松岡充×丸尾丸一郎×阪本奨悟インタビュー 8年ぶりの再始動、VOL.M『UME -今昔不届者歌劇-』が届ける人間らしさと“毒”と希望
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左から 丸尾丸一郎、松岡充、阪本奨悟
SOPHIAのボーカリストとして、また俳優として表現の最前線を走り続ける松岡充。そして、劇団鹿殺しを率い、2025年には世界最大の芸術祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」で複数の最高評価を獲得するなど、その名を世界に轟かせた脚本・演出家の丸尾丸一郎。二人の「M」が「何にも縛られない自由な表現」を求めて立ち上げた伝説的ユニット「VOL.M(ボリューム・エム)」が8年の沈黙を破り、ついに再始動を果たす。
2017年の旗揚げ公演『不届者』をベースにした『UME -今昔不届者歌劇-』は、徳川吉宗の虚像と現代の保険金詐欺事件が交錯する傑作スリラーを、中毒性あふれる「歌劇(ミュージカル)」へと昇華させた意欲作だ。この刺激的なステージに、アーティスト・俳優として確かな実力を誇る阪本奨悟を迎え、さらなる化学反応を予感させている。
2月の開幕を目前に控える中、松岡、丸尾、阪本の3名にインタビューを敢行。8年という歳月を経て再び相まみえる二人の「M」の確信、そして新たな風を吹き込む阪本の意気込みとは。諦めない挑戦を積み重ねる稽古場のリアルトークから、彼らが作品から感じている人間の有り様まで、たっぷりと語ってもらった。
「VOL.M」8年ぶりの再始動、このテーマに向かってもう一度歩みを進めたい
丸尾丸一郎
ーー2017年以来、8年ぶりとなるVOL.Mの始動。このタイミングで再びタッグを組むことになった、最大の決め手は何だったのでしょうか。
丸尾:2017年に上演した『不届者』は、僕が見たかった松岡さんを書いた、そして松岡さんに書かされたとも言える作品でした。自分としては、またいつかやりたいという気持ちがずっとあったんです。ただ、次に上演するなら音楽と歌を使った歌劇にしたいという想いがありました。果たして僕が松岡さんに歌詞を書いていいのか、どんな人たちと一緒にやっていくのか——この8年はそういう準備をして、自信や経験を積む期間だったのかなという気がしています。いよいよ自分にもできるんじゃないか、今なら松岡さんにもう一度ぶつかっていいんじゃないか、そう思って数年前にお声掛けをして、上演する運びとなりました。再演というよりも、リニューアルした初演ですね。
ーー丸尾さんから二度目のオファーを受けて、松岡さんとしては?
松岡:アーティストである僕が初めて演劇の舞台に立ったとき、これが総合芸術だと身をもって感じたんです。歌だけの世界よりもやるべきこと、考えるべきことがもっとたくさんある。それが全部噛み合ってうまくいったとき、より多くの感情や価値観を届けられるんじゃないかと可能性を感じて圧倒されました。脚本、演出、キャストがつながって、心をコネクトして、クオリティの高いものを目指しているのであれば、どんなキャパだろうが、どんな箱だろうが、どんな時期だろうが関係ない。僕はやる意義があると思っています。それが前回の『不届者』でした。あれからコロナもあったし、地震もあったし、世界情勢や政治の悪化もあった。そんな中でこの時代に生きている僕らにとって、『不届者』の世界観は今やるべきだと思ったんです。8年経ってお互いがスキルアップと思うし、経験を積んだ僕らが、名だたるキャストたちの力を借りて、また一つ作品をビルドアップできると感じられた——それが最大の要因ですね。
松岡充
ーー今回のタイトルは『UME -今昔不届者歌劇-(以下『UME』)』。旗揚げ公演『不届者』を土台に、改めてこの作品を描こうと思った意図を教えてください。
丸尾:8年を経て松岡さんともう一回、このテーマに向かって一緒に歩みを進めたい。二人で実らせたものを、もう一段階大きく育てていこう、そして海外にも意識を向けていこう、という気持ちを僕らは共通して持っていました。そんな意欲から『UME』という作品が生まれていった気がします。
ーー8年という歳月を経て、お互いの表現者としての変化や、逆に変わらない信頼を感じる部分はありますか。
丸尾:松岡さんは稽古場ではキャストみんなの空気を見ながら過ごしているので、稽古場を出たときにどれだけ自分を追い込んで考えているのだろう、と想像してしまいます。お客さんに見せるものをつくる人はこうあるべきだよね、と本当に背筋が伸びる思いです。作品づくりは頭がパンパンになりますが、本当にいい時間を過ごしているので、必ず松岡さんの気持ちに応えなければという気持ちがあります。この力を倍にして返していくような、キャッチボールをしていきたいですね。
松岡:今、すごく褒めていただいたと思っていいのかな(笑)。出会った頃から、お互いが自分にはないもの、自分が知らない世界をそれぞれ持っているところが、惹かれ合うポイントだったと思います。あとは8年前は、尖ってる部分が丸君の背中に見えていたんですよ、トゲが。でも今はそのトゲをうまく隠して、どう伝えるかをクレバーに考える人になったように感じます。数々の作品を演出して、いろいろな役者を見て、多くのプロデューサーとやり合ってきたんだろうなと感じるから、僕はすごく頼もしいと思ってます。何の用意がなくても、「よし、富士山行くか。今日中に登っちまうか」みたいなことができる相手として頼り甲斐がありますね。
ミュージシャンであり俳優の二人、新しい風から生まれる相乗効果
阪本奨悟
ーー旗揚げとは異なる顔ぶれを集めた『UME』、キーパーソンの秋広役には阪本奨悟さんを迎えました。二人で相談したというキャスティングの経緯をお聞かせいただけますか。
丸尾:「秋広は阪本君にお願いしたい」と僕から共有してオファーしました。
松岡:新しい秋広を見てみたかった。阪本君は多分まだ手探りだと思うんだけど、もうすっごい新しい、阪本君にしかできない秋広がそこにいるな、という感じが前回の稽古ぐらいからすごく見えています。
丸尾:チャレンジしてくれているのがすごく分かる。だから本番を迎えるまで、その勢いでどこまでいけるんだろうと楽しみにしています。
ーー阪本さん、『UME』への初参加が決まったときの率直な心境は?
阪本:以前からお二方とも知っていて、劇団鹿殺しの舞台も何度か拝見していますが、今まで自分がやってこなかったテイストだなと率直に感じていましたね。秋広というキャラクターも表裏のある魅力的な役柄で、その塩梅を自分の中で今考えているところです。脚本も漠然としたものから徐々にディテールが細かくお客さんに伝わって、最後にガチッと合うような構成で、すごく面白いなと思いながらやらせてもらっています。秋広は『UME』のパラレルワールドの世界観を、役として特に描けるような立ち位置ですので、その面白さをお客さんに味わってもらえるように演じたいです。
丸尾:阪本君は真っ白いキャンバスのような印象があります。どこまでも伸び代があって、本人はそんなに表に出さないけれど、向上心と野心も持っている。いかに挑戦できる土壌を用意してあげるかが大切な気がしていました。それから阪本君はアーティスト活動をしているから、同じくアーティストの松岡さんと出会ったら、阪本君にとってギフトをもらえる経験になる予感がして。そういう相乗効果が起こるような、いい稽古を毎日していきたいと思います。
ーー松岡さんと阪本さん、お二人で一緒に稽古をした印象はいかがですか。
阪本:やはり企画から携わられているので、向き合い方の熱量や、僕より何倍も先のことを想像されて動いていることを、稽古場にいると感じます。さっき丸尾さんがおっしゃったように、僕もなんだか背筋が伸びますね。
丸尾:もともと持っていた松岡充のイメージと、稽古場での松岡充のイメージは違った?
阪本:僕が言うのもおこがましいんですけど、本当にハートフルな方だなと思いました。セリフの表面的な部分だけを見るのではなくて、そこに至るまでのプロセスを大事にされている印象を受けています。ミュージシャンとしても先輩ですが、役者としても見習わないとな、と感じています。
松岡:僕ら二人の名前でオファーを受けたときはどう感じたの?なんで引き受けてくれたんだろう、と思っていて。
阪本:松岡さんがミュージシャンとして活躍されているのは大きかったんですよ。しかもミュージカルだというのも聞いてたので、歌が歌える、その中心に松岡さんがいらっしゃる。そう考えたときに、本当に丸尾さんがおっしゃる通りで、学ばせていただけるかもしれないと率直に思ったのが入り口になりました。
歌と芝居への探究心、本読みの段階から立ち上がるほどの稽古場の熱量
ーー全23もの楽曲が物語を彩り、三味線やパーカッションなどを駆使する『UME』。歌劇として取り組む中での所感はいかがでしょうか。
阪本:一般的な演劇は音階楽器が主流だと思いますが、打楽器だけでこんなに効果的に見せられるんだな、と新鮮さを感じています。曲は和洋折衷の雰囲気に、ジャズなどブルージーなテイストも加わっていて振り幅が広い。楽曲のインスピレーションによって、お芝居の仕方も変わるじゃないですか。そこにやりがいがあって楽しく、表現で突き抜けていきたいなという気持ちがありますね。
丸尾:今回の『UME』は、松岡さんが音楽監修という形ですべての曲に立ち会ってくださっていますが、お願いして本当によかったなと思います。僕にない引き出しが多くて、松岡さんが口ジャミで歌ってくれたら、もう絵が浮かぶというか。僕は音楽家から出てきたものに自分のアイデアをどう乗せるかを主軸に考えますが、「音楽自体をこう変えたら、もっと違う発想があるんだよ」と松岡さんは表現してくれる。もう、まるで伴奏してくれているかのように。
松岡:それを受け入れてくれるのは、僕たちの関係性があるからだと思うんですね。飽くなき探究心で時間がなくなるので、今回は早い段階から稽古を詰めています。阪本君とか、ちょっと振り回されてると思いますけど。
丸尾:やはり松岡さんや阪本君は音楽の中だといきいきしているし、理解が早い。羨ましくもあり、こういう人たちと作品をつくるのは楽しいなと思いますね。
阪本:僕もすごく楽しいです、今。だから遠慮なく振り回していただいて(笑)
松岡:これからもっと振り回されるよ!(笑)
丸尾:今回は「これは無理だから諦めよう」とか、そういうのはなしにして、最後までスタッフワークも含めて絶対に諦めずにやっていこうと決めています。やりたいことや、ドキドキする方向にとにかく進むことを約束しているので、皆で突き進みたいですね。ギリギリに思いついたことでも、とにかく考えてみようと。
ーーこの3人も含めた皆が実際に動き出してみての手応えと、メンバー全員が揃ったことで生まれる、これまでにないVOL.Mの新しい色はどのようなものになりそうですか。
丸尾:松岡さんが毎日そばにいて、表現について疑ってくれる。自分の表現だけでなく、僕たちがやろうとしている作品に対しても疑ってくれるから、僕も改めて自分のやり方を疑うようになりました。「これが本当に正しい?」「これが自分のやりたかったこと?」と自問していくと、「違う、もっとある!」という感覚が湧いてきて。もっとこうだよね、やりたいことはこうだったなと思って、「明日また台本の頭からやります」みたいになる。そういう感じです。
松岡:だから、楽しいですよね。とにかく。「こうやらなきゃいけない」というものが、ここにはないという感じ。ただスケジュールに追われて作品をつくるのではなくて、大事なのは脚本家が何を伝えたかったのかで、脚本家の頭の中で広がっている世界に入って、キャストがどこまで同居できるか。同居できなかったところは削ぎ落とすのか、上塗りするのか、と結論を一個ずつ出していかなければいけない。そこをマル君自身が真剣にやろうとしているから、僕らは楽しくてしょうがない。何が出てくるんだろう。それを自分はどう受けて、どうやって投げ返して提示しようかなと。稽古で本気のキャッチボールができている実感があるので、すごく楽しいです。
阪本:まず、本読みをここまで時間を取ってやったのは、僕初めてだったんですよ。他の現場でも本読みをしながらシーンについてディスカッションすることはありますが、今回は何度も読み合わせとディスカッションを重ね、何日もかけて進めました。イメージのすり合わせを最初のうちにできたことが、立ち稽古に向かう上ですごくありがたかったですね。役を掴めそうになる段階まで持っていけると、本読みの段階でもう立っている人もいて、僕も自ずとそういう気持ちになりました。立ち稽古に入るとまた全然違ってくるのが面白く、毎回やるたびに変わっていくんだろうなと期待しています。僕も役の正解を出して終わらせるのではなく、いろいろな方向にトライして楽しみたいと思っています。
毒も希望に変えて生きていく、人間讃歌のような演劇
ーー「歌劇」と銘打たれた本作。刺激的な舞台になりそうですが、観客にはどのような体験を持ち帰ってほしいですか。最後に、 2月の開幕を心待ちにしている方へのメッセージをお願いします。
阪本:今回は「毒」が前面に出てきますが、毒を持ち合わせていないと自分を守れないこともあるんじゃないか、と作品に向き合うにあたって感じました。すごくリアリティのあるテーマだと捉えています。今の世の中って潔癖というか、綺麗なものを求めているような気がするんですよ。でも、汚い部分や間違いがあってこそ人間だし、それを肯定できるのも人間らしさなのかなと思います。作品を通じて、そんなメッセージを伝えられたらいいですね。
松岡:これって本当に、永遠のテーマだよね。阪本君が言ったような人間らしさや、人間という曖昧さ、愚かだけど愛情深いところ。そういうものがあってこその人間。その人間が何に迷って、何に傷ついて、何を喜びにもって生きているのかを表現する作品だと考えています。「なんで私はこっちを捨てたんだろう?」とか、「なぜこんなに必死になってしがみついたんだろう?」とか、そういう感情はどんな人にも、いろいろな経験の中であるはず。それでも人間が選んで生きていかなきゃいけないとき、「捨ててしまったんじゃない、いつか自分がもっと強くなったら取りに行くんだ」と心が優しくなれるような、そういうメッセージも僕はこの作品から伝えられるんじゃないかなと思っています。
丸尾:この作品の最初のイメージは、津軽三味線の音と松岡さんの声がただ闇に響いているような光景でした。そこから松岡さん、キャスト、スタッフの皆さんと協力しながら、どんどん色がついていって、最終的にはキービジュアルのような得体の知れない舞台につながっています。松岡さんと相談して、今回は劇場ロビーから『UME』の世界にできないかとアイデアをいろいろ散りばめているので、全部なんとか実現したいですね。皆さんはぜひ、劇場に来るところから『UME』の世界にどっぷり浸かってみてください。それから最終的な目標は、日本の演劇がもっともっと盛り上がって、日本発のオリジナル作品がどんどん海外に羽ばたけることです。その先駆けとなれるよう、日本らしさを誇れる、日本人の感覚を持った作品をつくっていきたいと思います。
取材・文=さつま瑠璃
公演情報
【日程・会場】
東京公演 2026年2月15日(日)〜23日(月祝) サンシャイン劇場
大阪公演 2026年2月27日(金)〜3月1日(日) クールジャパンTTホール
和歌山公演 2026年3月7日(土) 紀南⽂化会館 ⼤ホール
【脚本・演出】 丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
【音楽】 YOSHIZUMI 【美術】平山正太郎 【照明】 吉澤耕一 【音響】 百合山真人
【衣裳】 車杏里 【ヘアメイク】 笹川知香 【舞台監督】 澤井克幸(黒組)
【宣伝美術】 藤崎健太郎 【宣伝写真】 小松陽祐 【演出助手】真壁愛
【WEB】 ブラン・ニュー・トーン(かりぃーぷぁくぷぁく、阿波屋鮎美)
【制作】 高橋戦車
【運営協力】サンライズプロモーション大阪(大阪・和歌山公演)
S席 :9,500円