに毎日は行けないから一人にしてしまって、あなた寂しいでしょ、ごめんなさいね」とお墓に向かって話しかけていて。まるで本当にその場にフランクさんがいて「寂しかったよ」と言っているような気がしました。

――奈緒さんとウエンツさん、お互いの印象をお話しください。

奈緒 会うのは今日が3回目です。第一印象は、テレビで見ていたウエンツさんと同じだというものでした。まだお会いしたことない方々をテレビで見る時の印象は、あくまでテレビのなかのものだと私は思っていたのですが、ウエンツさんに限ってはそうではなく、まったく同じで。本当にずっと自然体。私が今までに出会った方々の中でも、ベスト・オブ・ナチュラルです。

ウエンツ ありがとう。ベスト・オブ・ナチュラルをいただきました(笑)。僕もその言葉、そっくりそのままお返しします。ベスト・オブ・ナチュラルを(笑)。奈緒さんのイメージもテレビや映画で見ている印象と変わらないです。3回会ったくらいで奈緒さんの全部をわかることはできないけれど、多分、印象と変わらないのだろうと感じました。天真爛漫で明るい面と、仕事に対してプロフェッショナルな面があることは、画面を通してもすごく伝わってきます。厳しさも持った温かい人なのだろうなって。たぶん、自分に厳しくないと、温かく明るくいられないと思うんですよ。

奈緒 ありがとうございます。ウエンツさんと顔合わせを兼ねて関係者のみなさんと一緒にお食事をしたとき、ものすごく安心感があるかただなと思いました。

ウエンツ そうなんだ(笑)。

奈緒 大先輩にもかかわらず、後輩の私にも気を使わせないかたで、まるでお湯に浸かったような気がします。

ウエンツ お湯だそうです(笑)。

奈緒 稽古や本番で何かあればウエンツさんに相談しようと私は心の中で決めています! 今回、本当に愛や希望のあるお話なので、稽古がとても温かいものにできるといいなとは私は思っていて。ウエンツさんとだったら絶対に叶えられると信じています。

――さきほど、歴史を扱った作品ではあるがエンターテインメント要素もあるとおっしゃっていました。その一方で、最近、演劇も映画もテレビドラマも、エンターテインメントだけではなく、社会的な題材を扱った作品が増えているような印象があります。お仕事されるお二人としては、そういう作品が増えていたり、そういう作品に出る機会が増えていったりすることをどう思われますか。

奈緒 とても良いことだと私は思います。桂子さんの話を聞きにアメリカに行ったとき、桂子さんの言葉を取りこぼしてはいけないという責任感を覚えました。戦争体験を実際に聞ける機会はなかなかなく、貴重な時間でした。当時の悲惨な状況というのを聞いたときは胸が痛むような時間もありましたが、今回、やはりそれを作品にするという一つの責任を持ってアメリカに会いに行ったので、心を痛める自分ともう一人、しっかりと言葉を受け止めて作品として伝える自分がいないといけないと思って取り組んでいます。今、歴史や社会問題に向き合う作品が日本で増えていることは、現実と向き合うという必要性を誰もが感じているからではないでしょうか。それに関わることができるのはとても光栄です。私たちが作っている作品が、ご覧になる皆さんのためになり、知らなかったことに出会える喜びを分かち合うことができれば嬉しいです。

ウエンツ 奈緒さんの意見にまったく同意します。僕は小さい頃からテレビの世界で生きてきた人間で、テレビはどうしてもマジョリティの方を優先するという性質があります。最近、社会的意義のある作品が多くなってきたことを受け止めると同時に、今までマイノリティだった人たちが声を上げられるようになったということと、その方たちの努力にまず感謝しなきゃいけないと感じています。そして、そういう作品がこれからもっともっと世に出ていくといいなと思います。

――改めて、戦後80年のいまこの作品と出会ったことについての思いをお聞かせください。

奈緒 作品にはいろいろあって、自由に受け取っていいものもあるし、一つの正しさを伝えなければいけない作品もあると思います。今回は正しさを正確に届けないといけない作品だと認識しています。自分自身が何か一つ正しさを持って舞台上に立ち、間違ってはいけないと思うとすごく怖いことだし、責任を感じます。それほどの大事なことを任せていただくことは光栄ですし、伝えたかった思いを持った方々の代わりに正しくお伝えしたいです。

ウエンツ 戦争という現実をしっかりお伝えしなくてはいけないのはもちろんながら、桂子さんとフランクさん夫婦の姿から、たくさん愛を与えることが自分たちの幸せにもなるのだということをお伝えできれば。台本を読んで、人を愛することは決して簡単でないと僕は改めて感じました。桂子さんは、戦後アメリカに渡り母国ではない国で暮し、好奇な目で見られながらも惜しまず隣人に愛を与えてきた。そういう小さな行いが争いを一つずつなくしていくのではないかと思って。この舞台を観て、桂子さんとフランクさんのようになりたいと憧れたり、愛を与えることがこんなに素敵なのだということをお客様に感じてもらえたりしたら素敵ですよね。

取材・文:木俣冬
写真撮影:岩間辰徳

[奈緒]
ヘアメイク/竹下あゆみ
スタイリスト/岡本純子

[ウエンツ瑛士]
ヘアメイク/松永香織
スタイリスト/上野真紀
衣装/Kota Gushiken
問い合わせ : Kota Gushiken info@kotagushiken.com

 

公演情報

舞台『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』


■出演:
奈緒 ウエンツ瑛士
高野洸 川島鈴遥 渡邉蒼 福山絢水 牧田哲也 岡本篤 占部房子
山口馬木也

■原案:「War Bride~91歳の戦争花嫁~」(TBSテレビ)
■脚本:古川健(劇団チョコレートケーキ)
■演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)

 
■スタッフ:
美術:長田佳代子 音楽・音響:佐藤こうじ 照明:松本大介
衣裳:前田文子 ヘアメイク:鎌田直樹 演出助手:長町多寿子 舞台監督:藤崎遊

■企画・製作:TBSテレビ

【東京公演】
■会場:よみうり大手町ホール
■日程:2025年8月5日(火)~8月27日(水)
■主催:TBS、読売新聞社、TBSラジオ
■問合せ:TBS [お問合せフォーム]

【兵庫公演】
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■日程:2025年9月6日(土)・9月7日(日)
■主催:兵庫県 兵庫県立芸術文化センター(開館20周年記念)
■問合せ:芸術文化センターオフィス 0798-68-0255(10:00~17:00/月曜休※祝日の場合は翌日)

【福岡公演】
■会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール
■日程:2025年9月13日(土)・9月14日(日)
■主催:RKB毎日放送 西日本新聞社
■共催:久留米シティプラザ(久留米市)
■問合せ:キョードー西日本 0570-09-2424(11:00~15:00/日曜・祝日休)

 
■公式サイト:https://www.warbride-stage.com/
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