立川談春、還暦記念公演『玉響』に笑福亭鶴瓶、さだまさしらが出演「今回は本気の対バン。談春が一番よかったと言われたい」
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(左から)さだまさしと立川談春 撮影=大久保啓二
2026年12月27日(日)に大阪・フェスティバルホールにて、落語家・立川談春がライフワークとする主催イベント『第4回 玉響 還暦記念公演』が開催される。落語のみならずドラマや映画にも出演、常に新境地を切り開いてきた談春。今年のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』では毛利家の外交僧・安国寺恵瓊を演じ、その圧倒的な存在感が話題を呼ぶ。還暦を祝う記念すべき同公演には、笑福亭鶴瓶、さだまさしと吉田政美のフォークデュオ「グレープ」がゲストとして参加。ハレの日にふさわしい豪華な舞台が期待される。取材会にはさだまさしも出席、談春と並び意気込みを語った。
『玉響』に込めた思い
立川談春
公演タイトル『玉響』の始まりを談春はこう話す。「落語を音楽的に捉えるのは異色と思われるかもしれませんが、入門してすぐに師匠の立川談志から、 落語はメロディで覚えなさいと教わりました。不思議に思われるかもしれませんが、僕は師匠のメロディを聴いて、それを真似ることから学び始めました。その頃からずっと、もしかしたら落語は楽譜に起こせるのではないかと思っています」
落語は口承の芸。音楽でいえば、わらべうた、民謡がそれにあたる。「だから歌と落語は相性がいいんです」
芸歴35周年記念公演では、さだまさし、aikoをはじめ、交流のあるミュージシャンたちが、落語のアンサーソングとして楽曲を披露した。「ミュージシャンの奏でた音が落語に広がりを与えたり、余韻のような響きを生み出すことが確かにあるんです。僕自身はさださんの楽曲にインスパイアされて古典を創り直したり、aikoさんの歌を聴いて新たな解釈を見つけたり。そんな影響を受けています」
玉響とは、2つの勾玉が触れ合った時に鳴る微かな音、儚い一瞬を意味する大和言葉。心の機微を描き、人情を謳う、古典落語の名手らしい古典落語への美意識がにじむ。
さだは、最も共演回数が多いアーティストの一人。「歌も落語も、言葉を扱う芸能。そういう意味では非常に近いんです。落語は、日常の出来事を、皮肉や笑いをもって肯定する。僕が作る歌も同じ、僻むでも否定するでも落ち込むでもなく、全部ひっくるめて飲み込んじゃおう、笑っちゃおうって、人生を肯定する。そこが共通するから共演できる」。ゲスト出演を頼んだ談春への返事は「アコギ(アコースティックギター)2本でいくよ」一言に込められた思いは深い。
6月に還暦を迎えたばかり。節目の年となるが、「本来落語家は還暦祝いはやらないんです。なぜなら、アーティストと違って、60歳の落語家はやっとスタートラインに立ったところ。70歳を過ぎてやっとおもしろいおじいさんになれる。落語家としての円熟期はそこからです。今が難しい年齢だからこそ、僕は今年、記念公演をやろうと思いました。70歳でできるかわからないですからね。談志が70代になって高座に上がれなくなっていく姿を近くで見ていましたから」
それ故、同公演では例年とは違う覚悟があると話す。「今回はアンサーソングという形はとりません。60歳になった自分が、先輩に対して「憧れている」とか「目標にしている」とか言ってるようではダメ。そろそろ腹を括らなきゃと思っています。僕はこの公演は、対バンだと思っています。お客さんには「談春が1番よかった」と言われたい。先輩方に甘えるのではなく、もう越さなくちゃと思っています。越えたい大きな山の先には、談志がいるのかもしれません」
さだまさし
さだは35年ほどの間、談春を見てきた。「一緒に食事したりゴルフなんかしてると、僕のことを「兄さん」と呼ぶことがある。本当の兄弟ではないけれど、関係はそんな感じなんでしょうね。人とのつながりは不思議なものです。もともとは談志の友人として出会っている。知り合った頃はまだ、談志に怒られて拗ねたりしてたね(笑)」
言葉を歌うさだだからこそ見えている不安も。「落語家はきちんとした日本語を話す貴重な存在です。最近は、日本にいても日本語が通じないと思うことがある。言葉狩りが始まってから、人は限られた言葉しか使わなくなった。貧しいですよ。きちんとした日本語を話す落語家が、もっとテレビやラジオに出たらいいのにと思っています。昔はテレビ番組の司会に落語家が起用されることがよくありましたよ。僕が大事なイベントのときに、談春に司会を頼むのはそんな理由からです。日本語を知っておかないと、落語の深みが伝わらないのでは……。落語が好きだからこそ歯がゆいですね」
鶴瓶の高座が談春に刻んだ覚悟
立川談春
笑福亭鶴瓶が『玉響』に出演するのは初めてのことだが、縁は2002年にさかのぼる。その年、鶴瓶は春風亭小朝から誘われ、東京・国立劇場で「子は鎹」を演じた。
「鶴瓶師匠は度々、俺は落語はでけへん、落語を教えてもらっていないと話していた。僕はその言葉に興味を持ち、生意気にも、どれだけできないのかと思って聴きに出かけたんです」。だがその日、談春は大きな衝撃を受けることとなった。「こんなにできるのに、この人はできないと言うのか……。この人は普段どんな世界で生きているんだ。これだけできる人にできないと言われたら、俺は生きていく術がないのではないか」
そして、談春は、六代目笑福亭松鶴の弟子として歩む鶴瓶の姿に、自らも談志の弟子として歩み続ける覚悟を新たにした。
談志の「芝浜」に魅せられ入門し、鶴瓶の「子は鎹」に覚悟を決めた談春には、落語という1本の道しかなかった。そのころはまだ、箱根の山を境に江戸と上方で落語の在り方が違うと言われていたが、談春は江戸落語と上方落語の垣根を越えてきた。談春の落語会は、大阪でも
「談春は、関西の人にも、「江戸の落語もいいもんだ」と思わせたんだね」。鶴瓶との縁を繋いださだが、そう振り返った。
魔法のような、フェスティバルホール
(左から)さだまさしと立川談春
フェスティバルホールで初めて落語の公演を開いたのは談春だった。それまでの常識では、1人で演じる話芸に2700人収容の大ホールは広すぎる。音響などの機材も揃っていない。それでも演りたいと気持ちを向けさせたのは、さだだった。「フェスティバルホールのセンターで拍手を浴びさせたい」。そして「お前はできる。心配するな」と背中を押したのは鶴瓶だった。
「僕はこのホールが大好き。センターで聞く拍手には、人間がこんな音を出せるんだ……と震えるほど感動しました。シャウエッセンと一緒にフライパンに入って蓋をされている気分。アーティストみんなに浴びさせてあげたい。僕もこれからもできる限り舞台に立ちたいけれど、いつまで舞台に立てるだろう」と、さだが言うと、談春は「まだまだ立つでしょう。10年後の予定も話していらしたじゃないですか(笑)」と返した。
年の瀬、全国のホールで第九が演奏されるように、落語会では「芝浜」が年末の風物詩となる。談志が得意とした人情噺、談春は近年、時代に合わせた新しい解釈でファンを唸らせている。
「芝浜」を期待してもいいかと問われると、「期待してくださるのはありがたいのですが、今年は「居残り佐平次」を予定しています。遊郭で遊んだ佐平次が、支払いができず居残り、店の手伝いを始める。廓噺の傑作で、演じる者でも変わるし、聴く人によっても感じ方が違う。芝浜のように、愛してほしい古典落語です」
さだはこう続けた。「いろんな噺家さんの「居残り佐平次」を聞き比べたことがありますが、噺家によってこんなに味に違いの出る話はあまりないですね。圓生(六代目三遊亭圓生)、志ん生(五代目古今亭志ん生)、談志、それぞれの良さがあって素晴らしい。談春がどう演るか楽しみです」
2組のビッグアーティストの後に、あえて「芝浜」ではない 演目で舞台に立つ覚悟は如何ばかりか。「さださんは、「僕たちは前座です 」 なんておっしゃいますが、そんなつもりで舞台に立つ方ではありません。お客さんの前に立ったら、後輩に花を持たせようなんて気は1ミリもない、自分のそのとき出せる一番の芸をお見せする方たちですから。メインディッシュが2皿続いた後に出ていくのは、僕にとっては戦い。本気の対バンです」
年末のフェスティバルホール。談春が掲げる「本気の対バン」の行方に注目したい。
取材・文=田中奈都子 撮影=大久保啓二
公演情報
会場:フェスティバルホール
料金:12,000円(税込)
出演者:立川談春
問い合わせ先:キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日12:00~17:00)
■東京公演
出演者:立川談春
※東京公演の詳細は近日発表