多彩な“ドイル&ホームズ”が創り出すふたり芝居 ミュージカル『最後の事件』稽古場レポート
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ミュージカル『最後の事件』 (C)西村淳
2021年に韓国にて初演されたふたり芝居、ミュージカル『最後の事件』の日本初上演が迫る中、熱気あふれる稽古場の様子が公開された。作家のアーサー・コナン・ドイルと、彼の小説『シャーロック・ホームズ』シリーズの主人公であるシャーロック・ホームズが、“現実”と“物語”という境界を超えて同じ時空に存在しながら、有名な一編『最後の事件』を書き上げていくまでの葛藤を描く本作。公演はトリプルキャスト且つ組み合わせも9通り。この日はアーサー・コナン・ドイル役の加藤和樹、矢崎広、髙橋颯、そしてシャーロック・ホームズ役の渡辺大輔、太田基裕、糸川耀士郎と、キャスト6人全員が揃っての稽古となった。
最初に“診察室”に登場したのは加藤&渡辺ペア。白衣を羽織っているのは医者と小説家、二足の草鞋生活中のドイル。場面は、読者の心を掴む作品を生み出そうと考えを巡らせる中、探偵物の執筆を思いつき、シャーロック・ホームズという魅力的なキャラクターを思いつくくだりだ。ペンと紙を手に繰り出されるシャーロックの個性と特徴が、期待感あふれるメロディーに乗せて歌われる。演じるのは加藤。創作意欲に突き動かされ、次々に浮かぶアイデアの泉に自ら興奮していく様子をグンッと込める、高揚した歌声が心地良い。舞台中央に立つのは“出現”したばかりのホームズ。とはいえ、ドイルから渡される帽子、パイプ……と彼を描くのに必須のアイテムをひとつひとつ身につけた姿はすでに“あの”ホームズ。演じる渡辺は知的で気難しいホームズを体現、天才が産んだ天才、自信たっぷりな言動がそこにはあった。出会うべくして出会ったドイルとホームズのハーモニーは力強い。また、相棒・ワトソンと出会った日に起きた事件についてのホームズのソロはプロファイリングを展開する彼の美学が伝わる複雑なメロディーで、渡辺の緻密なボーカルが印象に残った。
加藤和樹
渡辺大輔
続いての登場は矢崎&太田ペア。出版社からの電話を受けるドイルの喜びの声から始まる。電話を切り、次作の短編、『ボヘミアの醜聞』のアイデアを語り始めるドイル。「新しい事件だな!!」と前のめるホームズ。完璧なコンビとして歩み始め、まさに脂が乗って来た時期のふたりの勢いが、歌に豊かな表情をつけていく。作家として自分の力を信じることができている弾む心が伝わってくるような矢崎の歌声と、シニカル&ユーモラスにこの上向きの状況を楽しみ人気を自負する知的な匂いの太田の歌声もまた良い相性。時に小説世界を演じ、時に今の状況を分析しつつ思い描く未来へ歩み続けている最中のスピード感がここにある。さらに、新しく執筆する作品タイトルを一人ずつ順々に挙げていくシーンでは、タイトルに寄せたアドリブ的なワンポーズを決めていくのだが……相乗効果で徐々にお茶目度が増し、その様子にギャラリーからも大きな笑い声が。最後は演出家席のソン・ジェジュンも思わず真剣な表情を崩し、ふたりを暖かな視線で見つめていた。矢崎のドイルはまだまだ夢も忘れない成功者。太田のホームズは次々に起きる事件を楽しむ知的遊民、というところか。
矢崎広
太田基裕
ラストのペアは髙橋&糸川。足元に散らかった紙の束が、何やら不穏な気持ちを呼び起こす。そこに聴こえてくるのは……重く、恐ろしいピアノの旋律。物語の中でとある道筋が与えられようとしているホームズと、作者としてふさわしい決着をつけるべくプロットを練り続けるドイルの駆け引きが、苦悩の感情を伴って歌われていく。どんなやり方で自分が作者の譲らぬ意図へと導かれていくのか、受け身であることを自覚しているホームズを今日一番のシリアスな空気で伝えてくれる糸川。一緒に作り上げて来た世界だからこそ、自分が自分の小説の全ての責任を負うのだとこの状況にクールに向き合おうとする髙橋のドイル。重なり合うふたりの歌声にもヒリヒリとしたモノが漂い、稽古場にも今までなかった凌ぎ合いの緊張感が生まれる。信頼しているからこそ正しく対立する。相容れない関係として共に自分の勝利をぶつけ合い、物語をクライマックスへと強く引き寄せていくシーンである。ナンバーが終わり、「では次に……」とスタッフ側から声がかかった瞬間、「クラクラする〜(笑)」と糸川。強く同意していた髙橋。3組の中で最も若いペアが、渾身のパフォーマンスで成熟期を見せてくれたのも面白かった。
髙橋颯
糸川耀士郎
自分たちの出番以外の時間もカンパニーは一体。芝居を見守りながら身体でリズムを取ったり、口パクで一緒にナンバーを口ずさんだり、「今の面白いね」とペアと感想を言い合ったり。物語の緩急によっては自然に拍手や笑いも起き、全員で今そこにある世界を共有していた。「昨日も通したんですけど、この作品、ホントに面白いですよ! 本番をぜひお楽しみに」と、取材の合間に声をかけてくれたのは加藤。ちなみに、ドイルとホームズはもちろん、本作にはワトソンを始めホームズシリーズでお馴染みのキャラクターも登場するが、彼らについてもふたりの俳優が演じわけていく。その切り替えの見事さや、ふたりだけの空間だからこそ、どちらかが仕掛ければ一方も即座に反応する“生のラリー”も見どころになるはず。また、今日はこの3組のペアだったが、それ以外の組み合わせによってもドイル&ホームズのバディ感は多彩に変化していくのは確実だ。
脚本・作詞・演出:ソン・ジェジュン
様々な作品で研鑽を積みながらその魅力を発揮し、着実に現在のミュージカル界を支えている頼もしき俳優たちが、楽しみながら丁寧に創り出す日本初演のミュージカル『最後の事件』。本番のステージにもさらに期待が高まる。
取材・文=横澤由香 撮影=西村淳
公演情報
東京公演:2026年2月7日(土)~3月8日(日)銀座 博品館劇場
大阪公演:2026年3月13日(金)~3月16日(月)サンケイホールブリーゼ
脚本・作詞・演出:ソン・ジェジュン
作曲:ホン・ジョンイ
音楽監督:岩崎 廉
振付:松田尚子
美術:伊藤雅子
照明:杉田諒士
音響:佐藤日出夫
衣裳:小西 翔
ヘアメイク:水﨑優里
歌唱指導:吉田純也
アクション:冨田昌則
稽古ピアノ:treetop(栗山梢、豊住舞、久保奈津実)
通訳:シンユ
演出助手:坂本聖子
舞台監督:仲里 良
アーサー・コナン・ドイル:加藤和樹、矢崎 広、髙橋 颯
シャーロック・ホームズ:渡辺大輔、太田基裕、糸川耀士郎
全席指定 ¥11,000(税込)
※未就学児不可
東京
大阪 ブリーゼ
主催:ぴあ、シーエイティプロデュース
主催:サンケイホールブリーゼ、ぴあ、シーエイティプロデュース
制作協力:キム・テイ、ASOViVA
企画:シーエイティプロデュース
製作:ぴあ、シーエイティプロデュース
公式X:@ finalproblemjp