「二人だからこそ描ける響きがある」藤川有樹×岩間優希インタビュー~『藤川有樹×岩間優希 ピアノ・デュオコンサート』8/16(日)開催

2026.7.17
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2026年8月16日(日)、浜離宮朝日ホールで開催される『藤川有樹 × 岩間優希 ピアノ・デュオコンサート ― 響きあう二人。ひとつの音楽』。

プログラムには、ツファスマン《ジャズ組曲》、モーツァルト《2台のピアノのためのソナタ K.448》、そして藤川有樹自身が編曲を手掛けたシューベルト《死と乙女》をラインナップ。異なる魅力を持つ三作品を通して、二人ならではの音楽を描き出す。

YouTubeでの演奏収録をきっかけに出会い、共演を重ねながら信頼を深めてきた藤川と岩間。互いにどのような魅力を感じ、今回の公演にどのような思いを込めているのか。公演を前に、お二人に話を伺った。

YouTubeから始まった、二人の出会い

初めて顔を合わせたのは、YouTubeチャンネルの二台ピアノ演奏収録。その日のことを、藤川は笑顔で振り返る。

「スタジオのロビーで、岩間くんがすごく緊張しているように見えたんです。だから『威圧感を与えないようにしよう(笑)』と思った記憶があります」

すると岩間も笑いながら続ける。

「大先輩なので、ちゃんとしなきゃと思っていました。でも藤川さんが本当に優しく接してくださって、最初のリハーサルからとても演奏しやすかったことを覚えています」

その後、演奏会や連弾など共演を重ねる中で、お互いの音楽への理解も深まっていった。

「連弾をしていて感じたのは、本当に僕の音をよく聴いてくれているということです」と藤川。

「僕たちは弾き方も違えば、出てくる音色も違います。でも岩間くんは、その音に自然と溶け込むような響きを作ってくれる。それがすごくやりやすいんです」

一方の岩間は、藤川ならではの視点に大きな刺激を受けているという。

「藤川さんは演奏だけではなく、作曲や編曲もされています。その視点からアドバイスをいただくと、自分では気づかなかったことがたくさんあるんです。二台ピアノで音域が重なっているところでも、『そこはそんなに頑張らなくても大丈夫だよ』と声を掛けてくださったり。その一曲を仕上げるだけで、本当に多くのことを吸収できます」

そんな言葉に藤川は、「僕は楽譜を目の前にすると、設計図として見えてくるんですよね」と穏やかに微笑んだ。

「大丈夫、行っておいで」

二人の信頼関係を象徴する出来事がある。

岩間が王子ホールで初リサイタルを開催した際、藤川はゲスト出演だけでなく、舞台裏でも彼を支え続けた。

「初めての大舞台ですから、もちろん万全の準備はしていたと思います。でも舞台って、思うようにいかないものなんですよね」

そう話す藤川の隣で、岩間は苦笑いを浮かべる。

「いかなかったですね(笑)」

前半を終えた岩間の表情を見て、藤川はそっと寄り添ったという。

「ちょっとしょんぼりしていたんです。でも、それでも後半は一人で舞台へ出ていかなければならない。助けになっていたかは分かりませんが、そばに人がいるだけでも違うかなと思って、ずっと一緒にいました」

岩間は、その時のことを今でも鮮明に覚えている。

「藤川さんはご自身の出番ではないのに、楽屋だけでなく舞台袖までずっと一緒にいてくださって、2部が始まるときも『大丈夫、行っておいで』と送り出してくださいました。その言葉が本当に心強くて、藤川さんは本当に優しい方なんだなと思いました」

舞台上だけでなく、舞台裏でも育まれてきた信頼。その積み重ねが、二人の演奏にも自然と表れている。

三つの作品が描く、二台ピアノの世界

今回のプログラムには、まったく異なる三つの世界が並ぶ。

最初に演奏されるのは、ツファスマン《ジャズ組曲》。

「これは二人で最初に演奏した作品でもあります」と藤川。

「岩間くんから『弾きたい』という提案があったのですが、実は僕の『いつか編曲したい作品リスト』にも入っていたんです(笑)。アメリカンジャズとは少し違う、ソビエトジャズならではの抒情性やスタイリッシュさが魅力ですね」

岩間も、この作品への思い入れを語る。

「プレトニョフの演奏を聴いて好きになりました。どこか映画音楽のような雰囲気もあって、ディズニー映画で流れていても不思議ではないような世界観があります。初めて聴く方にも、その魅力はきっとすぐ伝わると思います」

続いて演奏されるモーツァルト《2台のピアノのためのソナタ K.448》は、藤川自身が強く演奏を望んだ作品だった。

「岩間くんのこれからのキャリアを考えた時、ツファスマンのような作品だけではなく、こういうフォーマルな作品もしっかり演奏できることが大きな武器になると思いました」

さらに今回は、二人でカデンツァも新たに創作したという。

「なかなか気に入っています」

その一方で岩間は、「モーツァルトは演奏者の力がそのまま表れる作品。一番大変な曲かもしれません」と率直な思いを明かす。

藤川も笑いながら頷く。

「二人で同じ方向を向きながら、それぞれの音も大切に響かせなければならない。同じメロディーでは一つになり、場面によって役割も変わる。そのスイッチが大変だと思います。でも、その分、一緒に演奏する楽しさも大きいですね」

「絶対にいいものができる」――《死と乙女》に込めた挑戦

今回の公演で、最も注目を集めるのが、藤川有樹自身が編曲を手掛けたシューベルト《弦楽四重奏第14番「死と乙女」》の二台ピアノ版だ。

編曲のきっかけとなったのは、世界的に高い評価を受けるエルサレム・カルテットの演奏だったという。

「初めて聴いた時、本当に衝撃を受けました。切れ味があって、疾走感があって、『これはすごい作品だ』と。最初はピアノ独奏版として編曲できないかと考えたのですが、それではどうしても表現しきれない。だったら二台ピアノしかないと思ったんです」

二台ピアノという編成だからこそ実現できる世界がある。

「88鍵が二台あることで、本来ピアノ一台では出せない低音や厚み、そして圧倒的なダイナミックさを表現できます。『これは絶対にいいものができる』と思って、一気に取りかかりました」

約45分にも及ぶ大作を仕上げるのに要した期間は、およそ3週間。

「原曲のメロディー、和音、リズム、スコアを一度全部分解して、それをもう一度組み立て直すような感覚でした。昔から、何でも分解して仕組みを知りたくなる性格なんです(笑)」

その編曲に真正面から向き合っているのが岩間だ。

「弦楽四重奏曲を二台ピアノ用に編曲したんでしょ。と思っていらっしゃる方、多いと思いますが、全然違いました(笑)。普段求められるピアノのテクニックとはまったく感覚が違っていて、本当に難しい。でも、その分学ぶこともすごく多いんです」

編曲を通して、原曲の構造そのものへの理解も深まったという。

「弦楽四重奏版を改めて聴くと、『ここはこうなっていたんだ』という発見ばかりで、以前とはまったく違う聴こえ方になりました。この作品を演奏すること自体が、とても貴重な経験になっています」

「なぜ、この音なのか」

岩間が最も尊敬しているのは、藤川の楽譜への向き合い方だ。

「藤川さんは、楽譜の構造を本当に緻密に読み解かれます。その姿勢から学ぶことがたくさんあります」

その言葉に、藤川は少し照れたように笑う。

「そんなに難しいことをしているわけじゃないんですよ」

そう前置きしながら、自身の音楽との向き合い方を語ってくれた。

「僕がいつも考えているのは一つだけなんです。『なぜ、この音なんだろう』『なぜファで、ソじゃないんだろう』って問い続けること。そこに自分なりの答えを見つけることができれば、その音を自信を持って弾けるようになります」

何百年も演奏され続けてきた作品を継承していく、その責任は大きい。

「作曲家が残したものを次の時代へ伝えていく仕事ですから、自分なりに『なぜこう書かれているのか』を説明できるくらい理解して演奏したいと思っています」

その言葉からは、演奏家であると同時に、編曲家・作曲家として作品と向き合う藤川ならではの哲学が感じられた。

響きあう二人。ひとつの音楽

今回の公演には、「響きあう二人。ひとつの音楽」というサブタイトルが添えられている。

二人にとって、「二台ピアノだからこそ生まれる音楽」とは何なのだろう。

「連弾は一台のピアノを二人で分け合いますが、二台ピアノは違います」

藤川はそう切り出す。

「お互いが持っている技術や知識を制限することなく、それぞれが最大限発揮できます。音量のダイナミックスもより豊かになりますし、逆に二人で小さな音を奏でる時には、一人では生まれない緊張感があります。そして、同じメロディーを二人で奏でられるので、一人では描けない、より太く豊かな一本の線を描ける。それが二台ピアノの一番の魅力だと思います」

その隣で岩間は、藤川への絶対的な信頼を口にする。

「今回は編曲者である藤川さんと一緒に演奏できることが、何より心強いです。細かなことまで丁寧にコミュニケーションを取ってくださるので、安心して音楽に集中できます」

年齢も、経験も異なる二人。しかし、その違いがあるからこそ、お互いを尊重しながら、一つの音楽を築き上げている。

最後に、公演を楽しみにしているお客様へのメッセージをお願いした。

「ツファスマン、モーツァルト、そして藤川さん編曲のシューベルトと、本当にバラエティ豊かなプログラムです」と岩間。

「食事に例えるなら、和食・洋食・中華のビュッフェみたいなコンサートです(笑)。きっと最後まで飽きることなく楽しんでいただけると思います」

藤川も笑顔で続ける。

「年齢も考え方も違う二人だからこそ生まれる音楽があります。三つの作品もそれぞれまったく違う世界なので、さまざまな魅力を感じていただけるはずです。サッカーのパス回しのような、二人の丁々発止のやり取りもぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいですね」

ジャズ、古典、そして新たな編曲作品――。

二人だからこそ描ける響きが、8月16日、浜離宮朝日ホールで新たな音楽が生まれる。その瞬間に、ぜひ立ち会ってほしい。

シューベルト:弦楽四重奏曲《死と乙女》(2台ピアノ編曲:藤川有樹)D.810 第1楽章【2台ピアノ】岩間優希×藤川有樹

公演情報

『藤川有樹×岩間優希 ピアノ・デュオコンサート
響きあう二人。ひとつの音楽』
日程 2026年8月16日(日) 18:30(18:00開場)
会場 浜離宮朝日ホール
 
出演 藤川有樹、岩間優希(ピアノ)
 
内容
ツファスマン:ジャズ組曲
モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448
シューベルト:弦楽四重奏第14番ニ短調 D.810「死と乙女」(2台ピアノ編曲:藤川有樹)、ほか
 
料金(全席指定・税込):一般¥5,500、学生¥3,500
  • イープラス
  • 藤川有樹
  • 「二人だからこそ描ける響きがある」藤川有樹×岩間優希インタビュー~『藤川有樹×岩間優希 ピアノ・デュオコンサート』8/16(日)開催