『華岡青洲の妻』主演・大竹しのぶが明かす、かつて抱いていた同世代への羨ましさ「素敵なお仕事をしているなって」

2025.6.5
インタビュー
舞台

大竹しのぶ 撮影=福家信哉

画像を全て表示(4件)

舞台『華岡青洲の妻』が7月10日(木)から23日(水)まで京都・南座、7月26日(土)と27日(日)に福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホール、8月1日(金)から17日(日)まで東京・新橋演舞場にて上演される。原作は、これまで幾度も舞台化、ドラマ化、映画化がなされてきた、昭和を代表する作家・有吉佐和子の小説。世界で初めて全身麻酔を使用した外科手術に成功した、和歌山が生んだ医聖・華岡青洲(田中哲司)。しかし手術成功の裏には、青洲の妻の加恵(大竹しのぶ)、母親の於継(波乃久里子)の熾烈な争いと犠牲があった。加恵と於継による嫁姑問題、そして当時の女性の生き方などが鋭い視点を持って描かれている。今回はそんな『華岡青洲の妻』について、加恵役の大竹しのぶに話を訊いた。

大竹しのぶ

●「嫁姑の関係性は時代の変化とともに、変わってきていますよね」

――大竹さんは小学生のときに、当時ドラマとして放送されていた『華岡青洲の妻』(1967年)をご覧になっていたそうですね。

母がドラマに夢中になっていて、小学生だった私も姉と一緒にドキドキしながら観ていました。二人の女性が命をかけて争う姿もそうですし、紀州弁の美しくて緩やかなリズムで怖いことを口にするので、「この二人はどうなってしまうんだろう、怖いな。でも見たいなぁ」とドキドキしていました​。

――東京で開かれた記者会見では、今回、加恵を演じるにあたって年齢設定的なところで躊躇があったとおっしゃっていました。

加恵は結婚したときは二十代。かなり無理があるかなと。でも、ミュージカル『にんじん』(2017年)では60歳のときに14歳の少年を演じましたし(笑)、『女の一生』(2020年/2022年)も十代から徐々に歳をとっていく役でした。今回も二十代の加恵が時間の流れでどう変化するかを観ていただければと思っています。

――大竹さんであればそういったものを超越した、説得力ある演技を見せてくださる気がします。また『華岡青洲の妻』では、嫁姑のせめぎ合いに挟まれる青洲の立場についても考えさせられます。

個人的にはこういう場合、妻の味方をするのが良い道な気がします。また姑としては、そういう状況になったときは自分が納得した方が話はおさまるのではないでしょうか。でも、たとえば波乃久里子さんの甥っ子である中村勘九郎くんの奥さんの(前田)愛ちゃんと、お義母さんの(波野)好江ちゃんの関係性を見ていると、とても素敵に思うんです。嫁姑の関係性は時代の変化とともに、家庭ごとに進化している気がします。

――たしかに舞台、映画、ドラマなどで嫁姑の関係を描くと、ばちばちと火花が散り合うものが多いですが、実際はさまざまな変化がありますよね。

ただ『華岡青洲の妻』における青洲は、嫁姑の関係性を分かっていながら研究に没頭し、ある意味で二人を利用するわけですから、少しだけ男のずるさが感じられます。しかも、そんな妻や母親の存在があってこそ研究が進むのに、名を残すのは華岡青洲だけ。実際に先日、和歌山県にある華岡青洲さんのお墓を訪問しましたが、青洲さんのお墓はすごく立派なのに対し、加恵さん、於継さんのお墓はそこまで大きいものではないんです。あらためて当時の女性の立場について気づかされるものがありました。

――加恵役の大竹さん、於継役の波乃さんにはさまれる、青洲役の田中哲司さんが舞台上でどのように振る舞うのかも注目ですね。

加恵は「お義母さんに勝ちたい」、「青洲は私のもの」という気持ちでいっぱい。それはもちろん、於継も同じ。田中さんは舞台上でそういう二人の気持ちを実感すると思います(笑)。ただ青洲は研究の名のもと、堂々と振る舞うのではないでしょうか。「たしかに俺ってずるいけど、そこは自分のことをやろう」って。

●「芝居のこと以外は年齢を重ねるごとに「まあ、いいか」となっています」

大竹しのぶ

――作品の中では、加恵、於継が青洲をめぐって張り合います。ちなみに大竹さんはこれまで、張り合うような気持ちでお仕事をされた経験はありますか。

あまりないかもしれません。でも、張り合うというものではありませんが、誰かを意識することは、若いときは多少ありました。二十代、三十代は子育てが中心でしたし、仕事で長期ロケなどに行くことはできませんでした。もちろん私が選んだ道なので後悔はありませんでしたが、当時「もっと映画に出たい」という気持ちがまったくなかったかと言えば嘘になります。そういった事情もあり、同世代の俳優さんたちが活躍している姿を見て、羨ましさは多少感じていました。

――大竹さんは独自の世界を持って活動されている印象だったので、周囲を意識することがあったというのは意外なお話です。

例えば、田中裕子ちゃんってなんて素敵なんだろうって思っていましたし、今の私には出来ないな……と思っていました。でも当時は、自分がやるべきことで精一杯。まずしっかり子育てをして、そして時々仕事をして。そうやって目の前のことをやっていくうちに、自分がまわりからどう見られているか、そして自分がまわりをどう見るかを考えなくなりました。分かりやすい話をすれば、作品の名前の順番。「ここじゃないと嫌だ」などはまったくないんです。こだわりもありませんし、むしろ「私が一番上じゃない方がいい気がします」と言ったこともあります。芝居のことはこだわるのですが、それ以外のことは年齢を重ねるごとに「まあ、いいか」となっています。

――また私たち鑑賞者はいつからか、「大竹さんにはこういう役が似合う」という“大竹しのぶ像”を作って作品を観るようになりました。今回の『華岡青洲の妻』の刺激的な役どころはまさに、私たちが考える“大竹しのぶ像”だと思います。映画『黒い家』(1999年)などでそういう風に印象付けられたものがある気がします。大竹さん自身は鑑賞者から求められているものに対し、どこまで自覚的なのでしょうか。

実はそこまであまり考えていなかったんです。でもこの前『やなぎにツバメは』(2025年)という日常的を描いた現代劇に出演したのですが、それこそギリシャ悲劇やシェイクスピアの作品などをやっているので、台詞を読んだとき「舞台で日常会話をやっても面白いのかな?」と思っちゃったんです(笑)。

――ハハハ(笑)。

作家さんや演出家さんにも「これって面白いですか? 普通の台詞で大丈夫なんですか?」と聞いちゃったんです。今、振り返ると私は本当にひどいことを言ったなって(笑)。そうしたら「お客様はこういう日常的な様子にご自身を重ねてご覧になると思います」とおっしゃったんです。実際に本番では、劇場内がたくさんの笑いに包まれました。こんなにずっと笑い声が起きる舞台は久しぶりな気がしました。そして終わった後、ご覧になった方から「いつもの大竹さんもいいですが、こういう何気ない役も時々やってください」というお声までいただいて。作家さん、演出家さんには公演初日に「あんなことを言ってしまって、本当にごめんなさい!」と謝りました。

大竹しのぶ

――大竹さん自身もどこかに、刺激的な役の感覚が染みついちゃっているのかもしれませんね。

『やなぎにツバメは』では、「普通の会話のおもしろさってなんだろう」ということを考えるキッカケになりました。そしてあらためて舞台のお客様は、それ以上のことを想像し、自分に置き換え、たくさんのことを持ち帰ることが分かりました。「だからお芝居っておもしろいんだな」と気づきがありました。

――今回の『華岡青洲の妻』も観る方がなにを持ち帰るのか楽しみですね。

もちろん、さまざまな捉え方があると思いますが、女性ってどうしてこんなに強くなれるのか、愚かであり、滑稽であり、悲しいのだろうと思うはず。でも、だからこそたまらなく愛しいのです。​

取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉

公演情報

『華岡青洲の妻』
 
原作:有吉佐和子
演出:齋藤雅文
出演:大竹しのぶ 田中哲司 波乃久里子
   田畑智子 武田玲奈 陳内将 長谷川稀世 曽我廼家文童
製作:松竹 株式 会社
 
京都公演
日程:2025年7月10日(木)~23日(水)
会場:南座
 
福岡公演
日程:2025年7月26日(土)・27日(日)
会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール
 
東京公演
日程:2025年8月1日(金)~17日(日)
会場:新橋演舞場
<e+特別観劇会>ならでは
お席は1等席を確保(定価:13,000円)→優待価格:10,000円
観劇(1or2の企画を含む)と、さらに、特典として お弁当(1,000円相当)、公演プログラム(予定価格1,300円)が付いております
※差額は、イープラスが負担しています
※特典は、1と2の企画で受取方法など異なりますのでご注意ください
1. 8/2(土)16:30夜公演⇒【開演前講座】
2. 8/10(日)11:30昼公演⇒【舞台セミナー】 
詳細・お申込はこちら
※予定枚数に達した時点で終了
  • イープラス
  • 大竹しのぶ
  • 『華岡青洲の妻』主演・大竹しのぶが明かす、かつて抱いていた同世代への羨ましさ「素敵なお仕事をしているなって」