より純粋に音楽を楽しむ姿勢と10年の付加価値 おいしくるメロンパンのメジャーデビューアルバム『bouquet』インタビュー
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おいしくるメロンパン
6月に開催した「おいしくるメロンパン antique tour -貝殻の上を歩いて-」のツアーファイナルである初の日比谷野外音楽堂ワンマンでメジャーデビューを発表。3ピースバンドのポテンシャルを拡張する緻密さとポップさを兼ね備えた音楽性を自由に作り続けてきたこのバンドの新たな一歩として腑に落ちつつ、そのままでも音楽性を更新できるのでは?という意外性も感じる決断でもあった。今回は10年にして10作目となるミニアルバム『bouquet』収録曲を軸においしくるメロンパンの現在地をメンバー3人に確かめてみた。
――改めてメジャーデビューの経緯をお訊きしてもいいですか?
ナカシマ(Gt/Vo):意外と言えば意外でしたね。というのもあんまりメジャーデビューする必要性を感じずにずっと活動してきたので。本当にやりたいことをやって音楽楽しいからこれでいいよねっていう感覚だったんですけれども、まあ10年インディーズでやってみて、もうインディーズでやれることもだいたいやったし、ちょっと考え方を変えてというか環境を変えてやってみるのもいいなと思っていたタイミングで、お話が来たのでメジャーデビューする運びになりましたね。
――環境というと、活動やライブなどのキャパシティ的なこととかですか?
ナカシマ:それもありますし、自分たちの世界観を確立するっていうところで、外からの力や影響を受けずにやりたいようにしっかりと自由に表現をしてきたっていうことがあって、それで一周回った感覚があって。次もう1周目に入るタイミングで、ちょっと環境を変えてっていうのは面白いなと思ったんで、メジャーデビューするのはありだなと思ってという感じですね。
ナカシマ(Gt/Vo)
――メジャーデビューを発表した6月の日比谷野外音楽堂でのライブも拝見したんですけど、改めてあの日の印象的なことはありましたか?
ナカシマ:『antique』という作品が今までアレンジしたものの上に、集大成のように表現したいものの終着点として作った作品だったので、それをライブでもしっかりと演奏やセットリストを通して届けることができたなという感覚はありました。なので、すごく達成感がありましたね。
――『antique』がインディーズでの一旦の集大成ということですが、メジャーで最初のミニアルバムとなる『bouquet』はそこから地続きなところはありますか?それとも新しいもの?
ナカシマ:もちろん地続きなところはあるんですが、それまでやってきたものの上にというより、1回そういうものを全部忘れて初心に立ち返って作ってみたいなと思って作った作品なので、ある種本当に1枚目っていう感覚は強くあって。何も縛られずに自由に作った作品だなと思ってます。
――『bouquet』に取り掛かるきっかけになった曲というと?
ナカシマ:「未完成に瞬いて」が一番最初にできていて、それが『フードコートで、また明日。』っていうアニメのタイアップ楽曲になってまして。それまでが割とファンタジーに寄った作風というか、コンセプチュアルなミニアルバムが多くてそういう流れでやってきたんで、ここでこの現実味があるというか、等身大っぽい「未完成に瞬いて」という楽曲ができて、一気にモードが変わったかなと思います。
――すごくポップなアニメですよね。
ナカシマ:そうですね。このアニメの中にもあるし、僕たちの中にもあるような要素や価値観の重なるところを歌にできればなと思って作った作品ですね。
――書き下ろしはしやすかったですか?
ナカシマ:「やってみたいな」という感覚はあったし、「できそうだな」という感覚もありました。マッチする部分はあるだろうし。
原 駿太郎(Dr)
――原さんと峯岸さんはこの曲の聴きどころはどこだと思いますか?
原 駿太郎(Dr):タイアップもあっていろんな人に聴いてもらえる曲になるだろうというのがあったので、聴き心地の良さみたいなのは気にしてはいて。Bメロはその心地よさを出すために、細かくスネアとかで刻んでいて、そこら辺は小気味よさを感じられて好きなところですね。
峯岸翔雪(Ba):ベースに関してはド頭ですね。この曲の第一印象であるし、顔になれと思ってあのフレーズを弾いたので、「聴けよ...!」という感じでやってます。ベース以外で言うと、フルができてから一聴した時にサビメロの「君に差す夕陽と同じ色に染まれたら」の「ま〜」で伸びるのが天才的だなと思っていて、そこです。
原:(笑)。
峯岸:ここのメロと歌詞のはまりと「そこでシンコペーションして伸びるんだ」っていうところが俺は声が出ました。「おわっ!」つって。
ナカシマ:ありがとうございます。
――ナカシマさんのボーカルの自由度の高さは全曲に感じます。曲作りのこだわりとしてはどんなところがポイントですか?
ナカシマ:コード進行をあまり変えない構成にしたいなと思っていて。で、BメロとかDメロだけはちょっと違うんですけど、それ以外はだいたい同じで進んでいて、それがあんまり起伏もない日々のイメージで、でもメロディや言葉でたまに目を引く瞬間がある、耳を奪われる瞬間があるっていう作りにしたくて、そういう風に作ってますね。あえてコード進行をドラマチックにはせずにっていう風には気をつけました。日常アニメなんで、その日常感というかユルさみたいなことを出せたらなと思ってそういうふうにしました。
――ナカシマさんがこれまで書いてきたものと比べるとだいぶファンタジーから日常に寄った内容ですが、日常を書く方がフィクションみたいなことはなかったですか?
ナカシマ:あー、それもないですね。もともとどっちのスタイルも持っていたので。最近のモード的にはファンタジー寄りな作品が多かったかなって感じですけれど、バンドを始めた頃はこういうものの方が多かったなって感じなんで、久しぶりにこういうユルさのあるような作品が出来て楽しかった感じです。
――アルバムの頭に戻って1曲目の「群青逃避行」。この曲にも出てくるんですが、今回“生簀(いけす)”という言葉が複数出てきます。
ナカシマ:うん。そうですね。
――今までもナカシマさんの歌詞の中に水槽など、水を規定するワードがあったと思うんですけど、生簀はちょっと自嘲的な言葉かなと思いました。
ナカシマ:まあ、そうですね。慣用句で「生簀の鯉」という言葉があって、それはどこにも行けずにあとは死を待つだけみたいな状態というか。その言葉をそのまま使っても良かったんですけど、敢えて生簀だけ採用したんです。でもこの「群青逃避行」の配信ジャケットは教室の中を鯉が泳いでるというもので、そこでちょっと説明している感じで使ってますね。
――水がある一定の場所にたまる様子がこの曲では生簀だったと。
ナカシマ:そうですね。これは教室を生簀に喩えて、無限に広がる海と閉ざされた狭い世界の教室という、その対比は書いてるんで、確かにその生簀っていう部分はかなり大きい要素というか、ポイントだなと思います。
――この曲でミニアルバムが始まるのも新鮮です。
ナカシマ:この曲をデビューシングルっていう形で打ち出したかったんで、ま、1曲目かなって感じですね。
――この曲はどう捉えていますか?
原:個人的には今までのおいしくるメロンパンの要素をいろんなところにバージョンアップして散りばめてある印象があって。なので『bouquet』の1曲目としてもぴったりだなって思います。
峯岸翔雪(Ba)
――2曲目の「誰もが密室にて息をする」は一転して、ここまでオルタナと言っていい曲は珍しいのではないかと。
ナカシマ:そうですね。
――どういうところから出てきた曲ですか?
ナカシマ:これはギターのリフから作った曲で。本当に振り切った曲を作りたいなと思って、そのリフの時点で結構振り切ったものができそうだなと思って、そこから情景だったりを想像しながら作った曲ですね。
――いわゆるポストロックともまた違ってて、もっとザラついた感じで。アレンジに関してはどういう取り組み方でしたか?
峯岸:ベースはですね、ずっと演奏しているフレーズはナカシマがデモを作って来てくれた時にもう出来上がっていたもので、それは変えないだろうと。途中でギターとユニゾンするフレーズも出てくるんですけど、そういうリフ的なところは変えずに細かいとこだけ僕が僕の味を出す感じでアレンジしたんですけど、基本的にアレンジは何も考えなかったですね。もう思い浮かぶ通りに弾いてみて、それで自分の中ではいいフレーズが出てきていたのでそれを録ってそのまま完成まで行った感じですね。
――それが大事そうな曲ですね。
峯岸:そうですね。今回は他の曲でもそうですけど、難しいことを考えずに出てきたものをやってみるみたいなとこがすべてに通じてありまして、5曲揃って聴いてみてもそういうところの雰囲気が生きているアルバムになっているなという印象を受けますね。
――次の「十七回忌」でまたトーンが変わりますが、このアルバム全体に感じることなんですが、少し主人公の視点がこれまでとは変わった感じがします。
ナカシマ:そうですね。10年やってきて、また同じ場所に帰ってきたみたいな感覚があるというか、表現したかったものの核の部分にもう一度向き合って作った作品なんですけど、やっぱり10年分の経験だったり自分の変化っていうものがあって、それがしっかりとここに出てるとは思いますね。やってることもやりたいことももちろんずっと変わらないんですけど、時間経過というところがちゃんと付加価値としてこの作品にあって、そこは10年やってきたからこそできる作品の作り方だなと思っていて。『bouquet』の良さだなと思いますね。
――原さんと峯岸さんが特に好きな曲というと?
原:僕は「誰もが密室にて息をする」が好きですね。今までなかなかなかった荒々しさが出てて、でもしっかりポップというかサビのメロがすごい好きで。なんて言うか気持ちいいんですよね、とにかく。楽器のフレーズもそうですけど、ただただ荒々しいだけじゃないところがすごく好きな曲ですね。
――緻密さと勢いを両立して瓦解しないのがおいしくるメロンパンの魅力だと思いますが、さらにこの曲はこれまでにない勢いがありますね。では峯岸さんは?
峯岸:総じて好きで、僕も「誰もが密室にて息をする」が特に好きなんですけども、同じ話をしてもあれなので「十七回忌」ですかね。このミニアルバムの中にこの曲があるのがそこはかとなくいいなと思いまして。なんだろう?そこはかとないし得も言われないんですけど(笑)。
――意外性はありますよね。
峯岸:うん。僕は自分たちのバンドの曲を音楽をもう音楽として聴いて情景を思い浮かべるみたいことがあんまりないんですけども、「十七回忌」に関しては情景が思い浮かぶんですよね。それでこの曲を「特別だな」って思っていて。これは今回のアルバム全体に言えることなんですけど、サウンド面に関しても肩肘張ってない。特にシンプルなバンドサウンドがあってその上にナカシマのいいメロディが乗っていて、おいしくるメロンパンの素朴な一番飾ってない場所の印象を受けまして、それがなんだかプレイヤーとしても嬉しいんですよね。説明できないんですけど、聴いてて「いいな。このバンドにとって意味のある曲だな。そして自分自身にとっても意味のある曲だな」と感じています。結構自分はベースのアレンジで我を出しに行くんですけど、この曲に関してはデモで上がってきた段階からあまりいじらずに作ったので、俯瞰して聴けるところもあるのかなとは思いますね。
――シンプルなことをやっておいしくるメロンパンらしくなる、そういう良さかなと。
峯岸:ありがとうございます。
おいしくるメロンパン
――10月からのZeppツアー「bouquettour -never ending blue-」はどんなツアーにしたいですか?
原:Zeppツアーだからとかじゃないですし常に思ってることではあるんですけど、今回は特にメジャーデビュー盤のツアーで初めて見てくれる方も多いと思うんで、おいしくるメロンパン、かっこよ!ギターすご!ベースすご!ドラムすご!とかもそうですし、こんなに音楽カッコいいんだと思わせたいなっていうのはずっとあるので、個人的にはそれがまず第一って感じですね。
峯岸:今までは1曲1曲に意味を込めて、作品全体にも意味を乗せようという気持ちがありながら作ってたんですけど、今回はそこよりも純粋に音楽をやっている感覚で作って、そういう盤が出来上がった上でのツアーなので、ライブも読み解かせる部分があるようなライブというよりはシンプルにライブとしてカッコいい、気持ちいい、楽しいという方向に寄ったライブになるかな、したいかなという気持ちでいます。
――曲順や演出も何か読み解かせるというよりは音楽を楽しむ為のものに?
峯岸:そっち寄りですね。もちろんおいしくるメロンパンの良さだと思うので、若干のエグみというか含みを持たせたところもあります。でも今までよりもシンプル、ストレートな部分をもうちょっと出していけたらいいのかな、ぐらいの感じで今思っていますね。
ナカシマ:『bouquet』って作品は等身大というか、今の自分たちがナチュラルにやりたいことをやっていて楽しいことが音にできた作品なので、ライブでもそういう風に等身大に自分たちが一番最初に楽しんでいるライブを見せて、見る人に楽しんでもらえたら一番嬉しいなとは思いますね。
取材・文=石角友香 撮影=大橋祐希
おいしくるメロンパン
ツアー情報
10月24日(金)Zepp Fukuoka
10月25日(土)Zepp Namba
10月31日(金)Zepp Nagoya
11月16日(日)Zepp Sapporo
11月28日(金)Zepp DiverCity
※税込・ドリンク代 別 / スタンディング
リリース情報
2025年10月1日(水)リリース
初回特装盤 : 2CD(「bouquet」5曲+Acoustic Bonus Disc 4曲)+Photo Book(56P)
TFCC-81155~81156/¥6,050(tax in)
初回映像盤 : CD+Blu-ray/TFCC-81157~81158/¥5,000(tax in)
通常盤 : CD/TFCC-81159/¥1,650(tax in)
・CD
https://oisiclemelonpan.lnk.to/pkg_bouquet
・配信
https://tf.lnk.to/bouquet
1.群青逃避行(MV)
2.誰もが密室にて息をする
3.十七回忌
4.未完成に瞬いて(MV)
5.クリームソーダ
1.桜の木の下には
2.紫陽花
3.dry flower
4.水仙
「おいしくるメロンパン antique tour – 貝殻の上を歩いて –」
2025年6月29日 日比谷野外大音楽堂
1.波打ち際のマーチ
2.look at the sea
3.千年鳥
4.灰羽
5.シュガーサーフ
6.Utopia
7.泡と魔女
8.沈丁花
9.額縁の中で
10.garuda
11.海馬の尻尾に小栴檀
12.透明造花
13.夜顔
14.空腹な動物のための
15.あの秋とスクールデイズ
16.水葬
17.渦巻く夏のフェルマータ
18.旧世界より
EN1.未完成に瞬いて
EN2.群青逃避行
EN3.色水