「1つ呪いが解けた」話題のHONEBONEが二面性を受け入れ、アルバム『トゥーフェイス』で辿り着いた新境地とは
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HONEBONE 撮影=大橋祐希
昨年10月、フジテレビ系『千鳥の鬼レンチャン』の「サビだけカラオケ」で初登場9連チャンを成し遂げたことも話題になったエミリ(Vo)と川口(Gt)のフォークデュオ、HONEBONE。2014年の活動開始以来、ライブのみならず、音源のリリースにも精力的に取り組んできたふたりが10作目となるアルバム『トゥーフェイス』をリリース。
今回もエミリの実体験を基にした楽曲が収録されているが、パーソナルなソングライティングだけにとどまらず、改めて普遍性を意識したことで、ふたりには珍しいラブソングも含め、新境地を印象づける作品になったことに、ぜひ注目していただきたい。泣き笑いとともに聴く者の胸を打つ1曲1曲のストーリーテリングのおもしろさももちろんだが、フォークデュオを掲げながら、フォークだけに終始しない楽曲の幅広さとそれを裏付ける豊かな音楽性も聴きどころだ。その意味では、ふたりが作る楽曲は、さらに磨き上げられていると言えるだろう。『トゥーフェイス』のCD版のリリースタイミングでお届けする今回のインタビュー。エミリと川口とともにHONEBONEの新境地を詳らかにする。
エミリ(Vo)
パーソナルな曲も普遍的な曲も詰め込んだ『トゥーフェイス』
ーーCDのリリースに先駆け、5月25日に配信されました。『トゥーフェイス』に対する反応や評判が、すでにおふたりの耳にも届いているんじゃないかと思うのですが、いかがですか?
川口:毎回そうなんですけど、自分達が考えていた推し曲とは別の曲が評価されているというか、自分達が思っていたのとは違う角度からお客さんの評価が来るなぁ、というのは今回もありますね。
エミリ:確かに。今回のアルバムでももちろんパーソナルなことは書いているんですけど、これまでよりは誰が聴いても聴きやすいと思えるものを意識して作っていて。とは言え、中にはそんなに共感されないだろうなぁという曲もあるんですよ。でも、そういう曲も思っていた以上に共感してもらえたっていう印象はあります。
ーー推し曲というのは、先行で配信した「さよならといっしょに」とか、「マイライフ、マイライブ」とか、MVを作った「人はいつか」ですよね?
川口:そうです。アルバムの中でもぱっとしているし。
エミリ:聴きやすいかなと思ったんですけど、お客さん的には「どうか、どうか…」というあるあるネタの曲とか、「インドア・ブギ」とか、むしろよりパーソナルな曲を気に入ってくれたみたいで。
川口:「どうか、どうか…」なんて、単純に自分達のストレスを発散しただけの曲なんですよ、作った時は。だから、お客さんから共感されるなんて思ってなかったんですけど、意外とみんな同じ思いを抱いてるんだなって、曲を出してみてわかりました。
ーーでも、パーソナルなことを曲にしても共感してもらえるんだ、という1つ自信になったところもあるんじゃないですか?
川口:そうですね。やっぱりうれしいですよね。
エミリ:自分達のストレスをただ発散しただけでも、意外に普遍性があると言うか、みんな共感できるものなんだってわかったことは、確かに自信になりました。
川口:『トゥーフェイス』は今回のタイトルにも結びついてるんですけど、そこはずっと悩んでた部分で。それこそ普遍性がある歌を作ることが、うちらに課せられたミッションとしてあるんじゃないかと思いつつ、でも、そういう曲を自分達が作る意味ってあるんだろうか。自分達はそんな大それたミュージシャンじゃないから、やっぱり個人的なことにしか、なかなか目が行かないし……という2つに引き裂かれてる中で、個人的な曲と、みんなが聴きやすい曲と、どっちもがんばろうっていうふうに今回は、どちらか1つに絞らずに作ろうというのがコンセプトだったんです。その中で、個人的な曲をみんなが受け入れてくれたっていうのは、けっこう自分達としてはうれしくて。
エミリ:確かに。
川口:こっちでいいんだっていう。
ーーなるほど。個人的な曲も普遍的な曲も両方やっていこうというコンセプトは、いつ頃思いついたんですか?
川口:始めた時からずっとなのかな。いや、始めた時はもっと無邪気だったか。
エミリ:そうだね。私は『SKELETON』という2枚目のアルバムから曲を作り始めたんですけど、右も左もわからなかったから、自分の日記から歌詞を、歌詞と言うか、文章をひっぱってきて、曲を書いていたので、ほんとにパーソナルなことしか書いてなくて。途中までは、それでいいんだと思っていましたけど、大人になるにつれ、愚痴とか、しんどいとか、そんなことばかり歌っている曲は、ずっと聴いてられないよなと段々思い始めて。川口よりは遅かったですけど、聴いた人から「そうだよね」と思ってもらえる、それこそ普遍的な曲を作らなきゃと考えるようになったのは、ここ3年ぐらいですね。川口はもっと前から聴きやすい曲を作らねばと考えてたと思うんですけど。
川口(Gt)
川口:っていうか、どちらかに絞らなきゃいけないんじゃないかと思い込んでいたんですよ。これはたぶんエミリもそうだと思うんですけど、HONEBONEとしてわかりやすい方向性をちゃんと提示しなきゃダメだみたいな呪いにかかっていたと言うか。そういうふうに自分達で自分達を縛っていたところがあって、けっこう悩んでました。ある時期には、普遍的な曲だけ作ろうとがんばって、そういう曲だけ作ったら、自分達で全然気に入らなくて、全部ボツにしたこともありました。
エミリ:偽善的なことを歌っているようにしか思えなくて、「気持ち悪ぅ」となっちゃって。
川口:ゲロ吐きそうな曲ばっかりで(笑)。そんなことが2年くらい前にあったんですけど、今回、どっちもやってみようとなったのは、去年に知り合った芸人の永野さんとお話したことがキッカケだったんです。永野さんもラジオとかインタビューとかでたびたび世間から求められる顔と、自分の本当の顔がちょっと違うんじゃないかって悩んでいたという話をされていたので、自分達の悩みを打ち明けたんですよ。暗い歌が好きだけど、楽しいのも好きだし、人からワーワー言われるのも好きだし、やっぱり人にウケたいんですけど、どうしたらいいですかって。そしたら、「どっちもやんなよ」と言ってもらえて、それでけっこう楽になって、今回のアルバムに繋がっていったんです。
エミリ:そこから『トゥーフェイス』にも辿りついて。
川口:でも、よくよく考えてみたら、人は誰でも二面性があるんじゃないかなと。別に、うちらだけじゃなくて、いろいろな人が幾つもの顔を持ってるんだから、ま、いいかって1つ呪いが解けたような感じです。
ーーなるほど。そうか。意外にパーソナルな曲のほうがウケが良かったと。3月に配信した「さよならといっしょに」は、もしかするとパーソナルな体験を基にしているのかもしれないですけど、正統派のポップスと言える、すごく良い曲だと思うんですよ。
川口:ありがとうございます。
ーー80年代のニューミュージックをちょっと連想させるというか。
川口:ああ、もうまさにそういう曲を意識しました。
ーーこういう曲もやるんだという新鮮な驚きがありました。
エミリ:最初は私自身のパーソナルな話を書いていたんですけど、書きながら、これを曲にするの、やっぱしんどくない? 聴いている人からエミリって人はいつも悲しい、辛いって言ってるじゃんと思われそうだから、このネタで曲にするのはイヤだと思って。でも、自分にはそれ以外書けることもないので、川口に、もうちょっと聴きやすくしたいんだけどって投げたんです。そしたら曲調も学生が卒業シーズンに歌ってくれてもいいみたいなイメージに段々なってきて、そうなると、さよならの曲ってけっこうあるよねとなって、途中から、さよならの曲を聴きたいなという時に選んでもらえるような曲にしようって舵を切って、パーソナルなことを書くことをいったんやめて、作っていきました。
川口:だから、指摘していただいてすごくうれしかったですけど、この曲は普遍性を目指した曲ではあります。
ーー「さよならといっしょに」の一人称は「僕」じゃないですか。これは女性であるエミリさんが歌うけど、普遍性を考えて、「僕」にしたんですか?
川口:いや、そこはもう音数です。
ーーあ、音数。
川口:多くの女性ミュージシャンが「僕」で歌ってるじゃないですか。あれってたぶん音数だと思うんですよ。「私」はやっぱり長いんですよ。(エミリに)歌ってても、「僕」のほうが口気持ちいいでしょ。
エミリ:それもあるし、やっぱりパーソナルすぎない、というのもあるし。
川口:まあ、それはね。「私」って歌うと、やっぱりエミリのことになっちゃうから。
エミリ:そうそうそう。「僕」だと、誰かのことになるから、歌うとき、ちょっと気が楽になる。
川口:それはそうかも。まあ、後付けですけど。
HONEBONEのルーツと多彩なアレンジについて
ーーさっき80年代のニューミュージックを連想したとお伝えしましたけど、川口さんとエミリさんはニューミュージック含め、日本のポップスはけっこう聴いていらっしゃるんですか?
川口:そんなに通ってないよね。「さよならといっしょに」を作るとき、参考にしたのは、それこそ「卒業写真」とか、「ひこうき雲」とかだったんですけど、じゃあ、ふたりともユーミンさんを聴いてきたかっていうと、そんなことはないです。もちろん、普通に生活している中で耳にはしていましたけど。
エミリ:むしろ自分が普段聴いている音楽はHONEBONEには全然活かせない(笑)。
川口:全然ってことはないよ。
ーー因みにHONEBONEに活かせない音楽というのは?
川口:リンプ・ビズキッドとか。
エミリ:スリップノットとか。エミネムとか。
川口:マリリン・マンソンとか。
エミリ:そういうラウド系です。ルーツはそこなんですけど、やるとしたらこれじゃないのかもって、現在のHONEBONEのスタイルに辿りついんたんです。
川口:元々、僕ら、バンドをやってたんですよ。
ーーそうでしたね。
エミリ:でもバンドで歌いながら、うるさいと思ってたんです。バンドの音が(笑)。バンドの音が大きすぎて、私の声が聴こえない。このままじゃ、声が出なくなっちゃうと思って、もうできませんってバンドをやめちゃったんですけど、川口とふたりで「何をやる?」となったとき、静かな音楽がいいかもしれないって、フォークデュオというスタイルを選んだんです。だから、吉田拓郎さんを聴いてきたとか、さだまさしさんを聴いてきたとかもないんですよ。
ーーでも、今回のアルバムの「大脱走」。ラウドロックではないですけど、ファンキーでリズミカルなバンドサウンドは、ちょっとおふたりのルーツに繋がるところもあるんじゃないですか。
川口:アルバムとなると、やっぱり自分らふたり以外の音も入れて、聴きやすくしたいなっていうのはあるので、「大脱走」がそうってわけじゃないですけど、随所随所に自分達の好きな音楽のエッセンスがいろいろちょっとずつ入ってるかもしれないです。
ーーHONEBONEのライブは、ふたりだけの時もあるし、バンドでやる時もあります。曲のアレンジはバンドで演奏することを想定して考えるんですか?
川口:今回のアルバムに関しては、そうです。2023年に初めてバンド編成でライブをやったとき、その楽しさに目覚めたんですよ。それから音の大きさにも慣れつつ、バンドがさらに楽しくなってきたんですけど、うまいメンバーと出会えてからは固定のメンバーでやるようになったこともあって、このメンバーでやるならということを念頭に置いて、アレンジするようになりました。
ーーお客さんに評判が良かったという「どうか、どうか…」はバンジョー、ウッドベース、フィドルも鳴っていますね。
川口:鳴ってます。ベースはアップライトベースです。
ーーああいうフォーキーなアレンジは、どんなところからの発想なんですか?
川口:単純に好きなんですよ。ブルーグラスとか、カントリーとか、ディズニーランドのウエスタンランドで聴けるような音楽が。そういうところからちょっと拝借してみました。
ーー「人はいつか」もすごく良い曲ですけど、冒頭で鳴っているのは木琴ですか?
川口:木琴です。
ーーそしたらスティールパンも鳴るし、曲の後半、リズムが裏打ちになって、なんだかちょっと沖縄民謡風にもなるアレンジがおもしろいです。
川口:この曲はエミリが作ってきたんですけど、元はバラードだったんですよ。
エミリ:私的には美空ひばりさんをイメージしてたんですよね。
川口:それをどうしようかってなった時に、「さよならといっしょに」の流れちょっと似てるんですけど、悲しい曲がやっぱり多かったんで、これをエミリが作ってきたそのまま聴かせるのはどうなんだろうってちょっと思って。ただ、メロディーがすごく良かったんで、そのままやるのではなく、楽しい感じにしたほうがいいんじゃないかと思って、ちょっとトロピカルな感じとか、レゲエが好きなので、その感じとか加えて、こういうふうになりました。
ーーレゲエと言えば、「さよならといっしょに」の2番、ギターのカッティングが裏打ちになりますね。
川口:言われてみれば、確かに。でも、そこは全然意識してなくて、手癖かもしれないです。好きだから自然に出ちゃうんだと思います。
ーー「人はいつか」はドラムのリバーブの掛け方もレゲエっぽい。
川口:あ、そうですそうです。レゲエっぽい感じとか、太陽っぽい感じとかを意識しました。
エミリ:昨日、家族に言われました。(「人はいつか」を)暗い曲にしないでありがとう、聴きやすくなったって。
川口:それは俺に言ってよ(笑)。
エミリ:私の家族は私のパーソナルな悲しい出来事を知っているんで、それを曲にすると、ちょっと気まずそうに「また、悲しいことを歌ってるわ。関わらないでおこう」となるんですけど、「人はいつか」みたいに川口が明るいアレンジにすると、聴けるようになったと喜ぶんですよ。でも、お客さんの中には、そういう暗い、暗くてジメジメしている曲が好きな人もいて、それはそれでいいなと思っていると言うか、どっちもいいなって思っていて。
ーーこの「人はいつか」とか、「さよならといっしょに」とかをキッカケに多くの人にHONEBONEのことを知ってもらって、その人達がそこからHONEBONEの曲をいろいろ聴いていった中で悲しい曲とか暗い曲とかにはまってもらえたらいいんじゃないですか。
エミリ:そうですね。ライトな曲から、すごく暗い曲まであるんで、そこはいろいろ選んでいただければ。
エミリ(Vo)
ーーところで、「人はいつか」は美空ひばりさんを意識したとおっしゃっていましたけど、エミリさんの歌からは、こぶしと言うか、昔の歌謡曲っぽい節回しが感じられて、それもこの曲の聴きどころではないかと思います。
エミリ:半分、アメリカ人の血を引いていて、聴いてきたのは洋楽だったにもかかわらず、私から発せられるものには何ひとつ洋の要素がないんですよ。裏拍も取れないし、私の中には盆踊りしかないんです。
川口:ドドンガドンってね。
エミリ:私自身、そんなに歌謡曲も通ってきてないんだけど、日本人のDNAがそうさせるんですかね。
川口:濃いんだろうね。
ーーじゃあ、意識してこういうふうに歌っているわけじゃなくて?
エミリ:どうしてもそうなっちゃうんです。だから、最近の流行りの曲も歌えないんですよ。
川口:速いし、キーが高いし。
ーー譜割もなんだか人間離れしているし。
エミリ:そう。ボカロも通ってないから、早く帰ってきてほしいんですよ、歌謡曲に。
川口:速いのはもうキツい、つってね(笑)。
エミリ:結局、大人になってうまいなと思うのは、その時代の方々と言うか、玉置浩二さんや、さだまさしさんは大人になってからライブに行ったんですけど、学ぶものしかなくて、ボーカリストとして目指すならそっちなのかなとは思ってます。
ーー「人はいつか」は元々、悲しいバラードだったとおっしゃっていましたけど、身近な人、あるいは大事な人を亡くしたことがテーマになっているんですよね?
エミリ:そうです。歌い出しの歌詞は<人はいつかサヨナラ>ですけど、最初は<人はいつか死ぬのに>だったんですよ。
川口:けっこうショックでした。
エミリ:自分でも芸がないと思いながら書いて、さすがにこれじゃ良くないからちょっとって川口に渡して。
川口:<人はいつかサヨナラ>となって返ってきた。
エミリ:メロディーと元の歌詞は書いたけど、これはまずいよって。
川口:あ、まずいって思ってたの?
エミリ:思ってた。聴いていて、なんかイヤだよねって。
ーーイヤってことはないですけど。
川口:でも、直接的な表現が良い時と悪い時があるから。
エミリ:そうですね。私、どうしても日記になっちゃうんで、曲が。それを人が聴いて、どう思うかまで、十何年やってるけど、なかなか達せないね。私にはそこがちょっとムズいんです。
ーー「人はいつか」のMVを作ったのは、より多くの人に届く良い曲だというところからですか?
エミリ:いえ、どの曲をMVにするかは、監督さんに選んでもらいました。MVはこれまでもそうやって作ってきて、今回、「人はいつか」を撮ってくださった監督さんは、はじめましてだったんですけど、「どの曲なら撮れますか?」っていつもどおりアルバムを渡して、その中から選んで撮ってもらってから、私達もキー曲になるねってなった感じでした。
川口:アルバムを作っている最中は、自分達的に、リード曲はこれだろうみたいにあんまりなくて。だったら、外からの目線で決めてもらったほうがいいのかな。
HONEBONE「人はいつか」(Music Video)
アルバムの幅広さを示す音像、楽曲を深めるパーソナルな歌詞
ーー「さよならといっしょに」と「人はいつか」の間に「マイライフ、マイライブ」を配信でリリースしています。それは「さよならといっしょに」の次は、パーソナルな曲を出したほうがいいだろうという選曲なんですよね?
エミリ:そうです。これはかなりパーソナルな曲ですね。
ーーフォークロックと思わせ、ファンキーな味わいもありますね。
川口:それは何かを参考したって言うよりは、自然な、自分達のスタイルですね。
ーーライブの翌日、清掃のアルバイトに出かけるというタイトル通りエミリさんのマイライフを歌っています。
エミリ:その落差がいつもおもしろいなと思いながらバイトに行くんです。それをテーマにしました。ステージの上では誰よりも目立ちたいんですけど、降りてしまったら、もう誰とも会いたくないんですよ。誰にも見てほしくないって言うか、どこかジメジメしたところに行きたいと言うか。その落差がいつも自分でも不思議だなと思いつつ書いてみたんです。けど、そんなの誰にもわからないよねって思いながら出してみると、「よし、会社に行くぞ!」とか「やったるぞ!」とか、そういう時に聴いてますって意外に共感してもらえて。
ーーえ、意外だったんですか?
エミリ:うん、意外でした。
ーーでも、この曲を聴いたら、「よし!」という気持ちになりますよ。
エミリ:ほんとですか? だったら、うれしいです。
ーーだって、<胸はっていこうぜ 私の人生>と歌っているじゃないですか。
エミリ:あ、そこは川口が書いてくれたんですよ。やっぱり、私にはそういうのは書けないんで。
ーー「さよならといっしょに」「人はいつか」と同じように、そこはうまい具合にバランスが取れているわけですね。
エミリ:そうだといいです。
ーーこの曲、後半で鳴っているのはフルートですか?
川口:そうです。フルートです。自分達が尊敬しているNakamuraEmiさんがステージでフルートを吹かれているんですよ。かっこいいと思って、自分達も入れてみました。
ーーところで、5曲目の「さよならといっしょに」から「Love is not enough」「最悪」と中盤、ラブソングが3曲続くじゃないですか。
川口:あ、確かに。
ーーそこも聴きどころではないかと思うんですけど、意識してそういう曲順にしたわけではない?
川口:そうですね。ラブソングとは捉えてなかったかもしれないです。「最悪」は男女の話ではあるんですけど。
ーーあー、いや、ラブソングと一括りにしましたけど、3曲それぞれに「ラブ」の捉え方が違うところも含め、聴きどころだと思ったんです。
川口:なるほどなるほど。でも、ラブソングでみたいなことはそんなに。
エミリ:でも、何かそういうゾーンにしようぜみたいになって、最後に「最悪」が入ってきたんだよ。元々、「最悪」は入ってなかったんですけど、何かもう1つパンチが欲しいねってなって、「最悪」を入れたんじゃなかったっけ。
川口:そうだ。別の曲だったんだよね。
エミリ:そうそう。でも、いわゆるラブソングと言える曲がないから、「最悪」を入れようかってなったんだよね。
川口:そうだったね。HONEBONEはそもそも、いわゆる男女のラブソングってあんまりないから、「最悪」みたいなテーマの歌も珍しいから、入れてみようかって。その3曲を中盤に固めたのは、テーマでそうしたわけではなく、アウトロとイントロの繋がり含め、曲の流れでそうしたんですけど。
ーー「最悪」のようなリアルなことを歌っている曲がある一方で、「Love is not enough」では大きな愛を歌っています。あれ、違いますか?
川口:すごく抽象的ですよね。
エミリ:「Love is not enough」はむしろ一番パーソナルに振りきって、もう誰にも意味がわからなくてもいいぐらいの気持ちで作ったんですけど、自分は一番気に入っていて。こういう曲調も英語の歌詞もこれまでほとんどやったことがなかったんですけど、今回、一番やりたいことをやったという手応えはあります。
川口:実は好きだよね。こういう曲は。
エミリ:うん、好き。それこそ洋楽っぽい曲はこれだけかなって思うんですけど、そういう意味では、一番、自分のルーツから持ってきた曲かもしれない。
ーー伸びやかな歌声も聴きどころです。
エミリ:これ、めちゃめちゃキーが高いんです。
川口:そう。だから、キーを下げたバージョンも作ってみたんですけど、全然違うものになっちゃって。必死さが違うと言うか、全然悲痛に聴こえなくて、こういう歌を軽く歌っても意味ないでしょって、高いキーのままがんばってもらいました。
ーー「Love is not enough」は幻想的な音像になっているところが、今回のアルバムの曲の幅広さに繋がっていると思います。
エミリ:ありがとうございます。
ーー「最悪」は、アーバンな魅力もあるポップスですけど、<私も君に 書いたんだ 恨みつらみ込めたラブソングのふりした歌を>という歌詞は、実体験なんですか?
エミリ:そうです。
川口:おいおいおいおい(笑)。でも、すごい昔の話でしょ。
エミリ:めっちゃ昔です。ほんとに若かったからだと思うんですけど、(曲の)登場人物がちょっとやりあってる時があったよね。
川口:あぁ、ミュージシャン同士がラッパー界隈のビーフみたいにね。でも、エミリは作ってないでしょ。向こうさんがエミリに対して、当てつけた曲みたいなの作ったんだよね?
エミリ:そうそう。それに対して、川口が「おいおい。うちのボーカルに言ってくれんな」って返してくれたってことよね。
ーーあ、エミリさんが書いたんじゃないんだ。
川口:いや、違うよ。歌詞の原案はエミリだよ。
エミリ:そうだっけ。
川口:でも、この曲の<私>は、もう自分じゃないでしょ?
エミリ:そうそう。物語として書いているから。みんなが普通のラブソングとして聴いてくれてるのか、触れないでおこうと思ってるのかはちょっとわからないけど。
川口:そこはね。でも、年齢も年齢だし、いろいろあったんだなって思ってくれてるんじゃないかな。
エミリ:そうそう。1つ裏話をすると、2番の歌詞に<君のピアノで作った歌もあったね>ってあるんですけど、元々は<君のギターで>だったんですよ。でも、私達がそういう関係なんだって思われたらイヤだなって思って、<ピアノ>に変えたんです。
川口:ライブでやったとき、見てる人達がザワザワしたらイヤだと思って。
エミリ:そうそう。いろいろあったんだって思われたらイヤじゃないですか(笑)。
川口:だったら、<ギター>じゃなくて、<ピアノ>に変えたほうがいいねって。
ーー歌とギターだけの「なあ兄弟」は、おふたりが好きだという竹原ピストルさんの曲に通じる魅力が感じられます。
エミリ:めっちゃうれしいです。
ーー<なあ兄弟>って歌っているのに一人称が<私>というところが興味深いです。
川口:指摘されるまで、何も疑問に思ってなかったです。
エミリ:不思議ですか? 普段から、私、「なあ兄弟」って普通に言ってるよね?
川口:言ってるね。でも、確かに普通に聞いたら、そうなるか。
エミリ:そういうパーソナリティーなんですよ。
川口:それこそさっきの「最悪」が自分のこととは言え、物語の主人公として歌ってるとしたら、「なあ兄弟」は完全にエミリ自身としてメッセージしてるみたいなイメージですね。
エミリ:「浅草キッド」のつもりで歌ってます。竹原ピストルさんもライブで歌っているじゃないですか。あの雰囲気めっちゃ好きなんで、そういうつもりでやってます。
ーーなるほど。ありがとうございます。『トゥーフェイス』の収録曲について、いろいろ聞かせていただきましたが、CDには21年に発表した「自転車の正しい乗り方のうた」がボーナストラックとして収録されています。
川口:誰にとってのボーナスかわからないですけど(笑)。
エミリ:これ、インタビューで話すのめっちゃおもしろい。
ーーこの曲は警視庁から依頼されて作ったそうですね。
エミリ:そうなんです。当時、NHK BSプレミアムで私達が旅をしながら、働いていらっしゃる方にインタビューして、即興で曲を作る『うたう旅~骨の髄まで届けます~』という番組をやらせてもらってたんですけど、それを見た警察関係の方がまず一日署長を依頼してくれて、それが評判良かったんですかね。子供に自転車の乗り方を教える曲を作ってほしいと依頼されて。
川口:そうそうそう。
エミリ:それで作ったら、警視庁で歌ってほしいって。
川口:楽曲発表の記者会見をやるんで、そこで披露してくださいって行ってみたら、警察のお偉方ばっかりで。
エミリ:そういうお偉方達がびしっと敬礼している前で<走るぜ自転車>って、私達は必死に歌ってるのに誰も微動だにしなかったという。いつも陽気なピーポ君でさえぴしっとしていて。
川口:警察官の体幹でね。
エミリ:歌い終わったら、ありがとうございます!ってまたびしっと敬礼されて。
川口:10年ちょっとやってきた中でもトップクラスですごい体験でした。
エミリ:でも、警察の仕事もやってますっていうアピールもしたくて。
ーー今回入れることにした、と。
エミリ:あと、自転車のルールが今年の4月から変わったじゃないですか。だから、ホットかなとも思って。
川口:ライブでやることはほとんどないんですけど、好きと言ってくださるお客さんも、当初の目論見通りお子さん含め、けっこういらっしゃるんで、この機会にCDに入れておいてもいいかなって思ったところもあります。
全6箇所を巡るリリースツアー開催
ファイナルはバンド史上最大キャパのワンマンライブに
ーーさて、7月20日(祝・月)の東京・渋谷WWW公演から『"トゥーフェイス" ~顔だけでも見にこいや~』と題して、全6か所を巡るリリースツアーが始まります。どんなツアーにしたいと考えていますか?
川口:東京と9月13日(日)の大阪246ライブハウスGABU公演はバンドアクトなので、『トゥーフェイス』の曲を、みなさんに聴いていただいた形で、しっかりと再現して、楽しくやりたいと思ってます。ふたりで回るところはアルバムとはまた違う感じで、たとえば「人はいつか」だったら、もしかしたらですけど、元々のバラードっぽい形でやるかもしれない。まだどうなるかわからないですけど、アルバムとは違う楽しみ方ができるライブにできたらいいなって考えてます。
ーーファンならどちらも見たいところです。
川口:あと、今回、かなり久しぶりに福岡と札幌に行くんですよ。たぶん、2022年頃までは、けっこう行ってたんですけど、それ以来、海を越えてなかったので、昔見にいったよっていう人もその時のことを思い出して、また来てほしいし、『千鳥の鬼レンチャン』を見て、HONEBONEのことを知った福岡と札幌の人達にも来てほしいと思ってます。
ーーライブのキャパも徐々に大きくなってきましたが、11月8日(日)には900人キャパのヒューリックホール東京でHONEBONE史上最大のワンマンライブを開催することも決まっています。
川口:それこそまだ何も考えてないですけど、ふたりでやるのか、バンドでやるのか、迷っていて、まだ決めてはいないんですけど、でも、ふたりかなっていうほうに傾いてはいます。
ーーそうなんですか。
川口:そのほうがかっこいいじゃないですか。大きい会場だからこそ、一番シンプルな形で勝負みたいなのがかっこいいのかなと思っているんですけど、どうなるか楽しみにしていただければと思います。
取材・文=山口智男 撮影=大橋祐希
ツアー情報
7月20日(祝月)東京・渋谷WWW(バンドアクト)
8月1日(土)宮城・仙台誰も知らない劇場
8月8日(土)福岡秘密
8月22日(土)北海道・札幌musica hall cafe
8月29日(土)愛知・名古屋ハートランド
9月13日(日)大阪246ライブハウスGABU(バンドアクト)
バンド:野口紗依子(Key)、木下きえ(Ba)、脇山広介(Dr/tobaccojuice)、スーパーさったん(Gt/IRIS MONDO)
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¥6,000(+ドリンク代)
リリース情報
公式サイト:https://honebone.net/