『2025 K-Musical Roadshow in TOKYO』開催~日本未紹介の魅力的5作品をショーケース形式で披露

15:30
レポート
舞台

(左から)キム・テイ、チョン・インヘ、加藤和樹 (撮影:友澤綾乃)

画像を全て表示(30件)


2025年11月12日(水)、東京・有楽町のヒューリックホール東京にて、韓国オリジナル・ミュージカルの新作をダイジェストで紹介する『2025 K-Musical Roadshow in TOKYO』が開催された。韓国政府の韓国文化体育観光部が主催し、韓国芸術経営支援センターの主管で運営される『K-Musical Roadshow』は、韓国発のオリジナル創作ミュージカルのプロモーションを目的に、2016年から上海、台湾などで開催されてきたが、韓国ミュージカルの人気が高まる日本でも2023年12月に第1回目が開催された。

第2回目となる今回の公演には、今年(2025年)6月にソウルで開催された『K-Musical Market』(https://spice.eplus.jp/articles/339247)での審査を経て選出された5作品のスタッフ、キャスト、総勢約70人が来日。各作品のハイライトシーンを次々と披露するショー・ケーススタイルで作品紹介をおこなった。

司会進行は俳優の加藤和樹とキム・テイが担当。数多くの韓国ミュージカルに出演し、韓国での観劇も多く、韓国ミュージカル業界とも深い交流のある加藤が巧みな司会を展開。また、韓国発のオリジナル・ミュージカルに詳しく、韓流スターのファンミーティングの司会や韓国大型ミュージカルの日本公演の通訳でも活躍するキム・テイが、5作品の魅力を丁寧に引き出した。

(撮影:友澤綾乃)

加藤は、2023年の『K-Musical Roadshow in TOKYO』で紹介された『最後の事件』の日本公演への出演も決まっており、『K-Musical Roadshow』の意義を自ら具体的に体現して見せていた。

客席は、日本の舞台製作会社のプロデューサーはじめ、演出家や韓国オリジナル・ミュージカルに関わるメディアや舞台スタッフなどの約150人に、一般のオーディエンス約580人を加えて満席。オーディエンス募集の抽選には、定員の倍以上の応募があり、日本での韓国オリジナル・ミュージカル熱の高さがうかがえる公演となった。

今回紹介された5作品は『すいかのプール』『三つの風と一本の木』『たんぽぽの笛』『ナルチスとゴルトムント~知と愛~』『とっても楽しいお嬢さんたち』(上演順)。大学路での本公演に出演していた俳優たちが、この日のために来日。韓国のミュージカル俳優の力を実感できた。また、各作品の終演後には、プロデューサーやクリエイターが登壇し、作品の製作過程や上演状況などの説明が語られた。

『すいかのプール』
脚本:ユン・フィギョン
作曲:キム・テグン/チョ・ソニョン
演出:チン・ヨンソプ
制作会社:株式会社AM culture

日本でも出版されているアンニョン・タルの絵本「すいかのプール」(岩波書店、訳:斎藤真理子)をミュージカル化。田舎町に現れた巨大なすいかのプールを舞台に、温かい家族愛と純粋な空想の世界を描いた作品で、目の前で巨大なすいかが割れて、空を飛ぶ雲屋さんの愉快なフライングショーが幅広い観客層の五感を楽しませる人気ファミリー・ミュージカル。

『すいかのプール』(撮影:友澤綾乃)

『すいかのプール』(撮影:友澤綾乃)

『すいかのプール』(撮影:友澤綾乃)

『すいかのプール』(撮影:友澤綾乃)

『三つの風と一本の木』
脚本:アン・リジュン
作曲:ホ・スヒョン
演出:キム・テヒョン
制作会社:MBZ Company

暗い時代を照らす青春の革命劇。混乱と不安の時代の中で、運命のように出会った平凡な若者たちの激動の生き様を描いた物語。心躍るメロディー、ダイナミックな振付、そして俳優たちのマルチロール(複数役)によって暗い時代に光をさす。英雄ではなく、不安と孤独を抱えながら生きる三人の平凡な青年たちの姿は2025年前半、演劇の街・大学路で多くの観客の心を強く揺さぶった話題作。原題は「アナーキスト」。

『三つの風と一本の木』(撮影:友澤綾乃)

『三つの風と一本の木』(撮影:友澤綾乃)

『三つの風と一本の木』(撮影:友澤綾乃)

『三つの風と一本の木』(撮影:友澤綾乃)

『たんぽぽの笛』
脚本:キム・ジシク
作曲:ユ・ハンナ
演出:パク・コウン
制作会社:RAINBOW WORKS

2024年にDIMF(大邱国際ミュージカルフェスティバル)創作支援作に選定され初演。韓国で愛される詩人、尹東柱(ユン・ドンジュ)と弟の尹一柱(ユン・イルジュ)の人生、そして同名の童詩集をモチーフにしている。尹東柱を題材にした作品は彼の悲劇性や愛国志士としての生涯に注目したものが多いが、本作は弟の視点から見た尹東柱という人間、そして兄弟愛に焦点を当てているのが特徴。兄弟の詩と人生、童心と詩心を照らし出し、現在を生きる私たちの心にも小さなタンポポの綿毛を咲かせたいと企画された。

『たんぽぽの笛』(撮影:友澤綾乃)

『たんぽぽの笛』(撮影:友澤綾乃)

『たんぽぽの笛』(撮影:友澤綾乃)

『たんぽぽの笛』(撮影:友澤綾乃)

『ナルチスとゴルトムント~知と愛~』
脚本・演出:ユン・サンウォン
作曲:ユ・ハンナ
制作会社:ソムロカンナビ

哲学的な問いと自己省察の機会を与えてくれるヘルマン・ヘッセの同名小説『ナルチスとゴルトムント(邦題「知と愛」)』が原作。感覚と愛、芸術と死といったゴルトムントの人生をナルチスの視点から描き、正反対の性質を持つ二人が互いに影響を与え合う過程に観客は深い共感を抱く。また、美しい照明と振付、仮面や生花の使用などの素晴らしい舞台演出を楽しめるのもこの作品の魅力。

『ナルチスとゴルトムント~知と愛~』(撮影:友澤綾乃)

『ナルチスとゴルトムント~知と愛~』(撮影:友澤綾乃)

『ナルチスとゴルトムント~知と愛~』(撮影:友澤綾乃)

『ナルチスとゴルトムント~知と愛~』(撮影:友澤綾乃)

『とっても楽しいお嬢さんたち』
原案:キム・ジェファン
脚本:キム・ハジン
作曲:キム・ヘソン
演出:オ・ギョンテク
制作会社:ライブ株式会社

貧しいから、女だからと文字を学べなかったおばあちゃんたちを描いたドキュメンタリー映画が原作。ハングルを学ぶ彼女たちの人生と詩をもとにした心温まるミュージカルで、多くの人に感動を届けています。80歳を超えても日々学ぶ喜びを大切にするおばあちゃんたちの姿は、観客に新しいことに挑戦するのに年齢は関係ないという勇気を与え、親子3世代が一緒に楽しめる、心温まるファミリーミュージカル。「人生八十、 生きることはどうしてこんなに楽しいの!」

『とっても楽しいお嬢さんたち』(撮影:友澤綾乃)

『とっても楽しいお嬢さんたち』(撮影:友澤綾乃)

『とっても楽しいお嬢さんたち』(撮影:友澤綾乃)

『とっても楽しいお嬢さんたち』(撮影:友澤綾乃)

 

終演後にはロビーで5チームの作品の製作者やクリエイターと日本のプロデューサーによる交流会が開催された。約100名の日本の演劇プロデューサーが結集し、各作品の紹介ブースには説明を聞く関係者が列をなし、熱心な質疑応答が続いた。

なお、SPICE編集部も本イベントを見学。今回の5作品のうち、『すいかのプール』『とっても楽しいお嬢さんたち』は幅広い客層を意識し、音楽的にもトロットやKPOPの雰囲気を持つ楽曲を含む親しみやすい作風。一方、『三つの風と一本の木』『たんぽぽの笛』『ナルチスとゴルトムント~知と愛~』は、現在のソウル・大学路(テハンノ)の主流を感じさせる洗練された作風の創作ミュージカルだった。中でも『たんぽぽの笛』『ナルチスとゴルトムント~知と愛~』の音楽が際だって美しく感じられたが、なんと両作品ともユ・ハンナという若い女性作曲家が手掛けており、調べてみると、彼女は他に『ザ・クリーチャー』『アリス』『カパイズム』『ザ・テイル・エイプリル・フールズ』『朝鮮弁護士』『無人島脱出記』『テロメア』なども作曲した売れっ子コンポーザーだった。その彼女も今回来日し、登壇したり交流会に参加していたことは、韓国ミュージカルファンには嬉しい出来事だった。彼女に限らず、若い女性が数多くクリエイターとして活躍していることも現在の韓国ミュージカルのひとつの特徴といえる。

昨年ブロードウェイに進出したソウル・大学路発のミュージカル『メイビー・ハッピーエンディング』が現地で大ヒット、今年のトニー賞ミュージカル部門で最優秀作品賞など最多6部門を制覇し、韓国ミュージカル界が大いに盛り上がったことは記憶に新しい。その同じタイミングで誕生したイ・ジェミョン新大統領の政権も、国家の文化政策の柱に、従来のK-CINEMAやK-POPと並んでK-MUSICALを加えたことにより、韓国ミュージカルのグローバル戦略は新たなフェーズを迎えた。今回の催しも、全面的に韓国政府の予算で賄われ、日本の舞台関係者やファンの注目を集めることに成功した。このマ―ケットは日本も含めた全世界に、ますます拡大していくことになるだろう、との確信を今回のイベントを通じて得ることができた。


 【関係者コメント】

■チョン・インへ(韓国芸術経営支援センター公演流通チーム・チーム長)

チョン・インへ (撮影:友澤綾乃)

前回の2023年に続き、今年もより多くの日本の観客の皆さまに韓国ミュージカルをご紹介できたことを大変光栄に思います。今回ご紹介した5作品が、今後さらに多くの舞台で日本の皆さまと出会えることを期待しております。韓国芸術経営支援センターは、今後も両国のミュージカル産業の発展のために、国際協力の場を広げてまいります。世界各国のミュージカル関係者達が集う「K-Musical Market」も来年6月に開催されますので、引き続きの関心をいただければ幸いです。

■キム・アヨン(『とっても面白いお嬢さんたち』出演者/出演俳優陣を代表して)

『とっても楽しいお嬢さんたち』(撮影:友澤綾乃)

日本の皆さまの前で、韓国ミュージカルの魅力をお伝えできたことがとても光栄でした。どの世代でも共感できるようなバラエティ豊かな作品群が揃い、その世界的な進出を韓国のミュージカル界は目指しているので、日本でいつか本公演ができればいいなと感じました。『とっても面白いお嬢さんたち』をはじめ、今回2025 K-Musical Roadshow in TOKYOに参加させていただいた全ての俳優が、日本のお客様の前で演じられたことに、大変な喜びを感じています。いつかまた日本の皆様にお会いできることを、韓国ミュージカル俳優一同楽しみにしています。

■加藤和樹(司会)

加藤和樹 (撮影:友澤綾乃)

2023年に続き、キム・テイさんと共に進行を務めさせていただき感謝しています。韓国オリジナル・ミュージカルの制作会社の皆様、カンパニーの皆様の熱量をこの目で、肌で感じられました。『すいかのプール』『三つの風と一本の木』『たんぽぽの笛』『ナルチスとゴルトムント~知と愛~』『とっても楽しいお嬢さんたち』、そのどれもがオリジナリティに溢れ、とても約20分のダイジェストとは思えない内容でした。前回よりも会場も広く、オーディエンスの方々の応募も前回よりも多かったと聞きました。実際にいらした皆様、パンフレットを見ながら熱心に話を聞いておられました。日本でも、より韓国ミュージカル愛がますます上がってきていると実感しています。韓国作品に出演させていただいたことで、縁あってこうして今回も関われたことを嬉しく思うと共に、日本のミュージカル俳優として我々に何ができるかを考えさせられました。共に手を取り、ミュージカルの可能性をもっと世の中に、世界に広げられたら…そう強く感じた今回の『K-Musical Roadshow in TOKYO』でした。

(撮影:友澤綾乃)

 

公演記録

『2025 K-Musical Roadshow in TOKYO』

【日時】2025年11月12日(水)14:00~ 入場無料
【会場】ヒューリックホール東京
【司会】加藤和樹 キム・テイ 
【紹介作品】
『すいかのプール』
『三つの風と一本の木』
『たんぽぽの笛』
『ナルチスとゴルトムント~知と愛~』
『とっても楽しいお嬢さんたち』

【公式HP】https://ae-on.co.jp/kmr2025/
【主催】韓国文化体育観光部
【主管】韓国芸術経営支援センター
【運営】K-Musical Roadshow日本事務局
【問い合せ】 kmusical.japan@gmail.com