「人間とはなんて愚かで、儚くて、愛おしいんだろう」加藤和樹が語る、ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』

2026.8.17
インタビュー
舞台

加藤和樹

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ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』が、5年ぶりに待望の再演を迎える。19世紀末のロンドンで起きた切り裂きジャック事件を題材に、人間の狂気と愛、そして愚かさを描く本作。前回の日本初演に続き、加藤和樹は刑事・アンダーソンと謎に包まれたジャックという対照的な二役を、公演ごとに演じ分ける。二役への挑戦や作品の本質に加え、アーティストデビュー20周年を迎えた今の仕事観を語ってもらった。

人間臭いアンダーソンと、蜃気楼のようなジャック

――前回に引き続きアンダーソンとジャックの二役に挑むことを、どのように受け止めていますか?

同じ作品で二つの役を交互に演じるというのは、とてもチャレンジングなことだと思います。ひとつの作品の中で異なる人物を演じるとなると、役の作り方も全く違ってきます。それが、役者としてすごく楽しいんですよね。再び挑戦できるチャンスがあるならば、ぜひやりたいと思いました。

――アンダーソンとジャックは対照的な役ですが、前回公演で実際に演じてみていかがでしたか?

やってみてわかったのですが、アンダーソンとジャックは舞台上で交わるシーンがほとんどないんですよ。二人が対峙して歌うようなシーンもありません。だからこそ、お芝居としてそれぞれのキャラクターを作りやすかったように思います。例えば、実体のつかめないジャックという人物を追いかけるアンダーソンの感覚は、むしろ理解しやすかったんです。

――それぞれの役のやりがいは、どんなところにあると思いますか?

アンダーソンは物語の中心人物のひとりであり、ストリーテラー的な立ち位置でもあります。彼の目線で物語を追っていくシーンが結構多いんですよ。アンダーソンのソロナンバー「俺はこの街が嫌いだ」では、彼がいかにロンドンという街に嫌気がさしているのか、それでもこの街でしか生きることができない葛藤を歌います。アンダーソンのロンドンへの強い執着が感じられるナンバーです。そういった彼が抱える複雑な気持ちは、芝居としてとても作り甲斐があります。他にも、元恋人のポリーとの関係性や、お客様への見せ方など、いろいろな面でやりがいがある役ですね。

一方のジャックは、まるで蜃気楼のように捉えどころがない役なんです。その分、自由度が高い役だとも言えます。舞台上に現れたときのインパクトが大事になってくる役でもあるので、前回公演で演出の白井(晃)さんと一緒に作っていくときには、とにかく狂気や不気味さを際立たせることを意識していました。ジャックは、誰もが恐れおののくけれども、同時に魅了されて追い求めてしまうようなオーラを常に放っていなきゃいけない。人間臭いアンダーソンとは正反対なキャラクターですね。

――役に共感できるところはありましたか?

アンダーソンの「もう自分にはこれしかない」という、諦めの中にある執着には共感できるものがあります。自分はエンターテインメントの世界で表現のお仕事をさせていただいていますが、他の世界に道があるのかといったら、やっぱりここで生きていくしかできないと思うんです。じゃあ今いる場所で葛藤しながらどうやって生きていくのかという人間臭いところは共感できますね。一方で、ジャックは、人間味を削ぎ落として演じる必要があります。人間離れした存在でいなければならないので、そこに難しさを感じますね。

狂気と愛は紙一重

――本作は韓国で大ヒットした作品ですが、日本版ならではの魅力はどんなところに感じましたか? 

お芝居がすごく繊細に作られているなと感じました。これは、白井さんの演出だからということもあるかもしれません。登場人物たちの関係性の一つひとつの点が結びついて線になるので、結末に向かうストーリー性が際立っているんです。日本初演の前に韓国版を観たのですが、パワフルな歌唱やダイナミックなパフォーマンスで魅せていく部分が多かった印象があります。作品全体の振付や、アンサンブルを含めた構成なども、日本版はより緻密に作られているように思います。

――切り裂きジャックという題材や、エンターテインメント性の高い音楽も本作の特徴です。その奥で描かれている作品の本質を、どのように捉えていますか?

やっぱり、愛ですかね。狂気と愛って、紙一重だと思うんです。愛のために人は狂ってしまうけれども、その狂気はすごく純粋な想いから生まれている。人を突き動かすのは人で、人を狂わせてしまうのもやっぱり人なんです。純粋な想いが少しずつ正気じゃなくなっていって、最後は正義か悪かもわからなくなってしまう。そういう人間の愚かさを描いている物語だと思います。人間とはなんて愚かで、儚くて、愛おしいんだろうと。これら全てが詰め込まれているのが、『ジャック・ザ・リッパー』という作品の魅力だと思います。

――今回は新キャストが加わりつつ、続投キャストもいるカンパニーとなります。どんな期待をされていますか?

新キャストが加わることで、それぞれの役から放たれる色も変わってくると思います。役として対峙したときに、自分がどう感じるのかが楽しみです。前回からの続投キャストがいるのは心強いですね。5年も経っているので、自分も含めてみなさんいろいろな経験をしていると思います。それを稽古場で「せーの!」と出すことになるので、どうなるのか今からワクワクしています。

――公式Xでは、合成されたジャックの顔が誰のパーツかを当てる「ジャックは誰だ2026」キャンペーンが行われました。加藤さんはご自身の鼻だとすぐにわかりましたか?

一応わかりました(笑)。目の辺りはみなさん結構似ているように見えたので、前回公演のビジュアルよりも難易度が高かったんじゃないでしょうか。あんな風にいろんな人の顔のパーツを重ねても、ちゃんと人の顔になるのが不思議ですよね。

「やめずに頑張っていれば、いいことがあるよ」

――今年、アーティストデビュー20周年を迎え、現在は47都道府県ツアーの真っ最中です。この20年を振り返って、今どんなことを感じていますか?

ツアーで全国を巡りながら、先日はオーケストラコンサートもありました。そこで、これまでに出演してきたミュージカルの楽曲もたくさん歌わせていただいたんです。アーティストとして歩みながら、ミュージカルにも携わってきたという、不思議な感覚がありました。

音楽だけでやっていきたいと思っていた20代があり、30代に差し掛かるときにグランドミュージカルに出会いました。それから10年ちょっと、アーティスト活動、ミュージカル、声優など様々なお仕事をさせていただく中で、本当にたくさんの人に支えられているんだなと、今改めて感じています。お客様はもちろん、周りのスタッフさんたち一人ひとりが、今の自分を作ってくださっているんだなと。それを強く感じていますし、とても感謝しています。実は、20歳の頃からずっとマネージャーさんが変わっていないんですよ。それも、僕にとってはとてもありがたいことだなと思います。

――アーティスト・ミュージカル俳優・声優というそれぞれのお仕事は、互いにどのように影響し合っていますか?

ミュージカルをやることによって、音の捉え方や表現の仕方が確実に広がったと思います。ミュージカルで芝居歌を経験することで、歌詞や作品の理解力も深まりますし、より“言葉を届けよう”という気持ちが強くなりました。ミュージカルの現場では「歌うな」とよく言われるのですが、それがアーティスト活動にもいい影響を与えているんですよね。もちろん、アーティストとして歌は歌います。でも、“歌の何を届けるのか”という本質を見失ってはいけないなと考えるようになりました。声優としてのお仕事からも、たくさんの学びがあります。マイクを通した声の使い方、息の成分をどれくらい混ぜるのか、より繊細な声をどうマイクに乗せて届けるのか。それぞれの現場での学びが、いい影響を与えてくれています。

――40代になった今、昔と比べて変わったことと、変わらないことを教えてください。

変わったのは、圧倒的な余裕……と言えばいいでしょうか。いろいろな経験をしたからこその物事の捉え方や、その場の判断力が培われたなと思います。一番大きな変化は、人と話すことが好きになったということですかね。昔は人前に出るのは苦手で、MCでも何を話していいのかわからなかったんです。今はこうしてインタビューでも緊張せずに話せるようになりましたし、話をすること自体すごく好きになりました。逆に変わらないのは、チャレンジ精神でしょうか。たとえどんな仕事が来ても、決して諦めずにトライしていく姿勢は変わっていないと思います。

――もし20年前のデビュー時の自分に会えたら、何を伝えたいですか?

「やめずに頑張っていれば、いいことがあるよ」ですね。この20年、やめたいと思ったことももちろんあります。でも、やめる勇気もなかったんです。たとえ頑張れないときでも、何とか踏ん張ってきたからこそ、今があると思います。そういうときに浮かぶのが、ファンのみなさんの顔なんです。「もし今、自分がやめたら……」と考えたときに、思いとどまらせてくれる存在です。だから「ファンのみなさんを大事にしてください」ということも伝えたいですね。ライブツアーをやりながら、その土地で待ってくださっている方々の顔を見ると「この人たちとともに自分は存在しているんだ」って、思えるんです。

過去の自分たちを超えていく、2026年版へ

――2026年の『ジャック・ザ・リッパー』で楽しみにしていることはありますか?

ありがたいことに、僕は再演作品に携わらせていただく機会が本当に多いんです。『ジャック・ザ・リッパー』も再演なので、いかに過去の自分たちを超えていけるかというところが課題であり、楽しみなところでもあります。新たなキャストのみなさんとの化学反応も楽しみですし、続投のキャストともまた刺激し合える現場にしていきたいです。

――最後に、本作を初めて観る方に向けてメッセージをお願いします。

ちょっと怖い物語ではありますが、“何が怖いのか”というところだと思うんです。『ジャック・ザ・リッパー』と聞くと、血が飛び散るような猟奇的なイメージを抱く方が多いかもしれません。でもこの作品は、ロンドンで起きた事件をモチーフにして作られた人間ドラマなんです。そこには真実の愛も、人間の醜さも、弱さも詰まっています。ぜひ、そうした部分を楽しみに観に来ていただければと思います。

取材・文=松村蘭(らんねえ) 撮影=福岡諒祠

公演情報

ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』
 
<イープラス貸切公演>(埼玉)実施決定!
日時:2026年12月20日(日)17:30
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
出演:木村達成、加藤和樹、堂珍嘉邦、熊谷彩春、花乃まりあ、田代万里生、ほか

※スペシャルカーテンコール(ご挨拶)予定!
※サイン入プログラムを来場者に抽選で5名プレゼント!


【最前列から】最速先行プレオーダー(抽選)
受付期間:8/17(月)12:00~8/26(水)まで

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詳細・お申込みは【こちら】から
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■埼玉公演
<公演スケジュール>
日程:2026年12月17日(木)~21日(月)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
主催:ホリプロ/WOWOW
 
■東京公演
<公演スケジュール>
日程:2027年1月29日(金)~2月7日(日)
会場:新宿文化センター 大ホール
主催:ホリプロ/WOWOW
 

ツアー公演詳細
<茨城公演>
日程:2026年12月26日(土)~27日(日)
会場:水戸市民会館 グロービスホール
主催:水戸市民会館
お問い合わせ:水戸市民会館 029-303-6226(平日9:00~20:00/土日祝日9:00~17:00)
 
<愛知公演>
日程:2027年1月16日(土)~17日(日)
会場:一宮市民会館 大ホール
主催:中京テレビクリエイション
共催:一宮市市民会館等指定管理者 一宮アートライフデザイン
お問い合わせ:中京テレビクリエイション052-588-4477(平日11:00~17:00)
 
<大阪公演>
日程:2027年1月22日(金)~24日(日)
会場:フェニーチェ堺 大ホール
主催:キョードーエンタテインメント
共催:フェニーチェ堺
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(12:00~17:00/土日祝休み)
 
<スタッフ>
作曲:バッソ・パテール
作詞:エデュアルド・クレツマル
脚本:イヴァン・ヘジャ
演出:白井 晃
 
翻訳:石川樹里
訳詞:高橋亜子
音楽監督:島 健
美術:石原 敬
照明:高見和義
音響:佐藤日出夫
衣裳:安野ともこ
ヘアメイク:川端富生
映像:栗山聡之
振付:原田 薫
ステージング・アクション:渥美 博
音楽監督補:松田眞樹
歌唱指導:柳本奈都子
演出補:豊田めぐみ
舞台監督:鈴木 拓
技術アドバイザー:小笠原幹夫
 
<キャスト>
ダニエル:木村達成/平間壮一(Wキャスト)
アンダーソン:加藤和樹/松下優也(Wキャスト)
ジャック:加藤和樹/堂珍嘉邦(Wキャスト)
グロリア:熊谷彩春
ポリー:花乃まりあ
モンロー:田代万里生
 
青山瑠里
朝隈濯朗
伊佐旺起
石井雅登
加島茜
熊澤沙穂
齋藤桐人
杉山真梨佳
ダンドイ 舞莉花
永石千尋
橋本由希子
原田千弘
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