「人間的な魅力のある音楽家」を育み未来へ繋ぐ 『京都FUTURE音楽コンクール』ってどんなコンクール?~審査員・髙木竜馬と事務局にきく、若き音楽家たちへの熱き想い
-
ポスト -
シェア - 送る
髙木竜馬
京都発、次世代の音楽家を応援する音楽コンクール『第1回 京都FUTURE音楽コンクール』が、音楽界に新風を吹き込もうとしている。
主催は、AI・ロボット開発を手がける株式会社FUTUREで、「音楽を通して未来の人材を育てる」ことを理念に、若き音楽家たちに新たな機会を提供する。コンクールは、技術力や表現力だけでなく、成長の姿勢や人間的な魅力も審査観点とし、音楽家としての総合的な力を問い、育む場となる。
さらに、「”企業主導型”だからこそできることを考え抜いてきた」と事務局(株式会社FUTURE)が話すとおり、一般企業ならではの視点で企画・体制を構築してきた。コンクールを、企業と音楽家を繋ぐ場として位置づけ、ゆくゆくは事業化による音楽家の雇用創出も見据えている。コンクール企画にあたっては、今回審査員を務めるピアニスト髙木竜馬がアドバイザーとして携わり、若き才能への熱い想いを込めて二人三脚で取り組んでいる。本コンクールの特徴やビジョンについて、事務局スタッフと髙木に話を聞いた。
――今春、開催される第1回京都FUTURE音楽コンクールのコンセプトを教えてください。
事務局:コンクールを通して才能ある人材の育成をしていくことが、このコンクールの大きな目標のひとつです。
企画にあたっては、「企業だからこそできること」を一番に考えました。企業としてどのような形で音楽業界を盛り上げていくことができるか、また、若い音楽家たちの活動の場をどのように広げていくことができるのか。今回、企画するにあたり「音楽を仕事として続けることの難しさ」を多くの方から伺ってきました。だからこそ、このコンクールでは、若い音楽家が優勝を目指すだけではなく、彼らにも運営に積極的に関わっていただくことで、音楽家の雇用も生み出していきたいと考えています。そうした意図から、本選の司会は声楽家の方にお願いしています。第1回は、企業として出来ることは小さなことかもしれませんが、回を重ねるごとにその規模を大きくしていければと考えています。
髙木:株式会社FUTUREさんは、今回、初めてコンクールを運営します。また、僕自身もコンクールの企画にたずさわるのは初めて。まずはこの第1回がなんとか良き形になるように、ベストを尽くしています。ただ、僕たちとしては、第1回の閉幕がゴールではなく、第2回、第3回と続けていきたいと考えています。初回開催からのフィードバックも得て、さらに進化させ、『京都FUTURE音楽コンクール』を育てていくことができればと思っています。
――高木さんは、早い時期から多くのコンクールを経験していますよね。
髙木:僕が経験したコンクールのほとんどは、海外の国際コンクールです。その経験を、なんとかこのコンクールに落とし込むことができればと、FUTUREさんとはディスカッションを重ねてきました。
――コンクールを受けていた当時の髙木さんのお気持ちなどを教えていただけますか?
髙木:小学5年生の頃から海外へコンクールを受けに行くようになり、14歳の時にホロヴィッツ国際ピアノコンクールで優勝しました。僕は、小さい頃からピアニストになりたいとずっと思い続けていたので、コンクールで優勝して名をあげたい気持ちはありましたね。その頃から世界に出たい、コンサートを開きたいという希望を抱いていました。
ただ、年齢とともに、そのような気持ちに焦りも混ざってきました。20歳を超えた頃からは、一緒にコンクールを受けていた同年代の人たちがどんどん世界の楽壇へ出ていき、彼らが活躍するのを後ろから見る立場も経験しましたし、最後に受けたエドヴァルド・グリーグ国際コンクールについては、崖っぷちに立たされたような気持ちで挑みました。
コンクールはもちろん、音楽家としての未来を開く一つのきっかけになり得るものですから、今回も特に、D部門(高校生~大学院生)に参加する方々には、強い決意をもってその後の活動を切り開いていくような気持ちで臨んでいただきたい。それだけのチャンスのあるコンクールだと思います。
――審査観点として、「技術」「表現力」そして本選審査では「成長性」「音楽性・人間力」と、項目が明文化されているのも特徴的ですよね。
髙木:確かに、これはあまりないですよね。審査方針を明文化したことは意義があると思います。
事務局:企業的な発想かもしれませんが、審査する以上、何を審査するのかを明確にした方が良いと考えました。音楽業界とは異なるバックグラウンドを持つからこそ、至った考えかもしれませんね。
髙木:ここに書かれていることは、ピアノを勉強するみなさんが日頃から感じていたり、教えられたり、向き合っていたりすることではないでしょうか。
今回、審査員には、僕が心から尊敬しているミヒャエル・クリスト先生と田村響先生をお招きすることができました。クリスト先生は僕の師匠ですし、田村先生も14歳の頃からお世話になり、今は京都市立芸術大学でご一緒させていただいております。お二方とも、「人間的にも豊かな、総合的な音楽家」を育むことを大切にされてらっしゃり、その指導理念は京都FUTURE音楽コンクールの理念にも通じています。
このコンクールが目指すのは「人間的な魅力のある音楽家」を育んでいくことですが、僕自身、クリスト先生には「音楽に謙虚に奉仕しなさい」、ボリス・ペトルシャンスキー先生には「音楽にはその演奏家の心がそのまま映し出されます。心を、そして人間を磨きなさい」と言われてきました。幅広く活躍する音楽家には、人間的な魅力に溢れている人が多いですよね。審査にたずさわる先生方は、コンペティターの演奏を通して心の部分や人間的な魅力も見ているのではないかと僕は感じています。
――演奏の前には、スピーチも行われるのですね。
事務局:いま、音楽家をサポートしている企業は限られていますが、このコンクールを今後、「企業と音楽家を繋げる場」にできないかと考えているところです。その観点で、今回、企業の方々もお呼びして、聴いていただく予定です。例えば企業の目に留まった音楽家が、その企業が主催するコンサートに出演したり、感銘を受けた企業が、音楽家サポートのための奨学金制度を作ったり……このコンクールが新しいものを生み出せる場にしていきたいと思っています。ただ、そうするとやはり、音楽性やビジュアルだけでは専門家ではない企業人には分かりづらいので、出場者にお話していただくことにしました。
――企業に見ていただくという発想は、他のコンクールにはないのでは?
髙木:演奏前にスピーチしていただくことは、コンペティターに緊張を強いてしまい、申し訳ない気持ちもあります。ですが、将来に必要な能力として求められる機会もあります。演奏会などで曲目を紹介することも増えていますし、それだけでなく、音楽家が自分の想いを伝える機会はさまざまな場面であります。最近では、英語でのスピーチやインタビューなども審査項目に設けている海外のコンクールもありますよね。言葉選び一つで相手の印象が変わり、今後の活動に繋げることができるかどうかにも関わります。そのような意味でも、総合的な音楽家を育む素敵な企画だと思います。
事務局:このスピーチを通して、演奏される方のファンを増やしてほしいと思っています。その人を応援したい、ファンになりたい、サポートしていきたいと感じられるような想いの込められたスピーチを熟考し実践することが、演奏される方の未来に繋がるのではないかと思います。
――このコンクールでは賞金があります。未就学児にも渡され、D部門には特に手厚い賞金が授与されます。
事務局:コンクールを設立するにあたり、最初に考えたのが「しっかりした賞金を設けたコンクールを実施すること」でした。優勝者にしっかりと賞金を設けることで、参加者のモチベーションが上がると考えたこと、加えて、最初に申し上げたとおり、音楽活動や学びを続けるためには経済的な負担が大きいということを伺ったからです。ご自身の好きな活動を続けられるように、才能ある音楽家には賞金という形で応援していきたいと思ったのです。
髙木:僕自身も、最初にコンクール立ち上げのお話を伺ったとき、しっかりと賞金のことはお願いしようと思っていました(笑)。FUTUREさんが同じ考えでいらしたので、とてもうれしく思いました。大学生や大学院生のなかには、留学などさらに勉強を続けるために、バイトをしながら頑張ってお金を貯めている学生もいます。奨学金もありますが、全員が奨学金を受け取れるわけではありません。学生の皆様にとって少しでもモチベーションになるものを毎年開催することができたら、とても良いことだと思います。
――演奏する曲については、予選では予選課題曲と自由曲、本選では予選と同一の自由曲となっています。予選と本選で同じ曲を演奏することに、どのような意図があるのでしょうか?
髙木:予備審査後から本選までのコンペティターの成長や変化も一つの観点として設けたいとの想いがありました。予備選と本選の両方を審査するのは僕だけですが、クリスト先生と田村先生にも本選出場者の(予備審査の)音源をお渡しし、コンペティターの現状をご覧いただく予定です。
コンペティターは、予備選の録音に向けて練習に励み、そして録音の際にはかなりの回数を弾きこみます。レコーディングと同じように何回も弾き、最も良いテイクを選択しますから、録音を通して、信じられないぐらい成長することもあります。
――コンクールへの抱負をお聞かせください。
事務局:まずは、第1回へ参加してくださった方に未来に繋がる成長が出来たと感じていただけるコンクールにするということ、そして、第2回、第3回と回を重ねていく中で、事業としての成功を目標としています。ゆくゆくはこのコンクールを株式会社FUTUREの人材育成事業として本格的に事業化し、音楽家が収入を得て、活躍できる組織づくりを目指したい。若い音楽家の方々を盛り上げていけるようなコンクールにしていきたいですね。
髙木:コンクールにおいて最も尊ばれるべき存在は、コンペティターです。真剣に音楽と向き合い、極度に緊張する人もいるでしょう。コンクールは、コンサートや発表会などとはまったく違います。コンペティターの方々に、京都FUTURE音楽コンクールを受けて良かったと思っていただけるように、そして、最良の形でコンペティターのみなさんをお迎えできるよう、僕たち運営側、審査員は万全を期します。皆様のご参加をお待ちしております。
取材・文=道下京子 撮影=奥野倫