名古屋発の5人組・Trooper Saluteが2nd EPで超越したポップとオルタナティブの境界線――「キメラみたいな楽曲の作り方は、僕らの武器」
Trooper Salute
名古屋発のシンフォニックインディロックバンド・Trooper Saluteが、2025年12月10日(水)に2nd EP『Trooper Salute 2』をドロップした。大学の軽音楽部に偶然集った5人が各々のルーツをぶつけ合った末に打ち鳴らされた音楽は、歌謡曲からの影響を克明に覗かせるメロディーラインと、そのど真ん中に鎮座するムサシ(Vo)の歌声を身上としている。そんな彼らが産み落としたおよそ1年ぶりのEPは、ポップとオルタナティブの共存をひとつの合言葉に、突如として火を吹くビートに意識を掴まれる「思考回路」や敬愛する吉澤嘉代子を迎え、ピカイチに重たいミュージックを響かせる「不治(feat.吉澤嘉代子)」など、きらりと光るフックを詰め込んだ全5曲(※CDのみボーナストラック1曲を含む、全6曲)が収められ、バンドの行く先を明瞭に映し出している。「自分のために書いた言葉や日記があまりにも読みづらくて、自分の心の内を歌詞にするのは難しい」と小宮颯斗(Key)が語っている通り、なかなか表情の見えにくいファンタジックな世界観を構築しているTrooper Salute。そのバックグラウンドと表現へのこだわりを語ってくれたこの言葉たちで、彼らの顔がはっきりと見えてくるはずだ。
■「5人が一斉に音を鳴らすことで生まれる、ジャンルレスな感じがTrooper Saluteの特徴」(小宮)
――Trooper Saluteは、“これがこうなるのか!”という驚きの塊みたいなバンドだと感じていて。ムサシさんの歌声が持っている求心力と、即興的でさえあるアンサンブルが絡み合うことで、ポップでありながらもどこかふわふわとした浮世離れ感を宿している音楽を奏でていると思うんです。小宮さんはTrooper Saluteをどのようなバンドだと捉えていらっしゃいますか。
小宮颯斗(Key):色んなジャンルが1曲の中に現れるバンドだと思っていますね。というのも、もともと僕らは大学の軽音楽部で結成したバンドなので、音楽性が一致していたわけでもなく、たまたま出会ったメンバーがそれぞれ好きなジャンルから得た知識を自由に作品へ落とし込んでいるんです。自分はいわゆるオルタナティブミュージックや渋谷系、70、80年代の歌謡を聴くことが多いんですが、各々にルーツがあって、今もなお聴いている音楽が全然違う。なぜだかバンドを組んだ5人が一斉に音を鳴らすことで生まれる、ジャンルレスな感じがTrooper Saluteの特徴なのかなと。
――2022年夏の結成からおよそ3年半が経過しても皆さんは全く違った音楽を聴いているとのことですが、部活動からスタートしたバンドということもあり、音楽性や趣向が合わなければバラバラになってしまう可能性も高いじゃないですか。にもかかわらず、Trooper Saluteが一枚岩で活動を続けられている理由は何なのでしょう。
小宮:言っていただいた通り、結成当時は軽音楽部だけで完結させるつもりだったんですけど、ある時ライブハウスの方に「もったいないから(内々のライブだけじゃなくて)外に出た方が良いよ」と言われて。そこから色んな人の目に触れていく中で「大学を卒業しても続けてください」と言っていただいたり、周囲の人が自分たちを大切にしてくれるようになったんですよね。その結果、このまま大学4年間だけで終わらせるのはもったいないなと思うようになりました。
ムサシ(Vo):私を含め、他のメンバーは、小宮が作る面白いものに惹かれていたんだと思います。それこそ、色んな人から褒められる度に、やっぱりこいつは何か成し遂げるんだろうと確信したというか。彼に付いていけば面白いんじゃないかと自然に感じていましたね。
――クローズドな環境での活動だけじゃもったいない、4年限りでバンドを終わらせたくない、と思うようになったキッカケは?
小宮:キッカケはいくつかあるんですが、最初にギアがかかったのは、名古屋の『クラブ東別院 in ドデ祭2024』に呼んでいただいたことで。ほとんど音源も出していない状態で声をかけていただいたので、夢なんじゃないかと思ってしまうくらいだったんですけど、オファーをいただいてから5人全員がそのイベントで成果を出すために動いていたんですよね。で、当日は想像もできないくらい多くの人に観ていただくことができた。あの瞬間に“バンドを本気で続けていかなきゃいけない”と覚悟を決めましたし、そこからも憧れていたイベントに呼んでいただく度に気合いを入れています。
――『ドデ祭』への出演で帯を締め直したのは、なぜだったんですか。
小宮:そもそも音楽をやっている理由が半分くらい承認欲求というか、人に胸を張れるものが音楽くらいしかなかったからなんですよ。その上で、大きなイベントに呼んでいただけると、自分の音楽がちゃんと認められているんだと思えるし、気の抜けたパフォーマンスを見せて失望されるわけにはいかないという覚悟も芽生える。そういう体験を何度もするうちに、最近はお客さんの反応も気にするようになって。自分たちが作りたいものを作るだけじゃなくて、どうやったら何度もライブに来てくれるお客さんに楽しんでもらえるのか、音源とライブを差別化できるのかを考えるようになりましたね。
――小宮さんの中で音楽という存在は、どのような経緯で自分の存在を肯定したり、表現するものになっていったのでしょう。
小宮:音楽と自己表現欲求が結びついたのは、DTMを使って自分のやりたいことが実現できるようになってきた高校生の時でした。それまでは実家がピアノ教室ということもあってクラシックピアノやエレクトーンを習っていたり、吹奏楽部でパーカッションをやったりしていて。もともと“曲を作れるようになりたい”と思ってはいたんですが、iPadを持ったことでようやくそれを実現に移せるようになったんですね。運動も勉強も不得意で、特に趣味もなかった自分にとって、胸を張って頑張り続けたと言えるものが気づいたら音楽しか残っていなかったんですよ。で、そこから1人で曲を作っていると、ある時プロデューサーである松隈ケンタさんのラジオで自分が送った音源を取り上げていただいたんですよ。それを機に新曲をラジオ局に送る生活を続けていたら、ある時バンドのデモ音源っぽい楽曲に対して「これはiPadの打ち込みじゃなくて生のバンドじゃないと良さが伝わらないね」みたいなコメントをいただいて。そこで、だったらこれをバンドでやってみようと思うようになって、大学の軽音部に入ることを決めたんです。
――ということは大学入学の時点で、こういう音楽をバンドで鳴らしてみたいというビジョンがあった。
小宮:そうですね。いくつかバンドでやれそうな曲が既にあったので、“これをバンドでやるんだ!”と思っていました。
――ムサシさんはどのようなルートを辿って、バンドという表現に辿り着いたんですか。
ムサシ:私は小宮と違って音楽が生活の主軸になっていたタイプではなく、絵を描くことがずっと優先事項だったんですよ。でも、小宮とカラオケに行った時に歌った吉澤嘉代子さんの「泣き虫ジュゴン」が良かったみたいで、ボーカル経験もないのにバンドに誘ってくれて。なので、最初は絵を描く感覚と同じというか、数ある趣味のひとつみたいな感じでした。だけどバンドを続けていくにつれて、自分の出したい声が自由に出せる面白さにハマっていったんです。
――ムサシさんはジャケットやMVのイラストデザインも手掛けていらっしゃいますが、絵を描くという軸とボーカリストとしての軸はどのように共存しているのでしょう。
ムサシ:そもそも私が絵を描いていたのは、イラストレーションがやりたかったというより、何かを描くことを通じて、物語や人間の感情を表現したかったからで。だから、その方法が絵から歌に変わっただけな気がしていますね。
――では、その表現欲求はどこから芽生えたものなんですか。
ムサシ:小さい頃から人と仲良くできないというか、自分は人間のことが好きなのに、なかなか輪が広がらなかったり、上手く周囲に馴染めないことを感じていて。そういう人が集団の中で生活するためには、勉強ができるとか、絵が描けるみたいに、何かグループに対して提供できる技能が必要だと思ったんですよね。私にとってはそれが表現だったし、人の心がよく分からないからこそ、感情や表情を描くことを探求したいと思うようになったのかもなと。
――何か武器がないとコミュニティへ加入できないと気付いたことで、表現という方法を手に取った。
ムサシ:そう、小学校高学年の時に仲間外れにされたことがあって、そのタイミングで“私はどうして人と上手にやれなくなってしまったんだろう”と凄く内省をしていたんですよね。その結果、集団にメリットを与えられる技能を身に付けることで、信用を勝ち取れるんじゃないかと思うようになったんです。
■「バンドアンサンブルそのものを表現として届けたい」(ムサシ)
――12月10日(水)にリリースされた2nd EP『Trooper Salute 2』は、レトロチックなコーラスワークをはじめ、昭和歌謡的なエッセンスが強く香る一方で、「不治(feat.吉澤嘉代子)」など、バンドアンサンブルの力強さまでが表現された作品になっていて。改めて本作を振り返って、どのような1枚になったと感じていらっしゃいますか。
ムサシ:1st EPである『Trooper Salute』の流れを汲みながらも、さらに驚きが詰まった1枚になったと感じています。色んなところに驚いてもらうための工夫がありますし、聴く度に発見が見つかる作品に仕上がったんじゃないかなと。
小宮:純粋に1枚目から成長した姿を証明できる作品になりましたね。やっぱりライブを重ねたことで演奏できるフレーズも増えていったし、自分のパートのアレンジもより深く考えるようになった。そういう進化をきちんと形に残せましたし、前作よりもファンの方を意識することが増えたんですよ。「レトロポップですね」と言っていただくことが多かった分、昔懐かしい要素を加えたり、聴いてくれた人がこれまでとのギャップを感じないようにできたと受け止めています。
――《ノストラダムスの大予言》や《今夜は眠たくなっちゃうギロッポン》といったワードを組み込んだ「野菜生活」を筆頭に、歌詞にもオールドなキーワードが織り込まれていますよね。
小宮:やっぱりKhakiもえんぷていも、同世代のアーティストたちは引っ掛かるフックを各所に用意していると思うので、僕らも可能な限りたくさんのフックを加えてみたかったんです。言っていただいた歌詞についても、少女漫画的な世界観で目立つポイントを構築しようとしている挑戦の姿が収められているなって。
――過去の取材では“実体験や本当のことを歌わないようにしている”、“韻を踏むためだけに登場するリリックが大好き”という旨もお話されていましたけど、小宮さんにとっての音楽が自己表現であることを考えると、もっと私小説的なリリックになってもおかしくないはずで。そうした中、実体験ではない部分から歌詞を紡ぎ出しているのはなぜなのでしょう。
小宮:自分のために書いた言葉や日記があまりにも読みづらくて、自分の心の内を歌詞にするのは難しいと感じたんです。どうにかリリックに落とし込もうとしても下手くそな説明文になってしまうというか、結局言いたいことが上手く伝えられなかった。であるならば、聴いているうちに自然と何かを連想したくなるような歌詞を書いていく方が良いと思ったんですよね。
――となると、自己表現の役割はリリックというよりもサウンドに託されていく?
小宮:本当にそうで、サウンド面に僕らしさ、Trooper Saluteらしさが表れているんじゃないかな。とはいえ、最先端の音を鳴らしているとか、珍しいエフェクターを使っているとかではなく、今のシーンで誰も勝負していない場所を見つけて、そのニッチなエリアでバトルを仕掛けている感覚なんです。
ムサシ:確かに、私たちはリリックで思っていることを伝えるというよりも、演奏している姿やバンドアンサンブルそのものを表現として届けたいんですよ。
小宮:そうだね。色んなところから受けた影響を1本の槍、一つのサウンドに集約していくんじゃなくて、“この曲のこのパートが格好良い”とさまざまな楽曲を部分的に捉えた上で、その光っているパートを継ぎはぎしている。そういうキメラみたいな楽曲の作り方をしているバンドは多くないと思うから、僕らの武器になっているんじゃないかなって。
ムサシ:そういうミックス感は楽曲単位だけじゃなくて、バンド全体にも言えることで。私たちは「野菜生活」みたいにレトロでポップな曲もあれば、「不治(feat.吉澤嘉代子)」のように重たいサウンドも鳴らしているわけなんですが、決してどちらかに方向性を絞ろうとは考えていないんですよね。むしろ、その2方向を融合させたり、同じ作品の中に落とし込んでいくべきだと考えている。そう思うと、次にリリースするアルバムと『Trooper Salute』というポップな1枚の中間を担ってくれる作品が必要だったんです。それが『Trooper Salute 2』だった。この作品ができたことで、私たちと小宮のやりたいことをもっと自由に発信できる気がしています。
■バンドで活動する意味を体現する1曲「忘れてしまいそう」
――色んな楽曲の良い部分をミックスしていく筆法は、耳に残るフックを各所に用意しているというお話とも連動していると感じました。その上で、4曲目に配された「忘れてしまいそう」では《どうか消えないでと君に伝うことが愛ならば 君と消えたいんだと願うことも愛じゃないか》《どうか死なないでと君に伝うことが愛ならば 君と死にたいんだと願うことも愛じゃないか》と、このEPの中でもひときわパーソナルに見える歌詞が綴られています。先ほど、個人的な感情を書き表わせないこと、サウンドを特に重視していることも語っていただきましたが、この曲はどのような思いで生まれたものなんです?
小宮:この歌詞は自分の思想が反映されているわけではなく、自分の中で思い浮かべた想像上の女の子が抱えている考えや思いを書いたものになっていて。で、その子が重たい思想の持ち主になっていったのは、「天使ちゃんだよ」と「不治(feat.吉澤嘉代子)」を繋げることを念頭に置いてこの曲の制作がスタートしたことが大きいのかなと。僕はサウンドのイメージに引っ張られる形で、キャラクターが出てきたり、その子の気持ちを代弁する歌詞や世界観が生まれてくるんですけど、あの2曲のブリッジになることを考えた際、この曲を1st EPのような世界観に仕上げることはできなかったんです。だからこそ、死の匂いがするような歌詞になっていったんだと思いますね。
――なるほど。先ほどムサシさんから『Trooper Salute』と次のアルバムを繋ぐ1枚が『Trooper Salute 2』だというお話もありましたが、「忘れてしまいそう」はその中でもひと際中間としての役割を担っている1曲なわけで。つまり、1stのポップな手触りから「不治(feat.吉澤嘉代子)」に見られるような重たいフィールに移ろっていくためのハブになっている楽曲とも捉えられるんじゃないかなと。
ムサシ:“この楽曲がポップと重たいサウンドの融合系だ!”とまでは思えないですけど、こういう曲を実際に作れたことや「思考回路」と「不治(feat.吉澤嘉代子)」を同時に収録したEPを作れた事実に対しては価値を感じていますね。なおかつ「忘れてしまいそう」の面白い点は、先ほど話にあったみたいに凄く激情的な歌詞だということで。他の曲は歌っている世界も歌唱も淡々としていることが多いんですが、この曲は凄く感情的だから。そういう意味でも面白いアプローチの楽曲なんじゃないかな。
――小宮さんはこの曲のボーカルに対して、元来どのような青写真を描いていらっしゃったのでしょう。
小宮:衝動的なものにしたい!という大雑把な枠組み以外、あまり定まっていませんでした。普段それぞれのパートに対しては細かくコメントをすることが多いんですけど、この曲に関してはボーカルに限らず、他のパートに全然指示をしていなくて。というのも、感情を前面に出そうとしている姿勢が、スタートの段階から5人に共通していたんですよね。自分の中で解釈に迷っていたタイミングでもあったんですが、メンバーが演奏で導いてくれたおかげで方向性を固めることができたんです。
――そもそも小宮さんは1人で音楽と向き合っていたところから、バンドというやり方を選んだわけじゃないですか。そう考えると、メンバーの存在によって楽曲の方向性が決まった今回の体験は、小宮さんにとって大きな意味を持つ出来事にも思えました。
小宮:本当におっしゃる通りで、EPの中で最も気に入っている曲が「忘れてしまいそう」ですし、バンドをやっている意味を見出すことができた曲というか。自分1人では欠けていた部分を5人で意思疎通を図りながら埋め合わせることができた。ソロプロジェクトではなく、Trooper Saluteというバンドで活動する意義が表れたナンバーだと思いますね。
――2026年2月8日(日)愛知・名古屋CLUB UPSETより東名阪を巡るツアー『Trooper Salute 2 Release Tour』がスタートします。『Trooper Salute 2』を携え、どのような旅路にしたいですか。
ムサシ:1st EPのリリースでも行かせていただいた下北沢BASEMENT BARでのライブも含め、この1年で成長した姿を各地でお見せしたいと思いますし、その土地ならではの面白さが生まれるように準備をしているので。何よりも面白いライブにして、皆さんに楽しんでいただきたいです。
小宮:今回お呼びする対バン相手はそれぞれが全く違った毛色のアーティストで。Trooper Saluteというバンドが、ポップの舞台でもオルタナティブなシーンでも戦えると証明したいと思います。
取材・文=横堀つばさ
リリース情報
CD販売価格:1,800円(税込)
配信リンク:https://SPACESHOWERFUGA.lnk.to/TrooperSalute2
01. 野菜生活
02. 思考回路
03. 天使ちゃんだよ
04. 忘れてしまいそう
05. 不治(feat.吉澤嘉代子)
06. コロイド ※CDのみボーナストラック
ライブ情報
2月8日(日) 名古屋CLUB UPSET
開場 18:30 / 開演 19:00
https://eplus.jp/sf/detail/4440250001-P0030001
共演:後日発表
2月23日(月祝) 心斎橋Live House Pangea
開場 18:30 / 開演 19:00
https://eplus.jp/sf/detail/4440290001-P0030001
共演:後日発表
3月1日(日) 下北沢BASEMENT BAR
開場 18:30 / 開演 19:00
https://eplus.jp/sf/detail/4441030001-P0030001
共演:後日発表