「自由」と「才能」と「個性」が奇跡的に溶け合った、アーティストの唯一無二の魅力を堪能~『紀平凱成ピアノコンサートツアー2026』がスタート
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紀平凱成ピアノコンサートツアー2026 『Progression』
紀平凱成ピアノコンサートツアー2026”Progression”の浜離宮朝日ホールでの初日(2026年2月15日(日))。こんなに自由でエキサイティングなピアノ・リサイタルってあるだろうか? と思わずにはいられない、アートのエッセンスとライヴの興奮が詰まった時間だった。プロローグはバッハ=紀平編曲「主よ人の望みの喜びよ」、紀平オリジナルの「Winds Send Love」と続き、自然からインスピレーションを得ているコンポーザー・ピアニストとしての才能が光る。
リスト「愛の夢 第3番」の紀平編曲ヴァージョンはびっくり。あの有名な原曲からまったく新しくてジャジーな音楽が飛び出した。シンフォニックな重層感もあり、リストのロマンティシズムがところどころで顔を出す。お洒落で粋で、リストにも聴かせたい素敵なアレンジだった。
前半はジャズの魅力が満載で、オスカー・ピーターソン「ミラージュ」、チック・コリア「スペイン」が、紀平編曲で万華鏡のようにカラフルに展開された。オスカー・ピーターソンもチック・コリアも紀平お気に入りのジャズ・ピアニストで、巨匠たちのオリジナルの演奏よりさらに未来的な響きが感じられる。
曲の合間に本人による曲解説のナレーションが流れるスタイルはいつもと同じ。曲が終わるたびに舞台袖に入って、また出てくる不思議な「間」もファンにとってはお馴染みだ。「Flying 4番、5番」、「Rollin’ Town」「Blue Bossa Station」とオリジナル曲が4つ続き、前半が終了。
後半は「Bohemian Rhapsody/QUEEN」からスタート。当初発表されていなかった曲で、紀平のハイセンスなアレンジで、あの有名なメロディラインがちらちらと見え隠れする。最後はアンセムのようにスケール大きく響き渡り、熱狂的。ツアーのコンセプトの「プログレス」にぴったりの、ピアニストの新境地で、聴衆は思わぬ伝説のロックの登場に大いに湧いた。
そこからの後半のプログラムは紀平凱成のピアニストとしての実力の高さを改めて感じる内容で、ラフマニノフの「前奏曲 Op.32」は高度な技術の楽曲をダイナミックにまとめ上げ、「この曲を苦痛な表情で弾くピアニストも多いのに……」と底なしのテクニックに驚かされた。オリジナル「白樺の囁き」ではステージも照明効果で森の中のようになり、魅惑的な曲の世界に染まった。坂本龍一「戦場のメリークリスマス」は、元気いっぱいに「メリー・クリスマス・ミスター・ローレンスを聴いてください!」と紹介され、元気な声とは対照的なほど深遠インテリジェンスを感じさせるアレンジで演奏された。
ツアーのタイトル『Progression』=進化という言葉通り、前回のツアーから色々なことが進化していて、天衣無縫な魅力はそのままに、全体的に成熟している。ディズニーのアレンジのような曲も楽しかったが、成長した紀平の世界観に合った選曲がなされていて、終盤のカプースチン「8つのコンサート用エチュードより 第8番“Finale”」は2時間のコンサートの締めとして最高の出来栄えだった。
ラストのオリジナル「Down Forest」とアンコールは「Soranji」(Mrs.GREEN APPLE)、「Taking off Loneliness」(紀平凱成)、そして即興演奏の3曲でオーディエンスもますます盛り上がる。他のピアニストのリサイタルではミスタッチが起こらないよう客席も緊張したり、長すぎて退屈したりするということも頻繁に起こるけれど、紀平凱成のリサイタルでは全くそういうことは起こらない。ストレスが全くないのだ。客席に向かって手を振るピアニストに、思わず聴衆のほうも手を振ってしまう。「本番は日々の稽古のご褒美」と語っていた紀平の笑顔を思い出した。浜離宮に集まった聴衆のほとんどが「また聴きたい!」と満足しているのを肌で感じ、この後に続く各地での公演にも期待が募った。
事前インタビューでは「ライブは同じ時間を一緒に過ごす場所」と話していた紀平。終演後には、サイン会も行われ来場者と直接顔を合わせて笑顔の時間を共有した。
『紀平凱成ピアノコンサートツアー2026』は、3月1日(日)あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール、3月7日(土)仙台銀行ホール イズミティ21 小ホール、そして4月4日(土)札幌コンサートホールKitara 大ホールへと続く。なお、北海道公演にはスペシャルゲストとしてソプラニスタ岡本知高が出演する。
取材・文=小田島久恵 撮影=池上夢貢