「これが将軍の見る景色です」心震える魂のリレーを描く舞台『キングダムⅡ-継承-』堂々開幕

2026.8.11
レポート
舞台

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

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連載20周年を迎えて累計発行部数1億2000万部を突破し、なお怒涛の戦国大河ドラマを描き続ける大人気コミック『キングダム』の舞台化第2弾、舞台『キングダムⅡ−継承−』が、8月9日(日)東京・池袋の東京建物 Brillia HALLで開幕した(9月13日(日)まで。のち9月21日(月・祝)~29日(火)大阪・新歌舞伎座、10月6日(火)~13日(火)福岡・博多座、10月17日(土)~25日(日)愛知・御園座で上演)。

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

『キングダム』は紀元前、苛烈な戦乱の中にある中国・春秋戦国時代を生きる戦災孤児の少年・信と、のちの始皇帝となる若き秦王・嬴政(えいせい)。たった2人の少年が、史上初の中華統一を目指す様を描く原泰久の作品。実写映画4作、アニメ版も第6シーズンまでが放送され、メディアミックスの盛り上がりを巻き起こし続けるなか、初舞台化がなされたのは2023年。現在は建て替えのため休館中のエンターテインメントの牙城・帝国劇場のクロージングラインナップのひとつとして幕を開けた舞台『キングダム』は、信が共に天下の大将軍を目指した唯一の友との別れ、王弟によるクーデターで一時王都を追われた若き秦王・嬴政との出会い、王弟から玉座を奪還するまでの「王都奪還編」に、嬴政の知られざる過去を描いた「紫夏編」も盛り込み、多くのダブルキャストが組まれた豪華出演陣を擁し、生身の人間同士が目の前でぶつかりあう、息づかいまでを共有できる演劇ならではの臨場感を持った迫力のアクション、殺陣を中心に、壮大な美術、生のオーケストラ演奏に彩られたスケール感大きなドラマが、舞台エンターテインメントの醍醐味を強烈に印象づけたものだ。

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

そんな舞台の待望の続編となるのが、今回の舞台『キングダムⅡ−継承−』で、描かれるのは、原作漫画唯一無二のエピソードである、中華にその名を轟かせ「秦の怪鳥」と恐れられた秦国の大将軍・王騎が、戦いの中で壮絶な死を遂げる「馬陽防衛編」。王騎を演じるミュージカル界の帝王・山口祐一郎が、次代を担う若きエース、三浦宏規と高野洸に「将軍が見る景色」を伝える、新たな舞台の幕が開いた。

帝国劇場から場所を移した東京建物 Brillia HALLでは、松井るみの美術が通常オーケストラピットが作られるスペースにまで、石造りと見える階段と砂地のようなアクティングエリアを広げていて(オーケストラは観客からは見えない位置で演奏)、最前列では観客がうっかり足を投げ出そうものなら、戦いに次ぐ戦いで転がり落ちてくる兵士とぶつかるのでは?との錯覚さえ覚えるほど舞台と客席との区別がほとんどない。上手前、下手前に伸びる客席通路も、疾風怒濤の勢いでキャストが走り抜けていくだけでなく、高見和義の照明もしばしば非常に明るく客席を照らし出し、舞台との一体感がより強くはかられているのを感じる。この疾走するキャストや、照明効果を存分に味わうには、1階中通路後ろの客席や、2階席からの観劇も大きな醍醐味を生むだろう。座る場所によっても、そこにしかない興趣があることは、観劇のこれ以上ない意欲にもつながる。

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

そこで繰り広げられるのは、先代の昭王に仕え、王の命令を待つことなく戦を仕掛け、展開する権限を持った秦国六大将軍最後の一人である王騎が、初陣の功績から百人将となった信率いる「飛信隊」を含めた10万の軍勢を率い、龐煖(ほうけん)を総大将に据えた趙国の12万の軍が侵攻してきた、秦国の要衝・馬陽を守るため、総大将として戦場に立つ攻防戦だ。当然ながら第1作以上に、舞台は戦いに次ぐ戦いが中心になり、その激しい殺陣や、アクションの迫力の数々はただ息をのむほどのものだ。

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

だが、それにとどまらないのが人間模様の豊かさで、原作屈指の人気キャラクターであり、伝説の暗殺一族“蚩尤(しゆう)”の一人で、独特の呼吸法を伴った超絶的な剣技“巫舞(みぶ)”を操る羌瘣(きょうかい)の初登場と、姉同然に慕っていた同族の羌象(きょうしょう)との別れ。王騎と想いを交わしていた六大将軍の一人であった女性・摎(きょう)と、彼女が戦乱に散った因縁の相手が、他ならぬ龐煖であったことなど、戦に深く関わるエピソードや、王騎の時代は既に終わったと息巻く、美学ではなく力一筋に戦闘に立ち向かう将軍・蒙武(もうぶ)、その息子で信の仲間の河了貂(かりょうてん)と親交を結ぶ、頭脳派の蒙毅(もうき)。そして、王騎の片腕であり、前作から今作をつなぎ、物語を導く語り部の任も果たす騰(とう)など、多くの新たなキャラクターが、何を信じ、何を求め、なぜ戦うのかが描かれていく。

それがすなわち主人公の信が、ある意味無邪気に信じていた「天下の大将軍になる」夢を、「天下の大将軍とはなんなのか?」という、この先の信が求め続けていくことになる「問い」を呼び起こす、大きな転機となる物語が展開されていく。この戦のなかにある数多の人間関係を、演出の山田和也が徹頭徹尾アナログな、人のぬくもりを手放さない演出で描き切ったことが、舞台『キングダムⅡ−継承−』の色を決めている。ここにあるのは、ケレン味をたっぷりとしみこませた、歌舞伎表現を思わせる大ぶりな手法で、演劇でしかなしえない観客の想像力を信じた展開は圧巻だ。

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

そんな表現を可能にしたのが、まず何よりも王騎を演じる山口祐一郎の存在だ。ミュージカルの帝王でありつつ、座長芝居、スター芝居を体現してきた、いまでは数少なくなったスター俳優のひとりである山口にしか成しえない、唯一無二の表現で示す王騎が、その命を賭して大将軍として背負ってきたもの。多くの戦いで何十万という兵を率い、すべての失われた命、その重さを信に託し、大将軍が見る景色を見せる。この場面の感動は是非とも劇場で確かめて欲しいし、そうしていながらも信に手取り足取り教えるのではなく、修羅場をくぐり自ら学び取りなさいと、「大将軍とはなんなのか?」の問いを残していく王騎。その「継承」のドラマが、これ以上ない感動を呼び起こしていくのは、王騎から信へのドラマが、山口祐一郎から三浦宏規と高野洸へのドラマに直結しているからだろう。ここには『キングダム』の継承を通じた、演劇界の継承があるのだ。

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

そんな王騎から矛を託される、主人公・信を演じる二人、三浦宏規と高野洸は、この『キングダムⅡ−継承−』に進んだドラマのなかで、それぞれの信の色がよりくっきりと異なってきたのを感じさせる。

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

三浦の信は、幾多の辛い経験を経て、王騎からの想いを託されてなお、その根っこには無二の親友・漂と共に棒切れを手に一騎打ちを続け「共に天下の大将軍になる」と夢見ていた少年がいることがはっきりとわかる。これはおそらく『キングダム』の世界がどこまで進んでいっても、三浦のなかから失われることのない質感だろう。この感触は独特のもので、そうした意味において三浦の信もまた既に唯一無二の輝きを放ちはじめている。

一方高野洸の信は、一つひとつの経験を経て確実に進化し、成長している姿が前面に出てくる信になっているのが目を引く。明るい笑顔にも、辛い泣き顔にも、そして立ち居振る舞いにも、前作からはもちろんこの『キングダムⅡ−継承−』の2時間半のなかにも、信が体得していくものが表れてくる変化が目覚ましい。同じ役柄を演じ、運命共同体として手を取り合いながら新作に挑んできた二人の信が、こうして色を変えていくこともまた、継承の魅力に他ならない。

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

今回初登場となった羌瘣役の山本千尋は、世界ジュニア中国武術選手権大会で優勝経験を持つという経歴の持ち主が、これほど美しく、しかも2026年に羌瘣を演じるにふさわしい年齢で存在していたことが、まるで奇跡のように感じられるほどの見事な殺陣、超絶的な剣技“巫舞”を披露してくれている。舞台『キングダムⅡ−継承−』が、目の前で人がリアルに演じることからいっさい逃げずに済んだのは、山本がいたればこそで、演劇の神様のはからいを感じる。

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

また、戦で潰えた命を責任として刻んでいく王騎とは全く異なり、自らを武神と称し、人を超えた存在たらんとして、王騎と真っ向から対峙する必要がある龐煖を、東啓介が、ミステリアスななかに禍々しさもにじませた大きさで活写したのが秀逸。俳優・東啓介が獲得してきた蓄積が、いかに深いものかを感じさせている。13日に初日を迎える章平がこの大役をどう創ってくるかにも注目だ。
他にも河了貂の成長を描きつつ、溌剌とした愛らしさを手放さない華優希。持ち前の身体能力を「動けない人」の演技に潜ませた尾平の元木聖也。爽やかな気品を振りまいて場の空気を変える蒙毅の竹内將人。命を賭けて妹同然の羌瘣を守る真の強さを発揮した羌象の清水葉月。

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

舞台『キングダムⅡ-継承-』  (C)原泰久/集英社・東宝

力こそ正義の豪快さを披露した蒙武の渡辺大(※東京・大阪公演のみ)と、そこに若竹のような切れ味を加えた飯作雄太郎(※大阪・福岡・愛知公演のみ)と多士済々的なキャストが揃うなかで、王騎の山口祐一郎との恋模様がやはり抜群に似合い、美しい歌声も披露した摎の大塚千弘の貴重さは、やはり他の追随を許さない。

さらに、既に匠の技に至っていると感じさせた騰の石川禅の、ただ惚れ惚れとするばかりの演技が、全体を引き締め、ドラマを押し進めた力は絶大。この人の芝居を観ることひとつをとっても、なんとしても劇場に足を運んで欲しいと思える素晴らしさを含めて、暑い夏をさらに熱く繰り広げる継承のドラマを、是非多くの人に体感して欲しい。

取材・文=橘涼香 舞台写真=(C)原泰久/集英社・東宝

公演情報

舞台『キングダムⅡ-継承-』
 
原作◇ 「キングダム」原 泰久(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
脚本◇笠浦静花
演出◇山田和也
音楽◇KOHTA YAMAMOTO
 
出演◇
信 三浦宏規/高野 洸
羌瘣 山本千尋
龐煖 東 啓介/章平
 
河了貂 華 優希
尾平 元木聖也
蒙毅 竹内將人
羌象 清水葉月
蒙武  渡辺 大※東京・大阪公演のみ/飯作雄太郎※大阪・福岡公演のみ
 
摎 大塚千弘
騰 石川 禅
王騎  山口祐一郎
 
嬴政(声) 小関裕太/牧島 輝
 
カイネ 森 莉那
尾到 篠崎大悟
趙荘 保土田 充
 
明部桃子 飯作雄太郎 内海一弥 奥脇大樹 鹿糠友和 粂川暁典
桜木 雅 佐々木駿也 佐藤義夫 寒川祥吾 竹廣隼人 谷颯士 兆平
東川泰千 ドルジ勇大 中内天摩 長嶋拓也 中野高志 中村音心 早川カンナ
藤田 晴 本多剛幸 増田悠那 湊 竜也 森山大志
(※アンサンブルとして出演を予定していた木村和磨は、体調不良のため全公演を休演させていただきます)
 
●8月9日(日)~9月13日(日)◎東京・東京建物Brillia HALL
 
全国ツアー
●9月21日(月)~29日(火)◎大阪・新歌舞伎座
●10月6日(火)~13日(火)◎福岡・博多座
 
製作 東宝
  • イープラス
  • 山口祐一郎
  • 「これが将軍の見る景色です」心震える魂のリレーを描く舞台『キングダムⅡ-継承-』堂々開幕