万博を機に出会う新しいポーランドジャズ『Jazz From Poland in Japan 2025』エアブス、HOSHIIら注目アーティスト集結
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マルタ・カルシ=芦田、内田絢子(FM802 DJ)
『Jazz From Poland in Japan 2025』。このイベントが描き出すのは、多くの日本人が抱く「ポーランドジャズ=70年代」というイメージを鮮やかに塗り替える、現代のサウンドスケープだ。ヒップホップと交わる先鋭的なビート、プログレッシブロックの魂を宿す泣きのバイオリン、ラテンの情熱とエレガンスと兼ね備えたピアノ。ポーランドのジャズは、スラヴの哀愁の要素が遺伝子に刻まれている。セクションごとに全く違う景色を見せるその音楽は、ジャンルの壁をいとも簡単に飛び越えていく。その舵を取るのが、元ポーランド広報文化センター副所長のマルタ・カルシ=芦田氏とアーティスティックディレクターのアシャ・ピェチコラン。「ジャズは難しい音楽じゃない。誰でも楽しめるもの」。その言葉通り、彼女が語る音楽への愛は、シーンへの確信に満ちている。今回のインタビューでは、大阪・関西万博という大きな舞台を巻き込み、この壮大な企画をどう実現させたのか、その道のりをFM802 DJ内田絢子が紐解いていく。来日アーティストたちの魅力、そして日本の音楽シーンへの想いまで。彼女の熱い言葉から、ポーランドジャズの「今」を感じてほしい。
内田絢子(FM802 DJ)
内田:今日はマルタさんに『Jazz From Poland in Japan 2025』について、色々お話を聞きたいと思います。まずはポーランドジャズについて教えてください。
マルタ:ジャズってすごく幅広い音楽なんですよね。特に今回のラインナップを見ても、ヒップホップ、民族音楽、クラシック、ロックからも影響を受けているアーティストたちです。ポーランドジャズは即興が独特なので、そういうところに注目してもらえると味がわかってくると思います。
内田:なるほど!今回『Jazz From Poland in Japan 2025』を開催しようと思った経緯を教えてください。
チラシデータ
マルタ:2009年から2017年まで、私がポーランド駐日大使館の広報文化センターの副所長を務めていて、私は音楽が好きなので音楽の企画を担当していました。日本に来る前にもシンフォニーオーケストラのマネージメントをやっていたり、国際文化交流でいろんなジャンルのコンサート企画をやっていました。でもジャズは企画するのがすごく難しくて。ポーランドのジャズは日本のジャズと違う気がしています。
内田:どういった違いがあるのでしょうか。
マルタ:日本ではアメリカのジャズ、とくにニューオーリンズなどの影響が強いのですが、そもそもの“聴かれ方”にも差があると思います。ポーランドでは、ジャズはもっと普通のバンドの音楽として受け止められていて、ジャズフェスでなくても一般の音楽フェスにジャズのバンドが出演し、みんながそこで楽しむ。そういう文化が一般的です。 一方、日本にはジャズ喫茶の文化があり、それがジャズの聴き方の基準を少し変えたというか、優れたオーディオ機器でじっくり音に向き合う、オーディオマニア的な楽しみ方が根づいています。ポーランドは、そこまでサウンドに没入して聴く”というより、生の演奏を体験して楽しむ文化が主流だと思います。 もちろんポーランドにもブルーノートのようなおしゃれな店はありますが、そうしたクラブの雰囲気も日本とは少し違う印象です。
内田:なるほど。
マルタ・カルシ=芦田
マルタ: 例えばポーランドの若いバンド、エアブスはヒップホップなどを取り入れていて、10年前のデビュー当初は「これはジャズじゃない」という声も多かったんです。ですが、彼らはポーランドの伝説的なジャズ奏者を敬意をもって掘り下げ、その音楽を自分たちなりに取り入れながら、少しずつ壁を壊していった。結果として、この10年で彼らのやっている音楽がジャズのひとつのスタイルとして受け入れられるようになり、いまではポーランドを代表する人気ジャズバンドになっています。ヨーロッパ各地でもよくツアーしています。
内田:そういったポーランドジャズの楽しみ方みたいなものを、今回日本でもみんなに感じて欲しいというのがキッカケだったんですね。
マルタ:ジャズのアーティストを日本に招くのは、編成の人数が多く、ステージの条件もあるため、なかなか難しいんです。今回のバンドもほとんどが初来日で、知名度があまりない中で、お客様に来ていただくハードルもあります。 以前、日本の広報文化センターで働いていた時は、年に1回くらいのペースでジャズのアーティストを招いていました。今回はちょうど大阪で万博が開催されていて、ポーランド投資・貿易庁がポーランド・パビリオンを運営しつつ、パビリオン外でもポーランドのアーティストや文化を紹介する企画を進めています。さらに同時期に、ポーランドの有名なDJフェスティバルが大阪で開かれ、8月の最後の1週間は「ショパン・ウィーク」としてショパン関連のイベントも多数開催されています。これまで日本では実現が難しかった企画も、万博をキッカケに実現できるかもしれないと思い、今回のジャズ企画をポーランド投資貿易庁に提案しました。
内田:確かに、大阪・関西万博には多くの方が来場されますし、その流れで自然とポーランドの文化にも触れていただけます。ポーランドといえばショパンのイメージがありますし、パビリオンでもショパンの音楽が流れていますよね。そうした導線に誘われて、自然にポーランド・ジャズにも関心を持ち、触れてくださる方がたくさんいらっしゃりそうです。今回、大阪関西万博のポーランド館では9月4日(木)から10日(水)まで毎日30分のアコースティックライブが行われるんですよね。
マルタ:ポーランドパビリオンには50人くらいの小さなコンサートホールがあって、そこにピアノが置いてあるので、今回来日しているメンバーがアコースティックライブとかシンプルな形で1日3回、30分の演奏をします。
内田:じゃあ、フラッと万博に遊びに来られた方々もこちらはご覧いただけるんですね。今回来日されるアーティストはどういった方々でしょうか。ポーランドでもビッグアーティストと呼ばれる方々が参加されるのでしょうか。
内田絢子(FM802 DJ)
マルタ:今回の出演者は、全員がすでに確かなキャリアを持つ実力派です。誰か一人を「一番」と位置づけるというより、それぞれが異なるスタイルのジャズを提示しており、いずれもポーランド国内で一定の知名度と実績を持つアーティストばかりです。このラインナップが一堂に会するフェスは、ポーランド国内でもほとんどありません。そのため現地メディアでも大きな話題になっていて、公共放送や主要ラジオ局でもこのフェスティバルが取り上げられています。
内田:今回、日本にポーランドの有名ジャズ・アーティストが集結しているということで、ぜひさまざまな形で触れていただきたいですね。先ほどマルタさんがおっしゃっていたように、ジャズと他ジャンルを組み合わせたサウンドや、面白い掛け合わせも多いとのこと。そこで、各アーティストの「ここがすごい」というポイントを、いくつか教えていただけますか。
チラシデータ
マルタ:エアブスは日本にまだ来日したことがないのですが、彼らの音楽はSNSなどを見ると広がっているなと思います。
内田:確かに大阪の街のグルーヴに合いそうだなと思います。
マルタ:アガ・デルラクはピアニストで、ラテンのエッセンスを取り入れたサウンドが持ち味です。ダニーロ・ペレスに師事しており、音楽はとても洗練されていてエレガント。同時に情熱的な表現力もあって、すごくおしゃれでエレガントで情熱的な女性です。
内田:優雅で美しい感じもありつつ、いろんな楽器の音も入ってきて、すごく多彩な音を広げてくださる印象でした。
マルタ:今回はアガ・デルラク・トリオとして出演します。あとHOSHIIは日本からの影響を強く受けたエレクトロニック志向のバンドで、多層的なエレクトロニック・サウンドを駆使して楽曲を構築します。リーダーのクバ・ヴィエンツェクはこれまでに3度の来日経験があり、別プロジェクトで日本で演奏したこともありますが、現メンバーでは今回が初来日です。サウンドは軽やかで、夏の風を感じさせるような心地よいバイブスが魅力です。
内田絢子(FM802 DJ)、マルタ・カルシ=芦田
内田:HOSHIIは9月10日(水)の梅田CLUB QUATTROに登場するので、夜、みんなお酒を片手に踊るような雰囲気になるのかなと想像したりしています。このHOSHIIと同じ日に出演するのがパウリナ・プシビシュ。
マルタ:パウリナ・プシビシュはスタートがR&Bだったんです。近年は表現の幅を広げたいという思いから別ジャンルにも挑戦し、今年ついに初のジャズ・アルバムをリリースしました。その前からすでにジャズ系アーティストとの共演やレコーディングを重ねており、その積み重ねが自然と自身のジャズ作品につながった形です。
内田:トマシュ・ヒワ・クインテットも9日(火)にエアブスと同じ日に梅田CLUB QUATTROに登場します。
マルタ:トマシュ・ヒワ・クインテットは、私もとても好きなバンドです。プログレッシブ・ロックの影響が色濃く、いわゆる“泣きのギター”的な情感を、バイオリンで表現しているのが魅力。リーダーのトマシュは音大でクラシックを学びつつ、ルーツにはロック/プログレがあり、その嗜好がジャズロック的なサウンドづくりに生かされています。ポーランドにはジャズ・バイオリンの伝統があり、ズビグニェフ・ザイフェルトという伝説的奏者の名を冠したジャズ・バイオリン・コンクールも2年毎に開催されています。演奏は重厚でドラマチック、どこかディープな感触があって、とても惹きつけられます。
内田:バイオリンが加わることで、音の深みにどっぷり浸れる感覚がありますよね。トマシュ・ヒワ・クインテットと、先ほどお話に出たエアブスは、クワトロで同じ日にご覧いただけますので、このあたりもぜひチェックしてみてください。さらに、梅田のBLUE YARDでも9月4日(木)、5日(金)、6日(土)と、それぞれ豪華なラインナップが揃っています。お食事を楽しみながらライブを楽しみながらジャズを味わっていただける優雅な空気が味わえると思います。大阪関西万博で楽しめるジャズ、さらにBLUE YARD、CLUB QUATTROでそれぞれ楽しんでいただくことでポーランドジャズのイメージがすごく変わりそうな気がします。
マルタ:それを願っています。日本ではポーランドジャズというと、1970年代の名演のイメージが強いですよね。もちろん素晴らしいのですが、時代は変わり、今のポーランドで音楽を作っている世代の表現はまた別物です。70年代当時のポーランドは社会主義体制下で、今とはまったく異なる状況でした。だからこそ、「今のポーランドジャズがどんな音楽か」を知りたい方には、今回のライブを聴いていただくのが近道だと思います。一度でポーランドジャズのすべてを網羅できるわけではありませんが、7〜8割くらいは雰囲気をつかんでいただけるはずです。
内田:ジャズのイメージが変わりそうだなというのも思いましたし、ポーランドのジャズがどんどん現代に向けて変化していく様子が味わえそうですもんね。
マルタ:日本でも、今の若い世代にはとても面白いジャズを生み出しているミュージシャンがたくさんいます。ジャズは“堅くて難解な音楽”ではなく、誰でも楽しめる音楽だということを、このフェスティバルを通して伝えられたら、彼らがより活動しやすくなるキッカケにもなるのでは、という思いも心の奥にあります。もちろん、どれだけ多くの方に楽しんでいただけるかにかかっていますが、日本のミュージシャンも日々苦労しているので、今回を機に少しでもエネルギーを受け取ってもらえたら本当にうれしいです。
内田:日本のアーティストともフィットするようなルーツも見つかりそうですし、大阪の街にフィットしそうなサウンドもありますし、新たな化学反応が生まれるかもしれないですね。
マルタ:日本のミュージシャンのライブを観たりして、交流ができれば嬉しいですね。いつかポーランドで日本のジャズのフェスティバルを企画できたらと思っています。
内田:この1週間はポーランドジャズに出会えるので、音に誘われるように、皆さんに出会ってほしいですね。
マルタ・カルシ=芦田
マルタ:そうですね。あと東京でも3カ所でコンサートがあります。本当は東京でももっと公演を企画したかったのですが、予算の都合で難しくて……。ただ、ポーランド広報文化センターのご協力により、東京での3公演は開催できることになりました。是非、足を運んでいただけたらとてもうれしいです。
内田:万博には今、全国から多くの方がいらっしゃっていますし、さまざまな“出会いの機会”のひとつにもなりそうですよね。大阪・関西万博のポーランド館でのライブも、今ご紹介いただいたアーティストが日替わりや多彩な組み合わせで登場します。その日その日のお楽しみとして、毎回違う化学反応が見られそうですし、音源で聴くのとはまた違う、ライブならではの熱量を体感していただけるはず。ぜひ多くの方にご覧いただきたいです。最後に、この記事を読んでくださっている皆さまへ、マルタさんからひと言メッセージをお願いします。
マルタ:皆さんにライブへ足を運んでいただき、楽しい時間を過ごしていただけたら、それが何よりうれしいです。この音楽がキッカケで新しい発見や経験が生まれ、ポーランドのイメージが少しでも広がればと思います。ぜひ他のポーランドのアーティストにも目を向けてほしいです。 また、ポーランドにはジャズフェスはもちろん、ジャズ以外の音楽フェスもたくさんあります。是非、ポーランドにも遊びに来てほしいです。
内田:今日はたくさんお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
内田絢子(FM802 DJ)、マルタ・カルシ=芦田
取材=内田絢子(FM802 DJ) 文=SPICE 撮影=福家信哉
イベント情報
2025年9月4日(木)〜2025年9月10日(水)大阪・関西万博ポーランド館
2025年9月4日(木)〜2025年9月6日(土)BLUE YARD
2025年9月7日(日)SPACE14
2025年9月9日(火)・10日(水)梅田CLUB QUATTRO
2025年9月11日(木)Brooklyn Parlor
2025年9月12日(金)晴れたら空に豆まいて
2025年9月13日(土)Cafe, Dining & Bar 104.5
共催:ポーランド広報文化センター
後援:FM COCOLO / FM802
コーデイネーター:MKProject
EXPO2025大阪の期間中にポーランド文化を促進するプロジェクトの一つであり、
ポーランド貿易投資庁(PAIH)が実施しています。