新国立劇場 2026/2027シーズン 演劇ラインアップ説明会レポート~上村聡史芸術監督1年目のシーズンは翻訳劇を中心に7演目が登場
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新国立劇場 2026/2027シーズン 演劇ラインアップ説明会 上村聡史次期演劇芸術監督 (撮影:久田絢子)
新国立劇場 2026/2027シーズン 演劇ラインアップ説明会が、2026年2月16日(月)に開催され、上村聡史次期演劇芸術監督が登壇した。
冒頭、上村は「初めてこの劇場に関わったのは、およそ20年前(2005年)に上演された『花咲く港』(作:菊田一夫、演出:鵜山仁)の演出助手だった。この劇場で創作活動を行わせていただくとともに、歴代芸術監督の仕事を近くで見てきた。諸先輩方が達成してきた「お客様に感動を届ける」という娯楽としての使命はもちろんのこと、それにプラスして感動以上のサプライズを届けるという国立の公共劇場としての役割を担っていければと強く思う。芸術監督としての私自身の視点をプログラムに反映していくことも念頭に置きながら、公共性という意味では世界情勢や、世界相対の意味でも転換のフェーズにある日本の生活感覚というものをしっかり捉えながら国立の劇場として役割を果たしていければと思う」と意気込みを述べた。
新国立劇場 2026/2027シーズン 演劇ラインアップ説明会 上村聡史次期演劇芸術監督 (撮影:久田絢子)
■指針表明
上村は、演劇芸術監督在任中の大きな指針として、演劇の更なる前進を目指す『物語の更新(アップデート)』を掲げ、プログラム構成については4つの視点を基盤に据えるとした。
一つ目は【現代的、国際的、批評的】。「書き下ろし新作であっても、古典や近代戯曲の上演であっても、今ある問題を意識した現代性、グローバルな価値観を意識してローカルな価値観との衝突も含めた国際性、社会を考察する可能性に富む批評性、といった視点を持って作品作りを目指していく」とした。
二つ目は【クロスオーバー、他ジャンル(音楽、ダンス、文芸、漫画、映像など)とのつながり】。「演劇は新しいことばかりやっていても仕方がないと思われる反面、新しい試みなくしては前進はなし得ない。そのためにも様々なジャンルと交流し、清新な表現の獲得を目指す」とした。
三つ目は【新しい才能との出会い】。「次世代の演劇の発展のためにも、出演者、スタッフともに新しい才能を登用し、交流できる場を目指す。オーディションを積極的に行うことも含め、集団創作による新作や新たなプロジェクトを開催していきたい」とした。
四つ目は【消費で終わらないパフォーマンス】。「舞台芸術が社会生活とともにあるためにも、舞台空間を構成する素材等の長期活用や再利用、また再演作品の上演形態を工夫することで、ものづくりにおいて一過性ではない価値観を提示していきたい」とした。
新国立劇場 2026/2027シーズン 演劇ラインアップ説明会 上村聡史次期演劇芸術監督 (オフィシャル写真)
■ラインアップ発表
上村演劇芸術監督1年目のシーズンの幕開け(2026年11月)は、上村自らが演出する『巨匠とマルガリータ』が上演される。同劇場で24年に上演された『白衛軍 The White Guard』の作家ミハイル・ブルガーコフにより執筆され、映画、テレビドラマ、舞台化され20世紀ロシア文学の最高傑作と呼ばれる小説を原作に、主人公である「巨匠」を小説家から劇作家に翻案して2004年に初演したエドワード・ケンプによるバージョンを今回上演する。物語は1930年代のソ連時代のモスクワと、キリストの処刑を決断したローマ帝国総督・ピラトの時代のエルサレムとを時空を超えて行き来しながら、創作にかける苦悩や愛への渇望が描かれている。「壮大かつ神話的、奇想天外と評される長編小説で、“原稿は燃えない”という名フレーズから語られる芸術の価値、芸術の継続性、芸術の創造性、そして社会における善と悪の存在が深く結びついているテーマの作品。幻想的な世界観の中に、抑圧や権力構造を批評的に捉えた眼差しで、国益優先化しつつある今の世界において意味のある上演だと考えている。過去に敬意を払い、今の視点で語り、未来へとつなげる、といった私の指針と重なる内容だと思う。オープニング作品にふさわしいスペクタクル性を持ってお届けできれば」と述べた。
『巨匠とマルガリータ』出演者
12月は様々なジャンルとのクロスオーバーを目指す作品として、藤子・F・不二雄の短編マンガを原作に、ダンスカンパニーCHAiroiPLINを主催するスズキ拓朗の脚色・振付・演出で『ミノタウロスの皿』を上演する。上村は「ダンスや映像を駆使した演出で「命を食するとは」といった食の倫理をテーマに、示唆に富む作品をお届けする。スズキさんは、2020年の研修科の公演『オズマ隊長』(手塚治虫原作)の演出で創造力豊かな舞台を作り出した。本公演は4歳以上の未就学児から入場可能な公演で、幅広い世代の観客にお楽しみいただければ」と述べた。
『ミノタウロスの皿』
27年3月からは、現代的、国際的、批評的な視点で創作する4作品が並ぶ。3月はドイツを中心に現代演劇をリードする作家で、現代人の精神性を問題提起するマリウス・フォン・マイエンブルクの『ナハトラント~ずっと夜の国~』を上演する。上村は「父親の遺産相続のドタバタをブラックユーモアたっぷりに描いている本作は、現代人を冷徹に批評的に捉えたどんでん返しの展開にも注目の作品。演出は、丁寧な戯曲の掘り起こしで『夜の道づれ』(25年)を演出した柳沼昭徳さんが手掛け、翻訳は新国立劇場初登場の長田紫乃さんが手掛ける。ダークな笑いをお客様に届けたい」と語った。
4月はアメリカの劇作家アヤド・アクタルの『見えざる手』を、上村の演出で上演する。パキスタンのイスラム系テロ組織によるアメリカ人銀行員の誘拐に端を発する物語で、「アメリカ人が身代金の代わりに提供する先物取引のノウハウが、やがてテロ組織に大きな影響をもたらしていく、というスリリングな内容になっており、昨今日本でも国を挙げて推進している投資や金融取引をテーマに、世界経済から考察する「分断」をクライムサスペンスとして描く。緻密な会話による心理戦と、マネーゲームの果てにあるカタルシスにぜひご期待いただければ」と語った。
5月は、本作を含めピュリッツァー賞を2度受賞している女性劇作家リン・ノッテージの『Ruined 奪われて』が上演される。演出は新国立劇場で上演された『どん底』や『貴婦人の来訪』の演出で高い評価を得ている五戸真理枝。上村は「コンゴ民主共和国における女性の実態に基づくセンセーショナルな物語。描かれているのは、同じ世界の住人として決して他人事では済まされない真実だと思う。緊迫感や苦しみや痛みを抱えながらバーを営み、地に足をつけながら、それでも明日を生きていこうとするエネルギッシュでユーモアあふれる女性たちのヒューマンドラマと共に、生バンド演奏も見どころの一つとなり、作品全体に生命力の尊さが描かれる作品になるかと思う。五戸さんは本作について、フィクションであるけれどもドキュメント性に肉薄していきたい、と意気込みを話してくれた」と語った。一部の役については公募オーディションの開催が予定されている。
6月は山田佳奈による新作書き下ろし『抱擁』を上演する。山田は23年に新国立劇場に『楽園』を書き下ろしており、今回は自ら演出も手掛ける。上村は「病に侵された母と、出産を控える娘の対話を軸に、生と死をめぐる葛藤というテーマを、日本的な視点と国際的な視点を交えながら展開する力作になる。山田さんは『楽園』において、軽快な会話から今の時代の生きづらさに寄り添うような作品を描いた。今回は山田さん自身の演出で、きれいごとでは終われない人生と命の再生の意味を問う作品をお届けしたい」と述べた。
シーズン最後となる7月は、消費で終わらないパフォーマンス企画として新たに始動する【グリーン・リバイバル・ラボ】の第一弾公演として『エンジェルス・イン・アメリカ』を上演する。23年に新国立劇場にて上村が演出した上演版を踏まえながら、過去に同劇場で上演した『レオポルトシュタット』『白衛軍 The White Guard』、そして26年11月に上演される『巨匠とマルガリータ』の舞台美術を一部使用したリバイバル上演になる。上村は「資源活用を目指した企画の一環で、在任期間の2030年まで毎シーズン一つの演目はこの舞台形状と同じ舞台美術で長編やダブルビル、または再演作品を上演する予定でいる。また、企画の枠には入っていないが、27年の4月の『見えざる手』においては、昨年末上演した『スリー・キングダムス』の舞台美術を一部使用する予定である」と、説明した。
『エンジェルス・イン・アメリカ』2023年公演より (撮影:宮川舞子)
『エンジェルス・イン・アメリカ』は、23年に上演した際にロイ・コーン役の山西惇が芸術選奨や読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞。今回は山西をはじめとした初演のキャストと、新たに参加するメンバーによる座組になる。上村は「舞台形状も含め初演とは変わるので、再演という枠には収まらない新たな試みでの創作になる。根底には差別や偏見といった深刻なテーマを持つ作品。80年代アメリカで共和党政権時代の方針に苦しんだ人たちを描いたこの本作は、資源活用という名目ではあるが社会の未来を願うグリーン・リバイバル・ラボの理念と相似形を描いているように思う」と語った。
『エンジェルス・イン・アメリカ』2023年公演より (撮影:宮川舞子)
■プロジェクト
上村の演劇芸術監督在任期間中のプロジェクトは3つ提示された。
【集団創作による新作】は、時間をかけて劇作家と演出家と出演者のアイデアを積極的に交流し、同時代における新作の可能性を探る試みとなる。劇作家を26年春に公募、出演者は26年秋にフルオーディション形式で決定し、プロダクションワークショップを重ね、2028年4月上演を目指す。演出は五戸真理枝が担う。
【グリーン・リバイバル・ラボ】については『エンジェルス・イン・アメリカ』の項目を参照。
【ドラマクエスト―物語の探求―】は、世界各地で話題になっている演劇ムーブメントや、日本で生まれる新しい劇言語など、国内外問わず新しい形式の演劇を観客と共有、考察していきたいというプロジェクトで、劇作家、演出家、俳優に留まらない幅広いクリエイターたちとのトークイベントや、トライアウトによる新作戯曲のリーディングイベント、演技やスタッフの体験型ワークショップなど様々なプログラムを実施する予定となっている。
また、上村は「演劇がこれからも持続性を持って進んでいくためにも、次世代の観客を取り込んでいく必要があると考えた上で、検討の段階ではあるが「Theatre Day」と称した格安
芸術監督のあり方について「各国の国立劇場のあり方は決して均一的なものではなく、その国の歴史や生活風習といった背景を踏まえながら劇場ごとに独自性があるように見える。では日本にとっての現代演劇の国立劇場とは何だろうか、という問題は議論が尽きないと思う。この命題と向き合ってプログラムを作っていくのと同時に、公共劇場は批判されて成長していく場であると考えている。強いコンセプトを打ち出すことによって、議論が尽きない空間でありたいと思う」と自身の考えを述べた。
新国立劇場 2026/2027シーズン 演劇ラインアップ説明会 上村聡史次期演劇芸術監督 (撮影:久田絢子)
■質疑応答
──これまでの芸術監督たちがこの劇場で培ってきたものをどのように継続、継承していきたいと考えているか。
「これまでの演劇芸術監督は“感動+サプライズ”をお客様に提供してきたと思う。サプライズとは具体的に何なのかというと、価値観の視点を広げる作品、こういう考え方もあるんだ、と気づける作品を諸先輩方は提示してきたと思っている。豊かな社会を目指そうというとき、演劇の役割は何なのかといえば、今世界で主流を占めている意見とは違う意見が出てきたときに、少数意見だからあまり意味がない、とはならずに、そうした小さな意見にも可能性があるかもしれない、その意見をもっと磨けば広がっていくかもしれない、とすくい取るような役割を担っていると思う。これまでの芸術監督たちの作品はそういった視点をとても大事にしてきたと思うし、その流れは絶やさないようにしたい」
──【集団創作による新作】プロジェクトにおいて、演出にご自身ではなく五戸さんが入る理由は。
「このプロジェクトは特に劇作家とは長期的なお付き合いになる。五戸さんはご自身の演出活動において、脚色や潤色もされて、かつ執筆もされている演出家で、脚本との向き合い方が、登場人物の心理や、物語の運び方といったドラマに寄ったところから出発していくので、誰が適任かと考えたときに、五戸さんがこの企画にはハマると思った」
新国立劇場 2026/2027シーズン 演劇ラインアップ説明会 上村聡史次期演劇芸術監督 (撮影:久田絢子)
■懇談会
説明会終了後、上村次期芸術監督を囲んだ懇談会が開催された。
【グリーン・リバイバル・ラボ】について問われると、上村は「材料費の高騰などにより、現場はかなり圧迫されている。日本において、衣装や小道具に関してはレンタル会社などもあるが、大道具はなかなか手がつけづらい現状がある。海外の劇場ではレパートリーシステムを導入している中で、同じセットで違う演目をやっているケースもある。まずは日本でもその価値観を提示していければと思ってこの企画をスタートする。美術家の著作権の問題も生じてくると思うが、基盤を作るところから始めてそれを発信していきたい」と、まずはその考え方を示すところから始めたいという思いを語った。
国によって公共劇場のあり方が異なるという話から、今回のラインナップも含めた劇場としての方向性を問われると、「ラインアップについては悩んだ。今回はかなりコンセプチュアルな、上村色が強い並びになっている。年間7本で何ができるのか、限られている予算の中で何ができるのか、という問題もあるので、4年間28本の中で考えてやっていきたいと思っている。1年目に関して言えば、日本で生活しているだけでは気づかないことや、届かないような声をすくい上げるような作品を並べた。トータルしてみたときには、演劇として想像力が豊かになることはもちろんのこと、それを通して生きづらさなどといった問題が解消できるような作品を並べる、そういう劇場にしていきたい。それは任期通してやりたいと思っている」と述べた。
新国立劇場 2026/2027シーズン 演劇ラインアップ説明会 上村聡史次期演劇芸術監督 (撮影:久田絢子)
新芸術監督が今年(2026年)9月1日に就任するにあたり、どのような方向性になるのか、これまでの流れを汲むのか、刷新されるのか、ラインアップ発表を心待ちにしていたが、7本中翻訳劇5本という、想像以上にコンセプチュアルな方向性に正直驚いた。会見中に上村は、「ドメスティックな視点にならないように」という意味の発言をしており、それが海外戯曲の多さとして現れたように感じた。次年度以降になるだろうが、あえてドメスティックな視点を提示して対比を出す方向性も見てみたい。
上村の話から、1シーズン7本の括りではなく、4シーズン28本、という括りでラインアップを考慮していることがうかがえたので、4シーズンすべてのラインアップが出そろったときに「なるほど、こういうビジョンだったのか」と全貌が見えてくるのだろう。今回から新たに始まる3つのプロジェクトの積み重ねと成果にも注目したい。本人の言う通り“上村色”の濃いラインアップでの基盤作りとなる1年目、芸術監督のあり方、国立の公共劇場のあり方の新たな道筋が示され、それが舞台芸術にとっての希望になるようなシーズンであることを期待したい。
取材・文=久田絢子
公演情報
■公演日程:2026年11月
■公演会場:新国立劇場 中劇場
■原作:ミハイル・ブルガーコフ
■翻案:エドワード・ケンプ
■翻訳:小田島創志
■演出:上村聡史
■キャスト:
成河 花乃まりあ 松島庄汰 菅原永二
明星真由美 小松利昌 富山えり子 内田健介 山本圭祐 山森大輔
柴 一平 釆澤靖起 近藤 隼 猪俣三四郎 篠原初実 笹原翔太
大鷹明良 篠井英介
■公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-master-and-margarita/
■公演日程:2026年12月
■公演会場:新国立劇場 小劇場
■原作:藤子・F・不二雄
■脚色・振付・演出:スズキ拓朗
■公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-minotaurs-plate/
■公演日程:2027年3月
■公演会場:新国立劇場 小劇場
■作:マリウス・フォン・マイエンブルク
■翻訳:長田紫乃
■演出:柳沼昭徳
■公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/nachtland/
■公演日程:2027年4月
■公演会場:新国立劇場 小劇場
■作:アヤド・アクタル
■翻訳:浦辺千鶴
■演出:上村聡史
■公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-invisible-hand/
■公演日程:2027年5月
■公演会場:新国立劇場 小劇場
■作:リン・ノッテージ
■翻訳:小田島則子
■演出:五戸真理枝
■公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/ruined/
■公演日程:2027年6月
■公演会場:新国立劇場 小劇場
■作・演出:山田佳奈
■公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-grace-of-our-being/
[グリーン・リバイバル・ラボ#1]
第一部「ミレニアム迫る」/第二部「ペレストロイカ」
■公演日程:2027年7月
■公演会場:新国立劇場 小劇場
■作:トニー・クシュナー
■翻訳:小田島創志
■演出:上村聡史
■キャスト:浅野雅博、岩永達也、長村航希、坂本慶介、水 夏希、山西 惇、ほか
■公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/angels-in-america/
■公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/devised-play-development-initiative/
「グリーン・リバイバル・ラボ」
■公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/green-revival-lab/
「ドラマクエスト─物語の探求─」
■公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/drama-quest/