可愛らしく温かみのある、動物のぬいぐるみたちにも注目 ゴジゲン第20回公演『きみがすきな日と』稽古場レポートが公開
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ゴジゲン第20回公演『きみがすきな日と』稽古場より
2025年11月26日(水)より下北沢 ザ・スズナリにて、ゴジゲン第20回公演『きみがすきな日と』が上演されている。この度、稽古場レポートが届いたので紹介する。
11月某日、都内の稽古場にて、ゴジゲン第20回公演『きみがすきな日と』の稽古を見学した。本作のキービジュアルは、居酒屋然としたカウンターで、動物のぬいぐるみたちが飲んだくれているようななんとも可愛らしく温かみのある写真だ。このぬいぐるみたちは作品の内容にどのように関わってくるのだろうか。
本記事では、いくつかのシーンのあらすじを添えながら、稽古の様子をお届けする。
稽古が始まると、キャストが皆それぞれに動物のパペットを手にはめて、なにやら準備をしていた。衝立状の舞台の後ろに体を隠して、手にはめたパペットを操演するのである。
物語は、地元の商店街のお祭りで人形劇をしている「ことり組合」のメンバーが、お祭りへの出演準備の際に起きた出来事を軸に展開される。
キービジュアルに写っていた動物のぬいぐるみは、登場人物たちがそれぞれに演じるパペットだったのである。
このパペット人形劇の設定では、最後の大団円で歌とダンスが披露されるのだが、その練習が始まろうとしていた。
「歌覚えました?」と声を掛けたのは、うぇるとん東。曲に合わせて歌いパペットを躍らせる一同。ぴょこぴょこと動く動物たちはとても可愛いが、声と振りを揃えるのに集中しているキャスト陣は笑顔ではありつつどこか真剣な面持ちだ。
音源と歌と振りを合わせたところを録画し、皆でチェックする。動物たちのあまりのキュートさに、松居大悟は「恥ずかしい!」とも言っていたが、思わずにやにやとしながら映像を確認している一同の姿もまた、微笑ましいものがあった。
ダンスの確認が一段落すると、芝居のパートに移る。このとき稽古をしていたシーンは、物語の終盤。一同がわいわいと話しているが、時折気まずい空気が流れる瞬間もある。こういった言外に示される登場人物の心の機微には、感情移入してしまう。
演出と出演を兼ねる松居は、役者の動きや台詞に載せた感情を確認するために、舞台上で演技をしたり、客席側に回ってそこから台詞を投げかけたりしながら、思案する。
このシーンの登場人物たちは、明るいやり取りをしているようにも見えるが、その中にしんみりした雰囲気も見て取れ、この微細なバランスをいかに取るかがポイントになりそうだ。と、ここで、本折最強さとしが「数年の時間の経過をもっと感じたい。今のだと、数年ぶりに起きた出来事のように見えないかも」という旨の意見を出す。それを聞いて松居が頷く。また、松居が善雄善雄の台詞に対し、「その台詞、言いにくくない?」と声をかけたり、うぇるとんが「ここはこういう気持ちでいいんですよね?」と人物の心情を松居に確認したりと、ゴジゲンメンバーを中心に相互にコミュニケーションを取りながら稽古は進んでいるようだった。
もちろん、客演の多田香織、大関れいかも存在感を見せている。松居と台詞の解釈について話していて齟齬があった際に、「あ、じゃあ結構解釈違うや(笑)」と多田が笑ってみせたが、その軌道修正のスピードには舌を巻く。また、大関が「もうちょっとリアクションした方がいいですか?」と松居に聞くと、「したくなったらでいいよ。でもその役は他人に気を遣う性格だから、周りに心配されることを懸念してあんまり大きくリアクションしないかも」と答えるという場面もあった。
全体的に和気あいあいとした雰囲気で進みながらも、各自が自分の役を全うするべく真摯な姿勢で臨む。考えさせられるシーンもコミカルなシーンもあり、思わずくすくすと笑ってしまうこともあったが、そのおかしみは、一つ一つのシーンや台詞を心に落とし込む丁寧さに裏打ちされているのかもしれない。
そして、稽古のシーンは変わって、冒頭へ。それまでは終盤のシーンだったので、冒頭を改めて見て、なるほどと腑に落ちたことも多々あった。
松居が「空間や台詞をちょっと丁寧めに意識してやってみましょう」と言って、スタート。イルカのパペットを操演している多田のよく通る声が印象的で、一気に物語の世界に引き込まれる。可愛らしい動きに思わず笑みがこぼれていると、じっと見られてパペットと目が合ったような気になり、ドキドキしてしまった。
続くシーンでは、「ことり組合」の新入りである琴美(大関れいか)がやって来て、このパペットたちと会話をし始める。既存メンバーの人形劇への熱い思いにやや圧倒されながらも、琴美は徐々に溶け込んでいく。
このシーンでは、琴美とパペットたちの目が合っているように見えるように立ち位置や向きの調整や、心情から来る間の取り方など、細かい部分の演出をつけていた。
序盤のシーンは、観客が登場人物の属性や関係性を把握するために重要な会話が多く繰り広げられる。テンポが良く小気味良い会話が続いており、これまでの稽古の成果が見て取れた。そして物語はこのシーンの直後にある出来事が起こるのだが、その内容は是非劇場で観ていただきたい。
筆者が稽古場を訪れたのは開幕の約1週間前。本番までにますます強度が上がっていくのだろうと期待の高まる稽古だった。公演は2025年11月26日(水)〜12月7日(日)まで、ザ・スズナリにて上演される。
取材・文:伊藤優花 写真:関信行