【インタビュー】METライブビューイング《アンドレア・シェニエ》指揮者 ダニエレ・ルスティオーニ ~“歌手とオーケストラを音楽的に交流させ、最高の効果を引き出しました”
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ダニエレ・ルスティオーニ MET首席客演指揮者
METライブビューイングで2026年3月6日(金)より公開される《アンドレア・シェニエ》を指揮したダニエレ・ルスティオーニ。生命力あふれる磨き抜かれた音楽で、八面六臂の活躍を続けるミラノ生まれの俊英指揮者は、世界中で共演者との分厚い信頼関係があり、英国ロイヤルオペラの次期音楽監督候補にも、最後まで名前があった。結果として、MET・LV のファンには幸いなことに、2025/2026シーズンからMETの首席客演指揮者に就任し(2026年4月には東京都交響楽団の首席客演指揮者にも就任する)、早速指揮したオペラを、間もなく映画館で楽しめる。
それに先立ち、都響の招聘で来日したルスティオーニにインタビューした。期待が高まらずにはいられない内容だった。
《アンドレア・シェニエ》 (c) Karen Almond/Metropolitan Opera
―― オペラ《アンドレア・シェニエ》の特徴と魅力を教えてください。
ヴェリズモ(真実主義)・オペラですが、《カヴァレリア・ルスティカーナ》や《道化師》のような、南イタリアの庶民の生活を描く伝統的なヴェリズモとは違って、歴史ドラマです。しかし、言葉へのアクセントへの付け方や、アリアも会話のテンポで進行するところなどがヴェリズモ的です。つまり、言葉や動作と音楽が一体になって流れていくのが、とてもリアリスティックです。
第1幕はとても貴族的で、ある意味、表面的な世界です。それが第2幕で大きく変化します。フランス革命後の世界が描かれ、オーケストレーションが拡大され、恐怖政治への熱狂や、それに巻き込まれた人たちの感情の渦が、音楽に反映されることになります。つまり音楽が、陰謀や恐怖をはじめ舞台上に見えるできごとと重なるのです。
その点で、このMETの《アンドレア・シェニエ》は魅力的です。演出家ニコラ・ジョエルによる伝統的なプロダクションで、音楽で表現されるものを、そのまま舞台上で見ることができます。近年、舞台上で「演出家の創作」を見せられることも多いですが、見るに堪えないと思っています。よい意味での伝統的な舞台で指揮できたのは幸せです。
《アンドレア・シェニエ》 (c) Karen Almond/Metropolitan Opera
――あなたが指揮した《アンドレア・シェニエ》は、ほかの指揮者のものとどこがどう違いますか? また、歌手陣はいかがでしたか?
私はピアノを通してオペラを勉強し、自分でも歌い、そうしてオペラの内側まで知っているので、はっきりした考えがあります。私は伴奏をするのではなく、歌手たちと一緒に音楽を作ります。そのためには、歌手たちは管弦楽に十分に耳を傾け、私も彼らの声をしっかり聴く必要があります。そうやって音楽を進めるためにも、私は演奏を、ほかの指揮者以上にオーケストラにまかせます。とくに弦楽器の音を、広いMETのすみずみまで届かせるためにも、彼らの自主性を尊重します。
今回の《アンドレア・シェニエ》では、ピョートル・ベチャワ、ソニア・ヨンチェヴァ、イーゴル・ゴロヴァテンコという、特別に強い声をもつ3人の主役歌手がそろいました。だからこそ余計に、伴奏をするのではダメ。すぐれた歌手たちと同じレベルで音楽を作りました。つまり、オーケストラでなんらかの感情を表現すべき箇所では、ボーカルラインにそういう指示がなくても、オーケストラと同じ表現をしてもらいます。逆に、歌手が歌にアクセントを加えて効果を出す箇所では、オーケストラにも同様の表現を求めます。このように、歌手とオーケストラの音楽的な交流が起こるように心がけています。
もちろん、劇場のすみずみまで届く声が必要なMETで、彼ら3人が歌ってくれたのは大きなよろこびでした。しかも、3人ともヴェリズモの表現に適していて、最高の効果が得られました。
《アンドレア・シェニエ》 (c) Karen Almond/Metropolitan Opera
―― 2025/2026シーズンからMETの首席客演指揮者にも就任されました。そこに至った経緯と、今後の抱負について聞かせてください。
実は、2022年にも打診されたのですが、当時はリヨン歌劇場と音楽監督の契約があったのでお断りしました。しかし、2025年に娘が生まれ、娘が就学するまでは家族との時間を大事にしたくて、リヨンの仕事を辞しました。そうしたら、それを知ったMETのオーケストラから手紙がきたのです。オーケストラが私と一緒に仕事をすることを望んで、ピーター・ゲルブ総裁に頼んでくれたのです。これはうれしかったですね。
今後は毎シーズン、ニューヨークに2カ月滞在し、3つのオペラを指揮するほか、時にカーネギーホールでもコンサートを行うことになります。
METではこの劇場の3つの側面を体験したいと思います。1つは《ラ・ボエーム》や《魔笛》など頻繁に上演されている演目。1つは《アンドレア・シェニエ》のように、METではしばらく上演していなかった演目。もう1つは現代作品や世界初演の作品です。それらをカバーすることが、イタリアのレパートリーにかぎらず幅広く経験を積んできた私の役割です。
《アンドレア・シェニエ》 (c) Karen Almond/Metropolitan Opera
――METライブビューイングを楽しみにしている日本のファンへのメッセージをお願いします。
ジョエルが演出したMETの《アンドレア・シェニエ》は、1997年にパヴァロッティが歌ったときのVHS映像を、子どものころ擦り切れるほど観ました。これはまさにMETの歴史の一部で、オペラの黄金時代から届けられたようなすばらしいプロダクション。それをいま、すばらしいオーケストラと合唱、強力な3人の主役歌手たちと一緒に、すばらしい技術をともなって圧倒的な存在感でお届けできます。
ライブビューイングは私自身、劇場で観るよりすばらしいと思うことがあります。歌手たちの表情はよく見え、字幕は完璧で、今回は第1幕と第2幕の間に私がピアノを弾きながら説明するインタビューがあり、その後、歌手たちのインタビューもあります。まさにオペラを360度にわたって体験できるすばらしい機会なので、ぜひジョルダーノの音楽とともに映画館でお楽しみください。
インタビュー・文:香原斗志(オペラ評論家)
取材協力:東京都交響楽団
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【動画】METライブビューイング 2025-26《アンドレア・シェニエ》予告編