「大阪・関西万博が開催されている今だからこそ、 大阪のラジオステーションとして世界とつながることができる」 FM802プロデューサー・本田瑞葉が発信する「音楽と文化」
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FM802プロデューサー・本田瑞葉
全ての中心に音楽を据えた真摯な番組作り、放送、そこから描き出されるアーティストとの関係性が表現されたイベントの企画制作で、関西での圧倒的聴取率トップを走り続けるラジオ局・FM802。今年の6月1日(日)に開局36周年を迎える同局が、その開局記念日に放送する特番と同じ週の金曜の夜に開催するイベントの連動企画を行うことが発表されている。そのふたつに共通するテーマは「世界とつながる」ということ。現在大阪・夢洲で行われている『EXPO2025 大阪・関西万博』の開催都市であるからこそ、在阪ラジオ局として今世界とつながることができる、そして日本のアーティストを世界に発信する絶好の機会なのではないか――そんな思いが込められたFM802 SPECIAL PROGRAM『Hello to the World!!』とライブイベント『OSAKA MUSIC LOVER -LIVE TO THE WORLD- supported by アサヒスーパードライ WITH MASSIVE BEATS OSAKA』でFM802側の企画・プロデュースを行っているFM802・プロデューサーの本田瑞葉氏にこの企画の出発点から、開催終了後の展望までたくさんのことを語ってもらった。
FM802プロデューサー・本田瑞葉
●あくまでも放送があって、アーティストを含めていい循環で一巡させるサイクルの中にイベントがある
――本田さんは今回FM802の特番『Hello to the World!!』とライブイベント『OSAKA MUSIC LOVER -LIVE TO THE WORLD- supported by アサヒスーパードライ WITH MASSIVE BEATS OSAKA』で企画とプロデュースを行われていると伺いました。ちなみに通常だとFM802ではどういったお仕事をされているのでしょうか。
FM802では番組のプロデューサーとして勤務しています。それぞれの番組は放送する日程によってどのような番組にするのかという方向性を部署全体で考えているのですが、その上でプロデューサーは番組を打ち出した方向性に近づけるために、DJを誰にするかをはじめとしたキャスティングや、アーティストや営業チームとのリレーションなどを行いつつ番組制作の舵を取る仕事をしています。そういった番組作りの延長上でイベントの企画制作やグッズの制作など、番組と連動した事業展開をするのもプロデューサーの仕事ですね。
――FM802のプロデューサーさんといえばイベントも作っている人というイメージは強くあります。プロデューサーというと「番組を取り仕切る人」という感じかなと思っていたので、お話を聞くと肩書きから想像できる仕事のもっと外側にあることにも関わられているのですね。
実は以前違う局で働いていたのですが、ここまで放送と事業を絡めながら進めていくラジオ局はないかなと思います。先日の『MEET THE WORLD BEAT』(FM802が万博記念公園で毎年開催している名物イベント)でも「最近フェスやイベントがたくさんあるけれど、35年前にFM802は万博記念公園を会場にフェスをやり始めて、その時代から新しいものを作っていくというマインドは局内にあった」という話が出ていました。「いかに新しいものを作れるか」ということは常にFM802で働くみんなが考えてきたことなのかなと思いますね。
――本田さんがおっしゃった「放送と事業」という言葉がすごく腑に落ちました。例えばテレビ局などでは、番組に関わる部署とイベント関連の部署は別なところがほとんどなのではないでしょうか。FM802はそのふたつが一緒になっていると。
FM802は本当にイベントをたくさん開催していて、新卒採用の面接でも「イベント業務に携わりたい」と希望する人が多いと聞きます。でも、あくまでイベントは放送ありきのものだと考えていて、それ以前にそもそも放送は何のためにしていることかというと、関西の街のためでもあると思うんですね。番組を作っている自分たちとしては、アーティストの存在と彼らの音楽をいかに関西の街に届けるかが命題なんです。それを軸に普段の放送を作っているのでその延長線上でイベントを開催することで、例えばオムニバスライブだとしたら目当てのアーティスト以外にも偶然のいい出会いがあるかもしれない。それがその偶然に出会えたアーティストの次のライブの動員につながることもある。それにイベント開催までの放送でもファンを増やす仕掛けを作って、イベント当日には思いがけない出会いがあって、そういう新しい音楽との出会いがまた放送に戻ってくることにもつながる。私たちはそのサイクルを大事にしています。あくまでも放送があって、アーティストを含めていい循環で一巡させるサイクルの中にイベントがある。その立ち位置だけは見失わないようにきっちりと放送に軸足を置いています。
――そのお話を聞くと、プロデューサーさんが番組を取り仕切りつつイベントも企画するというのは、かくあるべきという気がしてきます。
サイクルという話でいうと、アーティストとの関係性にもいい循環があるんです。彼らが駆け出しの頃から放送やヘビーローテーションなどを通して放送でご一緒することから始まって、その流れからイベント出演や番組へのコメント出演もスムーズに行えるようになります。アーティストと私たちのストーリーが、番組を通してちゃんとできていくんですよね。
――番組という基盤があるからこそですね。
FM802で番組作りの基本にしているのは、「自分たちがいいと思うアーティストを紹介すること」なんです。当たり前だろうと思われるかもしれませんが、DJも番組ディレクターも私たちプロデューサーも、アーティストのライブに足を運んで生のパフォーマンスを見て、本当にいいと思ったアーティストを厳選して紹介しています。直接見ているからこそ「なぜいいと思ったか」という生の言葉を放送の際に添えることができるんですね。SNS上だけで知った音楽は正直判断ができないので、自分たちが何を見てどう感じたのか。それは大切にしています。
FM802プロデューサー・本田瑞葉
――そういうFM802の方針や大事にしていることは、入社してから仕事を重ねる上で気づいたこともたくさんあるのでは? とも思います。少し時間を戻したお話になりますが、本田さんがFM802に入社したキッカケを伺えますか?
実は私、進学で関西に来るまでラジオとは特に縁がありませんでした。でも関西に来たら、周りの友人たちが802の話をしていたんですよ。「802って何?」と聞いたら、ラジオ局だと。ラジオ局の名前が同世代の友人の会話に出てくることにも驚きました。地方ではラジオ局が話題に上がることはなかったですし。
――ある意味カルチャーショックですね。
はい。802がラジオ局であると知ってから聞くようになったんですけど、常にポジティブ全開の番組が放送されていて、元気にもなれるし新しい曲を知るキッカケにもなるし、そういった発見や驚きが憧れに変わっていって、新卒で地元のラジオ局に入社したのですが、その後も憧れ続けていました。入社した局でもいろいろな方が802のすごさを語っているところに居合わせたりして。
――憧れとは、具体的にどんなことだったのでしょうか。
地方には来ないアーティストが802の番組ではDJともすごく近い関係性で話していたり、もちろんイベントもたくさん主催していますし、802にしかない、802の先輩が創ってきたアドバンテージがあるような感じがしていたのかな。それと802は情報を掴みに行くのが早いんです。そういう憧れがありました。
――ちなみに今はプロデューサーになって何年ですか?
2018年にプロデューサーデビューをしたので8年目ですね。
●万博がある都市のミュージックステーションである私たちも、今なら世界とつながることができるかもしれない
FM802プロデューサー・本田瑞葉
――そんなプロデューサー8年目の2025年、6月1日(日)というFM802の36回目の開局記念日に本田さんがプロデュースされる特番の放送が、そして6月6日(金)には大阪城ホールで本田さんの企画によるライブイベントが開催されます。このふたつのコンテンツに共通しているのが「世界とつながる」というテーマなのですが、まずお聞きしたいのは現状の日本の音楽の世界への伝わり方はどう見ていますか? ということです。
今どのように世界に伝わっているかは、自分の主観になってしまうので一概には言えないのですが……。ただ理想としては日本以外でも生活の中に存在している音楽だったらいいなと思いました。私たちが日常の生活の中で偶然出会ったり、802であれば放送の選曲に入っている音楽のような。好きだから出会える音楽でなく、自然と毎日の中に組み込まれている音になればいいなと1人の日本の音楽ファンとしては思います。
それは最近海外の方にインタビューをしていた時にすごく感じたことです。
――そういう現状を見ている本田さんが、「世界とつながる」ことをテーマに掲げて特番とイベントの制作をしようと考えた経緯を伺えますか?
FM802では大阪のステーションとして、『大阪・関西万博』イヤーに何かできることがないだろうかという話はずっとあがっていました。ただ、いきなりイベントだけが立ち上がってもどこにもつながっていかないので、始めるならばきちんとしたストーリーが必要だろうと。いろいろなことを模索していた中で、やはり『大阪・関西万博』からイメージできる「世界とつながる」というキーワードはとても大きなもので、通常なら何事でも東京が一番手として挙がるけれども万博イヤーであればこそ大阪が一番手になることができるはずだと。万博がある都市のミュージックステーションである私たちも、今なら世界とつながることができるかもしれないというのが始まりでした。
――なるほど、そういうことが起点になっているんですね。まず6月1日(日)に放送を迎える『Hello to the World!!』ですが、DJの大抜卓人さんが世界のラジオ局の方にインタビューする企画だと伺いました。もう少し内容をご紹介いただけますか。
今回、大抜がインドネシアとタイ、そして台湾のDJさんと韓国の番組プロデューサーの方に日本のアーティストにまつわるインタビューをさせていただきました。放送後の6月6日(金)のイベントに出演するのが4アーティスト、そしてインタビュー可能なラジオ局も4局ということで、それぞれの国に1アーティストずつを振り分けてそのアーティストにどういう印象を持っているか、音楽を聴いてどんなことを思ったかなどを伺っています。
――インタビューの趣旨を国と文化が違うみなさんに説明するのも大変そうです。
いや、そうでもなかったんですよ。この特番の前にレギュラー放送している『THE NAKAJIMA HIROTO SHOW 802 RADIO MASTERS』内のコーナーで『MUSIC MATE』(毎週水曜・17時台に放送)という海外のカルチャーや音楽を共有する企画を続けているのですが、それをキッカケにやり取りが始まったラジオ局のみなさんなんです。今回の企画内容とアーティスト名を伝えたら「面白そう! そのアーティストなら知っているし、僕らも話ができるよ」と全局から返事があったんです。あぁ、これならいけそうだねと実現に向けて走り出しました。
――インドネシア、タイ、台湾、韓国という並びは同じアジアの国々なのに見事に言語もバラバラでとても面白そうです。
そうなんです。放送時間の1時間を15分弱ほどに分けて、各国のインタビューをお届けします。
――我々日本人はもちろんですけど、関西で暮らしているそれぞれの国の方々や旅行中の現地の方にも刺さる可能性があるいい企画ですよね。
はい。今回FM COCOLOのDJにも通訳をお願いしたりしているんです。多言語放送も特徴のひとつであるFM COCOLOは、FM802と兄弟局にあたります。その点を活かすことができました。
――実際に本田さんが各国のインタビューを聞いてみて、発見や驚きはありましたか?
こちらで番組を担当するのはFM802の看板DJである大抜なのですが、先方のDJさんも各局の一番手の方が登場されます。DJとしてのレベルがとても高くて! まずはそこに驚きました。
――ということはインドネシアの、そしてタイと台湾の大抜卓人さんが登場すると。
ほんと、そうなんですよ……! 番組ディレクターも私と同じことに驚いていました。各局お話いただくのは朝の帯や長時間番組を担当しているDJさんです。みなさん母国語プラス英語、あとは日本語も少しできる方もいらっしゃって、多才ぶりはもちろんトークのスピード感やテンション感もグッとくるものがありました。そんな方々とやりとりをしている大抜にも改めてリスペクトを感じて、すごい人はまだまだいるんだ……! という感動と刺激をもらえましたね。
――刺激たっぷりのその番組が、6月6日(金)のイベントのプロローグになるんですよね。
イベントにご来場いただく前に、なぜこういうアーティストのラインアップになったのかも含めて私たちの意図が伝わればいいなという思いもあって、事前に特番を放送することにしました。それと世界から見た今回の出演アーティストの話を聞かせてもらうことで、彼ら自身が持つ強さも伝わって欲しいなと思っています。
● このイベントを「大阪城ホールで開催する」ことが重要だとも考えている
FM802プロデューサー・本田瑞葉
――なるほど。そして6月6日(金)、『OSAKA MUSIC LOVER -LIVE TO THE WORLD-supported by アサヒスーパードライ WITH MASSIVE BEATS OSAKA』@大阪城ホールがイベント本番を迎えます。出演がASIAN KUNG-FU GENERATION、10-FEET、Perfume、羊文学なのですが……それにしてもこの4組、よくスケジュールが合ったなと思えるほど全組ビッグアーティストですし、すでに世界とつながっている方たちでもあります。
音楽のジャンルもそれぞれですし、本当に奇跡の4組ですよね。ただ音楽のジャンルはそれぞれでも、実はみなさん表にはでないところでの関係性も含めてつながっている部分があるアーティストさんたちなんです。お互いが楽曲のファンだったり、コラボしていたり、プライベートでの関係性があったり。一見バラバラなブッキングに見えて、実はちゃんとつながっている。そういう「つながり」も大切にしたい点です。
――ただ、来場されるお客さんはそれぞれのファンだとくっきりと見えてくるような気がしますね。特にファッションなどで誰のファンか一目瞭然な感じになりそうです。
確かにお客さんを見ているだけでもすごく楽しいかもしれません。あと今回出演していただく4組に関してはDJ、ディレクターらスタッフを含めて年間だけでもおびただしい本数のライブを見ているアーティストなんです。常に局内で「今日もいいライブだった!」という声が聞こえてくるアーティストの代表格と言いますか。そういうこともオファーさせていただくにあたって重要視しました。
――この4組が「世界とつながる」ことをテーマにセットリストを組むなら……自然とヒットソングが盛り込まれたベスト的セットリストがそれぞれできあがるのでは? と期待してしまいます。
期待しちゃいますよね! それと、私たちとしてはこのイベントを「大阪城ホールで開催する」ことが重要だとも考えているんです。
――と言いますと?
やっぱり大阪城ホールは本当にアーティストのライブの音が綺麗に響く会場なので、音の環境で言うとベストかなと思うんです。個人的には今回の出演アーティストのライブやフェスに出演しているのを何組か海外でも見ているのですが、日本の、そして大阪城ホールなら、彼らのワンマンにより近い音の環境でライブを楽しんでもらうことができると思います。
――音がいいというのはライブにおける本当に重要事項ですしね。そして個人的に気になっていることではあるのですが、FM802が企画しているイベントであるからこそ「ライブだけで終わらないはずだ」と思っている節があります。ライブの前後になんらかの演出を挟み込んで、ショーとしても成り立たせるのだろうなというか。今お話いただける当日の演出プランはありますか?
実は今回イメージキャラクターがいるんです。
――イベントの公式ホームページのトップで見られるイラストですかね?
はい。彼らが全編を通してキーになる映像を制作しているので、お楽しみになさってください。あと試みとしては、全編英語というわけではありませんが本当に優しい英語を織り交ぜつついろいろな言語が空間の中で交わっていくような……ディレクターがうまい言葉で表していたのは、まるで空港にいるかのような感覚になれるようなワクワク感を演出できたらいいなと考えています。
――聞けば聞くほど楽しみです。ただ、このイベントはあくまでも始まりであって「世界とつながる」ことは、今『大阪・関西万博』を開催している大阪にとってもこれから重要なテーマになっていくと思います。本田さん自身、今回の番組の放送とイベントの開催で第一の扉を開けた後のことは、どのように考えられていますか?
今回の番組とイベントを機に生まれる、新しいサイクルを大切につないでいきたいですね。アーティストや音楽を大切にしている人と常にコミュニケーションや輪を持つことで、日本のアーティストがその国でワンマンを実現させる前にもしかしたらインタビューで先に出させてもらえるかもしれないし。逆にその国のアーティストが大阪公演をしますという時にはFM802に来てもらうという次のサイクルが生まれるかもしれない。普段の放送サイクルの中にまた新しいサイクルを作って、丁寧にひとつずつ重ねていけたらいいなと思っています。
FM802プロデューサー・本田瑞葉
取材・文=桃井麻依子 写真=キョートタナカ