阿部サダヲ×野田秀樹、NODA・MAP第28回公演『華氏マイナス320°』を語る
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野田秀樹、阿部サダヲ (撮影:福岡諒祠)
2年ぶりとなるNODA・MAPの公演は、新作『華氏マイナス320°』(作・演出 野田秀樹)。阿部サダヲ、広瀬すず、深津絵里、大倉孝二、高田聖子、川上友里、橋本さとし、野田秀樹、橋爪功という頼もしい顔ぶれで、2026年4月から8月にかけて、東京、北九州、ロンドン、大阪で上演される。言葉遊びがちりばめられた重層的な物語の中に、胸を突くテーマを浮かび上がらせ、観る者に唯一無二の演劇体験を届けてきた野田秀樹は、今回どんな劇世界を紡ぎ出すのか? 謎に包まれた新作について、野田と、5本目の野田作品出演となる阿部サダヲに話を聞いた。
■「今回の座組は面白いことをしそうな人ばかり」(阿部)
――2年ぶりのNODA・MAP新作は『華氏マイナス320°』。いつ頃から構想を練っていたのですか?
野田 『正三角関係』(2024年)を書く前から、アイデアはありました。考えていることが二つあって、どっちを先に書こうかな?と考えて、先に書いたのが『正三角関係』で、もう一つが今回の話です。たしか台湾で『Q』:A Night At The Kabuki(2022年)のインタビューを受けた時に、「次は何を考えてますか?」と訊かれ、「今、考えてることが二つあります。一つはこういうもので、もう一つはこういうもので…」って、内容もちょっとずつしゃべった記憶がある。海外では、わりと素直にしゃべるんだよね(笑)。
阿部 そりゃまた一体どういうわけで?
野田 しゃべった通りになるわけではないし、海外では誰も後を追わないだろうから、適当にしゃべってもいいかなっていう気持ちがあるんだろうね(笑)。
――レイ・ブラッドベリのSF小説『華氏451度』やマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画『華氏911』を想起させる、今回のタイトルが気になります。
野田 そんなに気にしないでください(笑)。
阿部 いや、すごい気になりますよ。ここは台湾だと思って、しゃべってください!
野田 ハハハ(笑)。マイケル・ムーアの映画のほうは、人に言われて「あ、そういうのもあったね」と思ったぐらいの感じですけど、ブラッドベリの小説のほうはそれなりに関連していますね。ただ、ディストピアとか、そういう感じではない。ブラッドベリが書いた“華氏451度”は紙が燃える温度でしょ? 今度の“マイナス320度”っていうのも、何かが起こる温度なんです。
――阿部さんは『ローリング・ストーン』(1998年)、『透明人間の蒸気』(2004年)、『逆鱗』(2016年)、『THE BEE』(原作 筒井康隆「毟りあい」/2021年)に続いて5本目の野田作品出演になります。今回の話を聞いた時は、どう思われましたか?
阿部 まず、前回の『THE BEE』に出演してからもう5年近くも経つんだな、と思いましたね。『THE BEE』は出演者が少なく、野田さんも(出演せずに)演出に専念されていました。けれど、今回の出演人数は多い。僕にとって大人数のNODA・MAP作品に出演するのは『逆鱗』以来です。アンサンブルの方たちと一緒にやるのも久しぶりで、とても楽しみにしています。……というか、僕は今回の話を小松(和重)さんから聞いたんですよ。それって大丈夫なんですか? どこからか情報が漏れている。
野田 ……俺かな。あいつと飯食った時、ちょっと話したかもしれない。
阿部 やっぱり(爆笑)。小松さん、「すごい楽しそうなメンバーだね」って。内容もちょっと知ってましたよ。
野田 うん、今よりいっぱい内容しゃべったかも(笑)。ところで、サダヲが最初『ローリング・ストーン』に出た時は20代だったっけ?
阿部 そうです。『ローリング・ストーン』は何もわからないでやっていました。若い役者がたくさん出ていて、僕もまだ大人計画の公演しか出ていない頃だったし、ミュージカルの人とか、ジャンルの違ういろんな人達が集まっていたので、余計によくわからない状態で。でも、楽しかったです。NODA・MAPって、終わった後「なんか楽しかったな」っていう印象があるんですよね。みんなそう言いません? だから何回も出るんでしょうね。
――野田さんが今回、阿部さんをキャスティングされた理由を教えていただけますか。
野田 みんな知っての通り、いい役者ですからね。俺は嘘のない役者が好きなんだけど、そこはもう彼を信頼しているし、身体能力も高い。どう振ってもやれる人だから、今回は二役で……あ、二役ってわけじゃないか。芝居の中で全然キャラクターが変わる役です。
阿部 お~っ。それは小松さんからも聞いてなかったです(笑)。それにしても今回の座組は、野田さんも含めて、面白いことをしそうな人が多くないですか?(川上)友里ちゃんもいるし。
野田 いいよね、川上さん。俺は今回が初めてなんだけど。
阿部 彼女は、何をするのかわからない感じが面白いですよね。僕は、友里ちゃんと大倉(孝二)くんと(高田)聖子さんとは舞台で共演したことがありますが、それ以外の方とは今回が初めてなんです。広瀬(すず)さんとはドラマで共演しましたが、実に堂々としていますよね。僕のほうが年下に見られてるんじゃないかな、と思うほどです(笑)。
野田 そんな感じだよ。「サダヲ」って言ってる、いや、本当は「阿部さん」て言ってる、「サダヲ」って感じで(笑)。すずちゃんは『Q』では愁里愛(じゅりえ)という役で、瑯壬生(ろうみお)を愛する、心も非常に真っ直ぐな役だったので、今回は全然違うキャラクターをやってもらおうかなと思っています。まあ、やってみないとわからないけれど、いいんじゃないかなと。
阿部 広瀬さんは『Q』の初演(2019年)が初舞台だったんですものね。観に行ってびっくりしました。
野田 サダヲも出ていた『透明人間の蒸気』の時のほぼ初舞台の宮沢(りえ)さんと、ちょっと似たものを感じましたね。舞台にすっと立った時の透明感とか、ただ走るだけなんだけど、人を感動させるような感じとか。もちろん『Q』の再演では、さらに良くなっていたけれど、やっぱり初舞台の初日に、あれだけ観た人をわぁっと思わせる存在は、なかなかない。それはやはり、彼女しか持っていないものだよね。サダヲにもそういうものを感じるけれど。
――深津絵里さんについてはいかがでしょう? だいぶ以前に、グループ魂のライブに深津さんがゲスト出演していた記憶があるのですが。
阿部 確かに1回出ていただきました。でも、めちゃくちゃ昔ですよ、それ(笑)。映画で一緒になったこともありますが、実際には同場面での撮影はなかったので、今回の共演はたぶんグループ魂以来です。NODA・MAPに出ている深津さんがずっと好きだったので、楽しみでしかないです。
野田 深津さんはもう、天下無敵だからね。今回は暴言を吐かせようと思っています。『贋作 桜の森の満開の下』(2001年・2018年)の夜長姫もそうだったけど、深津さんはそういうところ、素晴らしいですから。
阿部 『農業少女』(2000年)もよかったですよね。
野田 何か心の底に悪いものが流れてるんでしょうね、あの人は(笑)。そうじゃないと、俺の書く底意地の悪いセリフをあんなふうには言えませんよ(笑)。
――野田さんには、心の底にちょっと悪いものがある方をキャスティングしたがるところがあるのでしょうか?
野田 そういえばそうですね。橋爪功なんか、あの歳になっても、まだ悟りきれていない。一昨日、撮影に来てもらったんだけど、悪かったよ~。ずーっと文句ばかり言ってた(笑)。反対に、今回のキャストで一番純粋なのは、橋本さとしかもね。高田聖子の場合、やっぱり悪いものが流れている(笑)。普段は菩薩のような人なんだけどね。大倉孝二も悪……あれ? 大倉とサダヲは何かで一緒になったっけ?
阿部 野田さんの舞台で一緒になったことはありません。共演したのは、大倉くんがまだ新人みたいな頃のナイロン100℃の公演(1996年『下北ビートニクス』)だから、すごい昔ですよ。聖子さんもそうですが、久しぶりに一緒にやれることになり嬉しいです。最近は自分が座組の年長者のほうになることが多いので、今回のメンバーでは中間ぐらいになるっていうのも嬉しいことです。
野田 そうなんだよ。最近、俺のキャスティングする役者達の年齢が上がってきちゃっていて。「若手」とか呼んでるアンサンブルも、前からやってるメンバーがいるから、実はそれほど若手でもなかったりする。
■「劇場まで観に来てくださるお客さんを信頼しています」(野田)
――阿部さんは野田作品の魅力をどうお感じですか?
阿部 観ていると、すごく印象に残るセリフとか、急にドキッとするようなセリフがあって、やっぱりそれが面白いですね。たまにうとうとしちゃう時があっても、ハッと気づいた次の瞬間にはもう泣きそうになったりして。あとは舞台美術というか、絵面が綺麗。それだけでもう「いいもの観たな」っていう気持ちになります。そんなんじゃダメですか?(笑)
野田 いいと思います(笑)。
阿部 自分が参加している時も、もちろん面白いです。野田さんの演出は説明が上手でわかりやすいし、みんなで動いたりしながら創っていくのも楽しくて。特に『THE BEE』の時は演出意図を色々話してくださり、毎日気づくことがたくさんありましたね。あと野田さんは、面白い時ニヤニヤしてくれるんですよ。だから、わかりやすくて助かります。初めて観劇してる人みたいに笑ってくれるから、ありがたいなあと思って。
野田 でも、サダヲも基本的にニヤニヤしてるよ。そこは二人に共通してるところだと思う。そういえば『逆鱗』の稽古中に「あれ?もう6時!? 充実しているからかな、あっという間に時間が進んじゃったな」と思ったら、実はサダヲが時計の針を勝手に進めていたっていうことがあったよね(笑)。
阿部 1時間ぐらい進めましたかね(笑)。それにすぐ気づいた野田さんは、やっぱすごいなと思いました。
野田 いやいや、気づかなかったんだよ。俺が「もうこんな時間になっちゃったんだ」って言ったら、みんながニヤニヤしてるから、あれ?と思った(笑)。
阿部 『逆鱗』の稽古場も楽しかったですね。本番初日と二日目に、野田さんの楽屋からセリフを全部返してるのが聞こえてきて、あ、やっぱり真面目な方なんだなって思いましたね。
野田 まあ、あれはね、やっておかないと不安なんだよ。
――『正三角関係』に続いて、今回もロンドン公演があります。作品のテーマやモチーフを決める上でその辺も考慮されたのでしょうか?
野田 そこは関係ないですね。ただ、あまり日本的なものにはしないように、たとえば「豊臣秀吉の朝鮮出兵」みたいな話だと、ロンドンの人達にはなかなか伝わらないだろうな、っていうことは考えました。そういう意味では、海外の人にもわかるモチーフにはなっていると思います。ちなみに、『正三角関係』の時の「カラマーゾフの兄弟」のような使い方ではないけれど、ゲーテの「ファウスト」っぽいものは使っています。というか、ファウストという人物が実際に登場します。
阿部 僕は海外公演が初めてなんです。小松さんが「楽しかった」と言っているのを聞き、とても楽しみになりました(笑)。自分のことを全く知らない人達の前でお芝居をする、というのも面白そうだし。
――楽しみの方が断然大きそうですね。NODA・MAPに対する不安が何もないというか。
阿部 そうですね。今はまだ台本も何もないですし。
野田 そう、みんなタブーみたいに触れないようにしてるけど、実はそこが大不安なんだよね(笑)。頭の中に世界はあって、もう書き始めてはいるんだよ。ワークショップも何回かやってるし。ただ、途中で突然止まって、こういう方向で本当にいいのか?って悩み出すと、あっという間に2か月くらい過ぎちゃって……。
――それでは最後に、公演を楽しみにしている読者の皆さまへメッセージをお願いします。
阿部 どういう話になるのか、まだちょっとわからないのですが(笑)、舞台で初めてご一緒するキャストの方々も多いので、とにかく楽しみにしています。頑張ります。
野田 私はとにかく、台本をまず書き上げます。この記事が出る頃には、出来上がってるといいな(笑)。コロナ禍を越えて、劇場まで来て観てくださるお客さんを、とても信頼しているんです。今はいろんなことが、こういうもの (スマホを操作する動作) で見られて、それはそれでいいこともあるのだろうけれど、そういうものでしか見ない人から「よくわからないんですけど」って言われても、私としては「そりゃあ、そういうものでしか見ていなかったらよくわからないと思うよ」と答えるしかないわけで、だからこそぜひ、劇場に来て生の舞台を観ていただきたいと思います。
取材・文=岡﨑 香 写真撮影:福岡諒祠
公演情報
『華氏マイナス320°』
阿部サダヲ 広瀬すず 深津絵里
大倉孝二 高田聖子 川上友里 橋本さとし 野田秀樹 橋爪功
スウィング 横山千穂 菊沢将憲
美術|堀尾幸男 美術補|秋山光洋 照明|服部基、北澤真
衣裳|ひびのこづえ 美粧|柘植伊佐夫 音楽|原摩利彦 音響|中原楽
振付|井手茂太 映像|上田大樹 舞台監督|瀬﨑将孝 プロデューサー|鈴木弘之
【東京公演】
■日程:2026年4月10日(金)~5月31日(日)全52公演
■会場:東京芸術劇場プレイハウス
■料金:(全席指定・税込)S席13,000円 A席9,500円 サイドシート5,700円(25歳以下3,000円)
■主催:NODA・MAP
■共催:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
■お問合せ:NODA・MAP TEL:03-6802-6681(平日11時~19時)
■一般発売:2026年3月8日(日)10:00
■NODA・MAP会員先行期間:2026年1月22日(木)~1月25日(日)
■イープラス独占先行:2026年2月2日(月)~2月8日(日)
http://eplus.jp/kashi/
■日程:2026年6月6日(土)~6月14日(日)全8公演
■会場:J:COM 北九州芸術劇場 大ホール
■主催:(公財)北九州市芸術文化振興財団
■NODA・MAP会員先行期間:2026年1月22日(木)~1月25日(日)
■一般発売:2026年2月(予定) ※国内取扱いなし
■日程:2026年7月22日(水)~8月2日(日)全13公演
■会場:新歌舞伎座
■料金:(全席指定・税込)S席13,000円 A席9,000円 サイドシート5,700円(25歳以下3,000円) 特別席17,000円
■主催:NODA・MAP
■お問合せ:NODA・MAP TEL:03-6802-6681(平日11時~19時)
■一般発売:2026年6月14日(日)10:00
■NODA・MAP会員先行期間:2026年4月23日(木)~4月26日(日)
■イープラス独占先行:2026年5月11日(月)~5月17日(日)
http://eplus.jp/kashi/
【諸注意】
・車いすでご来場のお客様は、スムーズなご案内の為、ご観劇の前日までにご購入席番を各公演のお問合せ先までご連絡ください。
・未就学児はご入場いただけません。
・不正転売やそれを目的とした購入・譲受けは、法律により禁じられています。
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・公演中止の場合を除き、払戻しはいたしません。