TiDE ソウル、ファンクやジャズまで飲み込み今のJ-POPを更新するバンド、初の自主企画『胎動』に感じたポテンシャル
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TiDE
TiDE presents『胎動』
2025.12.17 渋谷TOKIO TOKYO
TiDEが初の自主企画ライブ『TiDE presents『胎動』』をSUKISHAをゲストに迎えて開催した。と、言いつつまだこれから知名度を拡げて行きそうな彼ら。軽くプロフィールを紹介すると、2023年に東京で結成された4人組で、音楽性はソウル、ファンクやロックなどを軸に、メンバーの多様なバックボーンを反映し、一つのジャンルに固定されない新しいJ-POPへ昇華した楽曲を目指しているとのこと。実際、メンバーのフェイバリットも参照すると、彼らの先輩世代であるSuchmosやYogee New Waves、さらにその先人であるOriginal Loveのニュアンスも感じるし、何人かのメンバーに共通する中村佳穂や君島大空らが獲得してきたリズムや構成の面白さ、さらに彼らも影響を受けているであろうピノ・パラディーノやブレイク・ミルズあたりのリズムの解釈だったり、星野源とルイス・コールを繋ぐエレクトロニック・ジャズファンクのセンスだったりが若い感性のフィルター越しに垣間見える。しかもおそらく吸収したものがキャッチーなJ-POPとしてアウトプットされている。そのせいか、フロアは音楽玄人みたいな人より、幅広い世代の踊れるポップなファンクネスを好むであろうオーディエンスで満杯だ。
SUKISHA
先陣はTiDEのメンバーが大ファンでコピーもしていたというSUKISHAがバンドセットで登場。作詞作曲から演奏、ミックスなどこなすマルチな才能の持ち主でありつつ知る人ぞ知る存在だが、曲の良さでなんとストリーミング総再生数回数1億回を誇るクリエイターなのだ。ネオソウルフレーバーの「Cherry」で演奏が滑り出していくが、渋さと素朴さを備えたSUKISHAの声質は巧みなメロディラインを凌駕する印象。その後もベースがジョー・ダート的なフレージングを聴かせる「金魚」で生バンドの醍醐味を感じさせたりして、場が渦を巻き始める。「TiDEの『胎動』に帯同してるSUKISHAです」と、MCで韻を踏んで見せるセンスに笑いが起こる。主に最新アルバム『Art of Dazzling Swirl』からの選曲で進んでいくのだが、プレイヤーの自由度の高いソロ、互いの演奏を楽しむスタンスに惹き込まれる。ノイジーなギターリフの「Iron Blood」で意外性を見せたり、コーラスのシンガーをフィーチャーして、音源ではkiki vivi lillyとコラボした「Bleu in Green」も披露。打ち込みビートの「夜行性」ではSUKISHAがドラムを叩き、コーラスもドラマーも鍵盤も楽器を置いて踊る場面も。スタンスはユルく演奏は明快に。すっかり彼らのペースにハマったあたりでラストは特徴的な歌メロが中毒性満点の「Grappa!!」でフィニッシュした。
SUKISHA
TiDE
フロアが温まりきったところにTiDEがサポートキーボードとパーカッションを伴い6人編成でステージをスタート。ステージに向かって右にドラムがセッティングされ、メンバーが横一列に並んでいるのが壮観だ。《興味無いかい?》のフレーズを仕込んだSEから演奏に繋がって、「Day Trip」で始まるセンスがいい。井上大悟(Vo,Gt)の声質は温もりとクールさを同時に感じるユニークさで、ソウルフルなメロディを歌いながら暑苦しさ皆無なのがバンドのオリジナリティを担保している。間奏では小宮紹滉(Ba)がさらに前に出てプレイ。ベーシストが前に出るのも珍しいが、確かにスキルフルなフレーズを見られるのは楽しい。
井上大悟(Vo,Gt)
それぞれの気持ちにハマりそうな楽しむことへの渇望や、バンド名にも繋がる《体内、波が打ち寄せられるまで》という歌詞も明快に聴こえる。最新EP『胎動』の中でも自己紹介的ナンバーだ。シームレスに「Dawn」へ。ギターカッティングとベースで作る厚みのあるリフが気持ちいい。グルーヴィな16ビートは定石と言えばそうだが、ちょっと気だるげな井上のボーカルが曲の色を決定づける。続く「Rise」は間奏でのリズムチェンジのタイミングも息ぴったりで、タイトな演奏が小気味いい。
しょにー(Gt)
最初のMCで井上がオーディエンスに謝辞を述べ、初期に作った曲をと「沫先(misaki)」のタイトルコールをし、彼の弾き語り始まりで進んでいく。特にスポットに照らされたブレイク部分の歌の集中力にはハッとさせられた。個人的見解だが、少しBialystocksの甫木元空が難曲に挑む時の迫力に似たものを感じた。そこからループするしょにー(Gt)のギターのイントロが「nostalgia」の始まりを告げる。タイトなアンサンブルが痛快で、後半はギターソロをはじめ、インストでブチかますバンドの底力に大きな拍手が起こった。
小宮紹滉(Ba)
嬉しさが自然と顔に出ているメンバーを代表するように井上が「僕らにとって初めての自主企画ということで、マイルストーンというか、ここが一つのセーブポイントであって、こんなにたくさんの人に観てもらえて嬉しいです」と話す。そしていかにSUKISHAの音楽が好きかを語ったあと、彼らの「Future Animals(feat.ぜったくん)」&「おうちであそぼう」をマッシュアップカバー。言葉数の多さと愉快な曲調でフロアの手が揺れ、場のムードがさらに親密なものに。演奏後、しょにーが「緊張したー」と本音をもらしたのも、本人の目の前だから当然か。
小島祥平(Dr)
残り3曲という発言にテンプレではない「えーっ?」の声が上がる。実際、あっという間過ぎる。そこからは『胎動』収録曲を続けてプレイ。ドラムの手数の多さそのものが曲の入口の効果を上げる「Airo」。ネオソウルの要素もあるバンドだが、ドラムの小島祥平は比較的タイトで正確なプレイヤーだと感じる。スパッとエンディングが決まり歓声が上がったあと、人工的なつむじ風のようなSEとともに「やさぐれ」へ。井上の力みのないボーカルとしょにーのラップの対照もユニークなミドルテンポだ。メンバー4人とも役者揃い、キャラクターが立っていて視覚的にも聴覚的にも飽きさせない。おとなしいとか恵まれてるとか言われがちな世代の中にある、やさぐれやバンカラな気質を感じる歌詞にもこのバンドのいい掴めなさがある。そして本編ラストはフロアも声を出しての「祝祭」。ハードボイルドなイントロから予想できない展開でサビはサンバっぽいリズムに変わるのが効果的だ。“ララ~、ラ~ラ~ラ~”のシンガロングを思わず自然にやった人が多かったはずだ。全力の演奏に音がやんでもしばらく長い拍手が続いた。
TiDE
アンコールもシンガロングが続き、メンバーが再登場しても歌う一群がいたのが面白かったが、井上も「誰が(歌い)始めたのか後で教えてください」と嬉しそう。アンコールも初めてという彼らだが、オーディエンスに恵まれているんじゃないだろうか。「来年はミニアルバムを制作して世界観を拡げたい」と話した上で「流行」と題された新曲を披露してくれた。初披露にも関わらず《流行、渋谷、トキトキ(TOKIO TOKYOの愛称)~》のコール&レスポンスまで飛び出す場のムードが最高だ。最後は大きなグルーヴを持った初期曲「ほとり」。フロアで自然に手を挙げ揺らす人が出るのも納得の“海感”がある音色に満たされた。
約1時間のセットリストだが、体感は半分もないほど。最近、イベントや対バンでどんどん演奏の精度が上がっているのだろう。2026年もサーキットイベントなど続々決定しているので、気になった人は今のタイミングでぜひ観てほしい。
取材・文=石角友香 撮影=溝口元海
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