多和田任益、今年の“モンテ”は「勝負の公演」 『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン 2025』インタビュー
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多和田任益
『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン 2025』が2025年12月18日(木)~28日(日)、東京・紀伊國屋ホールにて上演される。2024年に上演された紀伊國屋ホール60周年記念公演と同じキャストが、再び『モンテカルロ・イリュージョン』に挑む。木村伝兵衛部長刑事を演じる多和田任益にとって、本作は「特別な作品」とのこと。再演への思いやお気に入りのナンバーなど、たっぷりと話を聞いた。
――再演決定おめでとうございます。報せを聞いた時のご心境は?
正直ビックリしましたね。もちろん、いつか再演できたらという想いはありましたが、こんなに早く実現できるとは思っていなくて。とても光栄な気持ちですし、しかも今回は“モンテ”単独で公演を打たせていただけるというのも大きな出来事。とても光栄な気持ちと、「ちょっとずつ“モンテ”の面白さが広がっているのかも!」という嬉しい思いがありました。
――情報解禁はご自身が振付で携わられた『革命ミュージカル「新・幕末純情伝」』のアフタートークで行われたそうですね。
速水健作刑事役の(嘉島)陸が出演していたご縁もあり、発表させていただきました。「わー!」と歓声を上げてくださった方もいらっしゃいましたし、初めて“モンテ”について知った方もいらっしゃったと思います。終演後に“モンテ”のチラシ配りを陸がしてくれていたんですが、(退場列が)詰まっていると聞いて途中から僕も一緒に配り始めました(笑)。そこで「見たことないけど行ってみます」と伝えてくださったり、「夢のようです」って言ってもらえたり。『新・幕末純情伝』は同じつかこうへい作品とはいえ“モンテ”とは毛色の違う作品だったので、会場にいらっしゃった方にも興味を持っていただけるきっかけになったのかなと。作品にとっても、自分にとっても特別な場所である紀伊国屋ホールで、特別な思いがある作品について「帰ってきますよ」と言えたのは気持ち良かったですね。もともと4年分、溜まっていたものがあったので……。
――コロナ禍の影響で2020年の『改竄・熱海殺人事件』は途中で公演中止、2021年の『改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン ~復讐のアバンチュール~』は全公演中止という事態を経て、2024年『熱海連続殺人事件』は全公演を完走しました。
今回は勝負かな、と思っています。昨年は「無事に走りきる」というのが、特に僕と鳥ちゃん(鳥越裕貴)のなかでは大きな目標でした。“モンテ”として形にしたものをお客様に必ず届けることに重きを置いていたんです。無事に完走できたことで、千秋楽では客席も含めとんでもない一体感が生まれました。もしかしたら、オリンピックを終えた選手ってこんな感覚なのかもと思うくらい。目標が一つ達成できたこと、さらに今回は単独公演となることで、“モンテ”という作品として、役者としてどう仕掛けていくかが勝負。「初めて観たけど面白い!」「もう一度観たい」とお客さんに思ってもらいたいですし、次の目標は地方公演です。2020年に予定していた福岡公演が中止になったままだから。地方公演を成し遂げないと、“復讐”ができたと言えない。より多くの人に“モンテ”の魅力を伝えていきたいですし、叶えるためにはここからさらにグッと上げていかなければならないと思います。
――『モンテカルロ・イリュージョン』が単独上演されることについては、どのように感じていますか?
「気にせず大暴れできるぜ!」という気持ちと同時に、『熱海殺人事件』の良さを伝えるためにちゃんとやらなければという思いもあります。“モンテ”は熱海シリーズのなかでも異質な存在。昨年は『Standard』公演が同時にあったので、スタンダードな“熱海”を知ってもらえる機会がありましたが、今回は“モンテ”だけで『熱海殺人事件』の魅力を伝えて、他のバージョンへも興味を持ってもらうことが僕らの使命です。異質とはいえ、個人的には“モンテ”は熱海シリーズに入りやすい作品だと感じています。歌やダンスでも僕らが引っ張っていけますし、お客さんが包まれていくような感覚もある。エンタメ要素がかなり多く含まれているので「もう一回観てみようかな」と思ってもらえるきっかけが、たくさんあると思います。
――木村伝兵衛部長を演じていくなかで、向き合い方や捉え方にどんな変化がありましたか?
いい意味で、凝り固まらずに向き合えるようになったのが大きな変化かな。回数を重ねたり、他の『熱海殺人事件』で別の役をやらせてもらってきたりしていくなかで、視野が広がってきたのかもしれないです。役に対するものが、自分のなかに入ってきているのかもしれないです。ある種の安心感のような、肝が据わった感覚というか……自分のなかに結構落とせている、そのくらい向き合えているんだなというのは個人的に感じています。
――最初は怖かった?
やっぱり、最初はありましたね。僕は普通の『熱海殺人事件』から入りましたし、木村伝兵衛が真ん中に立つ人物であるという責任感もありました。「部長をついに自分が演じるんだ」という重みはもちろん、“モンテ”は歌も踊りもある。単純に手数としてやることが多くて、休憩もなくて。「これ、いつ水飲めんねん!」「喉どうなれば気ぃ済むねん、この戯曲は!」って思っていました(笑)。ただ、喉が潰れなかった自分ってこの作品にもしかしたら合っているのかもしれないな、と。これからどうなるかわからないですけど、今のところは潰していないんですよね。
――たしかに、あれだけの物量をこなせる喉の強さは気になっていました。何か秘訣があるのでしょうか?
それが、ほぼケアしていないんですよ。季節や時期によって気にかけなきゃいけないことはありますが、喉を加湿したりハチミツを飲んだりといった対策はしていません。叫ぶとしんどかったりするので、強いわけではないと思うんです。ただ、傷めたとしても回復は早いだろうなっていう自覚はあります。「ちょっと喉心配かも?」と思っても、寝たら翌日には治っている。この回復力、お医者さんのお墨付きなんです。お仕事を始めた初期の頃、1週間は絶対喉を安静にしなきゃいけない状態になってしまったことがあって。不安で泣いてしまったくらい大ごとだったのに、2日くらいで治ったんです! お医者さんも「なんでこんな早く治ったのかわからない」って不思議そうでした。
――劇中では多くの曲が歌唱されますが、なかでもお気に入りは?
2つ挙げても良いですか? 「恋するカレン」は最初から歌いやすさ、手応えのようなものを自分で感じていたのと、なんとなく「お客さんが好んでくださっているのかも?」という感触があるので、大切な曲です。「TILL 愛の誓い」は、やしきさん(中屋敷法仁)と組んだからこそ生まれた、あえてクライマックスに歌を持ってくるという思い切った演出のシーン。ここまでに相当消耗はしていますし、この後も長台詞が来るのでめちゃくちゃしんどいんですけど、不思議とあのシーンはカーンと声が出るんですよ。僕のなかでもパワーをもらえる楽曲です。もし僕がお客さんだったら、あの一連を見て「これが“モンテ”だ!」と思う場面。“モンテ”を浴びる、好きなシーンでもあります。
――多和田さんにとって『モンテカルロ・イリュージョン』とはどんな存在ですか?
“役者・多和田任益”を語る上で絶対欠かせない作品の一つ。僕にとって“モンテ”との出会いはそれくらい大きいものですし、自信につながるものや大切にしなきゃいけないものを教えてもらいました。お客さんからもたくさんの愛と熱量を受け取って、僕らもそこに受け渡していって……という相乗効果で上がっていけるのは、初めての感覚でした。今後も大事にしていきたいし、たくさんの人に知ってほしいと思っている戯曲です。
また、つかさんの作品を演じさせてもらっている身としては、お客さんはもちろん、役者にも素晴らしさを伝えていきたい。「『熱海殺人事件』をやってみたい」「いつか自分もこの作品で舞台に立ちたい」と思ってもらえるような作品にしないといけないと思っています。作品の輪を広げていくためにも、今作は勝負の公演になると思っています。キャスト4人ともが、公演が終わってからも口々に“モンテ”への愛を語るくらい大事にしていますし、絆が濃いんです。僕ら4人で、皆さんが想像もできなかったような景色をお見せしたい。「お客さんがこれだけ増えました」とか「地方公演に行けることになりました」とか、とにかく色々な記録を作っていきたいんです。前回観てくださった方はもちろん、初めて“モンテ”を知った方は今ここで“モンテ”と出会うことが運命だと思って、劇場に来ていただけると嬉しいです。
取材・文=潮田茗、撮影=iwa
公演情報
会場:紀伊國屋ホール
演出:中屋敷法仁
振付:野田裕貴(梅棒)
出演:多和田任益、嘉島 陸、鳥越裕貴、木﨑ゆりあ
8,500円(全席指定・税込)※未就学児童入場不可
一般発売:2025年11月3日(月・祝)
提携:紀伊國屋書店
制作:アール・ユー・ピー/ゴーチ・ブラザーズ
主催:熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン2025製作委員会