恋はまっすぐ歩けない。恋とタイポグラフィーが融合した『恋するタイポ展』レポート
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『恋するタイポ展』
「恋」というワードを聞いて、何を思い浮かべるだろうか? 筆者はダンスが流行したあの楽曲を思い出すが、リリースが2016年というから驚きだ。あれから9年経った令和の今、身近な人への恋愛感情はもちろん、俳優やアーティストへの恋、二次元のキャラクターへの恋など、恋愛のスタイルはさらに多様化している。そんな“恋”をタイポグラフィーで表現する展覧会『恋するタイポ展』が、2025年9月23日(火・祝)までPARCO FACTORY(池袋PARCO 本館7F)にて開催中だ。企画制作者のコメントも交えながら、その魅力をお届けしよう。
ポップに弾ける、恋のパワーワード
会場入り口からも見える、ピンクの壁面に輝くネオンが目印だ。受付ではパルコの会員サービス「PARCOメンバーズ」に登録すると、オリジナルのチロルチョコレートを2つ貰える。3種類あるので、好きな絵柄をぜひゲットしよう。
展示空間を手がけたのは、自在な発想で新しい価値体験をつくるクリエイティブスタジオ、アシタノシカクに所属する女性デザイナー二人のタイポデザインユニット 「もっと、愛TYPO。」だ。「過去には2024年に神戸市で開催した『パワーワード展』や、自社ギャラリーで開催した『アシタノタイポ展』が反響を呼びました。そこで、パワーのある言葉とタイポグラフィーを掛け合わせたら面白いのではないかと思い、社内の女性デザイナー二人とチームを組み、今回の企画に至ったのです」とクリエイティブディレクターの大垣ガク氏は話す。
オリジナルのチロルチョコレート
「恋はまっすぐ歩けない。」が序章のテーマ。恋のときめきや苦悩に翻弄され、ジグザグに角を曲がったり、立ち止まったりしながら進んでいく様子を交通標識やカーブミラーで表している。「恋の感情はジェットコースターのようにいろいろな変化があることを表現したいと思い、意識して空間作りを行いました」と、「もっと、愛TYPO。」のモトバチヒロ氏とヨドカワ愛奈氏は紹介する。
あちこちに見えるのは恋に関するパンチの効いた言葉たち。“好きすぎてむり”や“大丈夫じゃないです!”といったインパクトのある表現に、つい心の中で「そう、それ!」「わかるわかる!」と共感しながら進んでいく。
会場風景
恋をすると歌を詠みたくなるのは、昔も今も変わらない。「恋短歌」のコーナーでは、名手として知られる6名の歌人による恋の歌を展示している。文字が末尾に向かって微かに曲がっているニュアンスは、まるで移ろい揺れ動く心そのもの。恋はまっすぐ歩けない、にも通じる複雑な心のうちを絶妙に表しているようだ。
会場風景
個人的に面白いと思ったのは、昭和と令和の恋愛ワードの比較だ。それぞれの書体からは昭和レトロや現代らしさを感じられ、魅力あるタイポデザイン自体にも興味が湧いてくる。
会場風景
ハッピーなだけが、恋じゃないから。
恋をすれば戸惑うことも、不安になることもある。ときには自分を見失いそうになったり、ダークサイドに堕ちていったりするのも恋ならでは。そんな気持ちの浮き沈みを表した「恋の闇部屋」コーナーでは、ハートが深い沼にずぶずぶと沈み込むようなデザインやドロドロした感情表現が印象的だ。ここにある仕掛けつきの覗き穴は、ぜひ会場で覗いてみてほしい。
会場風景
不穏さから一点、再びポップな世界に戻ってくると来場者がシールを貼って参加できる大きなボードがある。果たして池袋会場を訪れる人々の恋愛傾向はどうなのか、ちょっとした社会実験のようにも思えて楽しい。
会場風景
会場風景
推し、好き、尊い!最後は叫んで!
思わず心がときめいたのは、「推しタイポ」コーナーの壁面に飾られたキュートなぬいぐるみたち。よく見ると「推」「神」などの漢字になっていて、タイポグラフィーの表現の多彩さに驚かされる。
会場風景
そして最後にグッと来たのは、「褒めタイポ」「叫びタイポ」のコーナー。「もっと、愛TYPO。」の二人曰く「例えば、彼女に連れられてきた男性にも楽しんでもらえるような、恋以外の要素も入れてみた」とのことで独立した章ではあるが、むしろこのテーマがここにある意義が“恋”の総括として大きいと思った。
恋をして突っ走ったり、なかなか前に進めずに煩悶したり、人知れず悩み苦しんだり……そんな自分こそ尊いし、生きているだけでえらい!と自己肯定感を高めてくれる。恋愛感情として他者に向いていたベクトルが、ここで一気に自分に向くのだ。恋とか愛とか、そういうフィーリングを相手に注いでばかりいたけれど、本当は自分自身が愛されたいし褒められたいよね、と語りかけてくるかのよう。そして、もう何でもいいから叫ばせてくれ!と振り切らせてくれるフォトスポットで遊び尽くせる。
会場風景
恋のパワーワードを形にしたオリジナルグッズもお見逃しなく。恋するグッズをお守りのように身につけていればきっと、「今日も自分、恋してるなぁ」とほのかな想いやエネルギッシュなマインドを自分なりに再確認できるだろう。
オリジナルグッズ
恋愛成就や縁結びを想像させる、神社をモチーフにした「パル恋神社」の装飾もユニークだ。ご利益を願ってガチャガチャで「恋みくじ」を引いてみよう。気の置けない友人同士で、お互いのおみくじを見せ合うのも楽しそうだ。
会場風景
「何か一つでも心に響き、共感するものを見つけてもらえたらいいなと思います」と大垣氏。ここでご紹介した展示や装飾はごく一部で、全貌はぜひ現地でお楽しみいただきたい。『恋するタイポ展』は9月23日(火・祝)まで、PARCO FACTORY(池袋PARCO 本館7F)にて開催中。
文・写真=さつま瑠璃
イベント情報
◆会期:2025年9月5日[金]~9月23日[火・祝]
◆開館時間:午前11時~午後9時
※最終日18:00閉場 ※最終入場閉場30分前
◆会場:PARCO FACTORY(池袋PARCO 本館7F)
◆主催:PARCO
企画制作: PARCO/アシタノシカク フォント協力:モリサワ ©アシタノシカク ,もっと、愛TYPO。