吉見友貴、ショパン&ショスタコーヴィチ 二人の作曲家の〈プレリュード〉に寄せる思いとは? 『ピアノ・リサイタル』インタビュー
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吉見友貴
2026年8月21日(金)浜離宮朝日ホールにて、『吉見友貴 ピアノ・リサイタル』が開催される。この度、本公演で披露する楽曲について聞いたインタビューが届いたので紹介する。
ーーショスタコーヴィチとショパンの「24のプレリュード」をあわせるプログラムはどのように思いついたのですか?
もともとショパンのプレリュードを演奏したいと思ったところから選んだプログラムです。
5月にニューイングランド音楽院を卒業したのですが、この2年間はダン・タイ・ソン先生のもと学んでいた中、最後に習っておきたいものは何かと考えたとき、やはりショパンのプレリュードだと思いました。先生の得意レパートリーの一つですし、ショパンコンクールに参加されたときの映像で最後の音をゲンコツで弾く表現は、とても印象的ですよね。
ショスタコーヴィチのほうは、霧島国際音楽祭で長年お世話になっているエリソ・ヴィルサラーゼ先生のすばらしい録音がある作品です。ショパンを弾くこの機会に合わせてみたいとひらめいて選びました。この夏、また霧島でヴィルサラーゼ先生に会えるので、アドバイスをいただいて、新しいイマジネーションを膨らませたいです。
ーーダン・タイ・ソンさんのレッスンはいかがでしたか?
先生のレッスンは普段から、音の色、種類、体の使い方や音の出し方について細かくアドバイスしてくださるスタイルです。今回は特に先生が愛してやまない作品ということもあり、イマジネーションに富んでいて、その表現に必要な音と響きをピアノで作るにはどうしたらいいのかを具体的に教えてくださいました。
吉見友貴 (C)Alexandre de Terwangne
ーー個性豊かな生徒を育てるダン・タイ・ソンさんですから、吉見さんがどんな表現を望むのか察したうえでそのアドバイスをしていそうですね。
どうなんでしょうね……他の生徒のプレリュードのレッスンを見たことがないのでわかりませんが。でも番号によって「この曲は君がどんなふうに弾くかわかるから大丈夫」といって次に進むことがありました(笑)。
それまでアレクサンダー・コルサンティア先生から受けてきたレッスンは、作品を芸術としてどう捉えるか、心をどう共鳴させるかという、抽象的で哲学的な内容が中心でした。それに体の使い方は子供の頃に習ってきたから、あとは耳で聴いてなんとかするものだと思っていたところがあるんです。でもダン・タイ・ソン先生から改めて体や手をどう使えば良いかをアドバイスしていただき、また何より隣で先生が弾いてくださる音を聴いて、多くのことを得られました。
ーーちなみにプレリュードの最後の3音の弾き方についてはアドバイスがあるのですか?
ゲンコツで弾く方法もあるよとはおっしゃっていましたね。先生の生徒の中にもその方法で弾く方はいますが、私は今のところゲンコツでない方法が自分の求める音を鳴らしやすいと感じています。
他にも先生の代名詞といえるピアノ協奏曲第2番(同氏がコンクールのファイナルで弾いた)も見ていただきましたが、すばらしいレッスンでした。卒業前に実現してよかったです。
ーーショパンの「24のプレリュード」にどんな魅力を感じていますか?
一つひとつが別々の世界だけれど、24曲が集まると、小さな個性がまとまってできた一つのユニバースになっています。カレイドスコープのようにいろいろな情景が見えて、どれひとつ似ているものがなく、ショパンがすばらしい作曲センスの持ち主だったことを改めて感じます。ペダリングも含め、ピアノのことを本当によく知っていたんだなと感じる部分もたくさんあります。
当時、死を目の前に感じていたらしいことがわかる、死後の世界に近い音楽も現れます。ただまだ若く、そこから人生が続くいた時のことですから、どこかビビッドな霊感を感じます。死が迫っていると感じていたであろう後期作品の霊感とはまた違うんです。例えば「幻想ポロネーズ」などは、もっとボヤっとしてあちこちを彷徨うようなところがありますよね。
時間をかけて勉強すべき作品だと改めて感じています。
吉見友貴
ーー一番の山場だと思うのはどのあたりですか?
やはり第15番の「雨だれ」です。ダン・タイ・ソン先生から「この雨の音を君はずいぶん美しく弾くけれど、これは死に一歩ずつ近づいていく音なのだよ」と言われて、雨粒がポタポタと落ちる音の先にある死を感じながら弾かないといけないと気がつきました。24曲の真ん中に置かれた重要な1曲だと思います。
ーー一方のショスタコーヴィチは全く違う世界ですね。
もう全く違いますね! ショスタコーヴィチならではの“次はどこに行くんだろう”という和声感とともに親しみやすさを感じて、お気に入りの作品です。美しい曲もあれば、彼ならではの皮肉たっぷりの曲もありますし、優れたピアニストだったからこそのヴィルトゥオージティを感じる瞬間もたくさんあります。
ショスタコーヴィチのほうにはピアノで効果的に表現する楽しみやエンターテイメント的な要素があります。一方のショパンのほうは哲学的で重く、迂闊に手を出してはいけない作品だと感じますね。
ーーニューイングランド音楽院を卒業され、このあとの計画は?
秋からハンブルクの音楽演劇大学の国家演奏家資格課程で勉強します。ボストンで過ごした6年でさまざまなことを得ましたが、いつかヨーロッパで学びたいという気持ちがありました。
ーー吉見さんが音楽に求める本質的なものが、ヨーロッパで学ぶことで見つけられそうだという?
そういう気がしていたんですよね、多分ずっと。それが何かはっきり説明することは難しいのですが。クラシック音楽がエンターテイメントの一つとして享受される傾向が強いアメリカとは別の場所で過ごしてみたいというのもあります。
ーー昨年6月、ファイナリストとなったエリザベートコンクールの後にお話を伺ったとき、挑戦を通じて多くのことに気づき、新しいスタートを切れそうだと話していました。あれからの1年はいかがでしたか?
心がオープンになりましたね。コンクールを立て続けに受けていると、ステージで弾くことが怖くなったり、間違ったことをしているのではないか、このやり方ではバツをつけられるのではという考えについとらわれてしまう瞬間がありました。でもエリザベートでは、準備をして本番の舞台に立つなか、吹っ切れた瞬間が何度かあって、おかげで自由に音楽に向き合えるようになりました。
ーー最近インスピレーションを得たものや出来事はありますか?
実はこれは吹っ切れたもう一つのきっかけなのですが、友人のピアニストの南杏佳から勧められて、ちゃんみなさんの「ハレンチ」という曲を聴いたことですね。最初は恋愛の曲だと思っていたのですが、彼女の音楽への気持ちを歌ったものだと知ったら見えるものが全く変わって、すごく感化されました。自分もまさに同じ気持ちだったので。
ちゃんみなさんは悩んだ時期を経て自分を見つけたのでしょう。だからこそ今のような芯のある表現をされている、素晴らしいアーティストです。「音楽ってすごいな」と純粋に思いました。なんだか小学生みたいな感想ですが(笑)。
吉見友貴 photo by Takafumi Ueno
ーーでも、そんな吉見さんの演奏を聴いた方々にまたその“感化”が連鎖していくかもしれないのですから、やっぱり音楽ってすごいですね。
そうなるといいのですけれどね!
ただ、もう一つ最近気がついてやはり吹っ切れるきっかけになったのが、“自分は誰かのためにピアノを弾こうとは思っていないのかもしれない”ということなんです。
もともと人前で弾くのが怖くて、得体の知れない恐怖と戦いながら舞台に立っていました。そんな中でふと、本来自分は、出会った作品が素晴らしいからそれを音に出してみたい、あるべき形で輝かせたいという気持ちで弾いているだけで、それなのになぜ、人前で弾かなくてはならないのかと急に考えてしまったんです。もちろん聴いていただけることが嬉しいという気持ちはあるのですけれど。
だけどある時から、そういうことなら誰かを喜ばせるためにうまく弾こうとしなくていいじゃない、自分のために弾いて、それが届いて、聴く人が持つファンタジーと共鳴して何か感じてもらえるだけで十分じゃないと思えるようになりました。人を熱狂させる演奏は、自分が目指す音楽とは別のカテゴリーだと思えばいいのではないかと。
ーーそうやって音楽と向き合う様子をそっと見せてもらうような演奏会の方が、個人的には聴きたいと思います。例えば、人を熱狂させるために表現に合わないところで腕や体を大きく動かすアクションはなくてもいいと思いますし。
そうですね……ただそれでいうと以前レッスンでブラームスの「パガニーニの主題による変奏曲」の華やかで大変なパートの弾き終わり、パッと手をひっこめたら、先生が「ユウキ、さすがにそこは手をあげてみろ。曲に不釣り合いだ」って言われました(笑)。曲に合った身振りというのがあるみたいです。
私も大人になりましたから、以前はShowyな演奏にすぐ拒絶反応を示していたけれど、今はそういう音楽もあるよねと受け入れるようになりました。自分が試すと似合わないからやりませんけど……!
大事な部分をブレさせず、自分はどういうふうにやりたいのかを大切に、これからも進んで行きたいですね。
interview&text:高坂はる香
公演情報
Preludes - Chopin / Shostakovich -
【会場】東京・浜離宮朝日ホール
ショスタコーヴィチ:24のプレリュード Op.34
ショパン:24のプレリュード Op.28
[全席指定]4,000円
[U18/当日引換券]2,000円
公演情報
【会場】電気文化会館 ザ・コンサートホール
【
[全席指定]一般 4,000円、U18 2,000円