毎年人気の紙の祭典『ペーパーサミット2026』実行委が語る紙の世界「消費するものという印象が変化」
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昨年のイベントの様子
5月30日(土)、大阪マーチャンダイズ・マートビル(OMMビル)・大ホールBにて印刷会社とクリエイターの共作ものづくりフェス『ペーパーサミット2026』が開催される。同イベントは、印刷の可能性を業界内外に広く周知するため、2022年に初開催。紙(印刷)の持つ魅力や楽しさを伝え、新たな発見や体験を提供することを目的とし、「紙を愛する印刷会社」と「紙を愛するクリエイター」が手を組んで作品や商品を発表している。参加者は2024年の第3回に2,400名、2025年の第4回も2,100名を記録するなど、大きな賑わいを見せている。そこで今回は『ペーパーサミット』の実行委員である、印刷業の有限会社サンクラール・矢田幸史さん、グラフィックデザイナーの今西香織さん、手帳作りや製本などを行う田中手帳株式会社・細川雅史さんに話を訊いた。
●「『紙好き』がカテゴリの一つになるくらい、熱狂的に」
『ペーパーサミット』実行委員の(左から)矢田幸史さん、今西香織さん、細川雅史さん 撮影=福家信哉
――『ペーパーサミット』はもともとどういった趣旨でスタートしたイベントなのでしょうか。
矢田:大阪の印刷の組合は業界内に向けての取り組みが多いのですが、一方で『紙博』や『文具女子博』などで全国的に紙に熱狂している人たちが増えている現状を見て、組合のみなさんに「印刷会社が本気を出したらすごいものが作れるのではないでしょうか」という話から始まりました。ただ、印刷業は基本的に請負の仕事なので、発想力やデザイン力に課題がありました。そこで大阪のメビック(大阪で活動するクリエイターを応援するコーディネート施設)の所長・堂野智史さんに相談し、クリエイターとコラボして商品や企画を作り、それを発表するイベントを行うという話が生まれました。つまり『ペーパーサミット』は、印刷会社とクリエイターが共に考え、協議し、モノと企画を作って発表・販売するイベントなんです。
――今、そんなに紙が盛り上がりを見せているんですね。
矢田:「紙好き」がカテゴリの一つになるくらい、熱狂的なものになっています。また紙を扱う各イベントはクリエイターエコノミーになっていて、大手メーカーが作るものではなく、小さなメーカーや個人のクリエイターが作るかわいいグッズやおもしろいグッズが人気を集めています。オリジナリティがあり、それほど数多く出回ってない希少性を求めて、紙のイベントに来場されます。
有限会社サンクラールの矢田幸史さん
細川:紙は誰もが小さいときから慣れ親しんでいるものです。学校でもご家庭でも紙になにかを書くことが基本にあり、書いて覚えたり、紙の質感から気づきを得たり、そうしたずっと根づいていた感覚がイベントなどを通してよみがえるのだと思います。
今西:私は、紙は情報媒体としていろんな物事を載せて伝えられるところに良さを感じています。さらに情報以外にも、紙はいろんな形に変化できます。最近は紙でアートが制作されるなど、「紙は消費されるもの」という印象から、特別感や付加価値がついてきており、それが盛り上がりにつながっているのではないでしょうか。
グラフィックデザイナーの今西香織さん
細川:用途が変わってきていますよね。あと手帳業界で言えば、以前まではキャラクターものやかわいいデザインがよく売れていましたが、今はシンプルでベーシックなデザインが人気です。予定などを書くところも分かりやすいデザインが好まれる傾向です。また、以前までは1年間使い終わったらそれで終わりだったけど、今は使い終わった手帳を残しておいて、何年後かに読み返すことも増えているようです。やはり、紙は「残すもの」という考え方が根強くなっている印象です。
矢田:僕は実は自他共に認める「印刷オタク」で、約10年前から新しい技術も取り入れるようになり、紙の印刷のアート性を強く感じるようになりました。情報を伝えるために発展した印刷の産業はすでにピークを越え、縮小傾向になっています。情報を伝えるのはインターネットなどデジタル媒体が今は適していますから。ただ、モノとしての価値を伝えること、人の思いや覚悟を伝えること、そして視覚的な美しさ、触ったときの感触などフィジカルメディアとして紙の印刷物はこれから伸びていくのではないでしょうか。印刷物はかつてのようなバラマキではなく、価値を提供できる。そのようにシフトしていくと考えています。
田中手帳株式会社の細川雅史さん
――みなさんは普段、どのような用途で紙を活用されていますか。
細川:私は手帳会社に勤務していることもあり、スケジュールはもちろん、思いついたことなどを手帳にメモをするんです。手帳に書く方がやることを覚えられるし、忘れにくい。頭に残るという良さがありますし、なによりサッと取り出してすぐ書けるのも自分に向いています。
びっしり文字が書き込まれている細川さんの手帳
今西:私も手書き派です。デジタルのメモ機能だと、思いついたことをきっちり一行ずつ文字で書いていくことになりますが、私の場合はなにかメモを書いている途中で絵や図を描いたりすることもできるので、そういう自由さの面では紙を使う方が良くって。
矢田:つまりデジタルは情報の整理と管理に使うもの、紙はその前段階にある、思いついたことを「まず書く」ということに向いていると思います。紙は、考えて、目で追って、手も使って、五感で学ぶ感じがありますよね。フィンランドを皮切りにスウェーデンやニュージーランドの教科書もまた紙に戻っていると聞きます。学習の定着率も紙の方がいいという判断もされているようで、デジタル一辺倒ではなくなってきているのではないでしょうか。
今西:紙とデジタルの関係性という意味では、今は紙のフライヤーなどにQRコードが必ず載っています。これはまさに紙とデジタルの融合。イベントなどの紙のフライヤーとWEBサイトのデザインが揃えられていることも多いです。そうした一体感のある発信が行われているので、紙とデジタルは必ずしも分断する関係性とは限りませんよね。
過去の『ペーパーサミット』のフライヤー
●キラーコンテンツは「紙の詰め放題」
紙の詰め放題
――今回の『ペーパーサミット』の出店やグッズの見どころは?
矢田:クリエイターのみなさんは現在、作品やグッズを制作中の方も多いのでお話できる情報が少ないのですが、『NANIWA PEN SHOW』というイベントとのコラボ商品「ペーパーバックノート」は注目の一つです。海外では「ペーパーバックノート」という「小さいジャンプ」のような読みものがあって、「そのノートを作ったらおもしろいんじゃないか」という話になりました。『ペーパーサミット』の実行委員会のメンバーであるクリエイターが、自身のクリエイティブをペーパーバックノートのデザインにし、それを細川さんの会社で製本し、表紙は複数の印刷会社が技術を結集して製作します。実行委員会のメンバーが力を合わせ、15種類のオリジナルのペーパーバックノートを作るので、イチ押しです。
ペーパーバックノート
今西:「ペーパーバックノート」はこだわりがすごく強くて、紙の質感も「単純に書きやすい」とかではありません。鉛筆、ボールペン、万年筆のインクなどどのペンを使っても書き心地が良いものになっています。プロのみなさんの造詣が詰まった商品になります。
細川:「ペーパーバックノート」には、田中手帳のオリジナル加工「D-EDGE(ディーエッジ)」も活用されています。本の小口にプリントする技術で、今回の『ペーパーサミット』をきっかけに広く知っていただきたいと考えています。ブースも設けていますので、ぜひお立ち寄りいただきたいです。
矢田:文具のインフルエンサー、「#ノート旅」のJackieさんも今回参加してくださいます。『ペーパーサミット』の取り組みに興味を持っていただき、広報のお手伝いやコラボ商品の制作もしてくださいます。さまざまな文具を見まくってきたジャッキーさんだからこそ、ご自身が欲しいと思っているもの、おもしろいと感じているものが出来上がってくるのではないでしょうか。
――なるほど。
矢田:あと、『ペーパーサミット』のキラーコンテンツである「紙の詰め放題」は今回も賑わいが予想されます。余った紙を積み上げておいて、1袋500円で詰め放題ができます。特にお子さんがいらっしゃるご家庭に人気で、普段だったら画用紙などを買ってこなければいけないけど、「紙の詰め放題」だったらたくさん紙が手に入るので、会場に着いたらまず「詰め放題」へ足を運ぶ方が多いです。
――最後にあらためて今回の『ペーパーサミット』開催に向けての想いを聞かせてください。
細川:今年もたくさんの方にご来場いただけるはず。だからこそ、なおさら紙の良さをもっと広げていきたいです。お客様には、いろんな商品を通して各クリエイターへの価値観も見出していただき、紙に対する興味を持ってもらいたいです。そして私たちも、印刷会社同士でいろんな目標を持ってイベントを運営していきたいと思います。
今西:出店者が企画から制作、販売まで携わっています。そういったプロのクリエイターに直接会える機会は貴重なので、その点を楽しんでいただきたいです。商品を手に入れるだけではなく、出店者とお話することで、紙や作品への理解も深まるのではないでしょうか。商品の魅力が伝わる場所になってほしいです。
矢田:印刷会社の技術とクリエイターのアイデアが光る商品ばかり。お気に入りの紙グッズをゲットして、日常のなかに彩りとして置いてもらいたいです。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉、ペーパーサミット実行委員会(写真提供)
イベント情報
日程:2026年5月30日(土)10:00~18:00(最終入場時間17:30)
開催地:大阪マーチャンダイズ・マートビル(OMMビル)大ホールB