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音楽座ミュージカルの新作『カイブツはささやく』 相川タロー(脚本・演出)が語る創作に込める想い

2026.6.19
インタビュー
舞台

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1987年の旗揚げ以来、人間の本質や生きることの意味を問い続けるオリジナルミュージカルを創り続けてきた音楽座ミュージカル。2027年には40周年という節目を迎える。その新たな挑戦として今秋上演されるのが「カイブツはささやく」だ。児童文学として愛される名作を、音楽座ミュージカルならではの視点で舞台化する。

今回は、本作の脚本・演出を手がける相川タローに、作品との出会いから創作に込める思いまでを聞いた。

善悪では語れないものに惹かれて

――原作『怪物はささやく』との出会いについて教えてください。

正直、最初のきっかけはあまり覚えてないんですよ(笑)。本屋でたまたま手に取ったのか、映画で知ったのか、そのへんが曖昧で。ただ映画を観たときに「あれ、リリーがいない」と思った記憶があるので、たぶん原作本のほうが先だったんでしょうね。

惹かれたのはテーマです。僕はもともと白でも黒でもない、グレーな話が好きなんですよ。ホイットマンの詩に好きな一節があって。「私は矛盾しているだろうか。結構、なら矛盾していよう。私は大きい。私の中には、無数の私がいる」。人はだれでも心の中にいくつもの感情を飼っていて、ときどき言うことや思っていることが食い違う。ふつうそれは嫌われますよね。一貫していないとか裏表があるとか。でもこの詩は堂々と矛盾を肯定している。そこが好きなんです。

『怪物はささやく』に惚れたのも同じところでした。矛盾を抱えていることも含めて人間で、だからこそ人生には価値がある。そう結ぶ物語なんです。しかもこれ児童文学なんですよ。大人でも難しいテーマを、子どもたちに真正面からぶつけている。その大胆さにやられましたね。

母を失ったあとに残ったもの

――その作品をミュージカルにしたいと思ったのはなぜだったのでしょうか。

作品のテーマが、自分の境遇とぴったり重なったことですかね。
母であり音楽座ミュージカルの創設者でもある相川レイ子が癌を患い、僕はその母に8年近く付き添いました。病院に泊まり込んだり、治療法を探したり。できることはなるべくやりました。けれど、2016年に亡くなりました。

母は事業家でしたから、僕が物心つく前から自宅にはいつも会社の人や音楽座のメンバーが出入りしていて(笑)。家と会社の境目がないようなものだったんです。だからいいか悪いかは別として、母が病気になってはじめてちゃんと向き合えた気がします。とにかく忙しい人でしたから。

母が亡くなったあとは、整理のつかない気持ちがたくさん残りました。頭では「人はいつか死ぬ」とわかっている。でも心が追いつかない。当時は会社のこともいろいろ重なって、よけいにこんがらがっていました。そして、これはいまだから言えるんですけど、僕はどこかで「母をいちばん大切に思っているのも、悲しんでいるのも自分だ」と思い込むようになっていました。母を失った悲しみの物語が、いつのまにか、母を失った自分がいちばん可哀想という物語に変質していたんです。そして僕は、その物語に酔っていました。

他人の悲しみは見えない

――その考え方が変わるきっかけがあったのでしょうか。

母が亡くなる前後、兄は会社の問題を一手に引き受けていました。当時の僕は、それを横目に「そんなことよりもっと母のそばにいればいいのに」と不満だったんです。でもいまならわかります。母がつくった会社を、そこで働く人たちを守る。それが兄の、母に対する最大限の愛情だったんです。

姉のことも、もっと母に時間を使えばいいのに、なんて勝手に思っていました。でも、亡くなってまもないころです。夜中、姉が仏壇に向かってひとりで泣いていたんです。僕はたまたまそれを見てしまって。その瞬間です。ああ、なんて表面しか見ていなかったんだろうと。

兄も姉も、僕に見えないところで、それぞれの役割を背負ってくれていました。それなのに僕は、自分の悲しみだけを物差しにして、だれがいちばんかと比べていた。かなり嫌なやつですよね。その人の悲しみや苦しみは、外から見える部分、行動じゃ測れない。その人の中で何が起きているかは、本人にしかわからないのに。

物語は、ある日書き換わる

――作品のどの部分に最も共感したのでしょうか。

主人公の少年は、死にゆく母に対する自己矛盾を抱えている。その現実を避けるように自分だけの「物語」をつくりはじめます。あいつが自分を傷つけた、あの人は悪い人だ、不幸なのは自分だけ、悲しいのも自分だけ。そういう一見わかりやすい物語を、ぎゅっと握りしめている。

これ、当時の僕そのものなんですよ。自分の見方だけが正しいと思い込んで、本当はもっと入り組んだ現実を、無理やりひとつの物語に押し込めていた。この本はまさに自分そのものを描いていたんです。けっして認めたくない、醜い自分を照らし出す。そういう感覚でした。

正直ショックでしたよ。13歳の少年と40超えのおっさんが同じだなんてね(笑)。でも不思議なもので、そのショックと同時に、自分に対する新たな視点というんですかね、それが入ってきたんです。物語の少年を見ていたはずが、いつのまにか自分を見ていた。自分に客観性が入ったんです。それ以降ですかね。自分の物語から解放されはじめたのは。その体験があまりにも鮮明だったので、音楽座ミュージカルとして届けたいと思うようになりました。

『カイブツはささやく』を、自分たちの物語として

――音楽座ミュージカルらしさは、どのようなところに表れるのでしょうか。

今回は、舞台を日本にしました。登場人物の名前も、日本の名前に変えています。原作の普遍的なテーマを、もっと「自分のこと」として受け取ってほしかったからです。
この物語は、どこか特別なだれかの話じゃない。大切な人を失うこと。認めたくない気持ちを抱えてしまうこと。つい人を一面だけで見てしまうことなど。大なり小なり、だれの人生にもあることです。だから、遠い国の出来事じゃなく、いまを生きる僕たちの話として届けたかった。

最近のうちの俳優たちは、作品を「役として演じる」というより、「自分の問題として向き合う」ほうに、どんどん寄ってきている気がします。いま上演中の「マドモアゼル・モーツァルト」もそうです。18世紀ヨーロッパの話だけど、当時を再現しようとしているわけじゃない。モーツァルトの葛藤を、自分のこととして引き受けて演じている。
時代も国も飛び越えて、登場人物の課題を自分ごとにする。それをカンパニーまるごとで続けている劇団って、そう多くないんじゃないでしょうか。音楽座の大きな持ち味だと思っています。

じつはこの変化、今年から始めたYouTubeの密着企画も、けっこう効いている気がします。ディレクターの渡邉さんには「NGなしで撮ってください」とお願いしていて。これ、俳優だけの話じゃないんです。僕自身あとから映像を観て、はっとさせられることだらけで。自分では深刻に悩んでいたことが、画面の中だとこっけいに見えたりする(笑)。

さっきの客観性と、まったく同じなんですよ。自分を外から見る目がひとつ入るだけで視野が広がる。人はどうしても、自分の物語にどっぷり入り込んでしまいます。でも一歩引いて俯瞰できるようになると、自分の執着や思い込みを笑い飛ばせるようになる。それって、すごく成熟したことだと思うんです。俳優たちも、僕自身も、その視点を少しずつ身につけてきている。それがうれしくてね。

見ていた世界は、ひとつの面でしかない

――今回のミュージカルでは、どのような体験を観客に届けたいと考えていますか。

お客さんに「答え」を渡したいわけじゃないんです。それより、自分の物語をちょっと見つめ直す時間になればいい、そう思いながらつくっています。「カイブツはささやく」には、登場人物の見え方が何度もひっくり返る瞬間があります。最初は「嫌なやつだな」と思っていた相手が、別の顔を見せたとたん、まるで違って見える。人ってそもそもそういうものでしょう。

ふだん僕らは、目に見えるところだけで人を判断してしまう。でも本当は、その人の事情も、背景も、気持ちも、何も知らない。だから観たあとに、「自分が見ていた世界は、ひとつの面でしかなかったのかもしれない」と感じてもらえたらうれしいですね。

――特に若い世代に届けたい思いはありますか。

あります。若いころって自分の見ている世界が、そのまま全部になりがちじゃないですか。でも本当は、ひとつの出来事にもいろんな見方がある。それを早めに知れたら、人とのつき合い方も、自分との向き合い方も、ずいぶん楽になると思うんです。

「カイブツはささやく」は、その入り口になれたらいいなと。大切なものを失って、そこからもう一度、人と出会い直したり、自分と向き合い直したりしていく。一人ひとりが抱えている「自分だけの物語」に、別の見方をそっと差し出す。そんな作品です。

――最後にメッセージをお願いします。

生きていると、思いどおりにならないことや、受け入れたくない現実に、しょっちゅうぶつかります。それから人は、自分の中の矛盾にも苦しみます。とくに若いうちは。いや、これは年齢じゃないですね。大人もみんな、認めたくない気持ちをどこかに抱えて、持て余しながら生きている。

でも、矛盾していること。それも含めて人間です。だからこそ人生はすばらしいし、生きる意味がある。この物語は、最後にそこへ連れていってくれます。

僕たちの旅は生きている限り続きます。つまずくこともあるでしょう。でもその旅の先で、自分を大きくしてくれるなにかに、きっと出会うはずです。この作品が、あなたにとってのその出会いのひとつになれたら、こんなにうれしいことはありません。いまの音楽座だからこそお届けできる舞台です。劇場でお待ちしております。

写真=間野真由美

公演情報

舞台「カイブツはささやく」
 
■日程・会場
 【大田区プレビュー公演】2026年10月11日(日)大田区民ホール・アプリコ
料金
SS席 12,000円
S席 11,000円
A席 7,700円
U-25席 3,000円
 
【東京公演】2026年12月11日(金)~12月20日(日)草月ホール
料金
SP席 15,400円(平日昼 14,300円)
SS席 13,200円(平日昼 12,100円)
S席 12,100円(平日昼 11,000円)
A席 7,700円
U-25席 2,750円
※U-25席:ご観劇当日25歳以下の方に限ります。舞台の一部が見えづらい可能性があり、場面によってはご覧になりにくい場合もございます。会場にて身分証の確認をさせていただく場合がございます。
 
■注意事項
※全公演とも、全席指定・税込。
※5歳未満のお子様の入場はご遠慮ください。
※開場時間は開演の40分前を予定しています。
※車椅子での観劇、介助犬を伴っての観劇など対応しております。ご購入前に公式サイトお問合せフォームよりご連絡ください。
 
■本作は『令和8年度 文化庁 劇場・音楽堂等における子供舞台芸術鑑賞体験支援事業』に採択されております。対象公演は公式サイトをご確認ください。
https://ongakuza-musical.com/2026/kaibutsu_bunka
 
販売
【音楽座メイト第一次先行(先着)】音楽座メイトプライム会員
2026年6月20日(土)10:00〜6月27日(土)23:59
プライム会員特別価格
SS席・S席 ともに1,100円引き ※プレビュー公演は割引適用外
 
【音楽座メイト第二次先行(先着)】音楽座メイトプライム会員・スタンダード会員
2026年7月5日(日)10:00〜7月12日(日)23:59
プライム・スタンダード会員特別価格
SS席・S席 ともに330円引き ※プレビュー公演は割引適用外
 
【一般発売】
2026年7月20日(月・祝)10:00〜
 
共催:公益財団法人大田区文化振興協会(大田区プレビュー公演)
後援:大田区教育委員会(大田区プレビュー公演)
協力:一般財団法人草月会・草月文化事業株式会社(東京公演)
製作著作・主催:ヒューマンデザイン
 
■あらすじ
江崎夜凪(ヨナ)は母と二人で暮らす13歳の少年。彼は学校や家庭で言葉にできない不安を抱えていた。そんなある夜、裏庭のイチイの木が“怪物”となって現れる。怪物はヨナに三つの物語を語り、最後に「お前自身の物語を語れ」と告げる。
奇妙でどこか現実に触れるその物語を聞くうちに、ヨナの中で長く押し込めてきた想いが揺れ始める。悪夢が毎晩 12時7分に現れる理由も、次第にその輪郭を見せていく。
三つめの物語が終わり、ついにヨナが語る番が訪れる。ずっと胸の奥に隠してきた“自分の物語”とは何なのか。そして、彼が向き合おうとしている想いとは――。