角野隼斗、野外5千人の聴衆引き込む歴史的な夜~『ジブリパークの風にのせて2025』公演レポート
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2025年9月7日(日)、愛・地球博記念公園の大芝生広場は異様な熱気に包まれた。『角野隼斗ピアノコンサート~ジブリパークの風にのせて2025』の会場は、「ジブリの大倉庫」「魔女の谷」「もののけの里」など、周囲にスタジオジブリの世界が点在する空間で、今や最も
ステージに颯爽と登場した角野。大型スクリーンに自身のアップが映し出されていることに気づくと、笑顔で手を振って会場の笑いを誘ったが、低音の強打で一気に『風の谷のナウシカ』の世界へ引き込む。
9月とはいえ、まだまだ厳しい暑さの残ったこの日。しかし「ナウシカ・レクイエム」の静謐な音色には、秋の虫の音が重なる。
「ナウシカ」にはバロック音楽の影響を感じるといい、6年前に編曲した際、リファレンス(参考)にした作品として、バッハのパルティータ第2番を紹介。粒立った音色で各声部を明快に奏でた。
『ハウルの動く城』より「人生のメリーゴーランド」は、もはや角野ワールド。右手は鍵盤ハーモニカでメロディー、左手はピアノで伴奏を弾く、すっかりおなじみとなったスタイルで映画の世界へ誘った。角野も前日に訪れて「テンションが上がった」というジブリパークにある「ハウルの城」の映像も、ムードを高めた。
この日のプログラムは、ナウシカに対してバッハを弾いたように、久石譲が作曲したスタジオジブリ作品の音楽をはじめ、そこから角野が想起したクラシック曲を対比させるという趣向。ハウルに対しては、同じワルツ風のサン=サーンス「死の舞踏」を充て、夜中の12時に墓場に現れた死神や骸骨が踊り狂うさまを幻想的、躍動的に描いてみせた。
すっかり空が暗くなると、角野は「今夜は皆既月食らしい」と伝え、会場を沸かす。幼少期から宇宙に深い関心を持ち、昨年10月にソニー・クラシカルからリリースした世界デビュー・アルバムのタイトルも「Human Universe」。続いては、アルバムに収録した自作曲の「3つのノクターン」より「After Dawn」で神秘的な夜明けを表現したかと思うと、ガツンという強奏で音世界は一変。「空」というテーマは共通しているが、映画『紅の豚』より空中戦の狂気を表す「Madness」が鳴り響く。
3月に新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会で久石との共演が実現した角野は、「現代音楽への造詣が大変深く、学ぶことがたくさんあった」と振り返った。そこで取り上げたのは、2023年公開の映画『君たちはどう生きるか』より「Ask me why」。同音連打や分散和音が少しずつ変化していくこの曲を、久石のルーツであるミニマル・ミュージックへの回帰と捉え、その旗手フィリップ・グラスのエチュード第2番と第6番も並べて弾いた。
拍手が鳴りやむと聞こえてきたのは、独特なテンションコードのアルペジョ。おなじみ『千と千尋の神隠し』の世界に誘う「あの夏へ」だ。「竜の少年」「湯婆婆」「ふたたび」など、さまざまなシーンが角野の紡ぐ音楽から蘇る。琉球音階をベースとした陽気な「帰る日」でクライマックスを迎えた。
この名作を何十回と鑑賞し、音楽を聴いて育ってきた角野。どの瞬間もすぐ思い出せるほど、体に染みついているという。「これに限らず、いろんな映画がきっと、皆さんの思い出の中にいろんな形で記憶として残っていることと思います。こんな素晴らしい音楽をこんなにたくさんの皆さんと共有できたことをうれしく思います」と感謝した。
プログラムの最後は、『耳をすませば』より「カントリー・ロード」。白い半袖シャツにスラックス姿の角野は「これ、聖司くんリスペクトなんですね」と、映画に登場するバイオリン職人を目指して修行する天沢聖司をヒントにした衣装だったことを、ここで明かした。
力強いテーマに続き、お得意の軽快なジャズ・アレンジ。しっとりした雰囲気から転調し、再び力強く会場に響き渡らせる。
鳴りやまない拍手に応えて再び登場した角野は「皆さん気づいてないかもしれないけど」と、客席の後方を指さした。聴衆が振り返ると、上空にはまんまるい満月。「皆さんで写真を撮りましょう」と、客席を背景に「はい、チーズ!」と叫ぶと、5千人が一斉に笑顔になった。
「せっかくなんでもう1曲」と『魔女の宅急便』から「海の見える街」を、再び鍵盤ハーモニカを交えて演奏し、熱気冷めやらぬ聴衆に別れを告げた。
それから6時間後の午前1時半ごろ。角野が告げた通り、高く上った満月は欠け始め、3時間半の天体ショーを繰り広げた。いつしか耳の奥から「After Dawn」が聞こえてくる。角野が見せてくれた夢のような一夜は、家族連れにも、カップルにも、忘れられない晩夏の思い出となるに違いない。
文=築山栄太郎 撮影=Ryuya Amao
公演情報
放送:2025年10月18日(土)22:00~22:54
出演者:MC 有働由美子/ アーティストナビゲーター 松下洸平
アーティスト:角野隼斗、HANA、松下洸平(※五十音順)
https://www.ntv.co.jp/withmusic/
『CHOPIN ORBIT』(読み:ショパン・オービット)
2026年1月21日(水)発売予定
収録曲・形態情報は後日発表
輸入盤:2026年1月23日(金)発売予定
第1弾 ショパン:子守歌 変ニ長調 Op.57公開中
リンクファイア https://sonymusicjapan.lnk.to/HayatoSumino_CHOPINORBIT
2月3日(火)茨城:水戸市民会館 グロービスホール
2月7日(土)北海道:帯広市民文化ホール
2月8日(日)北海道:札幌コンサートホール Kitara
2月11日(水)秋田:あきた芸術劇場ミルハス
2月13日(金)東京:東京芸術劇場 コンサートホール
2月15日(日)大阪:ザ・シンフォニーホール
2月17日(火)京都:京都コンサートホール
2月21日(土)広島:三原市芸術文化センター ポポロ
2月22日(日)香川:レクザムホール(香川県県民ホール)
2月24日(火)福岡:アクロス福岡 シンフォニーホール
2月25日(水)熊本:熊本県立劇場 コンサートホール
2月27日(金)愛知:愛知県芸術劇場 コンサートホール
3月1日(日)東京:サントリーホール
3月2日(月)東京:サントリーホール
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2025年10月13日(月)12:00~10月19日(日)23:59
⼀般発売:2025年12月13日(土)正午12:00(予定)