NHK交響楽団×リオ・クオクマン(指揮)×萩原麻未(ピアノ)~名曲が魅せる、華麗なる音楽絵巻~
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(左から)リオ・クオクマン(指揮)、萩原麻未(ピアノ)(C)Marco Borggreve
世界で活躍する指揮者やソリストを招いて行われる、恒例のN響公演。曲目はベートーヴェンの革新性が際立つ《ピアノ協奏曲第4番》と、アラビアンナイトを題材にしたリムスキー=コルサコフの傑作《シェエラザード》。リオ・クオクマンの清冽なタクトに、萩原麻未の千変万化のピアノタッチ、日本最高峰のオーケストラとのコラボレーションから生まれる一期一会の物語を、ぜひ体験してほしい。
NHK交響楽団
『千夜一夜物語』を描いたオーケストラの色彩美の極致
毎年恒例の埼玉会館におけるNHK交響楽団の公演。今回は、指揮にアジアの俊英リオ・クオクマン、ソリストに国際的な実力者・萩原麻未(ピアノ)を迎えて、とびきりの名曲が披露される。
まず注目したいのが、後半を彩るリムスキー=コルサコフの交響組曲《シェエラザード》だ。ロシア国民楽派「5人組」の最年少リムスキー=コルサコフは、海軍出身ながら、色彩的で巧緻なオーケストレーションを武器に作曲家として大成した。
その特徴が最も発揮されたのが、オーケストラの色彩美の極致ともいえる《シェエラザード》である。シェエラザードとはアラビアの説話文学『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』の語り部となる女性の名。「妃の不貞に怒ったサルタンの王シャーリアールは処女と初夜を過ごし、翌朝殺すという習慣を続けていた。しかし聡明なシェエラザードは王に毎晩面白い話を聞かせ、ついにはそれが千一夜にもおよんで、王の残忍な心は消えてしまった」というのが全体の根幹で、個々の物語はペルシャ、インド、エジプトなどの民話に基づいている。
同曲では、出だしの力強い主題がシャーリアール王、次いで独奏ヴァイオリン(通常コンサートマスターが弾く)で出される優美な主題がシェエラザードを表わしており、両主題がかたちを変えつつ全曲に登場。これらが曲の指針となる。
そして4つの物語が展開されるのだが、具体的な進行に沿ってはおらず、物語のイメージ音楽に近い。しかも作曲者は最終的にタイトルを外しているので、自由な想像も可能だ。とはいえ、彼自身が一度説明した各物語に基づく劇的な「音楽絵巻」として聴いたほうが、オーケストラに馴染みのない方も親しみやすいに違いない。
画家アブル・ハサン・サニ・アル・ムルクによって描かれた『千夜一夜物語』の連作の一部(1849年〜1856年)
第1楽章は「海とシンドバッドの船」。曲は有名な「船乗りシンドバッドの物語」で始まる。ふたつの主要主題が示された後、船の動きを表わす和音的な主題が登場。フルートがシンドバッドの旋律を奏で、危険な航海へと進む。凪のような優しい部分も出現し、最後はふたりの主題が戻る。
第2楽章は「カランダール王子の物語」。ここはカランダール(「巡礼僧」の意味)王子の諸国遍歴の物語。どこかユーモラスな王子の主題が最初にファゴットで奏され、中間部からテンポを速めて動的な音楽が展開される。
第3楽章は「若き王子と王女」。弦楽器が奏でるノスタルジックな主題をもとに、王子と王女の愛の情景が描かれ、クラリネットが吹く快活な主題も加わって熱を帯びていく。
第4楽章は「バグダッドの祭り、海、青銅の騎士のある岩での難破、終曲」。これも有名な「青銅の騎士の物語」に基づく内容。若干雰囲気が変わった王の主題とシェエラザードの主題の応答で始まり、主部に入ると、フルートで出される祭りの主題をもとに激しさを増していく。第1楽章の海の音楽が再現されて嵐となり、船は難破。シェエラザードの主題と柔和になった王の主題が、和解を示すかのように溶け合って終結する。
曲は、ヴァイオリンをはじめさまざまな楽器のソロが効果的に用いられながら、〝管弦楽法の大家〟に相応しいサウンドが展開される。しかも当時の一般的な楽器編成のなかで華麗な効果を生み出す巧みさが光っており、これがひとつの注目点となる。音楽はオリエンタリズム濃厚でエキゾティック。また、見事な海の描写には、作曲者の海軍時代の経験が活かされている。
Scheherazade,Op.35(Rimsky-Korsakov,Nikolay)《シェエラザード》初版スコア表紙(M.P. Belaieff/1889年)
ベートーヴェンの革新作ピアノ協奏曲第4番
今回の指揮者リオ・クオクマンは、マカオに生まれ、2014年スヴェトラーノフ国際指揮者コンクールで最高位を獲得。現在は複数のポストをもちながら、世界の主要楽団に客演して名声を高めている。2017年の本公演で名演を聴かせている点も心強く、オペラの指揮にも実績があるだけに、その語り口に期待が集まる。
リオ・クオクマン(指揮)
またこの曲ならば、コンサートマスターのヴァイオリンをはじめとするN響各奏者の妙技と、日本を代表するオーケストラならではのゴージャスなサウンドを存分に堪能できるのは間違いない。
前半のベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番は、協奏曲の歴史を変えた革新作のひとつ。特に、管弦楽で始まる従来のかたちではなく、冒頭からピアノが単独で主題を奏でる点がユニークだ。さらにはピアノとオーケストラの対話を主体にした抒情的な曲想も特徴的。音楽は詩情豊かで味わい深く、同曲を「ベートーヴェンのピアノ協奏曲の最高峰」と評する向きも少なくない。
萩原麻未(ピアノ) (C)Akira Muto
独奏の萩原麻未は、2010年ジュネーヴ国際コンクールのピアノ部門で日本人初優勝を果たして以来、内外の第一線で活躍を続ける名手。明確かつニュアンスに富んだピアノを奏でる彼女の今の表現に熱視線が注がれる。今回はかように全編耳目を離せない興味津々のコンサートだ。
萩原麻未(ピアノ)よりメッセージ
郷古 廉(N響第1コンサートマスター)よりメッセージ
文=柴田克彦
公演情報
リオ・クオクマン(指揮) 萩原麻未(ピアノ)』
会場:埼玉会館 大ホール
◎13:20~13:35に指揮者リオ・クオクマンによるプレコンサート・トークあり
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 作品58
リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」作品35
指揮 リオ・クオクマン
ピアノ 萩原麻未
後援:さいたま市、NHKさいたま放送局
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化総合支援事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会