吉田兄弟の生音公演『極生』は日本の音楽シーンにどのような影響を与えるのか「もっと違う扉がその先にも待っている」
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吉田兄弟 撮影=浜村晴奈
革新的なサウンドとスタイルで伝統的な津軽三味線の世界を拡張し続けている、吉田兄弟。そんな彼らによる、楽器とホールの響きだけでパフォーマンスを行う生音公演『47都道府県ツアースペシャル in 大阪 吉田兄弟 -極生- THE MOMENT』が9月6日(日)、大阪・フェスティバルホールで開催される。
長年、ロックバンドからヲタ芸まで様々なジャンルとコラボレーションし、さらに国内外で公演を開催するなど、自分たちの音楽的可能性を探究し続けてきた吉田兄弟にしか生み出せない、極上の生音公演。今回は兄・吉田良一郎、弟・健一に同公演への思いなどを訊いた。
兄・良一郎(左)、弟・健一(右)
今だからこそ明かせる「RISING」CM曲抜てきのエピソード
――吉田兄弟は1999年のデビュー以降、異なる音楽ジャンルとのコラボや海外公演などで津軽三味線の革新性を打ち出してきました。特に2007年リリース「RISING」のスピード感とサウンドは衝撃的でした。リリースからまもなく20周年を迎えますが、今聴いても気持ちがたぎります。
健一:「RISING」はビールのCMソングとして作った曲でしたが、バンドスタイルで演奏したことやビジュアル面なども含めて吉田兄弟のイメージを構築することができました。「『RISING』みたいな曲を作ってほしい」というオーダーもすごく多いですね。僕らとしても、「『RISING』を超える曲を!」という気持ちが常にあります。
良一郎:青森の運動会では、「RISING」をBGMに使ってくださっている学校もあるようなんです。僕らの子どものときは「ソーラン節」が流れていましたが、それが「RISING」になっているというのはすごく嬉しい話です。幅広い世代に広がっている実感はあります。
健一:実はCMソングに選ばれたときの裏話があるんです。海外で活躍する日本人が出演していて、メジャーリーガーの松井秀喜さん、NBAプレーヤーの田臥勇太さん、そして僕らだったんです。ただ僕らの出演回に自分たちの曲が使用される予定はなかったんです。CMソングを制作する担当の方がいらっしゃって、そちらの曲が使われるはずでした。クライアントさんからも「出演は決まっているけど、曲はどうなるか分かりませんよ」って。
良一郎:それで火がつきました(笑)。
健一:そして、楽曲のプレゼンの場で「RISING」を聴いてもらったとき、楽曲担当の方から「これはウチの曲ではなく、吉田兄弟の曲を使った方がいいです」と逆に推してくださって。その言葉がなければ「RISING」は埋もれていた可能性がありました。そういうエピソードが、楽曲のエネルギーとしてずっとみなぎっているのかもしれません。
吉田兄弟「RISING」
――海外でも吉田兄弟のファンは多く、3月30日放送『世界!ニッポン行きたい人応援団』(テレビ東京系)では、アルゼンチン在住の吉田兄弟ファンの女性が日本へやって来て津軽三味線を特訓する特集がありましたね。
健一:ロサリオさんですよね。トイレにまで僕らのポスターを貼ってくださっていて、びっくりしました。津軽三味線は基礎を固めるのがすごく難しいので、日本でお稽古ができたのは大きな経験だったと思います。
良一郎:僕らも20年以上活動してきて、津軽三味線がカッコいいものとして「やっと世界に広がってきた」と思えるようになってきました。日本でも津軽三味線のサークルが増えていて、さらにアニメ『ましろのおと』(2021年)が放送され、ハリウッドでもアニメ映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016年)が製作されましたし。
健一:一方で自分たちに続く存在が出て来ていない現状を「なんとかしたい」という気持ちもあります。僕らは、ライブハウスなどでも活動して20代や30代からも熱烈な支持を集めた全盲の奏者・高橋竹山さんがお亡くなりになられた翌年にデビューして、一つの世代交代がありました。ただそれ以降、横の広がりは出てきましたが、革新性を持った津軽三味線の奏者がなかなか突出できていません。
良一郎:現在の津軽三味線の風潮として、古典的な部分に戻っている部分があります。僕らも「じょんがら節」を大きな核にしていますが、そこに自分たちの個性や新しいアイデアを付け加えることを意識しています。でも今は全国大会でも、そういうスタイルはあまり受け入れられていないように感じます。
健一:音楽シーン全体で考えると、津軽三味線もエンターテインメントです。「じょんがら節」も100人いれば100通りの個性ある弾き方があっていい。技術があっても、どうしても似たような演奏や聴こえ方になってしまうんです。
良一郎:そういう意味で、「じょんがら節」など津軽三味線の真髄的な部分と、「RISING」のような革新的な部分などいろんなスイッチを持ち、それぞれの“極み”を見せて「日本の音の未来」を示していきたいです。
「『極生』は2人対2700人という形で、生音をきっちり届ける」
健一:今回の『極生』ツアーも、津軽三味線のポテンシャルや可能性の大きさを感じてもらえると思うんです。実際に今回、ツアーの会場のキャパも広がったことで「もっと違う扉がその先にも待っているんじゃないか、そこに日本の音の未来もあるんじゃないか」と考えるようになりました。
良一郎:普段のライブではスピーカーを通して音を拡張させていきますが、『極生』ではお一人、お一人に音を届ける気持ちが必要。2人対2700人という形で、生音をきっちり届ける構成と演奏をする。2時間を超える公演は現状難しく、80分から90分が限界点です。一方で、そうした過酷な内容をエンターテインメントとして見せられる自信もつきました。以前までは、公演のアンコールで生音の演奏をすることはありましたが、それを1時間半もやり切る自信はありませんでしたから。
健一:ホールでの生音は、ちょっとした音でも響くんです。その独特の緊張感が演奏者にも、お客様にも流れますからね。そういう空気感によっても音がまた変化する。もちろん季節やお客様の服装によっても音の響きは異なりますし。『極生』は特に、当日にならないと読めない部分がたくさんあります。
良一郎:その分、津軽三味線ならではの、そして日本の音ならではの揺れを体感できるはず。マイクを通すとどうしても伝わりづらいところもあるのですが、『極生』ではそれがしっかりみなさんに届けられるはず。
――緊張感といえば、『M-1グランプリ2025』決勝戦のオープニングで生演奏を経験したことも大きかったのではないですか。
健一:『M-1』では本番前、ディレクターさんが「まだ始まりませんよ」とおっしゃっていても、観覧のお客さんの緊張感がすごかったです。
良一郎:『M-1』での生演奏はものすごい反響がありました。僕らも、津軽三味線からスタートする『M-1』なんて想像がつかなかったですし、ミスをしたら台なしになってしまうかもしれなかったのですごく緊張しました。
健一:でも『M-1』のように、自分たちが試される場所は常に必要だと実感しました。音楽シーン以外にもアプローチできますし、僕らの音を受け取った方がどういう風に伝えてくださるかで状況も変わってくる。だからこそ僕らは、「この人にとっては最初で最後の吉田兄弟の演奏かもしれない」と思うようにしています。自分たちの音に責任を持てるかどうか。楽しい音楽は誰にでもできるけど、表現して、伝えて、どのように受け取ってもらえるか。そこまで責任を持たなきゃいけない。
良一郎:その上でみなさんを良い意味で裏切っていきたいですよね。驚くような津軽三味線を弾き続けたいです。『極生』ではそういう演奏をお見せできるはず。濃い日本の音が伝えられるコンサートになると思います。
健一:三味線の3本の弦でどこまでできるのか。これは僕らのテーマです。吉田兄弟の超絶技巧を生で、浴びるように聴いてください。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=浜村晴奈
公演情報
公式サイト:https://yoshida-brothers.jp/
公式X:https://x.com/yoshida_kyodai
公式Instagram:https://www.instagram.com/yoshidabrothers_official/
公式Facebook:https://www.facebook.com/yoshidakyodai/?locale=ja_JP