HINONABE、東名阪を巡った初の企画ライブ『Blue』ファイナルワンマン公演で示した人間の表裏一体――「明日から行ってらっしゃい!」
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4ピースバンド・HINONABEが、2025年12月5日(金)に開催された初の東名阪企画『Blue』ファイナル公演のオフィシャルレポートが到着した。
<あなたには傍にいて欲しいから>と歌う「Bagel」で幕を上げ、「明日から行ってらっしゃい!」と2度目の「Bagel」でピリオドを打ったこと。2025年12月5日(金)、千葉県発の4ピースバンド・HINONABEが東京・Shibuya eggmanにて迎えた初の東名阪企画『Blue』ファイナル公演。2025年3月の初ワンマン以来、東京で2度目の単独公演となったこの日の意味は、その構成に詰め込まれていた。彼らは、ドロドロやキラキラを内包しながら四季を巡礼する人間の暮らしを愛おしく思うバンドであることを表明すると同時に、始まりと終わりが表裏一体であることを鮮やかに明かしてみせたのである。
2曲目にセレクトされた「おさがり」から開幕早々提示されたのは、4人が輝きを歌うそのスタイル。磯敢太(Vo,Gt)が編んでいく回転するアルペジオ上で、<おさがりばかりのクローゼット 全て自分じゃないよう>と与えられてばかりで二番煎じの自分を戒めていく中、深い青に移ろった舞台が4人のシルエットをおぼろげにしていく。すると、ハーモニクスを合図にステージは刹那、白へと染まり、克明にメンバーの姿が映し出された。時にして数秒。このライティングが象徴していたのは、HINONABEを発見するプロセスだったのではないか。実際、クライマックスの大熱唱は「ここにいるよ」と自己存在を表明するような形質を備えていたし、「今日に似合う音楽を」と「熱体夜」を次に補填したことからもそれは窺えるだろう。冬のど真ん中に“熱帯夜”なんて夏のワードをもじった作品を添えられたのは、このナンバーが何よりも出会いを噛み締めているから。<あの夜に 似合う音楽が 発明されてない頃に 僕らは出逢えたんだ>という書き出しが<あの夜に 似合う音楽が 発明されたこの頃に 僕らは気づけたんだ 僕らは幸せだったんだった>という締めの1ラインへと結ばれていく同曲は、HINONABEがこの夜にふさわしい音楽を鳴らしていくと宣言するようでも、この出会いを心から喜ぶようでもあったのだ。そして、この初めましてと再会は、誰にも言えないほどの深いどん底で膝を抱えている時、ふと飛来した彼らのミュージックが輝いていたからこそ、もたらされたものに違いなかった。
「おさがり」「熱体夜」と今宵を分かち合えることへの喜びを伝えたところで一変、「裸体」からはHINONABEのどす黒い感情たちが噴き出した。菊地楓(Gt,Cho)が唸らせるギターのフラジャイルなフィールや佐藤ケンゾウ(Dr,Cho)が打つずっしりとしたリズム、ブリンブリンに歪んだ松岡優之介(Ba,Cho)のプレイは、独白や慟哭を抱え込んだがごとき磯の歌声と共振し、<どうか生きれますように あなたと死ねますように>(「裸体」)と無加工の本性を、<僕自身が腐ったり ああ、もう嫌。 臭い>(「腐臭」)と湿度の高い生乾きの感傷をしたためていく。
こうして顕示した、真っ直ぐに届けたいあなたへの愛情と簡単には曝け出せない醜さの両面をないまぜにしたのが、新曲「さよならきらきら」。漢字が所有する厳格さとひらがなが備えた滑らかさを横断しながら、生命が終わる際に放つきらめきとこの世に生まれ落ちた意味を書き綴った同ナンバーは、<このまま終わらせて><このままいさせて>と自己撞着を孕んでいる。しかし、HINONABEは知っている。この矛盾こそが、人間の本性なのだと。きらきらだけには到底染まれず、時として希死念慮や途方もない後悔に襲われながらも、なぜだか生き延びてしまうのが自分たちなのだと。少しずつライトが光量を増していく最中、アカペラで歌いあげる磯の姿には、理論なんて組み立てられずとも「これが正解だ」と言い切る、一切偽りのない心の形がはっきりと浮かんでいたのだ。
哀も歓をもひとつの音楽に織り込み、等身大の生き様を体現してきたここまでの数十分。それをオーディエンスへと手渡すため、華麗にラッピングしてくれたのが、「あんたら1人1人が照らされてほしいと思って作った曲です」とドロップされた「陽のように」だった。地平を切り裂き、夏空を一気に連れてくるギターリフがイントロデュースするこの歌では、これまでのディスコグラフィーよりも純度の高いJ-ROCK感を備えたアンサンブルが鳴り響き、フロアをオレンジへ変えていく。とめどなく溢れる情動のメタファーであった真紅とも、瑞々しく輝く日々を彷彿とさせたブルーとも違うその色は、何にも遮られることなく私と君へと注ぐ太陽のよう。そしてそれは、<どうしても僕は どうしても僕だ。>と何をしようとも逃れられない自分に気づいた4人が、次は誰かの光になっていくことを宣誓しているみたいでもあった。
「しっかり感謝と愛を伝えられたら」と「6月12日(火)、庭」で終止符を打ったのち、アンコールにて2度目の「Bagel」をプレイしたHINONABE。冒頭に記した通り、始まりと終わりが結ばれた今回のセットリストは、リフレインされる365日を、ひいては輪廻転生を表現していたように思う。では、4人がこのワンマンでそうしたメッセージを伝えた理由は何だったのか。その答えは最後に放った「明日から行ってらっしゃい!」の一言と、「さよならきらきら」に至るまであらゆる筆致で無数の感情を描いてきた事実に記載されていたはず。ライブハウスという聖域から出れば、私たちは顔を合わせることはできない。だからこそ、HINONABEは、些細なことで賽の目が変わる感情のサイコロそのものにハグをして、平坦で凡庸に思える暮らしへと送り出してくれたのだ。
取材・文=横堀つばさ 撮影=吉岡來美
ライブ情報
HINONABE 東名阪企画『Blue』ファイナル公演
会場:東京・Shibuya eggman
公式Instagram:https://www.instagram.com/hinonabe_band/
公式Youtube:https://www.youtube.com/@hino_nabe