adieu(上白石萌歌)、揺れ動く微妙な感情を曖昧なまま精度をあげて提示したからこそ感じた歌の説得力

18:00
レポート
音楽

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adieu Live 2026「bleuir」
2026.5.30 KT Zepp Yokohama

上白石萌歌のクリエイティヴコンソーシアム、adieu(アデュー)が5月30日(土)に神奈川・KT Zepp Yokohamaにて、ワンマンライブ『adieu Live 2026 “bleuir”』を開催した。

パソコンのキーボードで<あわい>と打つと、<間>という漢字に変換される。ただ、<間>の語源は<空き所(あきど)>で、家と家に挟まれた空間や物理的な隙間のこと。一方、<合う>が語源となっている<あわい>は、二つの世界が重なり、交わり、つながるような空間や感情の揺らぎといった抽象的な状態のことを指すことが多い。どうして<あわい>の説明から始めたかというと、『adieu Live 2026 “bleuir”』は、「悲しいと悲しくない」「寂しいと寂しくない」の<あわい>に揺れ動く微妙な感情を曖昧なまま精度をあげて提示した――だからこその歌の説得力を感じたライブであった。

開演5分前になると、突如、BGMが代わり、イギリスのシンガーソングライターであるヴァシニティ・バニヤンの「Winter is blue」が流れ始めた。《冬が青く染まっていく/春がくるまで眠りにつこう》と歌っている。続いて、名古屋発のアンビエントバンド、ララストーン「Snow petals」によって、冬の終わりがゆっくりと告げられる。フロアはスタンディングのお客さんで満員だが、クラシックコンサートのような静けさで春の訪れを待っていた。

ステージ上には三重に重ねられた五角形の段が設置されており、最上段は雲が浮かぶ空の模様となっていた。バンドメンバーの前方には透明に近い淡いブルーの布がぶら下げられており、常に揺れている。歌う人魚が棲んでいる海の底や水槽、もしくは空と海の<間>のようにも見えるステージが照明によってブルーに満ちていくと、バンドメンバーに続いて、adieuが登場。大きくな拍手を送る客席に向かって一礼して、エレキギターを抱え、今年4月にリリースした5枚目のミニアルバム『adieu 5』のリード曲「ブルーアワー」でライブをスタートさせた。夜明け前の時間や空を描いたポップなポストパンクで、悲しみと喜び、切なさと愛しさといった感情の“あわい”を揺蕩うように表現すると、《元気でもないし落ち込んでもないし》と繰り返す「元気?」から、アコギに持ち替えて歌った「泣いてしまいそう」(まだ泣いていない)と、ゆらゆらと夜と朝の“あわい”を行ったりきたりしながら、自分の心が今、どこにあるのかと自問する最新作からの楽曲を3曲続けた。

スタンドマイクを握りしめ、《私の夜明けはまだ遠い》と淡い時間を想起させる「景色/欄干」を経て、最初のMCでは、ライブのタイトル「ブルイール」について、「フランス語で青くなる。青く移ろうという意味がありまして。いろんな気持ちの“あわい”の中で、夜明けを待つような心をみんなで持ち寄って、いい時間にできたらいいなという思いで付けました」と説明。また、最新ミニアルバム『adieu 5』に関しても、「気持ちの“あわい”を大切にしたアルバムで、自分の心がどこにあるかわからなくなる時って、大人になればたくさんあると思うんです。そんな心の“あわい”も私はとっても美しいと思います。みんな、いろんな気持ちを持ち寄ってきてくれたと思うんですけど、どうかこのひとときだけは、心を解いて、自由に楽しんでいただけたらと思います」と呼びかけた。

夏の終わりでも始まりでもなく、一瞬の煌めきを切り取った「夏の限り」、月明かりのような光の下で激しいギターサウンドとadieuの歌声によって胸が締め付けられるような思いの奔流を表現する「ひかりのはなし」と演奏を続けると、フロアは自然といつかの夏を思い起こすようなムードに満たされていった。「ソウルメイト」ではクラップが沸き起こり、雨がポップに弾む「泡吹」では《ラララ》のシンガロングが発生。日常と非日常の“あわい”で、目に見えない天使が自分に「頑張れ!」とエールを送る「天使」を経て、情景描写の優れた歌詞で海へと誘う良質なシティポップ「植物園」へ。観客の心と体を揺らして盛り上がった中盤は、聴き手一人ひとりにおける “ひかり”のありかを感じさせるような時間だった。

ここで、「みんなと一緒に歌の中で旅をしているような気持ちになっています」と語り、デビュー曲「ナラタージュ」のリリースから来年で10周年を迎えることを報告。温かく大きな拍手が送られる中で、「adieuと上白石萌歌、どっちも大切な軸である二つの歩みを進める中で、adieuっていったいなんなんだろうかとずっと問うてきて。先日、『adieu5』ができた時に、adieuの現在地点が自分の中でわかって。adieuはadieuでいいんだなって、自分の中で自信になって。今、adieuとしている自分がとても好きだし、音楽が変わらずに好きだし、みんなと手を取りあって歩んできた10年だったなと思います」と胸を張った。

本項ではYaffleや小袋成彬、川谷絵音、柴田聡子、カネコアヤノ、澤部渡(スカート)、柳瀬二郎(betcover!!)、比喩根(chilldspot)、Jeremy Quartus(Nulbarich)、luvisといったadiueに楽曲を提供しているクリエイター陣については割愛しているが、彼女は、先鋭的でオルタナティブなアーティストが描く楽曲の世界観の媒体となり、歌詞の主人公に自分を投影しながら演じるように歌っている。筆者は、その歌声に、純粋に音楽を感じている。平熱は低そうだけどエモーショナルは歌唱こそが本当の音楽であり、孤独な寂しさの中にある自由さも魅力的に映る。豪華アーティスト陣がどれだけ独自のクリエイティヴィティを発揮しても、彼女の歌声という個性は決して溺れることがない。それだけで、adieuとして歌う理由は十分すぎるほどあるのではないかと思う。

そして、「初心を思い出す曲を」という言葉の後、アコースティックギターの伴奏のみで「ダリア」を歌って追憶を誘うと、座ってエレキギターを奏でながら、彼女が敬愛するスピッツの草野マサムネが作曲し、松本隆が作詞したchappie「水中メガネ」をカバー。演奏後に両手を上げて万歳し、ほっとしたようでいて、嬉しそうな表情を見せていたが、この2曲では、adieuと上白石萌音の“あわい”を垣間見たような思いがした。

「最後まで楽しんでいってください」という呼びかけと共に打ち鳴らされたのは、日々を過ごしている中でいつの間にかすり減ってしまった心を探す「心を探し求めている」。寂しさと温かさ、少女と大人の間を揺れ動く複雑な心模様を体現すると、《青い体温》で胸を振るわせる別れの歌「よるのあと」をドラマチックに歌唱してスケール感を拡大していき、ライブはクライマックスへ。本編ラストは最新ミニアルバムから「ナイトバード」。《朝になるのを拒んでる》というひとりぼっちの“私”が雲を抜け、闇を切り裂き、たった一人の“あなた”と目が合った瞬間に「ありがとう、adieuでした」という言葉ともに舞台は大団円を迎えた。

アンコールでは《いい加減 旅するのをやめて/大人になればいいのに》とひとりごちる「旅立ち」で白い虎が踊り出すようなドリーミーな空間を創出。そして、「一人ひとりが健やかにここで集えたことが嬉しく思いますし、とても特別だと思いました」と感謝すると、「これからもみんな、いろんな気持ちの“あわい”の中を生きていくと思います。子供の頃は混じり気のない気持ちがあったと思うんですけど、大人になればなるほど、自分の心はどこにあるんだろうなって誰しもあると思います。そんな名前のつかないような気持ちを一人ひとり大切に、そんな気持ちを愛せるような日々であることを願ってます」というメッセージを伝えた。「またライブに来たら、私がみんなにたくさんお守りをあげますので、また会える日まで健やかでいてください」と語ると、まさに名前のついてない「Untitled」で、《群青色のパレット》を広げ、《いつかまた逢える日まで》と最後に相応しいフレーズを響かせてライブを締めくくった。

「一人ひとりにたくさんの幸せがありますように。いつかまた元気で会いましょう」と再会の約束をしたあと、マイクをステージに起き、「百恵ちゃんみたいになっちゃった」と年齢不詳のネタで笑い声を誘った彼女がステージを去った後、場内には、この日のオープニングナンバーで《群青色の空》に身を委ねる「ブルーアワー」の音源が流れた。この曲は、《今はただ感じてる確かに/身体を駆ける熱を》というフレーズで終わる。この日の会場に集まった観客一人ひとりの心の状態はそれぞれ違うだろうが、心と身体にさまざまな情熱が駆け抜けたことは共通しているのではないかと思う。


取材・文=永堀アツオ 撮影=Kodai Kobayashi

 

セットリスト

adieu Live 2026 bleuir
2026.5.30 KT Zepp Yokohama
01.ブルーアワー
02.元気?
03.泣いてしまいそう
04.景色 / 欄干
05.夏の限り
06.ひかりのはなし
07.ソウルメイト
08.泡吹
09.天使
10.植物園
11.ダリア
12.水中メガネ (cover)
13.心を探している
14.よるのあと
15.ナイトバード
<ENCORE>
16.旅立ち
17.Untitled
 
・セトリプリリストはこちら
https://adieu.lnk.to/bleuir_LiveSETLIST

リリース情報

『Wanna me』
 2026年7月29日発売 

初回生産限定盤(CD+BD)
品番:SRCL-13745~6
価格:¥7,000
 
[CD収録楽曲] 
Wanna me、そのほか未定
 
[BD収録]
adieu LIVE 2025  a la plume
Making of adieu LIVE 2025  a la plume
 
・通常盤(CD ONLY)
品番:SRCL-13747
価格:¥1,500
 
[CD収録楽曲]
Wanna me、そのほか未定
 
■CD予約はこちら
https://adieu.lnk.to/Wanname_PKG
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※店舗別特典の内容、絵柄は後日解禁となります。
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