みのすけ&峯村リエが語る、ナイロン100℃に流れる“KERAイズム”「俯瞰の目線がナイロンにはある」 ナイロン100℃ 50th SESSION『管理人ご夫妻』インタビュー
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劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)主宰のナイロン100℃による新作公演、ナイロン100℃ 50th SESSION『管理人ご夫妻』が、2026年9月5日(土)に本多劇場で開幕する(岐阜、兵庫公演あり)。本作は、ナイロン100℃にとって50回目となる本公演。前作『江戸時代の思い出』から約2年ぶりに、劇団にとって“ホームグラウンド”である下北沢・本多劇場にて上演する。物語の舞台は、1970年代の東京、あるアパートの共有スペース。みのすけ、峯村リエが演じる“管理人ご夫妻”を中心に、映像やステージングといったギミックなしの会話劇を展開する。みのすけと峯村に、劇団への思いや本作への意気込みなどを聞いた。
ナイロン100℃ 50th SESSION『管理人ご夫妻』チラシビジュアル
一階に二部屋、二階に三部屋。すべて六畳一間。 一階廊下の一画には住人たちの共有スペースがあり、共同便所、共同洗い場、共用洗濯機、共用冷蔵庫がある。かつてこのアパートは町の人々に「正義の棲家」と呼ばれていた──
そんなような感じのト書きから書き始めてみようと思う。奇人変人が大挙する芝居にはしない。歪みまくった世界感が人物を凌駕してしまうような、所謂ナンセンスコメディにするつもりもない。
ごくあたりまえの人物たちが、彼ら自身は極めて真っ当に生きているつもりの中、気付かぬうちに様々なタガが外れ、いつの間にか閾値を超えている。今のところそんな作品を目指してみるが、さて、どうなりますか。
――ナイロン100℃にとって50回目となる本公演です。改めて、公演への思いを聞かせてください。
みのすけ: 50回公演ではありますが、ナイロンの場合、あまり周年や記念公演という特別感はないです。KERAさんがドヒャーッとやるのを嫌うので。とにかくいつも通りやって、たまたま50回だったという感じかなと。今回も作品を高め、楽しくできればいいなと思っています。
峯村:ただただ、ナイロン100℃でできることが、今はすごくうれしいです。まだ台本が全くないのですが(笑)、今回はみのすけさんと夫婦の役と聞いています。個人的にみのちゃんの芝居や雰囲気がとても好きなので、今、非常にうれしいです。
――今、峯村さんから「ナイロンでできることがすごくうれしい」というお言葉がありましたが、それは最近になって改めて感じていることなのですか? それとも、立ち上げ当初から、ずっとナイロンの公演は特別なものですか?
峯村:最初は全く思っていなかったですね。改めていろいろな外部の舞台に出演させていただくうちに、やっぱりナイロン100℃は、私にとってとても大事なところなんだなと、分かってきたような気がします。
みのすけ:僕も同じです。以前はナイロンだけでも年に2、3本の公演があったので、続けていくうちに消耗してしまう時期もありましたが、今は2年に1本くらいのペースです。出演できる人も限られていますし、久しぶりに共演する人も多いので、1本1本が貴重です。みんなの年齢がかなり上がってきているので、限られた時間だなというところもあります(笑)。
峯村:あはは(笑)。本当にね。
みのすけ:そうして、噛みしめて1本1本の公演をしているので、特に最近は重要に感じます。
――お二人にとって、ナイロン100℃という劇団はどういった存在ですか?
みのすけ:ホームかな。親戚が集まるような、実家に戻ってきたような……。久しぶりに会うと初めは恥ずかしいんですよ。でも、少しすれば、あっという間に元の時間に戻るんです。それは、やっぱり何十年も一緒にいたからだと思います。亡くなってしまった方もいるので、そうした人も含めてチームみんなでやっているという気持ちがさらに強くなっています。
峯村:長年やってきて、亡くなった方もいますし、いろいろなこともありましたが、楽しいことも共有してきたこの何十年間なので、これがホームなんだなとすごく思います。先ほど、みのすけさんも言っていましたが、KERAさんがドヒャーッとするのが嫌いだったり、お祭りにするのが嫌いということを私もすごく感じていて、“KERAイズム”とでもいうようなものが体に埋め込まれていることを、ほかの現場に行くと実感します。
――具体的に、ナイロンやKERAさんから学んだのはどういうことですか?
峯村:具体的に言ってしまうといろいろと弊害があるので、あまり具体的には言えませんが(笑)、引きの面白さは学んだもののひとつだと思います。
みのすけ:いろいろな演出家さんとご一緒すると、それぞれに違った視点で演出をされていて、それぞれの良さがあることが分かりますが、KERAさんは一番俯瞰的で、外側から見ている人だと思います。熱いものがあっても、それを冷静に見ているんですよ。野球やサッカーに燃えるような体育会系の熱さではない(笑)。一歩引いて観ている。それが面白いですし、僕たちはそれに慣らされているのだと思います。KERAさんは「客観性を持って」とよく言いますが、自分がどういうことをしているかよりも、どう見えているかが大事なんです。冷静に、自分を客観視して演じるということを教わっているので、ナイロンのメンバーはみんな、意識するにしろしないにしろ、そうなっていると思います。
――KERAさんの作品や演出の魅力は、そういった冷静な視点にあると思われますか?
峯村:とても冷静だけど、グイグイ心に来るところかなと思います。ナンセンスではない作品の場合は、演じている役者たちも感情的になりがちですが、それをあまり表に出さずに演じ、ときには面白いことを言わなくてはいけない。すごく難しい芝居なのですが、それが癖になります。
みのすけ:悲しいシーンだから泣くというのは、「芝居よりお芝居に見える」と感じるので、リアリティを求めるとしたら、悲しいときにあえてバカバカしいことを言ってしまうものだと思うんです。日常生活の中では、悲しいのに笑ってしまったり、くだらないことを言ってしまうこともありますよね。日常の方がぶっ飛んでいるんですよ。悲しい場面ですごく意地悪なことを言う人間もいれば、笑っている人間もいる。それが普通のことである。そうした俯瞰の目線がナイロンにはあるのだと思います。ナンセンスものはまた違いますが。
――では、ナイロンの活動を長くされてきて、特に印象に残っているエピソードを教えてください。
峯村:前回公演の『江戸時代の思い出』は、はちゃめちゃな舞台でしたが、そのときのみのすけさんの役に度肝を抜かれました。やっぱりナイロン100℃のナンセンスにこの人は絶対欠かせないんだなと、心から思いました。あんなのできないと思って(笑)。
みのすけ:何のこと?
峯村:あの先生だよ、先生役。
みのすけ:ああ、先生ね。当て書きだよね(笑)。
峯村:そう、当て書きだった(笑)。でも、本当に気持ち悪かったし、怖かったんです。本当にすごいなと。最近の一番心に残ったことはそれです。
みのすけ:少し話がズレるかもしれませんが、今回の芝居はステージングも映像も使わずに、会話だけで進んでいく、原点に戻ったような作品です。実は、自分もそういう作品をやりたいなと思っていたところなんですよ。僕がそう思うと、大抵KERAさんもそっち側に行くようなところがあって。そろそろナンセンスがやりたいなと思うと、ナンセンスの作品にいく。一時期は、映像がたくさん入った派手な作品がやりたいなと思ったら、そういう作品になったり。そして、今、一通りやり終えて、また会話だけになる。みんな、年齢を重ねてきたので、昔とはまた違う味が出ると思いますし、おじさんとおばさんの会話だけで進むというのも面白いんじゃないかなと思います。思い出とは少しズレてしまいましたが、今、そんなことを考えていました。今回の作品は、タイトルからして、ある意味、地味ですよね。
峯村:うん、地味な感じだよね。
みのすけ:それに、まさか、僕とリエちゃんが管理人役とは思ってもいなかった。先日、村岡(希美)に会ったときに、(村岡が)「(管理人ご夫妻は)リエさんとみのすけさんじゃないの?」と言っていたんですが、僕は「いやいや、そんなことないよ。三宅(弘城)と村岡じゃない?」と話していたんですよ。でも、結局、僕とリエちゃんだったという。
峯村:あはは(笑)。一応、管理人夫妻が主軸になるとは思いますが、彼らにまつわる人々のエピソードの方が面白かったりしますよね。だから、今回も客演の方をはじめ、どんなキャラクターが出てくるんだろうとすごく楽しみです。
みのすけ:管理人はなかなか出てこないと思います(笑)。一幕は出てこなかったりして、「管理人さん、待ってたよ」ということもありえるね(笑)。
峯村:ははは(笑)。確かにそれもいい。
みのすけ:誰も会ったことがない管理人というのもあるかもしれない(笑)。そう考えていくと、いろいろ面白いですよね。今はまだ、台本がないので、どんどん妄想が膨らんでいきます。
――ビジュアル撮影で、そのイメージはより膨らみましたか?
峯村:そうですね。私たちが繰り返し言っていた……ノワールだっけ?
みのすけ:そうそう、ノワール。KERAさんの中で、「ノワールっぽい」というイメージがあるらしくて、「ノワールって何だろうね」という話をしていたんですよ。「ヨーロッパの退廃的なモノクロのイメージかな?」と。あの衣裳からは、想像がつかないかもしれないですが(笑)。
峯村:私の中では、「結構ノワール的じゃない?」と思っていたんですけどね(笑)。出来上がった写真を見て、「ちょっとノワールっぽいな」って。
みのすけ:モノクロにしたらもしかしたら、ノワールかもしれない。
――先ほど、峯村さんから「みのすけさんとご一緒するのが楽しみ」というお話がありましたが、みのすけさんから見た峯村さんの魅力もぜひ教えてください。
峯村:あんまり印象ないんだよね?
みのすけ:いやいや、そんなことないよ(笑)。『わが闇』という芝居で、僕がすごく悪い郵便局員で、リエちゃんがその妻を演じたことがあったんですが、あれはお客さんにも引かれたよね。
峯村:本当にひどかった。
みのすけ:これまでで一番ひどい男だったから、すごく印象に残っています。ひどい夫と、それに耐える妻。どんなに言われても耐え続けるというのが、リエちゃんは似合うよね(笑)。強気なキャラクターよりも。
峯村:あはは(笑)。昔は、KERAさんの芝居では強い女性ばかりやらせてもらっていたんですよ。でも、あるとき変わって。
みのすけ:最初は、リエちゃんの背が高いから、そのイメージで厳しい女社長の役だったりしたけど、どうやら中身はそうではないということが分かってきて。
峯村:そう、それでどんどんそういう役を書いてもらったんですよね。
みのすけ:そうそう。
峯村:……だから、私の印象はあまりないんですよね(笑)?
みのすけ:いやいや、あるよ(笑)。
――あはは(笑)。今回はどんな夫婦になるのかも楽しみにしています。ところで、先ほど、みのすけさんが「KERAさんとやりたいことの周期がかぶる」というお話をされましたが、KERAさんと波長が合うことで、ずっと楽しみながらナイロンの活動ができているんでしょうか。長く続ける秘訣があれば、教えてください。
みのすけ:自分の趣向とあまりにもかけ離れてしまって、劇団員ではあるけれど、自分の劇団の公演にあまり出たくないと思ってしまうこともあり得ますよね。昔は良かったけれど、作演の趣向が変わってきて、共有できなくなるというのはありがちなのですが、それが奇跡的に全くないんです。外部の公演に出演するからこそ、ナイロンの公演が貴重に思える。他では味わえないものがあるのがナイロンなので。KERAさんもナイロン以外の公演では、全く違うことをやっていますよね。きっとKERAさんもナイロンしかやっていなかったら、疲弊していくと思うんです。ただ、ケムリ研究室をやったり、外部での演出をやったり、いろいろなことをやることで、ナイロンではまた違う感覚でやれるというのがあるかもしれません。
――峯村さんも長くナイロンの作品にご出演されてきて、今でも変わらず楽しいという思いで出られていると。
峯村:悔しいですが、面白いですね。毎回、「うわぁ、面白い」と思いながらやっています。「すごくつまらない、早く終わればいいのに」と思ったことは1回もないんです。『社長吸血記』は、賛否両論の舞台だったかもしれないですが、そのときもずーっとやり続けたいと思いながら演じていました。
みのすけ:そうなんだ(笑)。
峯村:はい(笑)。公演自体が長いと「面白いけど、疲れたな」と思うときもやっぱりあるんですが、『社長吸血記』にいたっては、全く疲れないし、毎回、面白かったです。千穐楽を迎えても、まだ全然やれると思っていました。
みのすけ:そうか、すごいな。それは自分が楽しかった?
峯村:作品もすごく面白かったですし、私個人の気持ちとしても、すごく楽しいと思いながらやっていました(笑)。
――本作もそうした作品になることを期待しています! 最後に、改めて、読者に向けてメッセージをお願いします。
峯村:もしかしたら、派手さはないかもしれませんが、じっくりとした味わいのある作品になると確信しております。忙しい生活の中、人生のスピードが速い今のこの時代に少しだけ足を止めて、私たちの作品を観ていただけたらうれしいです。ぜひ、劇場にいらしてください。
みのすけ:ナイロンファンの方は、いろいろな作品を楽しむという姿勢で来ていただける方も多くなっていると思いますが、まだ観たことがないという若い人にも来ていただけるとうれしいです。今、若い劇団を観に行っているお客さんたちや、「ナイロンって名前は聞くけど、観たことないな」という方にぜひ観ていただきたいと思っています。今回は、公演日数も多いですが、メインどころの人間は地味です(笑)。ただ、粒ぞろいの良い役者さんがそろっていますので、ぜひお越しいただけたらと思います。
取材・文=嶋田真己 撮影=荒川潤
公演情報
出演:みのすけ 峯村リエ 三宅弘城 新谷真弓 廣川三憲 村岡希美 吉増裕士
水野小論 小園茉奈 大石将弘/
野間口徹 根本宗子 長谷川朝晴 土田英生
【岐阜公演】2026年10月2日(金)〜3日(土)可児市文化創造センター ala 主劇場
【兵庫公演】2026年10月10日(土)〜11日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
座席選択先行受付 7/22(水)12:00~7/24(金)18:00
一般発売:7/25(土)10:00~
最新情報はこちら: https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/nylon50th
お問い合わせ:キューブ 03-5485-2252(平日12:00-17:00)
企画・製作:シリーウォーク キューブ