指揮者×雀士 12年ぶりの再会で確信した友情と成長「派手なことは、丁寧な作業を積み重ねた先にある」
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日本クラシック界の一流アーティストたちが集結する特別編成オーケストラ『モーツァルトの真髄』が、2026年1月17日(土)・18日(日)各日14時〜、浜離宮朝日ホール(東京都中央区)で開催される。2日間限りの夢舞台を指揮するのは、ドイツを拠点に音楽活動を行っている太田雅音さん。学生時代から熱烈な麻雀ファンという顔も持つ太田さんの希望で「指揮者×雀士」という異色対談が実現。チーム戦で競い合う麻雀プロリーグ「Mリーグ」で、KONAMI麻雀格闘倶楽部のエースとして活躍する佐々木寿人プロと、同チーム監督の滝沢和典プロと12年ぶりに再会し「麻雀という頭脳スポーツで身についたこと」「音楽と麻雀との共通点」「お互いの師」について語り合った。ジャンルを越えて響き合う〝思考と遊び〟の本質が、ここにある。
「遊び」こそ一生懸命という姿勢で、麻雀にも向き合っていた20代
3人は20代の頃、よく一緒に麻雀を打ったり、飲みに行ったりする仲間だった。太田さんは現在、ドイツを拠点に活動しているため、再会するのは12年ぶりだという。
太田:2014年にフランス・パリで開催された『第1回リーチ麻雀世界選手権』以来ですよね。
滝沢:ドイツから遊びに来てくれて一緒に飲んだ時だ。でも初めて会った20代の頃も昔からの友達のようによく飲んでた。その頃から、雅音君は酒が強かったから、太田雅音をもじって「酔うたまさね」(佐々木プロの定番ギャグ)なんて呼ばれてた(笑)
佐々木:雅音君は人柄がいいから、昔から誰とでもすぐに仲良くなれたよね。
太田:おふたりの先輩プロでもある前原雄大さん(享年68歳)には「歳の離れた親友」と言って可愛がってもらっていたんで、4人で麻雀を打ったこともありましたね。
佐々木:あったあった。
太田:雄大さんはよく「一生懸命遊ぶ」とおっしゃっていて、日本にいた時は毎日のように一緒に飲んでました。日本語で「演奏する」は、英語では「play」、ドイツ語では「spielen」と言うんですけど、spielenには「遊ぶ」という意味合いが強く含まれているんです。なので音楽は、正確に再現すること以上に「真剣に遊ぶ」行為でもあるんですよね。
滝沢:そう言われると、雅音君は麻雀も丁寧で真剣だった。
太田:大人になると、本気で真剣に遊ぶことは難しくなってくると思うんですけど、雄大さんの言葉に背中を押されるように「遊び」こそ一生懸命という姿勢で、麻雀にも向き合っていたんです。音楽で言えば「遊び」の感覚が最も強く、最も洗練されている作曲家こそがモーツァルトだと思っています。
佐々木:今回の公演パンフレット見たけど、雅音君がこんなすごい人だと思わなかったよ(笑)。麻雀を一緒に打っていた仲間だったから。ところで、だいぶ肥えた?
太田:公演パンフレット写真を撮影した頃は、今より10kg多いんで(笑)
2014年8月にフランス・パリで開催された『第1回リーチ麻雀世界選手権』(C)日本プロ麻雀連盟
『第1回リーチ麻雀世界選手権』で対局する滝沢和典プロ (C)日本プロ麻雀連盟
『第1回リーチ麻雀世界選手権』で対局する佐々木寿人プロ (C)日本プロ麻雀連盟
『第1回リーチ麻雀世界選手権』に遊びに行き〝ミスター麻雀〟こと小島武夫先生(左)とお酒を共にした太田さん
音楽も麻雀も始めるなら早ければ早いほうがいい
麻雀を始めたのは3人とも10代の時だった。
太田:高校進学で大阪から東京に出てからは「マジック:ザ・ギャザリング(MtG)」というカードゲームにハマって、プロツアーにも参戦していたんです。MtGをやっている人たちは麻雀が好きな人たちも多かったんで、私もすぐに始めました。近代麻雀を読み始めたのもこの頃でしたね。
佐々木:私も始めたのは高校生の時でした。
滝沢:私は中学3年生の時、友人の両親がやっていた家族麻雀に混ぜてもらったのが最初でした。
太田:麻雀は初心者、中級者、上級者のどんなレベルでも、それぞれいろんな楽しみ方ができるところが、本当に素晴らしいと思います。何よりコミュニケーションツールになるところが最大の魅力ですね。オーケストラは人と一緒にやっていくものなので、コミュニケーション力が必要で、それは麻雀から得られたものです。クラシック奏者も麻雀好きは多く、N響(NHK交響楽団)の中には、ヨーロッパ公演に麻雀牌とマットを持ってきた人もいるぐらいです。
滝沢:ヴァイオリンを始めたのはいつ?
太田:3歳からヴァイオリンを始めましたが、楽器は早く始めた者のアドバンテージ競争みたいなところがあるんですよね。ご両親の熱意があって、お子さんがプロを目指すのであれば、できるかぎり早い段階から高度な訓練をしたほうが有益だと思います。麻雀も同じで、始めるなら早ければ早いほうがいいと思いますね。
麻雀という頭脳スポーツを通じて身についたこと
佐々木プロと滝沢プロは、20代の頃から麻雀対局番組にも数多く出演。太田さんはドイツにいても、ふたりが出演する麻雀対局番組はできるだけ観ているという。
太田:小学生の頃から将棋もやってたんですが、負けて悔しいという思いをいっぱい味わうんです。親交のある将棋の佐藤康光先生は「将棋は勝ちを宣言するゲームではなく、負けを認めるゲーム」と言っていたんですけど、負けた悔しさが探究していくパワーというか、渇望に執着する力というか、バックグラウンドになっていたと思うんです。麻雀も選択肢によってうまくいかないと時もあるから、日常生活でもいちいちくよくよしてもしょうがないと思えるようになりましたね。
滝沢:理不尽を受け止めるみたいなことは身に付きました。いいことは他には無いかな(笑)
佐々木:上手い選択をしてリーチをしても、放銃(※)してしまうなんてことはいくらでもある。上手く打たなければ、そんなことは起きないのにとかね。※放銃(ほうじゅう):自分が切った牌で相手がアガること
太田:国際コンクールも入賞するかどうかは運の要素がすごくあります。お客さんの反応や審査員の好みも様々なんで、審査結果に泰然自若になれたのは、麻雀のおかげかもしれません。指揮者の役割は、作曲家が残した楽譜を「設計図」として読み込み、構造を理解し、バランスや様式、美意識を踏まえたうえで、オーケストラという〝素材〟から音を引き出し、最終的にひとつの立体的な音楽空間を成立させることだと考えています。麻雀で言えば、牌をどう組み合わせ、全体としてどの形を目指すのか。その場その場の判断だけでなく、最終的にどの〝美しい形〟にたどり着くかを常に意識しながら構造的に思考していく点では、オーケストラ音楽ととても近い感覚がありますね。
音楽と麻雀との共通点
音楽との関わりは、佐々木プロは河島英五の『時代おくれ』がカラオケの十八番。滝沢プロはギターが趣味で「学園祭レベルだけど」と言いつつ、テレビ朝日/ABEMA『熱闘!Mリーグ』の番組内でその腕前を披露したこともある。
太田:音楽で大事なことにメロディ、リズム、ハーモニー(調和)という3つの要素が常にあります。何に重点を置くのかは、人によりますが、構造的にはハーモニーが一番重要です。その3つのバランスは、麻雀の打ち方、いわゆる〝雀風〟にも通じるものがある気がします。
佐々木:私は麻雀においてはリズムを大事にしていて、無駄を省いて時間をかけず、一定の速度で打つことを心がけています。
滝沢:私の場合はリーチをかけた後や、ベタオリ(※)する時は、目的が明確なので、自分の脳を勝手に休めています。※ベタオリ:相手への放銃を避けるため、徹底的に守ること
太田:集中力の濃淡をセルフコントロールしているということなんですね。
佐々木:私は次の一手を決めた後は、脳を休めている時間かもしれません。以前『全国高等学校麻雀選手権大会』にゲストで行った時「麻雀が強くなるには何が一番大事ですか?」って聞かれたんですが「備えです」と答えたんです。準備をしておくと、攻めも守りもいろんなことにリズムよく対応できますからね。
太田:準備という点では、音楽でも麻雀でも派手なことばかり見ていると、細かい作業がおろそかになってしまう危険があるので、私は細かい作業こそ丁寧に行うことは大事にしています。派手なことは、丁寧な作業を積み重ねた先にあるんですよね。
滝沢:〝ミスター麻雀〟と親しまれた小島武夫先生(享年82歳)は〝魅せる麻雀〟を信条としていたので、どちらかといえば強引に華麗な手作りに向かうんですけど、麻雀ファンにとってはそのほうが見栄えも良くて面白かったんです。私の場合、今でも小島先生の麻雀に引っ張られることがあって、ちょっと派手に見せたいなって向かうと、小島先生のようにはいかないので、大きな失敗に繋がることはあるんですが(笑)。でも今の若手は、少しでもミスを少なく丁寧にというプレーヤーのほうが増えていると思います。
佐々木:だから全体的に勝ち方がみんな似て来ているよね。
太田:音楽も同じで、質は上がっているけれども、平均化というか均質化されて来た気がします。世界的に見ても二大オーケストラと言われるベルリン・フィルとウイーン・フィルがあって、以前はもっと個性に差があったんですけど、昨今はどんどんプレイヤーも指揮者も行き来したりしているので、個性の差は縮まってきている感はありますね。
滝沢:私がプロ入りした25年ほど前は、牌譜(※)だけで誰が打ったのかがわかったんですけど、今は牌譜からは誰なのかがわかりづらくなって来た感じはあります。※牌譜(ぱいふ):将棋で言えば棋譜
太田:ローカルフードが少なくなってきて、チェーン店に行ったような味が増えているイメージですね。でもやはり頭脳スポーツも音楽も探究心が必要だと思います。音源がなかった時代は楽譜を読んで勉強していたんですが、現在はまず音を聞いて耳で覚える時代に変わって来ています。もちろんそのほうが準備としては早いんですけど、音源がなかった時代に自分のものにしようと努力した人の強さとは雲泥の差があるんです。料理で言えば、自分のオリジナルで味を作った人と、レシピを見て作った人との創造力の差があるのと同じです。
ゾーンに入る瞬間
佐々木プロは、Mリーグ2020-21シーズンに個人MVPと最高スコア賞を獲得するなど、相手を圧倒する攻撃型麻雀。滝沢プロはMリーグ2018-19シーズンに4着回避率賞を獲得する等、攻守のバランスに優れた麻雀という特徴がある。
滝沢:佐々木さんはギアが入る瞬間の一打があって、まったく同じ状況における一打でも、ギアが入る前の一打と、ギアが入った瞬間に放つ一打では、異なる牌を切る時があるんです。私は同じ状況なら、同じ牌を切ることが多いんですが、佐々木さんのギアが入る一打が出ると、爆発していくことが多い気がしています。
太田:音楽の場合は、爆発する瞬間の前に一回沈み込むんですよね。なぜかというと、ギアを上げていくためには、高い状態からギアを上げても上がっていかないからです。爆発するための準備に入るような感覚で、寿人さんが脳を休める時間を持っているように、いい作曲家の曲には、リラックスできるところが曲の中にありますね。
「Mリーグ2025-26」で滝沢プロが監督を務めるKONAMI麻雀格闘倶楽部。左から佐々木プロ、伊達朱里紗プロ、高宮まりプロ、滝沢プロ (C)Mリーグ
お互いの恩師のこと
太田さんは〝世界のオザワ〟こと小澤征爾さん(享年88歳)と、ドイツ人の指揮者、クリスティアン・ティーレマンさんに師事。佐々木プロは日本プロ麻雀連盟の前原雄大プロ、滝沢プロは同団体の荒正義プロから薫陶を受けている。
太田:小澤先生は動物的に強いところがあって、自分から奏者に向かっていくことで、相手の集中力を得るタイプ。ティーレマン先生は引き気味な構えから相手の集中力を惹きつけるタイプ。ティーレマン先生に習っていた頃、小澤先生から、真剣に1時間、2人きりでお叱りを受けたことがあったんです。当時はブレているわけではなかったんですけど、その頃の私は小澤先生の信念とはちょっと遠いところに価値観を持ってしまっていたことは自覚していたんです。小澤先生が、もし私のことをどうでもいいと思っていらしたら、1時間も真剣に向き合ってはくださらなかったと思います。今現在のバランスは小澤先生寄りに戻っている部分もあるので、もしももう一度、教わることができたら、もっと理解できるかなという部分もあるんですよね。そういうことって麻雀でもありませんか?
滝沢:僕は最初、荒正義さんに習っていたんですけど、前原さんと荒さんの麻雀も全然違う。前原さんだから相手もこう反応するというのもあるので、前原さんと同じことを前原さん以外の人がやっても、相手の対応が変わるので、私が前原さんと同じように打っても同じにはならないと思うんです。
佐々木:見て覚えるしかないと思うんで、後輩には何も言わないですね。強くなるには打つ回数を増やしていくしかないと思うんで、聞かれたら自分の思っていることは答えますけど、基本的に私は人に教えることはありません。その人の人生を変えてしまうこともあるからです。前原さんも麻雀に関して私に何か言ってきたことはなかったし、私自身は前原さんの後ろで見て学んでいたんですが、気になることがあったら聞いたという関係でした。滝沢は言語化するのが上手いんですけど、私は下手なので麻雀の議論も好きじゃないんですよね。
滝沢:ある程度のレベルの人を、ある程度の上のところまで押し上げることはできたとしても、その先にある〝本当のプロになる〟ところまで教えることは、誰もできないと思います。
〝生〟でしか味わえない感動
一流の音楽家たちが持つ思考・構造・美意識、そして高度な「遊び」を、浜離宮朝日ホールという空間で共有する——それが1月17日(土)、18日(日)に開催される公演『モーツァルトの真髄』だ。
滝沢:最近、モーツァルト聞いてたんだけど、今回公演でやる曲もたぶん聞いたと思う。
太田:モーツァルトは取っつきにくいという印象を持たれがちですが、今回の公演では、小中学生でも演奏できるほど親しまれている、有名な4作品を取り上げました。その耳馴染みのある名曲を、一流のプレイヤーが本気で演奏する――。これは実は、非常に贅沢で貴重な体験です。生で聴くと、音が「耳」だけでなく「身体」に直接響いてくる。「こんなに音が体にくるんだ」と感じる瞬間は、コンサートホールでしか味わえません。また麻雀ファンの方にも、ぜひこの公演を〝遊びとしての真剣勝負〟という感覚で体感していただけたら嬉しいですね。
特別編成オーケストラ『モーツァルトの真髄』が公演される浜離宮朝日ホールにて12年ぶりの再会
◆太田雅音(おおた・まさね)1985年1月28日、大阪府生まれ。東京藝術大学卒業。指揮者。3歳からヴァイオリンを始め、東京藝術大学在学中、21歳の時に日本センチュリー交響楽団のコンサートマスターに就任。2010年からはドイツを拠点とし、本格的に指揮者に転向。2019年にはポーランドのカルパティア・フィルハーモニー交響楽団と共にウィーンデビューを果たす
◆佐々木寿人(ささき・ひさと)1977年1月12日、宮城県生まれ。日本プロ麻雀連盟、KONAMI麻雀格闘倶楽部所属。獲得タイトルは第37・38・40期鳳凰位、RTDトーナメント2018、第9・11・12・17回モンド杯、日清食品Presents 麻雀オールスター BS10チャンピオンシップ他。勝負めしはカツ丼
◆滝沢和典(たきざわ・かずのり)1979年12月6日、新潟県生まれ。日本プロ麻雀連盟、KONAMI麻雀格闘倶楽部所属。第32・33期王位、第1回麻雀トライアスロン雀豪決定戦、第4回野口恭一郎賞、第2回モンド王座決定戦、第13・25回モンド杯他。勝負めしはカレーライス
画像協力:日本プロ麻雀連盟、一般社団法人 Mリーグ機構/取材構成:福山純生(雀聖アワー)
公演情報
会場 浜離宮朝日ホール
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 4番
ホルン協奏曲 4番
ピアノ協奏曲 20番
交響曲36番「リンツ」
SS:20,000円、S:13,000円、A:9,000円、B:7,500円
長原幸太(NHK交響楽団 第1コンサートマスター)
三又治彦(NHK交響楽団 次席)
對馬哲男(読売日本交響楽団 次席)
伊東翔太(東京都交響楽団)
東亮汰(ジャパン・ナショナル・オーケストラ)
春原丸人
石原悠企(読売日本交響楽団 首席)
小形響(読売日本交響楽団)
山本翔平(東京都交響楽団)
横島礼理(NHK交響楽団 次席)
川口尭史(読売日本交響楽団)
安藤裕子(紀尾井ホール室内管弦楽団)
森野開(新日本フィルハーモニー交響楽団 首席)
千原正裕(新日本フィルハーモニー交響楽団 フォアシュピーラー)
尾見竜志
辻本玲(NHK交響楽団 首席)
門脇大樹(日本フィルハーモニー交響楽団 ソロ・チェロ)
鈴木海市(神奈川フィルハーモニー管弦楽団)
幣隆太郎(南西ドイツ放送交響楽団)
瀬泰幸(読売日本交響楽団 首席代行)
羽鳥美紗紀(横浜シンフォニエッタ)
金子亜未(読売日本交響楽団 首席)
崎本絵里菜
古谷拳一(読売日本交響楽団 首席)
石井野乃香(東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 副首席)
松坂隼(読売日本交響楽団 首席)
村中美菜(日本フィルハーモニー交響楽団)
菊本和昭(NHK交響楽団 首席)
佐藤成美(千葉交響楽団)
岡部亮登(東京フィルハーモニー交響楽団 首席)